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オランダ教育移住10年でわかった「たった一つのこと」——問われていたのは、親の教育観だった

教育移住って、実際どうだったの?——ちょうど10年が経過し、次男の小学校卒業のタイミングの今、率直にお伝えしたいと思います。

Karina Syrotiuk/Unsplash

まず先に結論を言います。良かったのか、悪かったのか、答えは「分からない」——これが10年で私がたどり着いた、いちばん誠実な報告です。

「分からない」と言うのは、逃げているのではありません。「教育に正解がない」という事実に、10年かけて、ようやく私自身が納得できた、ということです。

そしてもう一つ、10年で見えたことがあります。教育移住で本当に問われていたのは、子どもの適応でもなく、オランダの制度でもなく——親である私自身の「教育観」でした。

これから、うちの二人の息子の10年を追いかけながら、この二つのことを書いていきます。

長男のケース:日本のベースがあった上での移住

長男が移住したのは、日本の小学校に上がるタイミング、つまり小学1年生になるタイミングでした。日本では幼稚園に楽しく通っていて、仲の良い友達もいて、先生にも可愛がられていて、それとは別に一応英語教室にも行っていたのですが、英語は実質できず。そんな状態でオランダに来ました。

オランダのスクールイヤーは9月始まりなので、新学年のスタートに合わせて、まずはオランダ語を覚えるための語学学校(を兼ねた小学校)に1年半通いました。うちはもともとイエナプランの小学校に入れたかったのですが、実際にそこへ入れたのはグループ5、日本でいう小学3年生にあたるタイミングでした。

次男のケース:気づけばほぼオランダ語ネイティブ

一方の次男は、2歳になってすぐの移住。日本の記憶はまったくない状態です。4歳までは語学に慣れるために一応、保育園的なところに通い、結果的にはほぼオランダ語ネイティブとして育ちました。

Vitolda Klein/Unsplash

その分、今となっては日本語のほうがちょっと厳しい。このあたりは、長男とちょうど裏返しの構図になっています。

長男は「三つ子の魂百まで」とまでは言いませんが、日本的なベースがあった上での移住だったので、小学校いっぱいくらいまでは、オランダ語やオランダ的な慣習に慣れるのが大変だったかなと思います。この夏に小学校を卒業した次男は、完全にオランダ人ネイティブなので、慣習も友達もオランダ社会も、何の違和感もなく溶け込んでいます。

塾なし、自主留年あり——日本とは仕組みが違うオランダの小学校

勉強という点では、オランダ語がすべての科目の——というより、コミュニケーションそのもののベースなので、ここができないと何も始まりません。長男もオランダ語は普通にできていたのですが、それでも小学校時代はちょっとだけ苦労があったと思います。

そして、私が10年見てきて感じるのは、日本とオランダは別の仕組みでつくられている、ということです。オランダには、日本の小学生が通うような塾がない。宿題もほとんどない。あえて自主留年する子も結構いる。日本の学校もこの10年でずいぶん変わってきていて、宿題のあり方も見直されたり、探究学習の導入も広がっていたりと、選択肢は確実に増えていると聞きます。それでもオランダを見ていると、そもそもの仕組みが異なると感じる部分は多いです。

Anna Khromova/Unsplash

そのうえで、オランダでは小学校の卒業時に、大袈裟に言えば将来の進路がだいたい決まります。進学コースか、真ん中コースか、職人コースか。ざっくり3つに分かれていて、長男は卒業時点では「進学/真ん中」コース——もう少し様子を見て決めましょう、というコースでした。

ちなみに、根っからのオランダ人である次男は、余裕で進学コース。ただ、オランダ人でも進学コースに行く子は、実は少ないです。

でも、ここが面白いところで、余裕で進学コースだった次男が選んだ中等学校が、結局、長男と同じ学校だったんです。しかも長男も中等学校に入ってから進学コースに移ったので、学校も同じ、コースも同じになりました。

小学校卒業時に進路が別れるというと、日本の中学受験と似ているように見えるかもしれません。でも、本質的にはまったく違います。日本の中学受験は"選ぶ人だけが挑戦する競争"。一方オランダは、"全員が3つのコースに振り分けられる仕組み"。しかもそれが、そのまま高校の種類、その先の大学進学か職業訓練かというキャリアの方向性まで決めていきます。「正解ルートに乗る競争」ではなく、「そもそも人生の道は複線ですよ」という前提が制度になっている、という感じです。

「良かったのか、悪かったのか分からない」と言っている理由の一つが、まさにここにあります。

オランダは——というより、たぶん「教育」そのものが——本来、「正解」や「正しいコース」が一直線にあって、それを進むことではないのだと思うんです。回り道も、道草も、休憩も、後戻りも、ぜんぶ込みで、自分の好きな道を進んでいく。それが教育なのかなと。

日本だとつい、「正しい王道ルート」があって、そこに乗るための競争がある、という感覚になりがちですよね。近年はオルタナティブスクールや探究型の学校も増えて、選択肢は広がってきているとも聞きますが。それに対してオランダは、そもそも制度全体が「正しい道はない」という前提でできているように見えます。「自分の好きな道を歩くこと」それ自体が教育で、ペースだって一人ひとり違って当たり前、ということになっています。

つまり、「正しい教育」という基準がそもそもないので、良かったも悪かったも判定のしようがない。だから「分からない」のです。

現に、うちの長男と次男はまったく違う経験を積んできたはずなのに、中等学校では結果的に同じ学校、同じコースにいます。さらに、この先どうなるかは、もちろん分かりません。親としては、それぞれが好きな道に進めればいい、としか思っていません。

