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フリーランスの働き方とAIについて考えてみた

手に職をつけて独立する。組織に縛られず、自分の腕で食う。長く語られてきたフリーランスの王道だ。

だが、AIがプログラムを書き、文章を書き、絵を描くようになって、この道に、思っていたのと違う一面が見えてきた。フリーランスは、AIと最初にぶつかる働き方なのかもしれない。正社員より先に、置き換えの最前線に立たされる側面がある。なぜか。フリーランスが「切り出された仕事」を受ける働き方だからだ。

この記事では、その弱さがどこから来るのか。そしてその上で、何を売れば続けられるのかを考えてみる。

この記事で考えたいのは、AI時代のフリーランスという働き方そのものだ。どの職種がどう置き換わるかではなく、フリーランスという立場そのものが持つ弱さと強さを見ていく。
前半では、なぜフリーランスがAIと最も正面からぶつかるのかを、その仕事の受け方から整理する。
後半では、では何を売れば続けられるのかを考える。
引用するデータは、いろいろな分野で置き換えが起きていることを示すものだ。ただし、この記事の中心に置く「切り出せる仕事から食われる」という見方は、データから直接導いたものではなく、わたしが現象を読み解くために引いた一本の補助線にすぎない。データはあくまで状況証拠で、この見方を証明するものではない。そのつもりで、一つの見立てとして読んでほしい。データは2026年6月時点の公開情報に基づき、出典は文中に記している。


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第1章:フリーランスは「切り出された仕事」を受けている

組織に縛られず、自分の腕で生きる。フリーランスを新しい働き方として勧める記事や媒体は、いまも数多い。実際、市場は広がっている。ランサーズの調査では、2024年のフリーランス人口は1303万人で、10年前と比べて約40%増えた。会社に頼らない生き方への期待は、いまも根強い。

出典:
ランサーズ株式会社の調査として、ITmedia ビジネスオンライン——"なぜ、今「会社に戻る」のか フリーランス→正社員が2.8倍の背景"(2026年5月)が報じた数値
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2605/11/news015.html

だが、この働き方には、勧める側があまり語らない構造がある。フリーランスと正社員の違いは、雇用の安定や保障だけではない。仕事の受け方そのものが違う。

先に断っておくと、この記事で主に想定するのは、企業から仕事を請け負って生計を立てる人たちだ。フリーランスの中には、すでに自分で仕事を組み立て、上流から関わっている人もいる。まずは、依頼を受けて成果物を納める、いちばん多い形から見ていく。

正社員は、組織の中で切り出せない仕事ごと引き受ける。誰がやるとも決まっていない調整、放っておかれた問題、名前のついていない雑務。フリーランスは違う。「これをお願いします」と、範囲のはっきりした切り出された仕事を受ける。切り出せるからこそ外に出せるし、契約にできる。逆に、切り出せない仕事はフリーランスには回ってこない。

この「切り出された仕事を受ける」という形が、長いあいだフリーランスの強みだった。組織の面倒を引き受けず、専門性だけで食える。手に職さえあれば、仕事は次々に来た。

ところが、AIの登場で、この形が裏目に出る。切り出せる仕事ほど、AIが得意とするからだ。範囲がはっきりしていて、何を作ればいいか決まっていて、手順にできる。それは、フリーランスに頼みやすい仕事の条件であると同時に、AIに任せやすい仕事の条件でもある。切り出された仕事しか受けていなければ、逃げ場がない。


第2章:すでに、切り出せる仕事から食われている

これは予測ではなく、すでに起きていることだ。いくつかの分野で、フリーランスが受けていた切り出された仕事から順に、AIに置き換わっている。なお、設備や手仕事の技に大きく頼る製造・職人の世界は、置き換わり方が違うため、ここでは扱わない。

エンジニアの世界では、やることがはっきり決まった機能を作る作業や、決まった手順で品質を確かめる作業など、ルールと手順が明確な仕事の自動化が急速に進んでいる。日本の70職種をAIの影響度で点数化した分析でも、プログラムを書く仕事は「消滅」ではなく「役割が大きく変化する」グループに入る、と整理されている。

