接種者8割の国で、ワクチン接種者を除外した治験を行う意味
特例承認されたファイザー社の新型コロナウイルス治療薬は、治験の除外基準に「新型コロナワクチン接種歴のある人」が含まれていました。他の新型コロナウイルス治療薬はどうなのか、現在進行中の治験ではどうなっているか、調べてみました。
承認済みの新型コロナウイルス治療薬
前回の記事で、ファイザー社の新型コロナウイルス治療薬「パキロビッドパック」を取り上げました。
臨床試験の除外基準に、「新型コロナワクチン接種歴のある人」があります。日本では約8割の人が1回は接種していると言われている中で、接種した人を除外した試験を実施した場合、接種した人の安全性や有効性はどうやって確認するのかという疑問が残りました。
除外基準とは、「有効性または安全性の評価に偏りを生じさせることが想定される被験者」を治験の対象外にするための基準だそうです。
何らかの影響があるから外すということはわかります。けれども、接種者が絶対にその薬を使わないわけではありません。実際に、接種した人も感染しています。約8割の人が接種している中で、その人たちを除外した試験のデータだけで、有効性や安全性を判断してよいのでしょうか。
今まで気にしていなかったのですが、特例承認されたほかの治療薬ではどうなっているのか調べてみました。
厚労省サイト ホーム>政策について >分野別の政策一覧 >健康・医療 >健康 >感染症情報 >新型コロナウイルス感染症について >治療薬、ワクチン、医療機器、検査キットの開発について
承認済の新型コロナウイルス治療薬の一覧です。

モルヌピラビル
モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオカプセル)は、テレビでもよく画像が出てくる赤いカプセルの飲み薬です。

添付文書を見ると、臨床試験の除外基準に「SARS-CoV-2による感染症に対するワクチンを無作為割付け前に接種した、又は無作為化29日目までに接種を予定している」と書かれています。
ロナプリーブ(抗体カクテル療法)
抗体カクテル療法として知られている点滴は、販売名ロナプリーブ。一般名は、カシリビマブ(遺伝子組換え)及びイムデビマブ(遺伝子組換え)です。

こちらも除外基準に、「SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン(承認の有無を問わない)を無作為化前若しくは無作為化時に接種した、又は治験薬投与後90日以内(米国CDCの推奨期間があれば従う)に接種予定の患者」とあります。
ソトロビマブ
販売名ゼビュディ点滴静注液500mg、一般名がソトロビマブ(遺伝子組換え)という点滴。

こちらも同様です。
レムデシビル、トシリズマブ、バリシチニブに関しては、すでに他の病気に対して使われていましたが、新たに臨床試験が行われています。除外基準に新型コロナワクチン接種者は入っていませんでしたが、試験を行った時期が早かったからかもしれません。
デキサメタゾンは、重症感染症の治療薬として従来から承認されていたステロイド薬です。
開発中の主な新型コロナウイルス治療薬
まだ承認されていない治療薬についても、調べてみました。

S-217622
塩野義製薬のS-217622(経口剤)は、無症候及び軽症から中等症の患者を対象とした国際共同第2/3相試験を実施中。

「SARS-CoV-2感染症に対する治療薬,外用を除く抗ウイルス薬・抗菌薬・抗真菌薬等を使用した者」となっているので、ワクチン接種歴は問わないと読み取れます。接種の有無を問わない試験と接種者を除外する試験、薬の何が違うのでしょうか。
目標症例数1929、進捗状況は 募集中(令和4年1月25日現在)。
ワクチン接種者を除外している治験より、目標数が多い印象です。
AZD7442
AZD7442は、アストラゼネカ社の長期作用型抗体からなる筋注製剤治療薬。

目標症例数20、募集終了。初回公表日 令和3年2月19日、最終公表日 令和3年9月29日。
「過去に、SARS-CoV-2 又はCOVID-19 の予防を適応とする開発中又は認可済みのワクチンの接種を受けたことがある者」とあります。やはり、目標症例数が少ないです。
ネルフィナビル
ネルフィナビルの治験は、製薬会社ではなく、医師主導で行われているようです。
ネルフィナビルは、エイズウイルスの増殖を抑える抗HIV薬として世界で使用されており、日本では2009年から2019年の販売終了までHIVの患者さんに使用されていました。
ネルフィナビルは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者さんへ投与したことはありませんが、細胞に新型コロナウイルスを感染させた実験で、ウイルスを減らす効果があったことから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗ウイルス薬として高い有効性が期待できると考えられています。
【除外基準】
次のいずれかの事項に該当する方は参加いただけません。
(14)新型コロナワクチンの接種歴のある患者、治験参加中に新型コロナワクチンの接種を希望する患者
目標症例数120、募集終了。初回公表日 令和2年7月21日 最終公表日 令和3年12月25日。除外基準に、「新型コロナワクチン接種歴のある患者」が含まれています。
アビガン錠
アビガン錠(一般名:ファビピラビル)のCOVIDー19患者に対する治験は、まだワクチンが販売されていない時期に終了しています。最終公表日 令和2年8月31日。
(1)重大な副作用
異常行動(頻度不明):因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患時には、転落等に至るおそれのある異常行動(急に走り出す、徘徊する等)があらわれることがある。
タミフルで問題になった異常行動がアビガン錠でも、因果関係は不明としながらも可能性があるようです。
イベルメクチン
腸管糞線虫症の治療薬として使われているイベルメクチンも、COVIDー19患者に対する臨床試験を行っています。

この場合は、「ワクチン接種歴を有する人」ではないので、過去に接種した人も参加できると読み取れます。
目標症例数 240、募集終了。登録日時2020年9月16日 最終情報更新日2021年11月7日。試験開始日(予定日)2020年09月16日、 試験終了日(予定日)2022年03月31日。
この除外基準を見て気になったので添付文書を確認すると、重大な副作用として下記が挙げられています。
(1)重大な副作用
1)中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)注)
2)肝機能障害、黄疸(頻度不明)注)
3)血小板減少(頻度不明)注)
4)意識障害(頻度不明)注)
注)自発報告あるいは海外において報告されている。
1と2は、ファイザーの飲み薬「パキロビッドパック」とほぼ同じです。こちらも頻度不明。中毒性表皮壊死融解症やStevens-Johnson症候群なんて、今までまったく知りませんでしたが、新型コロナウイルス関連でまた登場。あの怖すぎる皮膚の症状が頻度不明で起きる可能性がある薬には、何か共通点があるのでしょうか。
COVID-19 に対する薬物治療の考え方
日本感染症学会のサイトに、医療従事者向けとして新型コロナウイルス治療薬に対する考え方がまとめられていました。
2022年2月10日、医療従事者の方へ
COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 13 版
この資料は、治療薬ごとに注意事項などが書かれていますが、新型コロナワクチン接種歴に関する記述もありました。
モルヌピラビル
5) 新型コロナウイルスワクチンの被接種者は臨床試験で除外されているため、ブレイクスルー感染での重症化予防等の有効性を裏付けるデータは得られていない。
除外しているのですから、データは得られていないでしょう。では、安全性についてはどうなのでしょうか。
治験は、実際に使う人たちにとって安全か、有効かどうかを確認するために行うものだと思っていました。新型コロナワクチンの接種者が8割を占めるような国では、未接種者だけを対象に行った治験は、現実に即していないと思います。それでも承認されてしまう審査とは、何のために行っているのでしょうか。
