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『出会い―相互行為の社会学―』の紹介

 今回は,社会学者として有名なアーヴィング・ゴフマン『出会い―相互行為の社会学―』をご紹介します(著者名の表記揺れがありますが,ここで著者に言及するときはゴッフマンではなく,ゴフマンで統一します)。この記事では主に翻訳書(佐藤・折橋訳)を参照し,前半の「ゲームの面白さ」を扱います。本の詳細な情報は以下のとおりです。

Goffman, E. (1961). Encounters: Two studies in the sociology of interaction. Bobbs-Merrill.
(ゴッフマン, E. 佐藤 毅・折橋 徹彦 (訳) (1985). 出会い―相互行為の社会学―  誠信書房)



理論的な社会学の本

 本書は「ゲームの面白さ」と「役割距離」という2つの論文から構成されています。私が専門としているのはゲーム研究で,しっかりと読んだのが前半の「ゲームの面白さ」の部分であるため,この記事ではこの部分のみを扱います。
 本書は理論的な社会学の学術書であり,一度読んで内容が頭に入ってくるような簡単な本ではありません。私は何回か読み返してようやく理解できたと思っています。本文がとにかくわかりにくいと思うので,この記事が間違いを恐れず,一部を切り取ってそれなりにわかりやすく紹介するという役割を果たせれば幸いです。
 本書は一言でいうならば,人々があることに集中し合っているときの対面的相互行為をテーマとした社会学の古典です。ゲームはそのような活動の例として取り上げられています。以下では,本書の内容をより詳しく見ていきます。

本書の特徴

 本書の特徴のひとつが,説明が必要な用語が頻出することです。重要な用語のひとつが「焦点の定まった相互行為」です。本書はその構成からもわかるように,ゲームをテーマとしているわけではなく,この「焦点の定まった相互行為」について論じているものです。この用語について説明している箇所の原文と日本語訳の両方を引用します。

… Focused interaction occurs when people effectively agree to sustain for a time a single focus of cognitive and visual attention, as in a conversation, a board game, or a joint task sustained by a close face-to-face circle of contributors. Those sustaining together a single focus of attention will, of course, engage one another in unfocused interaction, too. They will not do so in their capacity as participants in the focused activity, however, and persons present who are not in the focused activity will equally participate in this unfocused interaction.

(Goffman, 1961, p. 7)

… 焦点の定まった相互行為は、会話、卓上のゲーム、あるいは参加者の緊密な対面的サークルによって保たれている共同作業などにおいて一時のあいだ、認知的および視覚的注目を単一の焦点に向ける人びとが、その持続を事実上同意するときに成立する。これらの焦点を単一の注目に向けている人びとも、もちろん、互いに焦点の定まらない相互行為を行なう。しかし、彼らは、焦点の定まった活動への参加者の資格でそれを行なうのではない。また、焦点の定まった活動を行なっていない人びとでも、その場に居合わせていれば、この焦点の定まらない相互行為に、同様に参加することになる。

(Goffman, 1961 佐藤・折橋訳 1985, p. ii)

 「焦点の定まった」というのは,引用箇所にあるように,人々が当面の間,認知的および視覚的注目を単一の焦点に向けていることを意味します。参加者が複数いるゲームでは参加者が一定の物事や対象に集中することから,「焦点の定まった相互行為」の代表例がゲームであるというわけです。より具体的には,人が集まって対面でボードゲームをプレイしている状況を思い浮かべるのがよいでしょう。すなわち,単独でコンピュータを相手にプレイするというような一人遊びのゲームは,本書では扱われていないということになります。
 また,「焦点の定まった相互行為」と関連する本書のキーワードが「焦点の定まった集まり (focused gathering)」です。同義語として,本書のタイトルである「出会い (encounter)」と「状況に関わりのある活動システム (situated activity system)」が導入されています。これらは,上記のような「相互行為が起こる社会組織の単位」を意味します。すなわち,ゲームであれば,ゲームをしに集まってきたプレイヤーたちの集まりを指しています。
 本書の中でも述べられているように,ゴフマン自身もこれらの用語に満足していないようですが,これらの用語の文字面を見て,なかなか頭の中に入ってこないというような独特のわかりにくさがあると思います。とくに「出会い」は私たちが一般に想起するものと異なることも説明されています。本書の難解さはおそらく,このような用語が文章全体に散りばめられていることなのではないでしょうか。本書では次々と新しい用語が導入されていくので,おそらく初回であれば途中から読んで理解することはできないでしょう。つまり,初めて読む人には拾い読みや速読が難しい,あるいはそれらが意味をなさないものになるといった特徴がある本だと思われます。