決まった通りにプログラムを書く作業は、自動化が進む。一方で、何を作るかを決める設計や、関係者との調整は残る。そういう分かれ方だ。

出典:
AI Japan Index——"日本の70職種AI影響度スコア一覧2026"(2026年4月)
https://ai-japan-index.com/ai-job-impact/

もっと生々しいのが、イラストレーターやライターの世界だ。英国の職能団体が1万人以上を対象に2022年から2025年にかけて行った調査では、写真家の58%、イラストレーターの32%が、生成AIのせいで仕事を失った、もしくは断られた経験があると答えている。多くの場合まず起きるのは、ゼロか百かの喪失ではなく、じわじわとした収入の目減りだ。

出典:
Independent Society of Musicians (ISM)——英国の音楽家を中心に、作家・写真家・イラストレーター・俳優などのクリエイターを代表する職能団体による調査"Brave New World?"(2022〜2025年)。日本語報道:AMP——"生成AIにより写真家の58%が仕事喪失 1万人調査が示す静かな雇用崩壊"(2026年2月)
https://news.yahoo.co.jp/articles/589ee020921defa21e623213d51097cacb39fa0a

国内でも、約2万5千人のクリエイターを対象にした大規模な調査が2026年に発表され、生成AIがアニメ・マンガ・イラストの現場に与えている影響が見える形になった。

出典:
一般社団法人日本フリーランスリーグ——"生成AIと日本のクリエイターの未来についての実態調査"(回答数24,991件、2026年1月発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000142895.html

象徴的なのは、キャリア十年以上のあるフリーランスライターが、2025年末に「この仕事はライターへの発注をやめ、AIを使って自社で作ることになった」と打ち切りを告げられた話だ。続いていた仕事が終わること自体は珍しくない。だが、人からAIへ置き換わる形での打ち切りは、別の重さを持つ。

出典:
岡田有花——"キャリア10年超のライター、ついにAIに仕事を奪われる"(@IT、2026年2月)
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2601/29/news011.html

職種はばらばらだ。だが、食われているものを並べると、ある共通点が見えてくる。指示通りにたくさん作る作業。決まった型で仕上げる仕事。範囲がはっきりしていて、切り出して頼める仕事。

データ自体が「切り出せるかどうかで分かれる」と語っているわけではない。だが、どの分野でも先に食われている仕事には、共通して「切り出しやすさ」があるように、わたしには見える。そしてそれは、フリーランスが受けてきた仕事の、まさに真ん中にあるものだ。


第3章:手を動かさない仕事なら安全か

では、手を動かす作業ではなく、助言や企画のような仕事なら安全か。コンサルティングのデータを見ると、そう単純ではない。

4000億ドル規模の戦略コンサル業界で、いま仕事が減っているのは、これといった専門を持たない、なんでも屋タイプの経営コンサルタントだ。いわゆるジェネラリスト。この層は2008年以降で最も仕事を見つけにくい状況に置かれていて、AIによってさらに4分の1が職を失いかねない、という見方もある。

逆に、特定の分野に深く入る専門コンサルの採用は伸びている。過去3年で20〜35%増え、今後5年でさらに最大60%増えると見込まれている。

出典:
Jennifer Sor・Polly Thompson——"AIがコンサルティング業界に「急激な変化」をもたらしている…人月単価の時代は終わった"(Business Insider Japan、2026年4月)
https://www.businessinsider.jp/article/2604-consulting-industry-outlook-management-consultants-ai-hiring-job-cuts/

なぜ、なんでも屋のコンサルが減るのか。きれいなスライドと一般論なら、AIでも出せるようになったからだ。データを集めて整理し、それらしい提案にまとめる。これも、切り出して頼める仕事だった。手を動かすかどうかは関係ない。問題は、その仕事が切り出せるかどうかだ。

ここまでで、フリーランスという働き方の弱さが見えてくる。切り出された仕事を受けるという、これまで強みだった形が、AI時代には弱点になる。

もちろん、切り出せる仕事は、職種を問わず食われる。会社員にも、切り出された作業はある。テスト、入力、定型の事務。だが会社員は、その作業が消えても、組織が抱える切り出せない仕事——調整、判断、誰かがやらねばならない雑事——の側に移れる。組織が、逃げ場を用意してくれる。フリーランスにはそれがない。切り出された仕事しか受けていなければ、それが食われたとき、移る先が自分の中にない。フリーランスがAIと最初にぶつかりやすいのは、最もたくさん食われるからというより、食われたときに逃げ場がないからだと思う。


