「元薬剤師 ✕ 元総合格闘家」の社長、国内自給率1.4%のアパレル市場に挑む
国内縫製の自給率は1.4%。市場縮小と人材不足が進むアパレル業界で、墨田区のOEM企業「ズーム」は独自路線を貫いています。代表取締役加々村 征(もと)さんは、元薬剤師・総合格闘家という異色の経歴を持ち、自社ブランドと少量多品種生産を軸に、持続可能な製造の未来を描いています。「筋トレは経営と全く同じ構造を持っている」と、両面を鍛え続ける背景に迫りました。
【第1章】国内自給率1.4%を支えるアパレルOEM企業
― ズーム社の事業概要を教えてください。
株式会社ズームは1980年に創業した、墨田区両国に本社、秋田県大館市に自社縫製工場を構えるアパレルOEM企業です。OEM事業では、国内ブランドからのデザインやイメージを受け、素材や型紙の決定から裁断、縫製、二次加工、検品、納品まで一貫生産しています。2024年に設立した自社オリジナルブランド「ICHORA+(イッチョウラプラス)」は、機能性重視のアパレルラインでQOL向上を意識したウェアを展開しています。

― お取引きしているお客様にはどのような方が多いですか。
OEM事業では、主にミセス層向けの国内ブランドとのお取引きが中心です。Tシャツやブラウス、パンツ、デニムなど多様なニーズが寄せられますが、国内縫製業にはそれぞれ専門分野があり、デニムはデニムだけ、TシャツはTシャツだけと扱うアイテムを限定しているケースが多いんです。
そんな中、私たちはカットソーのTシャツからパーカー、布帛(ふはく)のコートまで幅広いアイテムに対応できる柔軟性が強みです。特に、アパレルOEM企業や生産管理に携われる方が減少している今、ワンストップで依頼できる工場を求めるお客様からは「生産管理が楽になった」「1社でさまざまなアイテムを依頼できる」とご評価いただいています。

― 貴社の競争優位性をお聞かせください。
3つの強みがあります。1つ目は先述のとおり多様なアイテムに対応できる縫製技術と知見。布帛とカットソーの双方に対応し、それらを組み合わせたドッキング仕様、製品洗いや製品染めといった高度な二次加工にも対応可能です。
2つ目は、多能工による少量多品種への対応。自社工場では1枚から数百枚単位までを担える、柔軟な生産体制を構築しています。3つ目は、東京・墨田区という立地。江戸時代から繊維産業が栄える地域であり「すぐに会える」「すぐに対応してもらえる」という距離感が、お客様の安心に繋がっています。
― 縫製業界全体の動向はいかがでしょうか。
縫製業界は現在(2025年7月)、大きく3つの課題を抱えています。まず、市場縮小とともに国内生産比率が年々低下し、2024年には輸入浸透率が98.6%に達しました。つまり、国内自給率はわずか1.4%に留まっています。次に、慢性的な人手不足と高齢化の進行により、労働力確保や技術継承が困難になっています。そして、長年にわたる加工賃の低迷も、業界の持続可能性を脅かす要因となっています。
一方、サステナビリティ志向や、小ロット・短納期対応のニーズの拡大により、国内縫製への再評価も進んでいます。とはいえ、従来の国内回帰だけでは不十分であり、DXによる生産体制の強化や高付加価値製品への特化、さらには業界内の連携強化が今後の持続的発展の鍵になると考えています。
― 2024年に立ち上げたオリジナルアパレルブランド「ICHORA+」にはどのような特徴がありますか?
「一張羅」から名づけたブランド名には「人生の節目や大切な日に着る服」という意味を込め、「+」は機能性という付加価値を表しています。心と身体を整え、前向きに生きる人を支える日常着を提案しています。

主力製品に使用している「curefilo®(キュアフィーロ)」は、イタドリやよもぎ、柿の葉などの植物由来成分を練り込んだ特殊繊維で、抗酸化作用を持ち、肌に優しいのが特長です。一般的な素材と異なって肌ストレスが少なく、ストレス社会において「着るケア」を意識したプロダクトといえます。
Tシャツはインナー、リラックスウェア、睡眠時のケアウェアとしても活用でき、立体縫製や製品洗いによる縮み防止など細部まで設計されています。2025年には大丸東京店「明日見世」にてポップアップも開催し、健康意識の高い層から支持を集めました。

