【映画】「廃用身」感想・レビュー・解説
個人的には、全然アリなんだよなぁ、としか思えない。もちろん、まさに当事者になった時にどう感じるのかはなってみないと分からないが、「回復の見込みのない手足(廃用身)を切ってしまう」というのは、とても合理的な判断に思える。
さて、原作小説は大昔に読んだのだが、どうも感想が残っていない。僕が本の感想をちゃんと書き始めるよりも前に読んだみたいだ。大分前だなぁ、なので、原作のことは忘れてたし、読んだ時にどう感じたのかもまったく覚えていない。でもたぶん、原作を読んだ時も僕は「合理的だ」と感じたんじゃないかな。
さて、医療に限らずだが、「倫理的に問題がある」みたいに判断される事例は色々とあるだろう。「遺伝子操作」などは生命倫理を大きく揺さぶる問題だし、本作で描かれる「廃用身を切ってしまう」みたいなものもまあそういうものに含まれるかもしれない。
で、個人的な感覚だが、「倫理的に問題がある」とされるものに関しては、「個人や少数への影響に留まることなら、本人の意志があれば良い」「個人や少数への影響に留まらない(環境や未来にも影響を与える)ことは基本的に許容しない」というのが合理的な判断かなと思う。
で、「廃用身の切断」に関しては、僕は「個人や少数への影響に留まることなら、本人の意志があれば良い」に含まれると感じる。それがどれだけ倫理的に反しているように感じられようが、本人がOKならOKじゃないかなと思う。
作中に、「切った人を見るのが嫌でした」と語る人物が出てくる。まあ、分からないではない。が、「Aさんの廃用身を切断すること」が「そんなAさんを見ているBさん」に直接何か影響を与えるわけではない。まあ、「不快を与える」のが「影響」だという主張もあるとは思うが、個人的には「見ていて不快だ」と言った類の不満・批判はオールマイティすぎて的を射ていないと感じてしまう。なので個人的には、「見ていて不快だ」は「影響」には含めないものとして考えたいなと思う。
というわけで、僕の理屈では、「Aさんの廃用身を切断すること」がBさんには影響しない。そしてだとすれば、Aさんの自由意志で決めていいんじゃないかなと思う。
ただ、作中である人物が、「お年寄りは他人に迷惑をかけることを信じられないぐらい嫌がるんですよ」みたいなことを言っていて、この点は判断が難しいよなぁ、と思う。つまり、「それは本当に本人の意志なのか?」ということだ。僕は安楽死に対しても同じような懸念があるのだろうなと想像しているのだが、「周囲の意志を汲み取って判断した」「周りに流されている」みたいな状況ではないことをどう判断するのかは難しいよなと思う。
で、本作では、「廃用身の切断(作中では『Aケア』と呼ばれている)」を受けた者たちに色々問題が起こったりするのだが、その内の1つは「本人の意志の確認がなかったケース」である。まあ、本人の意志を確認しない状況で行うとそりゃあ色々問題も生まれ得るよね、ということで、これは運用上の問題だなと思う(ただ作中では、このケースはラストに思いがけない展開をもたらすものとして機能する)。
さらに、Aケアを受けた人物で最も大きな問題を引き起こした人物に関しては、はっきり言って「Aケア自体が悪い」という状況ではない。「Aケアによって心身に気力が満ちた」ことによる副次的なトラブルであり、漆原医師も言っていた通り「やれることが増えたからこそ起こったことだとも言える」という状況なのだ。
だから、少なくとも本作で描かれていることだけを拾うなら「良いやり方なんじゃないのかな?」と思えてしまう。
しかも、Aケアによって思いがけないプラスの効果も生まれたりしている。Aケアは元々、「介護者の負担を減らす」とか「本人の苦痛を取り除く」みたいな目的で行われていたのだが、実際にやってみると「性格が明るくなった」「言葉がスラスラ出てくるようになった」みたいな変化も出てくるようになった(もちろんこれはフィクションの世界の話であり、実際にそういうことが起こるのかは不明だ)。
で、もしそうなるとすれば、いいことづくめじゃない、と思ったりする。まあ、何度も書くが、フィクションだということを忘れているつもりはない。けど、「廃用身がなくなれば介助者がラクになる」というのは疑いようのないメリットだし、作中で説明されていたように、「廃用身に血流が行かないことで全身の血の巡りが良くなる」みたいなことは素人考えでも「ありそうだな」と思う。廃用身を切って明確にマイナスになるのは「見た目の変化が大きい」ぐらいで、本人がその点さえクリア出来れば、全方位的に良いやり方な気がするよなぁ。