第4章:フリーランスには、上流を取りに行ける強さがある

ここまでは弱さの話だ。だが、フリーランスには、正社員にはない強さもある。

正社員は、組織の中で役割が決められる。配属が決まり、担当が決まり、その範囲で動く。自分で「もっと上流の仕事をしたい」と思っても、組織の都合がそれを許すとは限らない。

フリーランスは、立場として、どの段階の仕事をするかを自分で決められる。手を動かすだけの下流の仕事を受け続けることもできるし、現場に深く入って、何を作るかから関わる上流に行くこともできる。組織に縛られないとは、自分がどの段階の仕事をするかを、自分で選べるということでもある。

そして、AIに食われにくい仕事は、その上流にある。現場に入って、相手がうまく言葉にできていない要望を汲み取る。表に出ていない事情や力関係を、自分の足で確かめに行く。いくつもの要素を束ねて、何を作るべきかを決める。調べれば出てくる情報を集める作業とは違う、現場に入った人間にしか手に入らないものだ。

どの分野でも「残る」と言われているものの中身は、驚くほど似ている。イラストレーターなら、絵のうまさよりも、相手の要望を汲むやりとりと、何を描くかを決める力。ライターなら、文章を書く速さより、何を伝えるべきかを相手と一緒に決める力。コンサルなら、一般論より、その業界に深く入って得た知識。マッキンゼーも、一つの分野に深く、かつ複数の分野もこなせる人材を、ますます求めていると言っている。なんでも屋の助言ではなく、一つに深く、かつ複数を束ねられる人だ。

出典:
Polly Thompson・Lakshmi Varanasi——"From McKinsey to PwC, here's how elite consulting firms are racing to hire engineers — and train everyone else in AI"(Business Insider、2025年12月。QuantumBlack共同統括Alex Singla氏が、求める人材像を「一つのことに深く、かつ三つ四つの異なることもこなせる人材(5Xer)」と述べている)
https://finance.yahoo.com/news/mckinsey-pwc-heres-elite-consulting-204659893.html

ここからは、わたしの考えだ。フリーランスとして本当に続くかどうかを分けるのは、手を動かせるかでも、特定の技に詳しいかでもない。その上流を、自分の立場の自由を使って取りに行けるか。正社員より選びやすいぶん、ここはフリーランスの強みになりうる。


第5章:その上流は、独立する前に決まっている

ただ、ここに正直に書いておかなければならないことがある。独立は、持っているものの使い方を変える選択であって、持っているものを増やす魔法ではない。上流を選べる自由があると言っても、選べる上流の仕事が来るかどうかは、別の話だ。そして、それが来るかどうかは、独立してから決まるのではない。正社員時代に何をやってきたかに、大きく左右される。

フリーランス協会の調査によれば、いちばん多く収入につながった仕事のきっかけは「人脈・知人の紹介」が35.6%、「過去・現在の取引先」が29.9%で、合わせて六割を超える。一方、いちばん収入につながった経路がクラウドソーシングだという人は、6%にすぎない。フリーランスの仕事の大半は、会社員時代から続く人のつながりから来ている。

出典:
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会——"フリーランス白書2025"(2025年4月)
https://blog.freelance-jp.org/wp-content/uploads/2025/04/FreelanceSurvey2025.pdf

ということは、独立した後に来る仕事の質は、会社員時代にどんな仕事をして、どんな信頼を積んだかで決まる。正社員時代に、判断を任される仕事、名のある仕事、責任ある立場を経験した人は、その実績と人とのつながりを持って独立できる。だから上流の仕事が来る。

逆に、正社員時代に切り出された作業ばかりしてきた人には、独立しても切り出された作業しか来ない。箔のある仕事をしてきたかどうかが、独立した後に効いてくる。

しかも、独立した後にこの差を埋めるのは難しい。フリーランスは一人で働くので、上流に移るために学んだり、誰かから指摘をもらったりする機会が少ないからだ。組織にいれば、先輩のやり方を見て、上流の仕事を任され、失敗して学ぶ機会がある。フリーランスにはそれがない。自分の値打ちが落ちていても、気づきにくい。