【第2章】薬剤師、総合格闘家を経て、アパレル家業を継承
― 加々村さんは薬剤師としてキャリアをスタートなさったんですね。
はい。大学時代は薬剤師として生きていくと決めていたため、新卒でドラッグストアに就職しました。約1年で新店舗の店長を任され、薬剤師業務に加えて人材採用・教育、売上・在庫管理など店舗運営全体を担いました。医師や薬剤師といった医療従事者は閉じたコミュニティで専門知識を磨くことが多いのですが、現場で新たなスキル・知識を身に付け、雇われて働く気持ちを経験できたことが、現在に繋がる財産になっています。
― 3年間の薬剤師勤務の後、総合格闘技の世界に挑戦したと伺っています。
高校・大学時代はアメリカンフットボールに打ち込んでいましたが、社会人になってからは怪我のリスクを考えて競技から離れていました。それでも身体を動かしたくて空手を始め、そこで格闘技の魅力に目覚めたんです。
当時はPRIDEやK-1が流行っていましたが、私は総合格闘技に惹かれ「本気で挑戦できるのは今しかない」と決意して会社を辞め、格闘技一本に集中。とはいえ、元の職場にパートとして雇っていただきながらトレーニング中心の生活を送っていました。

― 本業を手放してまで挑戦するのは、なかなかできることではありません。
薬剤師の資格がある安心感が大きかったと思います。ちなみに、私はアメフト時代から痛いのは嫌いでしたが、相手にタックルして倒すポジションだったため「負かすこと」は好きでした(笑)。それに、男の子のあるあるで「世界最強を目指したい」という気持ちもあったんですよね。
― 総合格闘家から、ご実家の縫製業に転身したきっかけは何でしょうか。
直接的な理由は怪我でした。医師から「このまま続けると将来歩けなくなるかもしれない」と言われ、格闘技を続けるのは難しいと感じました。薬剤師に戻ろうかと考えた時、ふと家業の縫製工場が頭に浮かんだんです。「この会社、これからどうなるんだろう」と。
ズームは父が創業した会社です。北海道から上京した父は、運送業で働きながら学校に通い、服飾デザイナーとして独立しました。「自分のプロダクトに最後まで責任を持ちたい」「デザイナーの思考はデザイナーにしか分からない」という信念から、自ら縫製工場を立ち上げた。つまり、父は自分の夢を叶えたんです。

一方、私は総合格闘技の夢を途中で断念しました。「父が許してくれるなら、その夢の続きを一緒に追いたい」と、生まれて初めて頭を下げて頼みました。しかし、父からは二つ返事で断られました。当時もアパレル業界が縮小傾向にあり「下りのエスカレーターを駆け上がるようなもの。おまえには薬剤師の免許があるのに、なぜわざわざ苦労するのか。考え直せ」と。
それでも1ヶ月後、再び想いを伝えたところ「1つだけ条件がある。経営は難しいけれど、何があっても死ぬな」という条件で受け入れてくれました。後から母に聞いた話ですが、父は1回目から喜んでいたそうです。
【第3章】学びが趣味。興味を持った全分野で、資格獲得
― 加々村さんは「メンタル心理カウンセラー」や「筋トレインストラクター」など、約10種類もの資格を取得していらっしゃいます。
もともと新たな分野を学んで知識を得ることが好きなんです。資格そのものには関心がないのですが、何かに興味を持ったら、資格取得に向けた勉強を通じて効率的かつ体系的に知識を吸収したい。結果的に数多くの資格を取得しました。

― メンタル心理カウンセラーを学ぼうと思ったのはなぜでしょうか。
家業に入って社員の皆さんに気持ちよく働いてもらうにはどうすればいいかを考える中で、人の気持ちや状況を少しでも理解したかったからです。特にコロナ禍では、毎月訪れていた秋田工場に足を運べなくなり、オンライン会議が中心になった。顔を合わせても思いが伝わりづらいのに、画面越しではさらに難しい。
コロナで自粛期間が続いて皆さんが疲れやすくなっているところ、どのようにモチベーションを高めて前向きに動いてもらうか。心理学を学びながらリアルタイムで試行錯誤した結果、信頼関係が強化され、自ら考えて積極的に動く方が増えました。
― 「整体ボディケアセラピスト」や「全米ヨガアライアンス」などは、どのような経緯で学んだのでしょうか。
筋トレのやり方を見直したかったからです。コロナ禍以前は、何百kgも持ち上げる重量トレーニングをしていましたが、年齢とともに故障のリスクを感じるようになった。そこで、長く続けられる運動としてヨガに着目したんです。心と身体をバランスよく整えながら、健康的に鍛えていける。そんな考えのもとで学び始めました。
― 興味を持った分野を職業に就けるレベルまで学ぶのがすごいですよね。
ありがとうございます。非効率なことが嫌いなんです。例えば、ジムでインストラクターから筋トレを習うなら、自分でインストラクターの資格を取って、自分の知識や新たな収入源にした方がいいじゃないですか。

