【映画】「ハッシュ!」感想・レビュー・解説
『ぐるりのこと。』と合わせてリバイバル上映してるのだけど、これも面白かったなぁ。25年前の映画だそうだ。今回は上映後に、橋口亮輔監督、秋野暢子、光石研の3人が登壇してトークイベントがあったのだけど、秋野暢子が監督に「時代が追いついたんじゃない?25年前の映画とは思えない」みたいな話をしてて、確かになと思う。多様性が当たり前になった現代でも普通には聞かない関係性で、個人的にはメチャクチャ良いなと感じた。
というわけで、まずは内容の紹介から始めよう。
ペットショップで働くゲイの直也は、ゲイが集まる店で知り合った(のだろう)勝裕を家に泊める。最初は連絡先も交換しないまま別れたが、その後再会し、付き合うことになった。
勝裕は土木研究所で働いており、同僚の女性から好意を寄せられているのだが、性格的に上手く断れずにうやむやにしている。直也とは違い、周囲にゲイであることを明かしておらず、それもあってか、直也との関係でも煮え切らない部分がある。
一方、歯科技工士の朝子は、セフレ(朝子はレイプ魔と呼んでいたが)に襲われるようにセックスしたりする日々だが、ある日「筋層内筋腫」と診断される。良性の腫瘍だからさっさと取っちゃった方がいいよ、と医者から手術を勧められている。
そして、この3人がたまたま出会い、そして関わりを持ち始める。蕎麦屋で直也と勝裕の会話を聞いていた朝子は、2人がカップルであることを知る。そして、「父親になれる目をしてる」という理由で、勝裕に「子供がほしいの」と相談するのだ。
朝子は、勝裕と付き合いたいとか、直也との関係を壊したいとか思ってるわけではない。ただ、勝裕との子供がほしいだけなのだ。で、そんな突拍子もない話を聞かされた勝裕は、その提案に少し悩む。ゲイとして生きてきた彼は、自分が父親になる可能性など考えていなかったのだが、今その可能性が少し浮上したのだ。ただもちろん、そんな話は直也には言えなかった。
ただ、なんやかんやあって、直也も朝子の存在やぶっ飛んだ提案のことを知ることになり、そしてなんやかんやあって彼ら3人は仲良くなっていくのだが……。
というような話です。
本作はとにかく、全編に渡って面白い場面が多く、思わず笑ってしまう感じがあった。断片的に抜き出してもまったく面白さは伝わらないだろうが、「コップ冷やしといた方がいいのかなぁ」「『子供がほしいんです』『あらら、大変だぁ』」「身体痒くない?」「マイスポイトかぁ」などなど、色々面白い。「3人の関係性の妙」とか「場違いすぎる発言」、「絶妙なタイミング」などなど、面白いポイントも様々で、まずはそんな「とにかく楽しく観れる」という部分が凄く良かったなと思う。笑わせようとしてる感じじゃないのに思わず自然と笑わせるみたいなのは上手いなと思うし、ってか凄いなと思う。
で、僕はいつも書いていることだが「名前が付かない関係」が理想で、だからこの3人の関係性はとても素敵に感じられる。多様性が広まった現代では、こういう「既存の枠にハマらない関係性」も許容される(ただ、流行ると新しい名前が付いちゃうのは困りどころだけど)が、25年前はとてもそんな雰囲気なかったんじゃないかなと思う(あんまり具体的には覚えてないけど)。
既存の枠にハマらないからこそ、どうしても軋轢は生まれてしまう。要するに、「理解できない」という人間が出てくるのだ。個人的には、「理解できなくてもほっとけばいいのに」と思うのだが、人間はどうも「理解できない=拒絶する、攻撃する」みたいな本能があるようだ。僕にはよく分からないが、つまり「理解できない=悪」的な主張にさらされることになる。
本作においては、実はそういうシーンは少ないのだが、しかし1つメチャクチャ印象的な場面がある。トークイベントの中でも言及があった「主要登場人物勢揃いの緊迫したシーン」である。ここには、直也・勝裕・朝子はもちろん、直也の母・勝裕の兄夫婦とその娘という、なんか修羅場感満載の状況なのだ。で、勝裕の兄夫婦を演じているのが秋野暢子と光石研である。
