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手紙の中の僕

※本作は創作です。
実在の人物とは、特に関係はありません。


──返事ください。短くてもいいです。

幼馴染の女の子にそう書いてから、
もうすぐ20年になる。

彼女とは同い年で、団地で部屋が隣同士だった。
小学生のころから、家族ぐるみで仲が良かった。

ピンクのTシャツにデニムのキュロット。髪は二つ結びで、ヘアゴムにはラメ入りの丸い小さな飾りがついていた。

夏休みには、僕の部屋でよく遊んだ。
彼女が持ってきたカントリーマアムを食べながら、DSでよく遊んだ。

「またヨッシー?」
「ヨッシーが一番使いやすいよ」
「私はデイジー」
「え、デイジー遅くない?」
「でもかわいいから」

赤い甲羅は、デイジーには打たないようにしていた。

「つぎ、カロンにしたら?」
「ガイコツみたいで、いや」
「曲がりやすいし速いよ」
「もういい、どう森にしよ」

僕は、もっとマリオカートで遊びたかった。
けれど、どうぶつの森でよく遊んでいた。

10歳の頃、僕は引っ越すことになった。前日に母親に連れられて隣に挨拶に行った。僕はそこで初めて、少しだけ勇気を出した。

「……うん。書く」
彼女は俯きながら、小さな声でそう言った。

「でも、短くてもいい?」
「いいよ」
「…じゃあ、書く」

北海道に転校して、すぐに手紙を書いた。
新しい学校までは歩いて15分くらいだった。でも、知らない校門に入るまでの時間は、それよりもずっと長かった。

一週間後に、彼女から返事が来た。

「元気ですか。私は元気です。

手紙、ちゃんと届きました。
字は少し読みにくかったけど、読めました。

こっちはふつうです。

家から遠いのはいやですね。
走ればいいと思います。

どうぶつの森は、まだやっています。
つうしんできたら、村に行きたいです。

ももください。りんごはあげます。

今は、さちちゃんやきみちゃんと遊んでいます。
べつにいいなら、聞かなくてもいいと思います。

でも、また遊びたいです。

お返事ください。」


学校から走って帰って、ポストを確認するのが日課になった。僕宛の封筒を見つけると、両親にバレないように部屋の机の引き出しにしまっていた。

僕は転校したあとは一人でゲームばかりしていた。そのうち、Wi-Fi通信は禁止されてしまった。


中学校に移ってからは、友達は少し増えた。

成績はクラスでだいたい平均くらいだった。彼女も成績は僕とほとんど同じだったようだけれど、僕は手紙ではクラスで二番目くらい、ということにしていた。

高校の頃は、北大を目指して予備校に通っていた。難関国立大を目指すコースには入れなかった。自習室で男女で横に並んで黙々と勉強している人を尻目に、ふと、便箋に向かうことがあった。

僕は結局、札幌市内の私大に進学することになった。手紙には、大学でテニス部に入った、と書いた。でもすぐに辞めたことは、書かなかった。


そのうち、彼女から送られてきた手紙に
「彼氏ができた」と書かれていた。

──仕方ない、とは思ったけれど、
もう手紙は止めようと思った。


僕もその頃、入ったばかりのサークルの先輩と良い感じになっていた。サークル飲みのあと、その先輩の家に初めて泊まった。

でも、あとになってその先輩には他に男がいることを知った。サークル内では有名だった。知らないのは僕だけだった。



「今の彼とは、さよならしました。たぶん、それでよかったと思っています。」

次に届いた手紙には、そう書いてあった。たった半年ぶりのはずなのに、すごく久しぶりな気がして、すぐに返事を書いた。

……僕はテニス部で練習漬け、ということにした。


手紙でのやり取りは続いたが、SkypeもLINEも交換しなかった。僕からは、言い出せなかった。



今は、札幌の食品メーカーで働いている。この間送った彼女への手紙には「いつも大体一人」と書いた。

仕事は正直、不規則なシフト制でかなり厳しい。でも、彼女も仕事で忙しいらしい。

だから手紙には「無理しすぎないで」と書いた。
「身体に気をつけてね」と返ってきた。


休憩中に、彼女の名前を検索したことがある。Facebookのアカウントは、すぐに見つかった。

最後の投稿は都内の女子大の卒業式のときで、謝恩会のホテルで赤い振袖を着た彼女が、友人たちと並んでいた。

……昔と全然変わっていないな、と思った。


手紙のやりとりを始めて20年。
今年で僕たちは、30歳になる。

今日も確認したけれど、やっぱり更新は止まったままだった。友達限定公開の投稿があるかもしれないけれど、友達申請はしたくない。

Facebookのアプリを閉じて、真っ白な便箋に目を落とした。半年ぶりに手紙を書こうとしたが、
書くことがあまり思いつかない。


──こっちに来ませんか。一緒に、


そこまで書いたところで、便箋を丸めた。
……結局、いつものように書いた。


「忙しければ、短くても構いません。
また返事をください。」



(了)

(1926字)




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