春を迎える人(ショート・ショート)_きのころチャレンジ
この作品は、
書き出しで魅了する作品募集で
「ベスト書き出し賞」を受賞した
きのころ様の作品他をベースに
私が続きを書いた小説です。
また、きのころ様の
note 300日継続記念の企画として
作成した小説です。
きのころ様、
note 300日継続おめでとうございます。
どうぞ、お楽しみください。
春を迎える人(ショート・ショート)
今朝、郵便受けに入っていた一通の手紙。
差出人の名前はない。
胸騒ぎに、震える手で封を開ける。
中に入っていたのは、
途中まで書かれた私の遺書。
覚えはない。
だが、間違いなく私の筆跡だ。
日付は明日になっていた。
その晩、私は不思議な夢を見た。
奇妙なほど現実感がない。
それでいて、
女のやさしい歌声とギターの音色だけは
はっきりと覚えている。
たしかこんな歌詞だ。
祝福の鐘が300回鳴ったとき、
師が遠方から訪れる。
戯れる子どもたちを叱ってはならない。
あなたも子どもたちの一人なのだから。
2月の午後、紅茶を楽しむとき、
あなたに本当の幸いが訪れるだろう。
目覚めたとき、
部屋はまだ真っ暗だった。
私は疲れているのかもしれない。
デジタル時計は午前3時を示していた。
私は静かに2度目の眠りについた。
朝、目が覚めると、
隣で知らない女が電話をしていた。
私のスマホで。
私の声で。
叫んでも声は出なかった。
鏡の中の私は眠っている。
女が一瞬だけ私に顔を向けた。
そして、私の声で電話の相手に告げる。
「起きました」
「あなた少しがんばりすぎよ。
なぜわかるかって?
私はあなただもの。
今ね、あなたの職場に電話をしたの。
今日は風邪で体調が悪くて
寝込んでいるって伝えといたわ。
おばのフリをしといたんで
口裏は合わせてよね。
あなたが困ると私も困るのよ。
今日はお昼まで寝てなさい。
少しほっとしたでしょ。
あなたの思っていることなんてお見通し。
あなたのことは、
あなた以上に知っているの。
だって私はあなただもの。
これ以上無理して働くと、
あなた本当に死ぬわよ。
あの遺書は私からの警告。
だからゆっくり眠りなさい。
もし今後も自分を大切にしないなら、
私はあなたから声も体の自由も奪うわ。
ベットからも起き上がらせない。
ましてや、あなたを死なせやしないもの。
わかった?
わかったら、狸寝入りをやめて、
そのまま本当に寝ちゃいなさい。
おやすみ。
泥のように眠りなさい」
女がそう言い終えるとともに、
私は深い眠りに落ちた。
昼過ぎ、私はベットから起き上がり、
パスタをゆで、
ペペロンチーノを作って食べた。
それから紅茶を淹れ、
ノートパソコンでnote記事を読みながら考えた。
遺書を書き、郵便受けに入れたのは、
きっと私自身だ。
そしてもし仕事を続けていたら、
あの紙切れは、
今日、本当に遺書になっていたかもしれない。
たしかに私は心身ともに限界だった。
社長といえども300日連勤は、
もはや狂気だ。
気づいていて、
それでも自分を止められなかった。
私はもう一人の私に命を救われたのだ。
あの夢の中の歌声も、
きっと私の一部なのだろう。
それに私は社員たちにも厳しすぎたかもしれない。
もっと言うなら、彼らを過小評価していた。
会社は、私が一日休んだくらいで
崩れるような場所ではない。
むしろ、社長の私が倒れた方がよほど迷惑がかかる。
明日からは、仕事のやり方を少し見直してみよう。
昼過ぎまでゆっくり眠ったことで、
そう思えるだけの心の余裕と冷静さが、
ようやく戻ってきた。
遺書は戒めとして、
部屋の壁のカレンダーの横に
目立つようにピンで留めることにした。
私はノートパソコンをそっと閉じ、
アフタヌーンティーを楽しむ。
いつ以来だろう。
とてもいい香りがする。
湯気の向こうに、
春の気配がかすかに漂っていた。
もうすぐ3月。
春はもう、すぐそこまで来ているのだ。
さあ、生き残ろう。
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チップをいただけるような素敵な雑記が書けたらなぁ~(遠い目)。