要するに、この「教育に正解がない社会」こそがオランダだと思っています。10年経った結論が「分からない」なのは、そういう理由です。

sofatutor/Unsplash

とはいえ、それだけで終わるのもなんなので、この経験から得られたと思えることを、いくつか共有します。

まず、移住のタイミングはすごく大事です。タイミングというより、お子さんの年齢、と言ったほうが正確かもしれません。極端に言えば「早いほうがいい」。ただこれは、早いほうが適応しやすいのでは、というだけの話で、全員に当てはまるわけではありません。結局はお子さんの個性次第で、「日本社会のほうが友達をつくりやすい」とか「オランダの文化に馴染めない」とか、教育以外の問題も絡んできます。周りには、10年住んでもオランダが「嫌」という理由で、高校のタイミングで日本に帰る子もいます。なので「早いほうがいい」は、あくまで括弧つきのおすすめです。

次に、意外と大きいのが、住む場所と通う学校です。これで社会環境がガラッと変わることがあります。これはお子さんの個性や年齢とは、また別の話です。

我が家は、兄弟揃ってイエナプラン校を卒業しました。親から見た小学校は、非常に良い学校でした。でも、イエナプランだから良かったのか?そもそもオランダの小学校だから良かったのか?そこは他との比較ができないので、よくわかりません。

昨年度まで30年くらいの長きに渡る校長先生が引退されました。サッカーが大好きで、定期的に開催される学校のライブなどでも、マイクを握ったら離さないタイプの校長先生でした。うちの子どもたちは、学校のサッカーチームので活躍してたので、もしかしたら贔屓されてたかもしれません。

そんな感じの学校だったので、イエナプランだから、というより校長先生が良かったかな?と思います。ちなみに、近所には、モンテッソーリやダルトンの小学校もあって、選べる状態でした。

ついでに中等学校にも、イエナプラン風、モンテッソーリ風の学校は結構あります。うちの子どもたちが選んだのは、ザ・オールドスクールとでも言いましょうか。100年を超える伝統がある、トラディショナルな学校でした。(最近は、本当にいろんなスタイルの学校があるので、選択肢は広がっています。)

それから、親自身がどこまで移住先に馴染めるか、も地味に効いてきます。金銭的にちゃんと生活が回るか、というのはもちろんですが、そのエリアのコミュニティに入れているか、小学校のパパ友ママ友をつくれているか。子どもの社会生活をどこまでサポートできるか、という意味で、親の地域へのコミット度も案外重要です。

Timur Shakerzianov/Unsplash

そして、子どもの成長には時間がかかる、ということ。これは当たり前な話です。日本でも、オランダでも。教育の結果が出るのは時間がかかります。だから10年経っても分からないのです。何を持ってして「結果」というのか?という議論もありますが、結論を急かさない。ひょっとして、答えは「死ぬ時」かもしれません。少なくとも、こういう心構えがあった方がいいかな、と思います。

一番問われるのは、あなた自身の「教育観」

そして、いちばん考えてほしいのは、親であるあなた自身が「教育」をどう捉えているか、です。

もし、「エリートコースを、決められた道を、最速で、先頭を切って進んでいくこと」を教育の目的にしているのなら、正直おすすめしません。逆に、「道なき野っ原を、自分の力で進んでいく力を身につけること」だと考えているなら、おすすめします。少なくとも、日本の受験戦争に勝つ力は身につきません。

あと、単純に「語学のため」と思っているなら、これもおすすめしません。語学はスキルであって、教育ではないからです。うちの子どもは、日本語、オランダ語、そして英語は問題ないです。あ、1番の問題は日本語か!

そう考えると、日本のほうがよっぽどいい教育かもしれない、とも思います。実際、日本にも独自の良さがあって、それは10年離れているとむしろ見えにくくなる部分でもあります。

結局「いい教育」って、子どもによって違うんじゃないの、というのが正直なところです。「分からない」といちばん強く思うのは、たぶんここが理由です。

Robert Collins/Unsplash

たとえば「探究学習」が合っている子もいれば、そうでない子もいる。今の日本でも探究学習が広がっていますが、それが合わない子がいることも問題になっているくらいで。「良い」「悪い」の判断基準が、親によっても子どもによっても違う。「合う」「合わない」も、子どもによって違う。

さらに言えば、タイミングもそうです。自分もたぶんそうなんですが、男子に多いのが「後伸び」タイプ。適切なタイミングって、子どもによって違うと思うんです。

こういうことを全部ひっくるめて考えると、教育移住も「とりあえず」とか「お試しで」くらいの気持ちで始めるのが、案外いいのかもしれません。

10年の結論として「分からない」というのと、「オランダの教育も、手放しで100点満点の薔薇色ってわけじゃない」という——最初から分かってたやろ、っていう感じの結論ですかね。

最後に

教育移住10年の結論は、やっぱり「分からない」ということになりました。

でも、この10年で唯一はっきり分かったことがあります。教育の話をしているつもりが、実は自分自身の「教育観」の話をしていた——ということでした。

「良い教育」を子どもに与える前に、まず自分が「教育とは何か」をどう考えているのか。それが問われる。教育移住は、その問いを10年かけて突きつけてくる旅でもありました。

もし今、教育移住を考えている方がいらっしゃったら——制度やランキングを比較する前に、一度、あなた自身の「教育観」を書き出してみてください。答えは、そこから見えてくるはずです。

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