対面性の重視

 本書は難解ではありますが,それだけ示唆に富むものでもあります。見方を変えると,ここで要約してもしきれないほどの豊富な内容が記されています。この記事では,ゴフマンが重要と考えていたであろう「ゲームの面白さ」を取り上げていきます(その選択には私の判断が多く含まれることに注意してください)。
 ゲームの面白さの要件には直接的な物理的存在他者との共同的専心があります。本書では,一手一手を手紙でやり取りするようなケースを例に挙げられています。このようなゲームではプレイヤーどうしが互いの目の前にいません。「次はこの手を指した」と手紙で伝え合うことで,ゲームそのものは成立するわけですが,この例によって,ゲームプレイの際に相手が目の前にいることの重要性を指摘することができます。確かに相手が「どんな感じ」でプレイしているのかは,その場にいる全員に共有され,少なからぬ影響がそのゲームプレイにもたらされているということは,対面でゲームをしたことがある方であれば,きっと体験されてきたことだと思います。ゴフマンはプレイヤーの特性,表情,雰囲気,社会的地位に至るまで,様々な影響の例を挙げています。これらはプレイされるゲームのルールそのものではないものの,身体的に近い位置にいるプレイヤーたち,最終的にはゲームプレイ全体にまで作用するというわけです。同じ近い場所にプレイヤーが集まっていることは,そのゲームを面白くします。そして,そもそもこのような場が成立するのは,ゲームをプレイしている人々(焦点の定まった集まり)が互いに同一の目標達成のために集中しているからです。
 つまり,ゴフマンは対面性がゲームの面白さを成立させると主張しています。そもそも本書が扱っているテーマが対面的相互行為ですので,ここまで説明することによって,ようやく論文のタイトルと内容がかみ合っていることにお気づきになられるのではないでしょうか。

膜の比喩

 本書を引用する研究の多くが,細胞の外部環境にある構成要素と細胞内部の構成物の間の選択的関係を作り出す (membrane) の比喩に触れています。高校などで生物を学習した方は,細胞膜とその選択的透過性について知っておられると思います。ゴフマンの比喩はそれらを用いています。
 本書で説明されるゴフマンの膜のモデルを理解するには,細胞の内と外,およびこれらを仕切る膜という3つの要素をおさえる必要があります。この記事でここまで扱ってきた「焦点の定まった集まり」は細胞の内にあるものとされています。ここでは、認知的・視覚的注意を単一の焦点に向けている人々がいて,その間でいろいろな相互行為が起こっています。そして,その人々を取り囲む膜があると考えます。一方,細胞の外には「外部に基礎を置く事柄 (externally based matters)」があり,これらは細胞内に浸透してきます。膜はあらゆるものを浸透させる壁ではなく,必要なものを選択的に取り入れたり,不必要なものを通さなかったりする性質をもっています。
 膜は,ゲーム内外の境界であるマジックサークル(Salen & Zimmerman, 2004 山本訳 2011, 2013)におおよそ相当するものと考えると,わかりやすくなるかもしれません(ただし,類似の概念であって同義ではありません)。外部に基礎を置く事柄というのは,ゲームがプレイされていないときの日常生活におけるあらゆるものを指しています。例としては,人の特性や外見,社会的地位,能力,あるいは現実の規則,慣習,文化などです。これらがマジックサークルの内側にあるゲームに影響を及ぼしたり,及ぼさなかったりするというのが本書の主張です。

賭けゲームの例

 ゲームの面白さの要件として,個人にとってのリアリティがあるということも述べられています。これを説明するために,本書では「賭けゲーム」の例が登場します。この例では,ギャンブルでの賭け金の大きさを考えます。
 賭け金が懐具合に対して非常に低いことに参加者が気づくと,ゲームへの興味は衰え,真剣に受け止めなくなります。一方,賭け金が収入や財産に対して高いと感じられると,経済的幸福に対して個人的に気をもむことになり,ゲームをあまりにも真面目に受け止めることを余儀なくされます。膜の比喩でいえば,これは細胞外からの影響を強く受けている状態です。
 つまり,賭けゲームのリアリティには一定のバランスが重要であり,低ければリアリティがなさすぎて面白くないし,高すぎればリアルに影響し得る不安があるために面白くない,ということです。このように,ゴフマンは膜のモデルを使ってゲームの面白さの要件をうまく説明しています。

 以上が『出会い―相互行為の社会学―』の紹介となります。本書はゲームを例として対面的相互行為について論じていますが,ゲーム以外のいろいろな活動にも適用可能なモデルを示しています。ボードゲームやカードゲームだけでなく,ゲームではないゲーミフィケーションのしくみを用いた対面型ワークショップなどの面白さを説明するのに有用なモデルを提供する可能性という点で,幅広いヒントが得られる本だといえるかもしれません。

参考文献

Salen, K., & Zimmerman, E. (2004). Rules of play: Game design fundamentals. MIT Press.
(サレン, K.・ジマーマン, E. 山本 貴光 (訳) (2011, 2013). ルールズ・オブ・プレイ―ゲームデザインの基礎― 上・下 ソフトバンククリエイティブ)


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