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【東大発AIスタートアップ】3D ✕ AIで再構築された産業現場オペレーション

3Dデータは可視化や設計に役立つとされながら長年の間、現場では扱いづらく浸透していなかった。そんな産業界のラストワンマイルを東京大学発のAIスタートアップ「bestat」が変えようとしています。特許取得済の3D画像処理アルゴリズムを武器に、3Dデータの取得から生成・活用までをEnd to Endで支援。代表取締役/CEOの松田尚子さんに3DとAIが融合する現場の未来、その挑戦の裏側を伺いました。


【第1章】誰もが3Dを使える世界を目指す

― 事業概要について教えてください。

bestat株式会社は2018年に創業された東京大学工学系研究科 松尾研究室発のAIスタートアップです。コア技術として特許取得済みの3D画像処理アルゴリズムを持ち、2D図面やスキャン・動画データから3Dデータを自動生成し、それをクラウド上で管理、共有、活用できるプラットフォーム「3D.Core」や「3D.Core for CAD」を産業用途向けに提供しています。

私たちはAIとクラウド技術により、製造業やインフラ、土木・建設業といった現場での3Dデータ利活用を包括的に支援しています。特に、これまで高額な設備や多大な工数を要していた3D化の工程を低コスト・短納期で実現。3D画像処理アルゴリズムを搭載した「3D.Core」は3Dデータの取得から生成・活用までをEnd to Endで支援し、クラウド上での利活用も一元化。「誰もが3Dを使える世界」を目指しています。

ロボットやドローンによる撮影の自動化を見据えたBPOサービスや、2D図面の3D CAD化、3Dデータ構造の意味理解など、現場データの高度活用を支えるソリューションも展開しています。

― リアルとデジタルを繋げたいと考える背景を教えてください。

実は長年、さまざまな産業現場で3Dデータが使われてきましたが「取り扱いが難しく不便に感じていた」とヒアリングを通して知りました。例えば「週末、専用の高スペックPCを駆使しながらデータを生成して月曜日に間に合わせた」と。せっかくポテンシャルのあるデータなのに使いづらくて敬遠されているのはもったいないですよね。

― 技術進化の著しい中、なぜ3Dデータの利用は停滞していたのでしょうか。

最大の要因はハードウェアの制約です。PC上で計算性能が不足し、3Dデータを生成して表示するだけでも時間がかかりました。大容量データを扱う環境も整っておらず「PCが止まる」「閲覧だけで精いっぱい」という声も多かった。現在(2025年11月)はクラウドとAIの組み合わせによって生成や処理、閲覧を軽快に行えるようになりました。bestatはこの技術変化を追い風に「現場で使える3D活用プラットフォーム」を構築するためのアルゴリズムやAIエージェントの開発に注力しています。

【第2章】AIエージェントでE2E運用を実現

― 私が2024年に取材した際は3Dデータの自動生成、一元管理、二次活用を可能にするプラットフォーム「3D.ai」を開発していらっしゃいました。たった1年でEnd to Endの運用が可能になったのですね。

世の中の技術進化もありますが、原動力になったのはやはりお客様からのリクエストです。多くの方が「全プロセスを一体化して使いやすくしてほしい」「AIが全てを担ってほしい」と望んでいました。AIで3Dデータを自動生成できても、管理や二次活用で人手が必要になるのは「自動化」とは言えません。

― どのような点が進化したのでしょうか。

SaaSといえば「同じ機能を多数のユーザーが使うワンパッケージ型」でしたが、AIエージェントの登場でこの前提が変わりました。各企業の業務内容や設計フローに合わせ、AIが自ら機能を選択・連携して個別最適化された運用を構築できるようになった。「3D.Core」もその思想に基づき、それぞれのお客様の実務にフィットするプロセスを設計しています。

先月リリースされた「3D.Core for CAD」は、2D設計図や紙図面を手間なく3D CAD化する新機能を持っています。多くの企業では完成後の製品イメージを共有する際、2D情報だけでは誤解や手戻りが生じていました。for CADを使うと、お客様がDWGやDXFなどの2D CADデータから3D CADデータを自動生成して正確な製品イメージを伝えるようになり、関係者間のコミュニケーションも円滑になります。

導入企業からは「3Dでこんなことができたらと思っていたが、ようやく来たか」「運用負荷が劇的に減った」というお声を頂いています。3Dデータの自動生成技術は数年前に学術的な進歩がありましたが、「3D.Core」はその研究成果を実務レベルに落とし込み、現場で使える精度とスピードを確立しました。