このことが、いま数字に表れ始めている。フリーランスの市場は広がっているのに、正社員に戻る人が急に増えているのだ。リクルートエージェントの実績では、2024年4〜9月に正社員へ転職した数が5年前の2.8倍に達し、dodaでも2.7倍になった。市場が伸びているのに、逆の流れが起きている。

出典:
ITmedia ビジネスオンライン——"なぜ、今「会社に戻る」のか フリーランス→正社員が2.8倍の背景"(2026年5月、リクルートエージェント・dodaの仲介実績を報じたもの)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2605/11/news015.html

戻る理由は一つではない。報道では、いくつか挙げられている。収入への不満。リモートワークやフレックスを認める正社員が増えて、柔軟な働き方がフリーランスだけのものではなくなったこと。会社のデータにアクセスできないフリーランスは、大事な仕事に関われないこと。

そのうちの一つに、この記事で見てきた構造も含まれている。AIで、プログラムを書くような下流の仕事の単価が下がり、何を作るかを決める上流の価値が高まる。一方で、フリーランスには上流へ移るために学ぶ機会が少なく、自分の力が落ちても気づきにくい。そういう指摘だ。

逆の流れのすべてがこれで説明できるわけではない。だが、上流に移れないまま下流でAIと張り合う人たちが、戻る判断を後押ししている一因にはなっている、と読める。

ここからは、データの裏づけというより、わたし自身が独立と勤めを行き来して見えてきたことになる。

もちろん、独立した後に意識して上流へ移った人もいる。SNSやコミュニティで人とのつながりを作り直し、会社員時代にためたものの外に仕事を広げた人もいるはずだ。ただ、それ自体が、現場に入って関係を作り直すという上流的な動きであって、切り出された作業を受けているだけでは起こらない。学ぶ機会が少ないぶん、独立した後に下流から上流へ移るのは、できないわけではないが、よほど意識的でなければ難しい。だから、フリーランスを選ぶかどうかの分かれ目の多くは、独立する前の、正社員として働いている時間の中にある。


第6章:では、具体的に何で差別化するのか

ここまでは方向の話だった。上流を取りに行け、と言われても、では具体的に何をすればいいのか。ここからは、わたし自身の見立てになる。

残るのは「人にしかできない仕事」ではなく、現場に入れる立場

その前に、言い方を一つ直したい。ここまで「人にしかできない仕事が残る」と言いたくなったが、これはたぶん違う。AIが出てきてから、「人にしかできない」と言われたものは、次々に崩されてきた。絵も、文章も、プログラムも、翻訳も。「人だから残る」という説明は、もう通じない。

正確に言えば、残るのは「人にしかできないこと」ではなく、現場に入らないと手に入らないものだ。AIは、すでにデータになっているものなら何でも扱える。だが、まだデータになっていないもの——現場の人の頭の中にしかない要望、表に出ていない事情。これらは、その現場に入れる立場の人間が、足を運んで初めて引き出せる。

残るかどうかを分けているのは、人間であることではない。その現場に入れる立場を持っているかどうかだ。

ここで言う「入れる立場」を、広く取りすぎないようにしたい。資格や肩書きで入れる会議のことではない。その現場に入って、まだ言葉になっていないものを引き出せる立場のことだ。同じ会議に出ていても、表に出ていない事情を掴んで帰る人と、記録に残る話だけ持ち帰る人がいる。前者が立場を活かせている人で、後者は席があるだけだ。入れることと、引き出せることは違う。

現場に入った後、事そのものに向き合えるか

ただ、現場に入れることは入口にすぎない。入った後に何をするかで、差がつく。

組織の中では、やるべきことに向き合う時間が、人の問題に削られる。誰を立てるか、どの部署と調整するか、評価をどう取るか、社内政治にどう負けないか。解くべき仕事そのものよりも、その周りの人の問題に、時間と力を取られる。