と僕には感じられた。
さらに、今後のテクノロジーの進化を考えれば、「義手・義足を自在に動かせる」みたいな技術が生み出されても全然おかしくない。としたら、「ハイテク義手・義足を装着するために、廃用身を切断する」みたいな流れが生まれても全然おかしくないよなと思う。そういう観点からも「廃用身の切断」は受け入れられるようになりそうだなぁ、と思う。
原作小説は20年以上前に出版されているのだが、恐らく現時点でも「Aケア」のような治療はなされていないのだろう。日本では長く「性転換(性別適合)手術」が行われてこなかったが、そこにはかつて「性別適合手術を警察が取り締まり、裁判になった事例」の存在が関係している。恐らく「廃用身の切断」には関連する事件は存在しない気がするので、「なんとなくタブー視されているし、だからやらない方が無難だろう」みたいな理由で行われていないような気がする。
漆原医師が「輸血や臓器移植だって、最初は批判されたはずだ」みたいなことを言っていたが、この発言は説得力あるよなと思う。ホントそう思う。遠くない将来、当たり前になっててもおかしくないような気はする。
内容に入ろうと思います。
デイケアの院長である漆原医師は、通ってくるお年寄りに「廃用身の切断」を勧めて、実際にその手術を行っていた。「Aケア」と名付け、お年寄りには「回復の見込みのない廃用身を切断すること」「苦痛の除去と介護負担の緩和が目的で、それ以外の効果は副次的であり確たることは言えない」など現時点で伝えられる情報を伝えた上でお年寄りたちに判断してもらっていた。
そして、そんなAケアの噂を聞きつけたのが編集者の矢倉である。彼はAケアを受けたお年寄りに取材し、「心も身体も以前とは別人になった」みたいな証言を得る。また漆原医師にも直接取材をし、彼がAケアの仕組みを確立するまでにどんな葛藤や事例があったのかを説明していく。
矢倉は漆原医師の手法に大いに可能性を感じ、彼の主張をまとめた本の出版を提案する。しかしその原稿をまさに書いている最中、週刊誌に「戦慄のデイケア」という見出しと共にAケアを批判する記事が掲載され……。
というような話です。
本作がどういうスタンスで作られた作品なのかよく分からないが、全体としては「『廃用身の切断』って悪くないですよね?」みたいな雰囲気になっていて、物語の構造としてはちょっと珍しいような気がした。というのも、当然だけど物語的には「『Aケア』を批判するような話がたくさん出てくる」方が盛り上がるからだ。
しかし本作はそういう作りではない。全体的には、「『Aケア』自体は凄く良いんだけど、タイミングとか色々ちょっと不運だったよね」みたいな印象になっていて、全体としては「Aケア推し」みたいなスタンスであるように感じられた。原作小説がどういうスタンスだったのか覚えていないのでなんとも言えないけど、何となくこの「Aケア推し」のスタンスは本作監督の意向なんじゃないかという気がする(根拠はない)。
全体的に実に淡々と展開される物語で、正直、ストーリー的な起伏は少ない。「かつてこういうことがありました」的な事実を積み上げていくようなスタイルで、映像そのものからそんな印象は受けないが、作品の構成的にはちょっとドキュメンタリーっぽさもあったかもしれない。
「面白い」というタイプの作品ではないが、観ているとどんどん引き込まれていく感じがあるし、「各人の立場に置かれた時に、自分だったらどうするだろう?」みたいなことも考えさせられるんじゃないかなと思う。
さて最後に。本作に登場する看護師(なのかな? 漆原医師の助手的な人)が見覚えありそうで誰だっけ? という感じだったのだが、エンドロールを見て「中井友望か!」となった。映画『少女は卒業しない』でなんかインパクトがあって覚えてて、それで『ベイビーわるきゅーれ』で出てきた時に「あれ誰だっけ?」ってなったんだよなぁ。毎回忘れてしまう。でも、個人的には結構気になる役者なこともあり、出演シーンは決して多くはなかったものの、良かったなと思う。
あとはやっぱり、瀧内公美は良いよなぁ。瀧内公美はホント、出てくる度に「良いよなぁ」と思う。
しかし、昨日観た『君のクイズ』よりも本作『廃用身』の方が明らかに劇場が埋まってて(ってか、『廃用身』はそこそこの広さの劇場がほぼ満員だった)、それはビックリだった。宣伝とか予告のキャッチーさとかを踏まえれば、『君のクイズ』の方が埋まっててもおかしくない気がしたので。
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