― 医療、総合格闘技、健康といった知見から「経営者が筋トレすることの重要性」をどのようにお考えですか。
医学的に見ても、筋トレは理にかなっています。適度な運動はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑えて幸福ホルモンであるエンドルフィンやセロトニンの分泌を促進し、精神の安定や思考のポジティブ化に役立ちます。経営というプレッシャーのかかる環境において、タフなメンタルは不可欠ですよね。また、血流も良くなって脳への酸素や栄養の供給が活性化されて集中力や意思決定力も高まる。常に多くの判断を求められる経営者にとって大きな武器になります。
格闘技の観点から言えば、筋トレは自信と自己肯定感を育てます。努力がそのまま成果として返ってくるから。その積み重ねが困難に立ち向かう力になり、引き締まった身体は自己管理能力の高さを示す信頼の証にもなります。
何より、筋トレは経営と全く同じ構造を持っています。自分の強みや弱みを把握し、目標を設定してPDCAを回していく。どこを伸ばすか、どこに投資するか、どうやって継続可能な環境をつくるか。その全てが、経営そのものですよね。
【第4章】「元薬剤師 ✕ 元総合格闘家 ✕ 経営者」の筋トレ
― 加々村さんが筋トレを始めたきっかけは何でしょうか。
大きく2つあります。1つ目は家庭環境です。物心ついた頃には家にダンベルが転がっていて、父も母も運動好き。身体を動かすことが日常の一部でした。
2つ目はアメリカンフットボール。高校、大学と競技を続ける中で筋トレは「やらないと死ぬ」レベルで、身体づくりが成果に直結する世界でした。それに、中高一貫の男子校で、アメフトは高校から先輩が優秀な部員をスカウトしに来るくらい過酷なスポーツ。まだ小柄だった私だけスカウトされずに入ったため、とにかく身体を大きくしなければならなったんです。

― 現在の筋トレメニューをお聞かせください。
「できる日はやる」という柔軟なスタイルで、自宅にある40kgのダンベル2つを使ってトレーニングしています。以前は部位ごとの分割法で行っていましたが、現在は1回のトレーニングで全身を鍛える「全身法」に切り替え、1時間以内で完結。気分次第で有酸素運動もプラスしています。ジムに行かないのは、いちいち着替えるのが面倒だから(笑)。
― 注力していらっしゃる部位をお聞かせください。
肩ですね。筋トレをしている方には共感していただけると思いますが、効かせにくくて難易度が高い部位なんです。肩の前部・中部・後部で筋肉の種類も異なり、特に中部は意識的に狙い、長期的に鍛えないと育たない。その分、育ってきた時の喜びは格別です。
― 筋トレのビフォーアフターを教えてください。
メンタルがスッキリします。そして自己肯定感が爆上がりします。「こんな時間にこんなことをやっているヤツ、いねえだろ」と。ダンベル40kg ✕ 40kgを持っている時は他のことを考えられないので集中が高まり「今、ここにいる」という感覚になるんです。副産物として、実年齢より若く見られることが多いですね。
― 「今日は筋トレしたくない」と思う日はありますか?
もちろん、ありますよ。人間ですから。でも「今日は歯磨きしたくないから、やらない」ということはありませんよね。筋トレも、それくらい生活に根付いたルーティンになっています。
― お好きなプロテインは何でしょうか。
「レイズ」のホエイプロテインを飲んでいます。味が良く、ビタミンもバランスよく配合されているのが決め手。プロテインを摂る際は、特にビタミンB群を一緒に摂るのがおすすめです。B群はタンパク質の代謝を助け、筋肉の修復や成長に不可欠。また、ビタミンCやDも免疫機能や骨の健康に寄与し、トレーニングの効果を最大化してくれます。
― トレーニング中におすすめのウェアはありますか?
やっぱり弊社のICHORA+です。素材にはストレス軽減効果が期待できるcurefilo®を使用。快適さを追求した設計で、トレーニング中も集中力を保てます。ストレスを感じるとコルチゾールが分泌されて筋肉を分解してしまう。だからこそ、快適なウェア選びはトレーニングの効率にも影響します。

