#15_人手不足の実像とウォーターPPP

八潮市の道路陥没事故をきっかけに、国交省は全国規模の重点調査を実施し、その結果が公表された。メディア報道では「今後は人手不足が最大の課題」といった論調が目立っている。確かに「人手不足」という言葉はキャッチーで分かりやすいが、それだけでは実態を見誤る危険がある。前回の記事では調査現場で必要とされる人員を整理したが、今回はさらに一歩踏み込み、人手不足の本質と国が打ち出している解決策について考えてみたい。


人手不足は一律ではない

「人手不足」というと全国一律の問題のように聞こえるが、実際にはそう単純ではない。地域によっても、また工程によっても、足りているところと足りていないところがある。点検や工事が順調に回っている事業体もあれば、逆に人材が不足して発注すら困難になっているケースもある。地域によって違うというのは過去の記事でも書いている。インフラの構築時期は大都市・中小市町村で大きく異なり、極論すれば「下水道管は新設したばかりで、民間に仕事はありません」という地域すらある。

ただ、その中でも共通して深刻だと感じるのは「計画・設計」の領域。インフラ事業は設計を誤れば事故や巨額のコストに直結する。本来は設計者や作られたインフラの維持管理を担う者を発注者である自治体が統括し「計画・設計」をコントロールすべきだが、自治体にその能力・余力があるようには見えない。大きな要因の一つは土木技術系職員が少なくなってしまっていることにある。中小自治体では、インフラ維持管理期を経験した多くの職員が引退し、少数の知見を持つ職員で事後保全的になんとか回しているというのが現実だと思う。技術継承の問題がよく取り上げられるが、もはや「継承すべき技術そのものが残っていない」という状況に入っているのではないかと思う。

「計画・設計」を統括する機能の空洞化

自治体の技術職が減った結果、本来であれば発注者として自治体が担うべき「計画・設計の統括機能」が空洞化している。現状では、限られた時間と知見しか持たない自治体職員と、その事業体を支える上下水道コンサルタントが事実上の担い手になっている。しかしコンサル側も、災害対応や新しいガイドラインへの対応に追われ、十分なリソースを割けないのが実態だ。ガバナンス強化の流れもあり、以前のように無制限に時間を投下することも難しくなっている。

こうした背景の中で、「計画・設計」を統括する機能そのものが不十分なまま更新工事が場当たり的に進められているケースが出てきている。澤田雅之氏が紹介している茨城県常陸太田市の事例は、その典型例といえる。参考になるのでぜひ多くの方に見てもらいたい。

本来あるべき姿は、この統括機能を担う人材が地域の上下水道の将来像を描き、設計を主導し、工事や維持管理をマネジメントすることだ。しかし現実にはそうした人材は枯渇しており、コンサルタントも限界に達しつつある。結果として「まだ更新需要のピークに至っていない」ことに救われているだけで、問題は先送りされているにすぎない。形式的な処分やポーズでは現場のモチベーションは下がる一方であり、トップが構造的な問題を直視し、実効的な解決策を提示することが不可欠だ。

統括機能をどう補うか

では、この「計画・設計を統括する機能の空洞化」をどう補うのか。ここが今の上下水道分野の最大の論点だと思う。本来なら自治体の中に経営感覚を持つ技術職がいて、設計者や維持管理会社を統括し、現場のキャパシティに合った計画を立案しメンテナンスし続けていくというのがあるべきだが、すでにその人材は枯渇している。暫定的にコンサルタントがブレーン役を担ってきたが、これも限界に達しつつある。

となれば、発注者側がまずすべきは「要求水準」と「請負契約書」をしっかり設計し、できる人・組織に適切に任せる仕組みを整えることだと思う。柏市の包括委託のように更新工事まで含めた発注方式は、その一つの参考例になる。インフラの青写真を描き、それを要求水準書・請負契約書に落とし込み、自治体が担いきれない部分を民間に委ねることで、職員は本来注力すべき業務に集中できる。その結果、統括機能は回復し、事業の安定性も高まる。

国の対応:ウォーターPPP

こうした「計画・設計を統括する機能の空洞化」に正面から挑む施策になりえるのが、国交省が推進するウォーターPPP。これはもともと内閣府のPPP/PFI推進アクションプランの一環だが、国交省は特に上下水道分野に焦点を当て、維持管理と更新を長期的に民間へ委ねる仕組みとして明確な導入目標(令和4~13年度)を掲げている。

出典:令和6年度 全国水道主管課長会議 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/content/001741376.pdf

10年単位の包括契約でインフラのオペレーションを民間に委ねるということは、上下水道事業体が将来像を描かざるを得ないということを意味する。長期的なまちづくりの方向性を視野に、上下水道のあるべき姿を構想し、その間に守るべき要件を整理し、責任分界点を明確にしたうえで委託先を決める必要がある。設計・工事・オペレーションを一体的に委ねられるからこそ、これまで「できないことを何とかしながら走ってきた」事業体も、限られたリソースをコントロール可能な範囲に収める可能性を見出すことができる。その結果、上下水道事業はより安定的に運営できるようになる。

ただし、この「長期的な青写真」を描くことが何より難しい。かつては自治体の内部に長期的な視点を持つ技術者がいて、それが可能だったかもしれない。しかし今や、その能力は自治体の一部の職員・コンサルタント・民間企業に分散されており、理想的な青写真を簡単に描ける状況ではない。業界関係者なら「このままではいずれ突き当たる」と薄々感じていた問題だが、長年先送りされてきた。その結果、いまや国が強制的にスイッチを押したというのが現状だ。

さらに重要なのは、このウォーターPPPが補助要件にも組み込まれた点だ。管路改築などの大規模投資を進めるには、ウォーターPPPを回避することが難しい状況になっている。導入可能性調査は全国に広がりつつあり、事業体も否応なく「どう制度を現実的に運用するか」を考えざるを得ないフェーズに入っている。

おわりに

「人手不足」という言葉の背後には、「計画・設計を統括する機能の空洞化」という根源的な問題がある。これを放置すれば、場当たり的な更新が繰り返され、事故やコスト増に直結しかねない。ウォーターPPPはその問題を解決する一つの道であり、すでに避けられない流れになっている。

日本人は危機を察しても、その解決に本腰を入れるのが遅れる国民性がある。しかし、国が補助要件という形で強く背中を押したことで、もはや現場も仕組みを進化させざるを得ない状況に直面している。これは業界にとって試練であると同時に、大きなチャンスでもある。課題を先送りするのではなく、統括機能の再構築に挑戦し、上下水道インフラを持続可能なものにしていくべきだと思う。

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