採用の基準はスキルより定着?
──企業が「辞めない人」を選ぶ合理的な理由
「スキルは十分なのに、なぜか書類が通らない」
「即戦力を採用したのに、数ヶ月で辞めてしまった」
採用の現場で、こうした声を聞くことは珍しくありません。
いま“ジョブ型採用”が広がりつつあると言われますが、
実際に企業が見ているのは、スキルより定着です。
今回は、転職エージェントとして多くの企業と向き合ってきた立場から、
「なぜ日本では定着が採用の基準になるのか?」を、データと現場のリアルで紐解きます。
「ジョブ型」と言いながら、現実は“メンバーシップ型”のまま
最近、「ジョブ型雇用」「スキル採用」という言葉を頻繁に耳にします。
しかし、現場の採用担当者に話を聞くと、ほぼ必ずこんな言葉が返ってきます。
「スキルは申し分ないけど、転職回数がちょっと多いね……」
「優秀そうだけど、うちに馴染めるか不安」
つまり、最終的な採用判断を左右するのは“能力”よりも、「続くかどうか」。
スキルは教育できますが、組織への適応力や関係構築力は時間をかけても難しい。
日本企業の採用文化はいまだに、人間関係と長期雇用を前提としたメンバーシップ型に根付いているのです。
メンバーシップ型の育成は「投資型」
──育てても辞められたら、コストが回収できない
企業が定着を重視するのは、感情ではなく経済的合理性の問題です。
日本の多くの企業は、採用した人材を時間をかけて育て、
社風や仕事の進め方を学ばせていく「投資型の育成モデル」を取っています。
このため、早期離職されるとその投資を回収できず、損失になるのです。
実際、数字で見るとその重さがわかります。
入社後3か月で離職した場合、1人あたり約187.5万円の損失
(採用費・教育費・在籍コストを含む、エン・ジャパン調査)新卒社員が1年以内に離職した場合は、約530万〜580万円
中途社員では、約640万〜850万円の損失にのぼるという試算も
(ナイトウ総合研究所試算)
このように、採用とは短期的なコストではなく長期的な投資判断です。
だからこそ企業は、「スキルが高くても辞めるリスクがある人」より、
「育てて長く働いてくれそうな人」を選ぶ傾向が強くなるのです。
転職回数=リスク? アメリカとの文化的ギャップ
一方で、海外、特にアメリカでは「転職」はキャリアアップの象徴です。
米労働統計局(BLS)の調査によると──
ベビーブーマー世代(1957〜1964年生まれ)は、18歳から56歳の間に平均12.7回の転職を経験
現在の賃金労働者の平均勤続年数はわずか3.9年(2024年時点)
(出典:Bureau of Labor Statistics)
これに対し、日本では転職回数が多い人は「落ち着きがない」「また辞めそう」と見られがちです。
総務省の労働力調査では、日本人の平均転職回数は2〜3回程度。
厚生労働省の「雇用動向調査」でも、2023年の年間離職率は15.4%。
つまり、6〜7人に1人が毎年職を変えている計算になります。
数字だけ見れば流動化しているようですが、企業の採用判断の根底には
「定着する人を採りたい」という意識が今も強く残っています。
採用コストから見た「定着の合理性」
前述しましたが、企業が“定着”を重視するのは、感情ではなく明確な経営判断です。
中途採用1人あたりの採用単価:約28.9万円/人(エン・ジャパン調べ)
採用から教育・戦力化まで含めた総コスト:約90〜100万円/人(トラコム調べ)
求人広告費の平均:21〜40万円(ネオキャリア調べ)
こうした投資をして採用した人材が短期間で辞めれば、再投資が必要になります。
企業から見れば、採用とは「信頼できる人材に対する長期投資」。
だからこそ、選考ではスキルより「誠実さ」「安定感」「人柄」など、
“続けられる力”が見られているのです。
転職希望者へのアドバイス
転職を考えるとき、多くの方は自分なりの「軸」を持っています。
たとえば──
給与や待遇などの条件面
やりがいやスキルが活かせる仕事内容
将来を見据えたキャリアアップ
自分を高められる成長環境
このどれもが大切です。
ですが、企業にも同じように、「採用の軸」があります。
「どんな人が社風に合うか」「長く働けるか」「どんな価値観を持っているか」など、
その基準を持って採用を行っています。
本当に良い転職とは、
自分の軸と企業の軸が重なる場所に出会うこと。
その重なりが大きいほど、入社後のミスマッチが少なく、
結果的に“定着”しやすくなります。
とはいえ、自分だけで企業情報を集め、
相手の採用意図を読み解くのは簡単ではありません。
求人票だけでは分からない部分も多くあります。
だからこそ、転職エージェントを活用することをおすすめします。
私たちは企業の「採用軸」と、求職者の「キャリア軸」の両方を理解した上で、その交差点を見つけるお手伝いをしています。
転職は人生の分岐点です。
焦らず、丁寧に情報を集めながら、
“長く働ける場所”を一緒に探していきましょう。
