『前途多難』2026年6月 日本銀行金融政策決定会合 主な意見
2026年6月「金融政策決定会合における主な意見」が公表された。本会合では政策金利の引き上げ、並びに国債買入オペの中間評価が行われた。どのような意見があったのか確認してみる。
欠席した植田総裁
まず、今回の会合では植田総裁が病気療養のため欠席したが、主な意見の作成プロセスは基本的にこれまでと変わっていない。
①各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長に提出する、②議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである
これまでは「議長である総裁」とされていた表記が、今回は「議長」とされている。議長は氷見野副総裁であり、主な意見の取りまとめも氷見野副総裁だ。また、「各政策委員および政府出席者」となっており、出席していなくても委員の意見表明は可能とみられる。実際、内田副総裁は
植田総裁の意見の中身ということですが、これは金融政策決定会合の中身というのは主な意見、議事要旨、議事録という順番で公表していくということになります
と述べており、「主な意見」に植田総裁の意見が含まれていると見られる。
極めてhawkish
さて、本題である。例によって、こちらのエントリーに準じてDIを算出した。

今回のDIは+18であり、12月の利上げ時と同水準、算出対象期間の最高値だ。過去の利上げ時には、追加利上げに前のめりな訳ではないというニュアンスになることもあった。しかしこのところは利上げの妥当性、継続性を強調する内容になることが多い。
経済情勢
経済情勢の評価については、中東情勢の緊張緩和に加えてAI関連の需要ショックを指摘する意見が目立つ。
AI関連需要の強さなどを背景とした好調な企業収益、賃金のしっかりとした上昇
世界的なAI需要拡大によるディマンドショックで海外経済が上振れる
等だ。全体としてみても、4月会合より経済情勢の評価は強気である。
中東紛争が終結で合意したとはいえ、紛争に起因する供給ショックは、物価の上振れリスクよりも生産・雇用の下振れリスクの方が大きい
という意見もあるが、少数意見と位置付けて良い。ただし、次回会合では中川委員が任期満了となり、代わって新たに佐藤委員が出席する。どのような立場、意見が表明されるか注目される。
物価
4月会合と傾向は同じだが、物価についてはほぼ全面的に上振れ方向の意見だ。
企業間取引におけるやや速いスピードでの価格転嫁が、消費者段階における幅広い品目の価格上昇に波及していく可能性があることに加え、予想物価上昇率の上昇を踏まえると、基調的な物価上昇率が2%を超えて上振れていくリスクがある
原油価格上昇の影響が、すでに川中の企業物価にまで波及する中、企業の価格設定行動が積極化していることを踏まえると、今後、物価上昇につながるリスクをより懸念する状況にある
中小企業の賃上げスタンスは慎重化していない一方、企業間物価の上昇は既に明確化しており、特に物流費の上昇は、基調的な物価上昇率に影響するおそれがある
輸入物価を起点に価格転嫁が早まる可能性が高いほか、BEIや長短金利差拡大など、インフレ期待に動意がみられ、実質金利マイナスによる貸出やCP発行の増加、資産価格上昇の連鎖が生じている
グローバルなAI関連需要が、想定以上に経済・物価を上押ししている
今後、原油価格が下がるとしても、海外発のディマンドショックに伴い、石油関連以外も含め物価上振れに広がりが生じる蓋然性が高い
などだ。また、
政府の施策は、特定の財・サービスの価格水準を調整することによって、家計の実感に働きかける効果があるが、基調的な物価上昇率をみるうえではこうした要因を除く必要がある
も重要な指摘であり、ヘッドラインのインフレ率が足元で低めに出ていることを割り引いて評価するべきだと述べている。補助金でインフレが止まるのなら古今東西インフレに悩む国家など存在し得ない。当たり前を確認しなければならないことは時としてある。
金融政策運営
以上を踏まえれば、金融政策運営がhawkish寄りになるのは当然だ。特に先行きの政策運営についての意見を見ると、
今回の政策金利の引き上げ後も、金融環境は引き続き緩和的であると考えられるため、経済・物価が見通し通りに推移すれば、利上げを進めていくというこれまでの方針を維持すべき
米欧と異なり、わが国の政策金利は中立金利の推計レンジを下回っているが、上下両睨みで機動的な政策判断が行えるよう、 可能な限り早く中立金利に近付けていく必要がある
急激・大幅な利上げを避けるには、政策金利を中立金利に早めに近づけるべきである。中立金利は2%程度と考えられ、これを念頭に数か月に一度のペースで、経済・物価・金融情勢を確認しつつ、都度、検討していくことが望ましい
