見出し画像

新型コロナ新薬に関する報道の不自然さ

塩野義製薬が2月25日に厚生労働省へ製造販売の承認を申請した、新型コロナウイルス感染症の経口治療薬に関する記事が複数のサイトで公開されています。いくつか読んでみましたが、どの記事も不自然な感じがしました。

新薬の「催奇形性」に関する記事

塩野義製薬の経口治療薬に、動物実験で胎児に奇形を引き起こす異常が一部確認されていたという記事が、複数の媒体で公開されていました。それぞれ微妙に文章が違うので、2つ取り上げます。

JIJI.CONより

コロナ薬、動物実験で異常 妊婦には推奨なしか―塩野義
2022年04月12日23時09分
塩野義製薬が国に承認申請中の新型コロナウイルス感染症の経口治療薬に、動物実験で胎児に奇形を引き起こす異常が一部確認されていたことが12日、分かった。同社は「動物実験のデータから、妊婦への推奨はされないのではないか」と説明している。
同社によると、動物実験で胎児の外観や骨格などに異常を起こす「催奇形性」が一部で確認された。妊婦を対象にした治験は行われていない。薬の注意書きにどう説明されるかは不明だが、同社は「動物実験のデータを基に審査の過程で文言が決められる」(広報担当者)としており、今後国により判断されるという。
 塩野義は承認を前提に、100万人分を供給することで国と基本合意済み。同社はさらに今年度中に年1000万人分以上の生産体制を整える計画だ。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022041201181&g=eco

この薬は承認申請をしていますが、まだ承認されたわけではありません。このタイミングで、なぜこの情報が公開されたのでしょうか? 「同社」が何らかの発表をして、それについて取材をしたから広報担当者が答えたのか、メディアが何か情報を得たから取材をしたのか、この記事からはわかりません。

東京新聞 TOKYO Webより

コロナ新薬、妊婦には推奨せず 塩野義、動物実験で胎児異常
2022年4月12日 20時22分 (共同通信)
塩野義製薬が実用化を目指す新型コロナウイルスの飲み薬について、動物実験で胎児に骨格形態異常を引き起こす「催奇形性」が確認されたことが12日、関係者への取材で分かった。塩野義は妊婦の使用を推奨しない方向で検討している。この薬は目立った副作用が報告されておらず、他の飲み薬に比べて使用制限が少ないのが特徴とされるが、妊婦への投与を防ぐ安全な服薬管理方法の確立が課題となる。
 塩野義は、迅速に審査が進められる「条件付き早期承認制度」の適用を求めているが、判断にも影響する可能性がある。
塩野義は2月25日、厚生労働省に製造販売の承認を申請。現在審査が行われている。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/171281

「関係者への取材」というのは、いつ、何のために行われたのでしょうか?一般的なケースを考えると、承認された時点で、「承認されたが、動物実験で催奇形性が確認されたので妊婦には推奨しない」と報道すると思います。まだ承認されていないのに、なぜ関係者への取材が行われたのか、この記事からはわかりません。

会見などが行われたわけでもないようなのに、このタイミングで複数の媒体が同時に取り上げているのも不自然です。

モルヌピラビル(ラゲブリオ)の場合

2021年12月に、モルヌピラビルが特例承認された時の記事と比べてみます。

読売新聞オンラインより

コロナ飲み薬「モルヌピラビル」を特例承認へ…厚労省、国内初
2021/12/24 18:42
厚生労働省の専門家部会は24日、米製薬大手メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」の特例承認を了承した。厚労省は24日にも特例承認する。軽症者に使える国内初の飲み薬で、「オミクロン株」に対しても効果が期待される。政府は160万回分を確保しており、週末にも20万回分の配送を始める。
軽症・中等症が対象で、海外の臨床試験では入院・死亡リスクを約30%下げる効果が確認された。
 国内で承認されている軽症・中等症用の治療薬は2製品あるが、いずれも医療機関で点滴や注射で投与する必要がある。飲み薬は自宅での早期治療も容易となり、入院する人を減らすことで病床逼迫も防ぐことが期待される。

