ゲゲゲ、の民族誌

水木しげるさんの展覧会に行ってきました。
百鬼夜行展。原画や資料などが紹介されていて漫画そのもののファンの方も、制作過程や歴史に興味を持たれている方にも楽しめると思います。
まず原画に見入ってしまいました。
部屋の隅のクモの巣、柱から下がっている縄、障子の傷み具合、何気ない背景なのに絵画のように美しい筆致や陰影、構成など…。
針みたいに細い物でもちゃんと立体感があるって凄い…。
しかも片腕だけで描いてしまえるって…。
水木さん自身が収集した江戸時代から明治時代頃の妖怪本もありました。
「民俗誌」という言葉ですがもともとは文化人類学や民俗学で使われるそうです。ある土地の人々が、どんなふうに生き、何を恐れ、何を信じ、どんな感覚で世界を見ていたかを記録することを指すのだとか。
夜道をなぜ怖がったのか
山や海にどんな気配を感じたのか
病気や死をどう理解したのか
理不尽な出来事を何に結びつけたのか
水木さんは、妖怪を通じて当時の人の気持ちを汲み取ろうとしていたようです。
水木作品の妖怪は、恐ろしいだけの存在ではなくて
高度経済成長で消える田舎
人間関係の不気味さ
貧困
戦争体験
自然への畏れ
形容しがたい孤独
のようなものを背負って現れるのだと思います。
つまり彼は、日本人がどんな不安や気配の中で生きてきたかを、妖怪という形で描いていた。
しかも客観的に記録するのにとどまらず、水木さんはそこに強烈な当事者意識がある。戦争も極貧も経験し、自分自身が「この世との境界」を見た感覚を持っていたためあれほど説得力のある作品が描けたのではないでしょうか。
百鬼夜行展、水木さんの作品への姿勢と、心の温かさにも触れることができた場所でした。
◆本/文学/展覧会から考えたこと
・花たちばなの香りは昔の記憶
・小さなグラスの中の広い世界|カフェ