ここでは、色んな誤解と誇張とか理解不足などが混ざりに混ざってかなりカオス的な状況なのだが(別に観客として理解に困るわけではないが)、その中でも明確に、秋野暢子演じる勝裕の兄嫁がはっきりとした「拒絶」を示すのだ(ただ、彼女が一体何を理解しているのかをちゃんと把握出来なかったので、彼女が具体的に何を「拒絶」していたのかも正確には理解できていない)。で、そんな秋野暢子を主軸に、ワンカットの長回しでなかなかに緊迫したシーンが映し出されるのだ。
で、そんなシーンの撮影の裏話が結構面白かった。
まず監督は、このシーンの撮影のために「リハ、本番、予備」と3日押さえていたそうだ。しかし当日、秋野暢子が監督に「今日やっちゃいますよね」と言ったそうだ(しかし、この話に限らないが、25年も前の話をよくもまあ覚えているものだなと感心する)。監督は、「いやいや、今日はリハ日で……」とかなんとか言ったらしいが、現場に行くと役者たちは皆”かかっちゃってて”、それで「これは撮るしかないな」ということになったらしい。で、実際に撮影が行われ、そして「ホントに、こんなシーンは二度と撮れない」というような素晴らしいものが撮れたという。
が、その翌日、監督は「現像に失敗した」という最悪すぎる報告を受ける。絶望したが、しかしよくよく聞いてみると、現像に失敗したのはその長回しのシーンの前の展開部分だったという。それで、もう一度役者を集めてそこだけ撮り直したそうだ。意気消沈する監督に秋野暢子が、「大丈夫っすよ、10倍良いものにしますから」と声を掛けてくれたことで、監督は救われる思いがしたという。
で、その撮り直した映像の方が、光石研の緊張がより伝わる感じになっていて、シーンとしては良いものに仕上がっていたそうだ。結果的に撮り直してよかったということだろう。光石研自身も、「今観ても、自分が緊張してるのが分かるもん」と言っていた(ちなみに、登壇した3人とも、『ハッシュ!』を鑑賞するのは25年ぶりだという)。光石研はまた、「25年前の自分の出演作を観るのはメチャクチャ恥ずかしい」とも言っていた。まあ、そりゃあそうでしょうなぁ。
あと、このシーンの中で秋野暢子が「子どもを産むってそう簡単なことじゃないんだよ。身体が裏返るぐらい痛いの」みたいなことを言うのだが、これは彼女が監督に提案したセリフだという。また、光石研が「秋野さんから『ちゃんと殴ってね』って言われたんだよ」みたいに言っていて、監督が「実際どうなんだっけ?」と聞いて、秋野暢子が「殴られちゃいました」と恨めしそうに光石研に言う、みたいなやり取りも面白かった。
さらに光石研が、「このシーンの後、クールダウンしようってことになって、秋野さんに食事に誘ってもらった」と、2人で食事をしたと話していた秋野暢子もよく覚えているという。「プール入ったりしてね」なんて言っていた(物理的にクールダウンしたってことなんだろう)。それぐらい、凄く高まったシーンだったみたいなことを言っていた。
そんな役者の熱量はなんとなく観ていても伝わってきて、全体の中でもかなり印象的なシーンだったなと思う。しかし、直也の母を演じた冨士眞奈美は、またちょっと違う意味で特異的な存在感だったなぁ。凄く良かった。
まあそんなわけで、彼ら3人の関係は兄嫁に拒絶されてしまうわけだが、僕はとにかく、こういう「一般的ではない状況」が「他者に実害を与えない限り」においては当然のように許容されてほしいと思う。「実害」をどう定義するかで意味は大分変わってくるが(例えば「不愉快に感じる」みたいなものも「実害」に含めてしまうとすべて「実害」と言えてしまうことになる)、とにかく「実害がないならほっとけよ」と思う。それとも「腐ったリンゴ理論」みたいな感じで、「この異物を取り除かないと全部腐っちゃうんだ」みたいに考えてるんだろうか? だとしたらあまりにも狭量に過ぎる。
というわけで、映画の中身についてあまり書いていないが、とにかく笑える場面の多い作品で、さらに「現代的な多様性」がナチュラルにテーマになっている点も凄く良かったなと思う。
エンドロールを観ていて、「佐藤二朗」と「加瀬亮」の名前があったのだけど、どこに出てたのかはさっぱり分からなかった。あと、蕎麦屋のレジにいた青年は田中圭かと思ったけど、違ったようだ。
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