― 健康習慣で気をつけていることがあったらお聞かせください。
食事ではPFC(タンパク質・脂質・炭水化物)のバランスを意識しています。筋トレの効率を落とさないためにも、適切な糖質は必要不可欠。脂質は控えるようにしていますが、昔ほどストイックではなくなりました。から揚げが好きなので、たまに楽しんで食べています(笑)。
ちなみに、糖質抜きダイエットは、本当におすすめしません。炭水化物を抜くことは、グリコーゲンから水を抜くこと。当然ながら身体から水分が抜けて体重は減ります。しかし、炭水化物を摂ってインスリンを放出させないとタンパク質は回らない。つまり、体重は減りますが、筋肉もしぼんでしまう。糖質を摂って体内でタンパク質を回しましょう。
睡眠は8時間、最低でも6時間は確保しています。質の良い睡眠は、体調やトレーニングパフォーマンスにも直結するので大切にしています。
【第5章】市場縮小でも生き抜く。OEMと自社ブランドの二軸
― 今後、どのような社会的課題やユーザーの課題を解決したいですか。
国内の繊維産業は長年厳しい状況が続いていますが、まだ大きな可能性があると信じています。ただし、その答えは過去の延長線上にはありません。従来の常識や枠組みにとらわれず、新しいチャレンジを続けていくことが必要です。それができるのは、まさにこの瞬間かもしれません。
私たちは、日本の服づくりの可能性をもっと広げていきたい。また、国内縫製工場として「つくる現場」を守り抜くことが責務だとも考えています。自分たちの姿を通じて、全国で頑張っている縫製工場の皆さんにも「自分たちにもまだできる」と希望を届けられたら嬉しいですね。今後はOEMとICHORA+を両輪で回しながら、多様なお客様とものづくりを育てていきます。

― 個人的にも、日本製アパレルのクオリティの高さをもっと世の中に広めたいと感じます。
そうですね。まずは「日本製という選択肢がある」ということを、知っていただくことが大切です。その上で日本のものづくりの背景や文化、ストーリーに共感していただけたら嬉しいです。
日本製の服はクオリティが高く、職人たちの技術力も非常に優れています。にもかかわらず、現在の国内自給率は1.4%。これはもったいない状況ですよね。私は服飾専門学校で登壇させていただく機会では、学生の皆さんに「何かをしてほしい」と強制せず「現実を知ろう」と伝えています。
多くの方が「日本製を買いたい」「サステナブルに生きたい」と思っている反面、「値段には勝てない」というのが本音。実際にアンケートを取っても、日本全体が経済的に苦しい状況にあることを理由に「余裕がない」という声が多く寄せられています。だからこそ「知ること」「考えること」が、最初の一歩になると信じています。

― 最後に、忙しい経営者やビジネスパーソンが日常で取り入れやすい健康習慣があれば教えてください。
よく言われることですが「健康は全ての土台」だと考えています。身体は日々口にするものでつくられているため、食事を整えることが重要です。また、運動は何でも構いませんが、筋トレは取り組みやすく、加齢による筋肉量の低下(サルコペニア)予防にも効果的で、結果として健康寿命を延ばすことにも繋がります。
もちろん、良質な睡眠も欠かせません。可能であれば瞑想も取り入れてみてください。心が整い、頭の中がスッキリとクリアになるはずです。大切なのは「どうすれば自分のパフォーマンスが上がるか」という視点を持ち続けること。意識が変わると、自然と日々の行動も変わっていくはずです。
― 加々村さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。
【エピローグ】
加々村:ここ墨田区の南エリアは江戸時代からメリヤス産業がさかんで、現在もアパレル製品生産を生業とする会社が多いです。士農工商が明治維新後の1869年に廃止され、武士たちは刀を取り上げられて働き口がありませんでした。途方に暮れながら靴下や刀の鞘(さや)を内職で編み始めたことがきっかけですね。明治時代以降、西洋の装いが取り入れられるようになって手袋や靴下などの需要が急増し、このエリアにメリヤス工場が次々と建設されました。ちなみに「メリヤス」は漢字で「莫大小」と書きます。
佐野:そうなんですね。墨田区は「ものづくりのまち」として発展していますが、アパレルも地場産業の一つだったんですね。初めて知りました。

(企画・取材・執筆:佐野 桃木 写真:株式会社ズーム 最高顧問:Z)
● プロフィールはこちら「株式会社ズーム代表取締役 加々村征さん 」
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