内田副総裁記者会見でも物価の上振れリスクが高まっているという見方が示されており、実際そうした意見は多い。であれば、すくなくとも金融環境は中立的であるべきはずであり、いつまでも緩和的な金融環境を維持している場合ではない。
国債買入の考え方
国債買入を2027年4月以降は月額2兆円で据え置く方針が示された点についての意見を見てみる。これは所謂テーパリングの減速である。
本邦投資家が、国債保有を無理なく増やしていくためには、ある程度の時間を要すると考えられ、従来と同様の減額を継続した場合には、市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性がある
国債買入れの減額を停止したとしても、買入れ額は国債発行額の2割以下になることから、「長期金利は市場で自由に決まる」という市場機能を阻害することはない
基本的なボードの考え方はこの辺りだろう。この他、ややテクニカルな意見が見られる。
日本銀行の買入れ減額により、国債市場に歴史的な供給圧力が生じている。市場機能も急速に回復し、長期・超長期ゾーンの実質金利も海外並みとなる中、来年4月以降の減額停止が妥当である
声明文で、前回まで見られた実質金利がマイナスであるという記述が変更されたが、背景はこのような考え方ではないか。実質金利をどう定義、計測するかは様々であり、このところの長期、超長期の金利上昇を受けて一言で実質金利はマイナスだと言い切れない状況が生じている。それでも筆者は現在の日本の名目金利は低すぎると考えているが、そう考えない人が居てもおかしくはない。
やや長い目で償還額が縮小していく際には、国債の買入れ年限がより重要になると考える
現時点であまり論点になっていないが、同じ月額2兆であっても、どの程度の年限の国債を買入れるかによって市場に及ぼす影響も日銀のバランスシートの規模も大きな違いが出る。現在の買入銘柄の平均年限は異次元緩和前に比べて倍程度の長さになっており、この年限でよいのかはいずれ(遠い将来かもしれないが)議論になるだろう。
長期国債の買入れ計画については、ストック効果を通じた長期金利の押し下げ効果をなるべく維持する観点で、減額停止が妥当
ストック効果をなるべく維持しなければならない根拠が不明だ。「長期金利は市場で自由に決まる」ようにという趣旨で国債買入を減額しているのである。ストック効果はなるべく維持ではなく、なるべく縮小するべきものだ。何か勘違いしていないだろうか。
かつての大規模な国債買入れの目的は金融緩和であり、現在の環境でその必要はない。国債市場に混乱は生じておらず、買入れ額の減額を停止すべき理由は全くない。国債買入れの狙いが財政ファイナンスや長期金利の引き下げと市場に受け取られると、市場にバイアスを与え、日本銀行の信認に悪影響を及ぼすことになりかねない
筆者はこの意見に完全に同意するが、どうもボードの総意としてはそうならなかったようだ。
そして政府出席者
率直にいって頭の痛くなる意見が並んでいる。
国債買入れについては、市場動向を注視し、必要に応じて機動的な対応をお願いしたい
信じがたいことにこれは財務省の意見である。国債の市場動向を注視し、必要に応じて機動的に対応することで国債の安定消化を実現するのは財務省の仕事だ。これは公式文書で堂々と発言して差し支えない内容なのだろうか。
今回の利上げにつき説明責任を果たすとともに、過度な景気変動が生じた場合には主体的かつ適切な対応が重要である。今後の成長型経済への変化が重要であり、マクロの需給動向と物価の関係の慎重な確認が必要である
ここからは内閣府だが、いったい説明責任とは何だろうか。日銀が公表している資料を真面目にフォローした上でこれを言っているのだとすれば、筆者はもはやどのような説明も思い浮かばない。
国債買入れについては、バランスシート縮小がもたらすマクロ的な影響の確認、市場安定のための適切な対応が必要である。
「バランスシート縮小がもたらすマクロ的な影響」と言われてもそんなものは確認しようがない。やや詳しく言えば、日銀のバランスシートの規模、構成が市場を通じて実体経済に影響することはあり得る。しかし、バランスシート縮小そのものがマクロ経済に影響を及ぼすという考え方は、純粋な量的緩和的な金融政策観に近い表現だ。こうした考え方が現実に妥当しないことはこの15年ほどで世界共通の認識となったと筆者は考えている。国債買入が金融政策手段としての役割を終えるに至った大きな理由もここにある。30年前ならまだこのような意見が出るのも理解は出来るが。
以上を含め、高市内閣が進める危機管理投資・成長投資等の取組につき理解の上で適切な政策運営を期待する
高市内閣が進める物価高対策はいったいどこへいったのか。
どうしたらよいのか
政府と日銀のコミュニケーションがあまりにも難しくなっているように見える。そして日銀に対する人事権は政府、国会にある。日銀の苦難はいったいどこまで続くのか。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