https://www.yomiuri.co.jp/medical/20211224-OYT1T50204/

モルヌピラビルにも塩野義の新薬同様に、「催奇形性」が動物実験で認められたのですが、そのことには触れていません。

JIJI.CONより

コロナ飲み薬、国内初承認 軽症向け、来週から使用開始―「対策切り札に」・厚労相
2021年12月24日21時49分
後藤茂之厚生労働相は24日、米製薬大手メルクなどが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」を、緊急時に審査を簡略化できる「特例承認」に基づき正式に薬事承認した。同日に厚労省が薬事・食品衛生審議会の専門部会を開き、承認を了承した。軽症者向けの新型コロナ飲み薬としては国内初となる。
自宅で服用できる治療薬の普及で、患者や医療機関の負担軽減が期待される。厚労省は、国内で市中感染が確認された変異株「オミクロン株」にも有効と判断している。政府は感染拡大に備えて26日から20万人分を全国へ配送し、最短で27日から使用できるよう態勢を整える。
 後藤厚労相は「国民が安心して暮らせるための切り札になる。わが国の新型コロナ対策を大きく前進させると確信している」と期待を示した。
 モルヌピラビルは、ウイルスの増殖を防ぐ働きをする抗ウイルス薬。メルクと米バイオ医薬品企業リッジバック・バイオセラピューティクスが共同開発した。国内では3日に承認申請されていた。
 対象は18歳以上で、重症化リスクを持つ軽症から中等症の患者。5日間にわたり1日2回投与する。発症後6日以降では有効性が確認されていないとして、速やかな服用を求めている。妊婦は使用できない。
臨床試験(治験)では入院や死亡のリスクを30%下げる効果があった。中間結果の48%から下方修正されたが、専門部会は「有効性が否定されるものではない」と判断した。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021122400704&g=eco

こちらは、「妊婦は使用できない」と書いてあるだけです。

モルヌピラビルの添付文書には、下記のように書かれています。

9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。
動物実験で胎児毒性が報告されている。妊娠ラットの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、N-ヒドロキシシチジン(NHC)の臨床曝露量の8倍に相当する用量で催奇形性及び胚・胎児致死が、3倍以上に相当する用量で胎児の発育遅延が認められている。また、妊娠ウサギの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、NHCの臨床曝露量の18倍に相当する用量で胎児体重の低値が認められている。

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/170050_62500B6M1020_1_03

医療従事者向けの資料にも、下記のように書かれています。

https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170050/201cc49a-cc7d-482f-9178-d9c06f740932/170050_62500B6M1020_03_001RMPm.pdf

承認前の新薬でこれだけ取り上げているのに、承認された薬に対してほとんど触れていませんでした。

さらに、先日公開された副作用の報告についても、メディアは取り上げていません。まだ承認されていない塩野義の新薬に対して一斉に報道するのに、モルヌピラビルに関しては、すでに販売されて予測できなかった副作用がたくさん起きているのに報道されません。まだ承認されていない薬のリスクより、すでに販売されている薬のリスクの方が早く知らせるべきだと思うのですが、なぜこのような偏りがあるのでしょうか。

追記:
記事を書いたときに確認したら出ていなかったのですが、今、塩野義のサイトを見たらこの件に関するプレスリリースが出ていました。結局、何の取材でこの情報が出てきたのかは、よくわからないままですが・・・。

2022年4月4日に一部通信社から当社に対して、「本治療薬の非臨床試験において、胎児における骨格形態異常が生じていることを他の取材を通じて確認しているため、事実確認と本件に関する見解の提示」の要望を受けました。4月6日に当社より、問い合わせ内容が事実であることに加え、当該非臨床試験の結果を踏まえた臨床における取扱いに対する見解を述べさせて頂きました。(以下略)

https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/news/pdf/2022/04/20220413.pdf