#21_上下水道の課題解決に向けた分散型インフラ導入の可能性(下水道編)
前回は、人口減少と地域構造の変化を前提に、水道の分散化について整理した。今回はそのもう一方、下水道、つまり「排水処理」を担うインフラの分散化に焦点を当てたい。上水道が「届ける仕組み」だとすれば、下水道は「還す仕組み」。この「出口側」のデザインをどう変えていくか。そこに、限られた財源をどう賢く使うか、すなわち wise spending の本質があると思う。人口減少・インフラの老朽化・人手不足が進む中で、既存の大規模な集約型システムをそのまま更新するのか、それとも小規模な分散型システムを上手く導入し全体最適化へと再設計するのか。下水道の分散化は、その分岐点にあるテーマとなる。
1.分散化の必要性
いま、下水道分野でも「分散化」の必要性が高まっている。背景にあるのは、国主導による集約型下水道の整備が令和8年度末に概成を迎える中で、これまで分散化検討の主な対象となっていた未普及区域だけでなく、既整備区域の下水道をどう更新していくかという課題が顕在化している点である
そもそも下水道は、過去の記事でも触れたように、都市部では広域的な管路網を持つ集約型システムが中心である一方、農村部では農業集落排水施設や合併処理浄化槽といった分散型システムが地域単位で整備されてきた。
つまり、もともと「集約」と「分散」が共存する構造を持っていたが、人口減少の進行と、都市部における下水道整備が終盤を迎える中で、そのバランスを改めて見直すタイミングにきている。
水道と同様に、人口密集地域では大規模な集約型下水道の方が、利用者あたりの建設費と維持管理費を合わせたLCC(Life Cycle Cost)が低く抑えられる。国交省の資料でも、集約型・分散型それぞれの経済性を比較した図が示されている。

一方で、人口が減少し、利用密度が低下していく地域では、この経済性の前提が崩れつつある。施設の老朽化、人手不足、財政制約が重なる中で、これまでの延長線上で更新を続けることは、もはや現実的ではない。
そうはいっても、過去の設計思想の慣性は強く残っている。実際、下水道処理人口1人あたりの汚水管路延長を平成25年度と令和5年度で比較すると、すべての処理人口区分で増加しており、特に人口の少ない地域でその傾向が顕著。本来であれば分散型を取り入れるべき地域にまで、集約型システムが「浸食」してしまっていることが、データ上も明らかになっている。

今、各下水道事業体は、「これからの地域の下水道をどうやってあるべき姿に再設計するか」という問いに直面している。それは単なる施設更新ではなく、「限られた財源をどう賢く使うか(wise spending)」という視点から、地域ごとの最適解を描く段階に入っているということだ。
2.分散型の種類
下水道における分散型の形態は、水道の「小規模水道施設」と同じように、小規模な集合処理システムと浄化槽による個別処理システムの二択に整理できる。下水道分野では「集約型/分散型」というよりも、「集合処理/個別処理」という言葉で語られることが多く、個別処理=浄化槽という構図が一般的である。以下の図に示されているように、今後はこの二つの選択肢を、既整備区域と未整備区域の双方にどう適切に導入していくかが重要な検討課題となっている。

実際に、集合処理から個別処理(=浄化槽)への切り替えをwise spendingの観点から実行した事例も出てきている。たとえば静岡県南伊豆町では、漁業集落排水施設の維持管理費と浄化槽への転換後の費用を比較し、浄化槽への切り替えを決断。平成30年度に転換を開始し、令和5年度に完了している。
さらに同町では、公共下水道についても人口減少や施設老朽化に伴う維持管理費・改築更新費の増加が想定されることから、整備済み区域における浄化槽への転換に向けた検討を進めている。

資料を見る限り、町内調整や住民調整など、現場では相当な苦労があったと推測される。これまでの設計思想を変えるというのは、想像以上に大きなエネルギーを要する。そうした中で、この転換を実現した南伊豆町の職員の努力には、すごいな、、と思わされる。
3.今後の課題
今後の課題は、挙げればきりがない。国土交通省の資料でも、以下の図のように多岐にわたる論点が整理されている。

正直、これだけ課題が並べば、「面倒くさい」と感じるのが普通だと思う。
現場では職員数が限られる中で事務仕事が増え続けており、しかも「減点主義」の文化の中で新しい検討に手を出すのはリスクが高い。分散化の検討に着手するよりも、「目の前のことで精一杯です」と言っていた方が平穏な日常を保てる。
さらに厄介なのは、支援してくれるはずの民間企業側にも、計画・設計を総合的に検討できる人材が不足していることだ。結果として、「できない理由」を揃える方がずっと簡単な構造になっている。
おわりに
前回も書いたが、上下水道は長い間、「集中」と「効率」を軸に設計されてきた。しかし、下水道には当初から、浄化槽という分散型インフラが存在していた。水道と比べれば、むしろ分散化を導入しやすい構造を持っている。集約型の普及は、高度経済成長期の日本を支える合理的な思想だった。だが、その一巡を経た今こそ、これからの地域にとって最適なインフラの姿を問い直すタイミングにきていると思う。
結局のところ、鍵になるのは「誰が、いつ、この絵を描くのか」という時間と人の問題。制度や技術よりも、この問いに向き合える人がいるかどうか。そこにすべてがかかっているのではないかと思う。
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