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『迷走』日銀にもっと国債を買えという首相

さて、どこから話せば良いのか頭の痛い状況になっている。

やはりこの記事から始めるのが良いだろうか。

  • 高市早苗首相が5月に植田和男日銀総裁と会談した際、長期金利の上昇を抑えるため、必要に応じて国債を買い入れるよう求めていた

  • 複数の関係者によると、首相はこの場で「内閣の取り組みを理解し、適切な金融政策を実行してほしい」と強調。その上で、日銀が国債の買い入れ額を減らしていることに対して「市場安定のための適切な対応」を求め、必要な場合には国債を買い入れるよう要請

高市首相は、長期金利の上昇が気に入らないようだ。足元で確かに長期金利は上昇傾向にあり、こちらのエントリーでも言及した。

長期金利は高すぎるのか

論点はいくつかあるが、最初に確認すべきこととして、長期金利の上昇は経済のファンダメンタルズを反映したものだ。政府自身、「骨太の方針」で以下のように記述している。

  • 2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく。

インフレ率2%であれば、名目金利2%以上でなければ実質金利がマイナスになる。さらに実質成長率が1%を上回って定着するのであれば、自然利子率(実質)は少なくとも1%程度と予想され、名目金利は3%以上でなければ中立金利(名目)に届かないことになる。名目ベースで短期金利3%、長期金利4%程度と考えるのが自然だろう。経済の循環的な変動を慣らして考えれば、金融環境は中立的でなければインフレが進んでしまう。

であれば、現在の長期金利2.8%はむしろ低すぎる。長期金利が高すぎると考える人は、政府の方針通りに経済成長が実現すると信じていないことになる。高市首相は骨太の方針を信じていないのだろうか。

YCCアタック

実際のところ、過去に日銀は長期金利を抑制するために大量の国債買入を実施した。黒田総裁時代に導入されたイールドカーブ・コントロール(YCC)だ。この時の経験を思い出すと、日銀が長期金利を下げるのは容易に思えるのかもしれない。

しかし、YCCが実行できた要因は、国債の買入額が異常に多額だったからだけではない。当時はインフレ圧力が弱く、長期金利は放っておいても上がりにくい環境だった。日銀が国債を買えば買うだけ金利が下がった。下がった金利水準で市場取引が(細々とでも)成立したのは、日銀が買わない残りの国債を買う経済主体が一定数存在したからだ。10年国債の利回りが0%でも買っていいと思う人が当時は居た。

現在はどうだろうか。インフレ率は2%前後。政策要因で押し下げられているとはいえ、その効果は長続きしない。高市政権は積極財政を掲げており、為替介入による円安抑止効果も評価が難しい。その状況で日銀が多少国債買入を増やしたところで、金利を大きく押し下げられるとは考えにくい。

YCCの終了局面では、まさにこの問題が顕在化した。市場の金利上昇圧力を日銀が無理に抑えようとしたため、新規発行国債を全て日銀が買い占めざるを得なくなった。日銀が目標とした長期金利の水準では、日銀以外の誰一人として国債を買わないという状況が生じたのである。インフレ圧力の高まりに対し、日銀は政策判断を間違えた。YCCアタックとも呼ばれ、中央銀行による長期金利の誘導はうまくいかないという歴史の教訓を得た。

おそらく、このエピソードの持つ意味を高市首相は理解していない。

日銀と財務省

そしてそもそも、異次元緩和の初期にもたびたび議論されたが、長期金利の水準をどのように考えるかは政府、財務省の債務管理政策の問題だ。日銀による国債買入は、長期国債という政府債務を日銀当座預金という短期の債務に変換しているに過ぎない。

すなわち、日銀に長期国債を買えと主張するのは、財務省に長期国債の発行を3ヶ月物短期国債の発行に振替えろと主張するのと同じことだ。現在日銀当座預金にかかる利息は1%であり、3ヶ月物短期国債の発行利回りとほぼ同じである。首相が望むならば、法的に自主性を認められた日銀に催促するよりも、財務省に命ずる方がはるかに筋が通っている。経済効果としては基本的に同じだからだ。財務省のトップは財務大臣であり、その上に首相がいる。自分で自分の部下に指示すれば足りる。にもかかわらず実行できないのだとれば、何かできない理由がある。

率直なところ、もし私が財務省の担当者であったとして、そんなことを命じられても無理だと答えるしかないのだが。

迷走

このところ耳目に触れる高市政権の迷走ぶりには呆れるばかりであり、言い始めるときりがない。

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