調べないことの罪 コロナ禍の葬儀
今回、葬儀についても考える機会となったのですが、『コロナに奪われた葬儀』という本を読んで、コロナ禍の葬儀に関していかに「調べない」人が多かったかを知りました。
コロナ禍の葬儀
以前、ライターやメディアの仕事について「調べないことの罪」という記事を書きました。
今回、『コロナに奪われた葬儀』という本を読んで、他の職業でもいかに調べようとしない人が多いかがわかりました。
本の内容については、下記のサイトから一部引用します。
当時、葬儀会社の副社長を務めていた著者は、自社を含むほとんどの葬儀会社がコロナ感染者の葬儀を執り行わない方針を打ち出すなか、こんなときだからこそ遺族のためにできることを考えるべきだと使命感に燃えていたといいます。そして正しい知識に基づいて対策を講じたうえであれば安全な葬儀を行うことはできると考え、たとえ会社としてすべての依頼を受け付けることは難しいとしても、なんとか従来のような葬儀ができないかと可能性を探りました。しかし社内での理解は得られず、
葬儀を挙げたいのにできずにいる「葬儀難民」を救いたいという想いで辞任を決意し、2021年1月に独立しました。
著者は、厚労省のガイドラインなどを確認して、可能な限り従来のような葬儀ができるように努力していましたが、社内で著者の考えに賛同して協力してくれた人は1人もいなかったそうです。これが現実なのだと、改めてわかりました。
テレビの影響
同書には、コロナ陽性者の葬儀については、志村けんさんのニュースが大きく影響していたと書かれています。
2020年3月31日 19時38分 NHKニュースより
知之さんは病院で、志村さんのひつぎを見ることができたものの、感染を防ぐため顔を見ることはできず、火葬にも立ち会うことはできなかったということです。
病院から火葬場に直行し、火葬場では職員だけが立ち会って、兄の知之さんは自宅の駐車場で遺骨を受け取ったのです。
けれども、この記事(2020年3月31日付)をよく読むと、下記のように書かれています。
厚生労働省は新型コロナウイルスに感染して死亡した人の遺体を搬送したり、火葬したりする際に注意すべきことをまとめています。
まず、遺体はウイルスが付着した血液や体液などを通さない「非透過性」の袋に納めることが望ましいとしています。この袋を使った場合、特別の感染防止策は不要で、遺族などが遺体を搬送しても差し支えないとしています。
(中略)
厚生労働省は「感染を防ぐための対策をきちんと講じることができる場合は通常の葬儀を行うことに問題はなく、遺族の意向を尊重してほしい」としています。
この時点で厚労省は、感染を防ぐための対策ができていれば「通常の葬儀を行うことに問題はない」としていたことがわかります。それなのに、なぜお兄さんが顔を見ることもできずに、火葬場へ直行したのでしょうか。
このニュースのインパクトが大きすぎて、コロナ陽性の死亡者は火葬場へ直行するのが当然という流れになってしまったのです。
「通常の葬儀を行うことに問題はない」と書かれた当時の資料を探したのですが、厚労省のサイトからはすでに削除されてしまったようです。
国立保健医療科学院の健康危機管理支援ライブラリーに、令和2年3月29日時点版の情報として残っていました。
3 遺体等を取り扱う方へ
問1 新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬しなければならないのですか。
新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬することができるとされており、必須ではありません(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第30条第3項、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令第3条)。感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取扱をする必要があります。
「24時間以内に火葬することができる」と書かれていますが、「必須ではありません」となっています。葬儀をしてはいけないとか、火葬前に顔を見てはいけないとか、火葬に立ち会ってはいけないとは書かれていません。「感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取扱をする必要があります」と書いてあるのです。
それにも関わらず、多くの葬儀業者はコロナ陽性者の葬儀を受け入れていなかったそうです。
葬儀業者の人たちは、この情報を見ていなかったのでしょうか。
疑問を持つ人、持たない人
その後、2020年7月に、厚労省が葬儀等に関するガイドラインを出しました。
新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン 令和 2 年 7 月 29 日(第 1 版)