― 産業用3Dデータ業界では、どのような変化が起きていますか。

インフラ・製造領域を中心に国土交通省が主導するBIM(Building Information Modeling)/ CIM(Civil Information Modeling)やデジタルツインの普及が進んでいます。センサー性能やスキャン精度の向上を背景に、建設・インフラ企業だけでなく自動車産業などの製造業も3Dデータを基盤とした設計・保守体制を整えています。

ヨーロッパではすでにデジタルツインの商用運用が広がっていますね。GPUメーカーのNVIDIAなどが3D生成やシミュレーション基盤をリードし、業界全体を牽引しています。

― 3DデータやBIM / CIMの利活用を広げる上で、どのような課題がありますか。

データ構造や運用ルールの非統一性です。BIM / CIMのデータ形式ひとつを取っても、設計や施工、保守の各担当者でフォーマットや運用ルールが異なります。全員が同じ3Dデータを共有できれば設計変更や手戻りを防げますが、現実にはそれぞれのプロセスで自己流に書き換えてしまうため、データの継続利用が難しいんです。この「断絶コスト」をなくすことが重要。3Dデータを全工程で共有することで、部署や専門領域を超えたコラボレーションが生まれています。

実際に、製造ラインの保守担当者が「この配置では不良率が上がる」と、設計側に改善提案を行う横断的な対話が実現し始めています。共通データ基盤があることで、同じ状況を同じ視点で理解できる組織へと変わる。このような企業はまだ一部ですが、確実に増えています。

【第3章】3Dデータの価値は「自律化の基盤」

― 生成AIの進化が加速する中、3Dデータプラットフォームの役割はどのように変化していくとお考えですか。

生成AIの普及により、3Dデータの価値は「可視化」から「自律走行の基盤」へと変化しています。bestatではデジタルツインを活用して現場の構造や設備をリアルタイムに再現・最適化できる環境づくりを進めています。最終的にはロボットやドローンが自発的に動く社会インフラを支える存在になりたいと考えています。

― 現在、どのようなテーマや領域に注力していらっしゃいますか。

3Dデータの取得から生成、活用までを容易にし、リアルな空間の自動化を実現するための基盤整備です。AI活用はこれまでホワイトカラーの業務に偏っていましたが、製造や建設、物流といったフィールド領域にはまだ広がっていません。bestatはその未開拓ゾーンに焦点を当てて現場での価値創出を目指します。

具体的な現場導入として考えているのは工場です。デジタルツインで生産ラインを3Dで再現し、ロボットが自動で点検・交換を行う。部品の劣化やワークの滞留を検知するとAIが自動で発注やライン調整を行う。完全自動運転にはロボット技術の成熟が必要ですが、撮影から解析、最適化、実行までをAIが担う工場運用はすでに実装フェーズに入っています。

― 今後の展望を教えてください。

3Dデータの処理を「使う人の手を離す方向」へ進化させていきます。先述のとおり、産業の現場における3Dデータはロボットやドローンの自律走行に欠かせません。そのロボットとAIが現場に浸透することでリアルの作業を完全自動化し、人間は構想や設計、評価といった創造的な工程に集中できます。私たちはそのための足場をつくります。

【第4章】3D学習でロボットに個性が生まれる

― ロボットの「身体知」について教えてください。

現在、たいていのロボットはプログラムで動いています。例えば、この部屋にロボットがいたとして「冷蔵庫から水を持ってきてゲストに渡してください」と指示する場合、「基準点からnメートル先に冷蔵庫があり、高さnセンチの位置に取っ手がある」といった座標や寸法をあらかじめ数値で入力する必要があります。「ここに置いてください」と命令するまでに、膨大なパラメータを与えなければならない。

弊社が自律走行ロボットのソフトウェアを開発していた頃、夜間に物流倉庫に通って想定どおりに動くのかを検証したことがありますが、現場で安定稼働させるには最大1ヶ月かかる。どんなに綿密にプログラミングしてもロボットは動くうちに位置を見失って軌道がずれてしまうからです。自律型ロボットの開発には想像以上にプログラミングコストがかかります。

しかし、高精度の3Dデータを生成できるようになれば状況は一変します。ロボットは3D空間を見て冷蔵庫やテーブル、水の位置やサイズを自ら認識して動けるようになり「冷蔵庫から水を取ってテーブルに置いて」と言うだけで動作が完了する。これは単なる効率化ではなく、ロボットが世界を理解する根本的な進化を意味します。