フリーランスは、現場には入りながら、この人の問題からは距離を置ける。降りるのは政治や調整であって、現場そのものではない。降りられることの本当の価値は、組織のわずらわしさから逃げられることではなく、空いた力をやるべきことそのものに向けられることだ。

そして、やるべきことに向き合うとき、自分ならではの強みを乗せる。同じ現場に入っても、何を見て、何を掴み、どう動くかは人によって違う。そこに、これまで積んできた経験や見方を重ねる。それが、結局のところ他の人との違いになる。

ここまでは、働き手なら誰にでも当てはまる。ただ、フリーランスには、これを活かしやすい立場がある。会社員のように一つの組織に固定されないから、入る現場を自分で選べる。次に、その選べる立場を、具体的にどう使うかを見ていく。

「入れる立場」を確保し広げる三つの方向

入る現場を、どう確保し、どう広げるか。具体的な方向を三つ挙げてみる。どれも、入れる立場の別の現れだ。

  • 身軽さで、入れる現場を増やす

    • 組織が動けない速さで、複数の現場に入る。価値は速さそのものではなく、入れる現場の数が増えること。

  • 社員が入りたがらない現場に入る

    • 面倒、評価されない、と避けられる場所。泥くさい調整、誰も手をつけない問題。避けられている=入れる立場が空いている。組織の都合が作る空白が、外から来た人間の入り口になる。

  • 特定の現場に、深く入り込む

    • いわゆるスペシャリスト。ただし落とし穴がある。その深さが「現場でしか手に入らないもの」なのか、「手順を知っているだけ」なのか。同じスペシャリストでも、生き残る人と値打ちを失う人に分かれる。この分かれ目は、次に掘る。

持ち帰ってほしい二つの物差し

ここまで三つの方向を挙げたが、持ち帰ってほしいのは、やることのリストではない。二つの物差しだ。

  • 自分の仕事は、データになったものを処理しているか。まだデータになっていないものを現場から引き出しているか。

  • その現場で、やるべきことに向き合えているか。人の問題に時間を取られているか。

前者を処理し、後者に追われているなら、AIと同じ土俵にいる。現場に入ってやるべきことに向き合い、自分の強みを乗せているなら、そこにはまだ、自分にしか出せないものがある。

ただ、この物差しには続きがある。三つ目に挙げた「深く入り込む」が、いちばんやっかいだ。次に、その落とし穴を見る。


第7章:「特化すれば安全」が、安全とは限らない

ある分野の現場に深く入り込む、いわゆるスペシャリストになる。この方向を、もう少し掘りたい。誰も持っていないニッチな専門に特化すれば、AIにも置き換えられず食い続けられる、と考えるのは自然だ。実際、コンサルのデータでも、専門に特化した人たちの需要は増えていた。

特化には二つの種類がある

だが、ここに落とし穴がある。「特化」には二つの種類があるからだ。

  • 判断と組み立てを伴う特化

    • 深く理解した上で、知識を判断に結びつけられる。AIの出力が正しいか見極め、直せる。AIが来ても値打ちは落ちない。むしろ道具に使えるぶん、上がる。

  • 作業として閉じた特化

    • ある技を、手順として深く知っているだけ。珍しいから、いまは食える。だがそれは、学ぶ人が減り需要も減る中での珍しさ。攻めではなく、逃げ切りの珍しさだ。

COBOLの珍しさは、AIに崩され始めている

エンジニアの世界に、分かりやすい例がある。COBOLという古いプログラミング言語だ。金融や行政の大事なシステムにいまも残り、扱える人が少ないから、一定の単価で仕事がある。だが、それは攻めの価値ではない。長年の手直しで中身がブラックボックス化し、扱える人も高齢化して、残った人に値がついている。逃げ切りの珍しさだ。そしていま、その中身を読み解く作業にAIが使われ始めた。古い仕組みを次の世代へ引き継ぐためだが、皮肉なことに、引き継ごうとするほど、COBOLの珍しさを支えてきた読み解きにくさがなくなっていく。

出典:
@IT——"「COBOL人材がいない」、基幹システムのレガシー継承に向けた模索が進む"(2025年12月、トヨタシステムズ等の生成AI活用の取り組みを報じたもの)
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2512/26/news022.html