それについて、著者は下記のように書いています。
しかし、いくら厚労省のお墨付きがあっても、ガイドラインの中身を知らなければ意味がありません。残念ながら、私の周りにはガイドラインを読んでいないどころか、存在すら知らない関係者が多かったです。
ガイドラインの事務連絡には、「葬儀業の関係団体に対しては、経済産業省から別途周知することとしておりますので、申し添えます」と書かれていますが、おそらくきちんと周知されなかったのでしょう。厚労省などが発信する情報に関しては、同じようなことは多々ありました。
しっかり周知されなかったとしても、葬儀業者なら今後どのように葬儀を行えばよいか気になるはずです。なぜ、自分から情報を求めようとしなかったのでしょうか。
同書には、直接の死因は心不全だったのに、警察署での検死の結果コロナ陽性だったから、警察が紹介した葬儀業者に断られたという事例について書かれています。
一方で、肺炎で亡くなったけれどコロナ感染を調べる検査をしていないケースもあり、「コロナ陽性だと言われていない遺体」は葬儀業者も遺族も素手で触っても大丈夫と思っていることについても触れています。
このことに、疑問が生まれないのはなぜなのでしょうか。
「調べない」葬儀業者に傷つけられた遺族
同書が発行されたのは、2023年11月です。コロナ禍でも、厚労省などから得られる限られた情報をもとに、通常に近い形で葬儀を行ってきたことが書かれています。
2024年12月には、アメリカでコロナ対策を徹底検証した報告書が公開されました(下記参照)。
報告書から、多くのコロナ対策に科学的根拠がなかったことが明らかになりました。
日本では、このような検証が行われていませんが、この報告から考えると著者が行った対策には過剰だと思えるものもあります。けれども、公的機関が発信していた対策をせずに葬儀を行っていたら、おそらく多くの批判を集め、それは遺族にとってもよいことではなかったでしょう。
著者は、葬儀後に感染者を出さないことを第一に考えて、「周りに感染した人がいたとしても、自分がしっかりと対策をしていれば感染しない」ことを説明しました。その結果、クラスターも発生させずに、何件ものコロナ葬を行うことができたのです。
一方で、コロナ陽性者の葬儀を断ったり、火葬場へ直行して遺族に顔さえ見せなかった葬儀業者は、何を根拠にそう判断したのでしょうか。そして、コロナ陽性でも通常の葬儀が行えるようになった今、きちんと振返りを行っているのでしょうか。遺族に納得してもらえるように、きちんと説明をしていたかが重要だと思います。説明をするためには、調べることが必要です。通常の葬儀を行わなかった葬儀業者は、どれくらい調べたのでしょうか。家族の遺体を危険物のように扱われて、傷ついた遺族も多かったようです。
著者が遺族にしっかりと説明できたのは、疑問を持ったことに対して自分で調べて、納得した上で行動したからだと思います。
どのような職業でも、それで収入を得ているなら、その状況で自分にできることは何か考えることが必要なはずです。同書は、葬儀業者について書かれていますが、サービス業をはじめ、他の業種でも参考になることが書かれていると思います。
また、遺族のグリーフケア(悲嘆から回復するためのケア)という意味でも、葬儀が大切であることが書かれています。どのような葬儀にしたらよいか、元気なうちに話し合っておくためにも参考になるでしょう。規模の大小に関わらず、どのような形でも、家族が故人を弔うための時間が大切だと著者は語っています。
<参考>
厚労省は2023年1月6日に、適切な感染対策をすれば遺体を包む「納体袋」の使用を不要とするなど制限を緩和した改正指針を公表。
その後、新型コロナの5類指定に伴い、2024年5月10日付けでガイドラインは廃止となっています。
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」の廃止について(周知)(令和6年4月 26 日)
コロナ禍での葬儀トラブル、最近の葬儀トラブルなども知っておくと、いざというときの参考になると思います。
国は「納体袋に収容すれば特別な対策は不要」としていたのに、「消毒費」や「専用の霊きゅう車代」などとして費用を上乗せする葬儀業者がいたそうです。
国民生活センターは「葬儀をスムーズに進めたいので、契約内容をよく確認せずに支払ってしまうことが多いのかもしれない。支払うと返金などの交渉は一層難航するので注意が必要」と指摘しています。
2024年11月の記事ですが、コロナ以降に増えた家族葬の料金トラブルについて書かれています。追加料金がないように見える広告に、注意が必要とのこと。
国民生活センター 大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-[PDF形式](平成27年12月17日)
コロナ前の資料ですが、以前からあるトラブル、トラブルを防ぐためにしておくことなどは参考になります。
