「逃げる訓練」から「止める訓練」へ ― 学校の不審者対応研修で学んだこと
先日、学校の安全をテーマにした不審者対応研修に参加する機会がありました。講師は、長年警察に勤め、現在はスクールサポーターとして学校の見守りに携わっている方。現場を知り尽くした話には、これまでの「常識」をひっくり返すような視点がいくつもありました。備忘もかねて、学びをまとめておきます。
研修の核心:主役は「子どもの避難」ではなく「教職員の対応」
これまで多くの学校の不審者対応訓練は、「子どもをいかに安全に避難させるか」に重点が置かれてきました。けれど講師の方の考えは違いました。
本来の主役は、教職員が侵入者にどう対応するか。避難はあくまで最後の手段である。
文部科学省の学校安全の指針でも、教職員が侵入者を制止・警告し、ある程度は抵抗・阻止したうえで、子どもに被害が及びそうなときに避難させる、という趣旨が示されているそうです。問題は、その趣旨が現場で十分に実践されていないこと。
過去に起きたある学校侵入事件を例に、こんな指摘がありました。加害者は車で学校に乗り付け、教室まで到達してしまった。子どもの避難自体はうまくいったけれど、車の侵入と教室への接近に誰も気づけなかったことこそが本質的な問題だった、と。
「自分の学校の弱点はどこか」を念頭に置いて検討すること。これが研修全体を貫くメッセージでした。

刺股(さすまた)は「捕まえる道具」ではない
これは個人的にいちばん意外だったところ。
学校に常備されている刺股。なんとなく「不審者を取り押さえる道具」だと思っていませんか? 講師の方いわく――
学校で刺股を使って不審者を取り押さえた事例は、聞いたことがない。
刺股は本来、距離をとって身を守るための道具であって、捕まえるための道具ではない。掴んだり挟み込もうとしても有効ではなく、正しくは相手の背中に向けて上から押さえつけること。実演を交えて教えていただきました。
「刺股があるから大丈夫」ではなく、「刺股はあくまで時間と距離を稼ぐもの」。この認識の差は大きいと感じます。

110番のしくみ ― 「直接かける」が正解
通報まわりの話も実践的でした。
110番は県警本部の通信指令室につながり、専用のオペレーターが受ける
通報者の位置は地図上に表示され、各パトカーにリアルタイムで共有される。着信した時点で、警察は通報があったことを把握できる
ただしGPSの位置情報は数メートルずれることがある。過去には、隣接する学校と取り違えて入り口を間違えたケースもあったとか。正確な場所を補足できるよう備えておくことが大切
そして――学校内の一斉通報を経由するより、110番に直接かけたほうが警察に早く届く
「まず職員室に連絡」が染みついていたので、ここも認識を改めるポイントでした。

「穏やかに」だけでは、つけ込まれる
マニュアルにはよく「興奮させないよう穏やかに対応する」と書かれています。でも講師の方は、こう釘を刺しました。
本当に危険な相手に穏やかに接していると、足元をすくわれる。つけ込まれる。
退去を求めるなど、言うべきことは逆上を恐れず言う。そして凶器を使われる恐れがある状況では、最大限の防御行為も許容される。警察官が生命の危機に際して躊躇なく対応を求められることに例えながら、「自分や子どもがどうなるか分からない状況で、自分がやられるわけにはいかない」と。
学校の先生は優しい――だからこそ、ここの感覚は意識的に持っておく必要があるのだと思いました。

暗号より、ストレートな伝達を
「『荷物が届きました』のような暗号放送で先生方に知らせる」運用について質問が出ましたが、講師の方は懐疑的でした。
実際の緊急時には、暗号は意味が伝わりにくい。それよりも「誰がどこに来ました」という直接的な伝達のほうが確実だ、と。とっさの場面ほど、シンプルさが効くということですね。

いちばん刺さった話:「2人目が来ない」
その日の午前中に他校で行われた訓練の振り返りが、強く印象に残りました。
1人の教職員が玄関で侵入役を効果的に食い止めた。けれど――2人目、3人目の応援が来なかった。これが最大の課題だった、と。
不審者を抑えられれば、避難の必要はない。だから、できるだけ教職員が現場に集まって対応する。1人の担任が2クラスを見ることで、他の人が応援に向かえる体制をつくる。そして応援に行った人を放置せず、「今行きます」の一声で連携する。
その一声があるだけで、全然違う。
仰々しい技術より、こういう連携の積み重ねなんだなと。

通報で最優先すべきは「けが人」と「凶器」
最後に、通報時のポイント。
110番で不審者を通報するとき、最優先で伝えるべきは――
けが人(人命救助の必要)の有無
凶器の有無・危険性
年齢や服装といった人相は二の次。容疑者が現場にいれば、警察が到着時に特定できるからです。人相が重要になるのは、容疑者が逃走した場合だけ。
そして凶器(特に刃物)を見つけたら、気づいた人が大声で全員に知らせる。離れた場所の人にも伝わるよう、はっきりと大きく。これが警察で訓練されている標準的なやり方だそうです。

おわりに
「逃げる訓練」から「止める訓練」へ。
発想を切り替えるだけで、訓練で見るべきポイントがガラッと変わる――そんな気づきの多い時間でした。
子どもたちの安全を守るために、現場でできることはまだまだある。学んだことを、少しずつ形にしていきたいと思います。