自動走行、つまり自律的な動きの実験段階はすでに達成していますが、いかに高速かつ大量に3Dデータを生成できるかが課題。3Dの学習が進めばロボットは自分の経験を通して「知能」や「個性」を形成していくようになります。人間の赤ちゃんがハイハイを始めると認知能力が育つように、ロボットも移動することで世界を学び始めます。物流倉庫で動くロボットは「棚が多い世界」を、オフィスで働く掃除ロボットは「真っ白で整った世界」を学んで個性が生まれるんです。

― 異なる環境で活動しているロボット同士では、どのような関係が生まれるのでしょうか。

ロボット同士にもカルチャーギャップが生まれるかもしれません。倉庫で育ったロボットとオフィスで育ったロボットでは、同じ命令を受けても解釈が違うかもしれない。想定どおりに動くのではなく、自ら試行錯誤して転んだりぶつかったりしながら学ぶ過程がAIに身体知を宿します。

ChatGPTのように言語空間で動くAIが「言語脳」だとすれば、身体知は「身体脳」。そして身体脳のほうがはるかに大きく複雑です。身体を通して学ぶ知能は、最終的に感情の芽生えへと繋がっていく。私は3Dデータの精度を上げることは、AIに感情を与える行為でもあると考えています。

【第5章】「忙しく働く人たち」に憧れた学生時代

― ここからは松田さんについて伺います。松田さんは東大を卒業後、経済産業省に入省なさいます。

経産省には約10年間在籍し、イノベーションや通商交渉の政策立案に携わっていました。法律や税制、条約づくりにも関わりましたね。私は大学時代「変化が大きいところにいると成長する」とゼミの先生から教わったんですよね。そもそも田舎出身の私は昔から「変化のない田舎にいたら、世の中から取り残されてしまう」と都心で働く忙しそうな人たちに憧れていました。

新聞やテレビを見ると、みんな忙しそう。特に現場を駆け回る記者に惹かれて最初はマスコミを志望していました。ゼミの先生に相談すると「そのマスコミに追いかけられる仕事があるよ」と(笑)。それが霞が関でした。

― 当時から起業をお考えだったのでしょうか。

どちらかというと「どの分野で最も社会の役に立てられるか」と考えていました。経産省在職中に海外留学した際、世界的にコーディングやデータサイエンスが注目され始めたタイミングだったので、私も関心を持つようになりました。母校・東京大学の松尾研究室で博士号を取得した頃、政策にデータサイエンスを応用しようと考えていましたが、さまざまな企業との共同研究を通じて「研究を実装してこそ社会を変えられる」と実感してbestatを設立しました。

― 社会的安定や影響力のある立場から独立する決断は、簡単ではなかったと思います。

確かに肩書きで驚かれることはあります。でも、肩書きって「蛇の抜け殻」のようなもの。もちろん、経産省でスキルや知識を得られたし、研究室で何万もの研究論文を読んで学びました。それさえあれば、これからも何も迷いませんね。

― どのような起業家でありたいとお考えですか。

世の中には新しいAIが続々と登場していますよね。それに負けず、少しでも新しいアルゴリズムやAIを社会に出すことで、人間ができることを1つでも増やしたいです。

― AIによって人間の能力が均一化していくと言われる中、どのような時代が来るとお考えですか。

一般論として人間は美しいものやエモいものに渇望感を抱くのではないでしょうか。例えば、生成AI「Sora」が生み出す動画は面白いですが、インスタに頻繁に登場するようになると新鮮さがなくなるし「Soraが作っている」と分かるから感情が抑制されてしまうかもしれません。マルチモーダルになってAIが感動を誘うコンテンツを人間にアプローチするほど、ヒューマンタッチな会話や関係が求められるはず。ChatGPTが書いていないラブレターとか、欲しくないですか(笑)?

― 最後に、貴社の採用情報を教えてください。

現在は積極的に採用しています。ビジネスサイドでは営業や採用人事、開発サイドではAIエージェントを開発するソフトウェアエンジニアです。変化の大きい市場で成長したい方、業務にコミットメントができる方、AIという未知の領域に飛び込みたい方にエントリーしていただけたら嬉しいですね。

― 松田さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。

(企画・取材・執筆:佐野 桃木 写真提供:bestat 最高顧問:Z)

● プロフィール「bestat株式会社代表取締役/CEO 松田尚子さん

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