これはITに限らない。決まった型でたくさん作る技、手順になった表現、決まりきったパターンの繰り返し。どんな分野でも、判断や組み立てから切り離された「作業としての特化」は、同じ道をたどりうる。珍しいうちは、どちらの特化も食える。だから、いま食えていることは、安全の証拠にはならない。


第8章:生き残るフリーランスは、フリーランスでなくなっていく

ここまでの話には、一つのねじれがある。

この記事は、フリーランスを「切り出された仕事を受ける働き方」として話を始めた。だが、生き残る道として見えてきたのは、その切り出された仕事から抜けることだった。身軽に動き、その人ならではの強みで、切り出せない上流をやる。生き残るフリーランスは、フリーランスらしさそのものから外れていく。

そして、切り出せない上流をやるということは、何を作るかを決め、判断し、束ね、前に進めるということだ。それは、会社員の上流の仕事と、中身がほとんど変わらない。生き残るフリーランスほど、働き方の中身は会社員に近づく。

では、何が違うのか。よほどのつてと自由を持つ一部の人を除けば、はっきりした違いは一つだけに近い。第6章で見た、あの人の問題から距離を置けることだ。

会社員は上流の仕事をしながら、その会社特有の人の問題も引き受ける。フリーランスは、仕事の中身は同じでも、そこからは降りられる。降りられるのは、その会社の中に固定された関係のほうだ。

さらに上がある。自分の名前を磨き上げ、どの会社にもしがみつかなくていい状態を保ち、自分ならではの事業まで持つ。ここまで来れば、AIにも組織にも振り回されにくい。だが、そこまで行くと、それはもうフリーランスではない。起業家だ。

ただし、「上に行く」と言っても、その上が安全とは限らない。たとえば、自分が受けた仕事を別のフリーランスに振って、差額を取る道がある。法人を作って規模を広げる人の中にも、この形に近づく人がいる。一見、上に行ったように見える。だが、これはAI時代にむしろ危うい。仕事を切り出して、合う相手に振り分ける。それこそ、AIが最も得意とすることだからだ。何も作らず、現場のまだ言葉になっていないものも引き出さず、ただ仕事を流すだけの立場は、上に行ったのではなく、切り出せる作業の側に戻っている。

並べてみると、生き残るフリーランスが立てる場所は、思っているより狭い。下に落ちれば、仕事を流すだけの、切り出せる作業に戻る。上に行けば、それはもうフリーランスではなく、起業家だ。会社に縛られず自分の専門で自由に食う、という語られ方のフリーランス像は、その下と上に挟まれた、狭いところにしか成り立たない。そして、そこに長くとどまること自体が、けっこう難しい。


第9章:フリーランスは働き方ではなく、生き方だ

最後に、わたし自身のことを書く。会社員をやって、フリーランスもやってみて、フリーでうまくいった部分は、結局のところ会社員時代にためたものだった。もちろん、フリーならではの良さもあった。

だが、フリーか会社員かという働き方の形は、思っていたほど大事ではなかった。同じ自分が、同じように現場に入り、同じように何を作るかを考えている。入れ物が変わっても、中身は変わらなかった。

会社員とフリーを行き来してみて、わたしがたどり着いたのは、フリーランスは働き方ではなく、生き方なのだ、という感覚だった。よく言われる言い方かもしれない。どう働き、どう生きるかが先にあって、働き方の形はそれを入れる入れ物でしかない。フリーになれば自由になれる、会社員だから不自由だ、という語り方は、入れ物に生き方を預けている。だが、自由を決めているのは入れ物ではなく、自分がどんな仕事を握り、どんな距離で関わるかという、中身のほうだ。

フリーランスになるかどうかを考えるより前に、いま自分がどんな仕事をしているかを見たほうがいい。

これは、別の記事で書いた課題の分離とも重なる(アドラー心理学の「課題の分離」を仕事の現場で使うとどうなるか考えてみた)。自分の生き方を、働き方の形という他人の決めた枠組みに明け渡さない。フリーか会社員かを選ぶより前に、どう生きるかを自分の問題として握る。それが握れていれば、AIが来ても、入れ物が変わっても、やることは変わらない。フリーランスという働き方が問いかけているのは、結局そこだ。


2026年6月

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