一切れの抹茶ケーキ
「良かったらどうぞ。」
目の前に一切れの抹茶ケーキ。
隣の席の人が手付かずのケーキを勧めてきた。
忘年会のこの時期。
毎回、残ってしまう料理がもったいないと思う季節。
不思議なもので、飲み会の席の食事というのはそんなにたくさん食べたつもりはないのに、いつの間にか満腹になっている。
ケーキを勧められたのも、まさにそんな時。
小さなケーキだったが、自分の分に加え隣の人の分までとても食べ切れず、結局そのままにしてお店を後にした。
帰宅後、そのケーキのことを思い出して『もったいないことをした…』と思ったが、すでに後の祭り。
…………………
そこで思い出したのが、ホテルの料飲部で働いていた時のこと。
早朝の忙しい業務の合間。
下げてきたお皿の明らかに手をつけていないパンに手を伸ばし、朝食代わりにしていたスタッフがいた。
ただ捨てるよりよほど良いと横目で見ながら思っていたあの時。
これはホテリエにとっての密かな楽しみ。
たまにお客さまの急なキャンセル等で、頼んだ料理が手付かずになることが…。
そんな時、ご相伴に預かったことがある。
それは単にお腹を満たすだけでなく、メニューに載っている料理について知るチャンスでもあった。
時々お客様がメニューを差しながら「これ、どんな料理?」と聞いてくることがあった。
一度見て食べておけば、そんな問い合わせにも慌てずに答えることができる。
当時は『何でも勉強だ』と勤務中の出来事を貪欲に吸収しようとしていた。
…………………
いろんな思いが交錯したまま、まもなく『昨年』となる今年。
抗えない時の流れに押し流され、やがて新しい年を迎える。
