満席はゴールではない
24席に込める責任と、五代目がこれ以上増席しない理由
講座が満席になった。
商売をしている人間なら、本来は手放しで喜ぶべきことかもしれない。
実際、私もうれしい。
中国茶・台湾茶プロ養成集中講座に続き、8月2日楽茶塾【地図と風味輪で旅する「風味を言語化」茶ソムリエ体験】、9月27日の楽茶塾【蜜香の秘密と熟成の科学】も、午前の回が満席になった。
そこで午後14時30分からの追加開催を決めたところ、その追加回も、募集開始からわずか数日で満席になった。
今もキャンセル待ちをしてくださっている方がいる。
これほどありがたいことはない。
しかし、満席という言葉を目にするたび、うれしさと同時に、申し訳なさも感じている。
「もう一回、追加できませんか」
「定員を増やせませんか」
「別の日にも開催できませんか」
そうしたご希望に、すべて応えることができないからだ。
喜びながら、怖さも感じている
今年の2月、3月頃から、私はようやく講座活動を本格的に再開した。
父の介護を続けていたこの二、三年、講座や執筆、資料整理など、思うように進められないことがたくさんあった。
活動を再開したとき、以前のように皆さまが来てくださるかどうか、正直なところ、自信はなかった。
時代も変わった。
中国茶や台湾茶を学ぶ講座も増え、インターネット上には多くの情報があふれている。
長い間活動を縮小していた私の講座を、もう一度選んでいただけるのだろうか。
そんな不安を抱えながらの再出発だった。
だからこそ、プロ養成集中講座が満席になり、楽茶塾の午前・午後がともに満席になったことは、本当にうれしかった。
それと同時に、少し受け止めきれないほどの期待も感じている。
喜びと、責任。
ありがたさと、怖さ。
今は、その両方を抱えている。
なぜ、24人以上にしないのか
大きな会場を借りれば、もっと多くの人を入れられるかもしれない。
椅子を増やし、スクリーンを大きくし、前で講師が話せば、50人でも100人でも講義はできる。
しかし、楽茶塾は、講師の話を聞くだけの講座ではない。
茶葉を見る。
香りを確かめる。
湯を注いだ後の変化を観察する。
一煎目と二煎目の違いを感じる。
品種、産地、製法、発酵、焙煎、熟成が、どのように香味へ表れるかを、自分の舌と鼻で確認する。
複数の茶を同じ条件で飲み比べるためには、茶葉の量、湯温、抽出時間、茶器、配茶の順番まで考えなければならない。
茶は、後方の席へ運ぶ間にも変化する。
香りは弱まり、温度は下がり、味の印象も変わる。
人数が増えれば増えるほど、すべての参加者に同じ状態の茶を届けることは難しくなる。
だから、現在の会場と運営方法では、24人前後が最大だと考えている。
これは、会場の座席数だけで決めているのではない。
「一人ひとりに、茶をきちんと届けられる人数」という意味での上限である。
売上ではなく、茶の品質を基準にする
講座の人数を増やせば、売上は増える。
追加開催を増やせば、より多くの方に参加していただける。
それでも私は、今の自分の体力、準備時間、移動、執筆、資料整理などを考え、これ以上無理に増やさないことにした。
現在、私は日本と台湾を往復している。
講座の前には、茶葉を選び、状態を確認し、組み合わせを考え、資料をつくり、必要な道具を準備する。
講座が終われば、写真や記録を整理し、次の教材や記事へつなげる。
一つの講座は、当日の二時間だけでできているのではない。
何年も前に集めた資料、産地で聞いた話、製茶現場で見たこと、何度も飲み直した茶、そして講座前後の長い準備によって成り立っている。
開催数を増やしすぎれば、いずれ準備が追いつかなくなる。
準備が浅くなれば、講座の内容も薄くなる。
茶葉の品質を妥協すれば、飲み比べの意味も失われる。
私は、満席を増やすために、楽茶塾の質を下げたくない。
たくさん開催することよりも、一回の講座で何を持ち帰っていただけるかを大切にしたい。
対面でしかできないこと、オンラインだからできること
もちろん、対面講座に参加できない方に「席がないので仕方ありません」と言うだけでは、十分ではない。
そこで今後も、対面の楽茶塾とは別に、WEBライブ形式の「茶旅」と「茶文化講座」を、おおむね二か月に一度のペースで開催していく。
対面講座の強みは、同じ空間で同じ茶を飲み、香りや味について、その場で言葉を交わせることだ。
一方、オンライン講座には、写真、映像、地図、歴史資料などを使いながら、一つの産地や文化を深く掘り下げられる強みがある。
台湾の茶山へ行く。
古い茶工場を見る。
茶師の仕事を知る。
茶器の背景にある地域文化を学ぶ。
歴史の中で、茶がどのように人と人を結んできたかを考える。
こうした内容は、映像や資料を大きく映しながら解説するオンライン形式と、とても相性がよい。
対面講座をそのままオンラインへ移すのではない。
オンラインだからこそできる学びをつくる。
今後は、この二つを分けながら、それぞれの良さを育てていきたいと思っている。
2026年の楽茶塾は、11月で一区切り
9月27日の楽茶塾は、午前・午後ともに満席となった。
これ以上の追加開催は行わない予定である。
キャンセル待ちをしてくださっている皆さまには、本当に申し訳なく思っている。
次の楽茶塾は、11月頃を考えている。
ただし、テーマも募集開始日も、まだ決めていない。
テーマが思いついたから、すぐに講座を開くのではない。
使う茶がそろい、資料が整い、「今ならこのテーマを責任を持って伝えられる」と思えたときに、初めて発表したい。
11月の楽茶塾をもって、今年の対面講座はいったん一区切りとなる予定だ。
発表まで、少しお待ちいただきたい。
席数は今回と同じく限られるため、ご興味のある方には、華泰茶荘のウェブサイトやブログ、メールマガジンを時々確認していただければと思う。
整理できなかった資料が、次の講座を呼んでいる
父の介護をしていた期間、私は多くの資料を箱や棚にしまったままにしていた。
古い写真、講義録、茶産地の資料、製茶工程の記録、評茶のノート、茶器に関する文献。
少しずつ整理を始めると、そこから次々と新しいテーマが浮かんでくる。
評茶師は、茶のどこを見ているのか。
茶文化は、知識ではなく生活の中でどのように受け継がれてきたのか。
同じ形に見える茶器が、産地によってなぜ異なるのか。
茶席の美しさと、実際においしく淹れるための機能は、どう両立するのか。
茶の歴史を、年号の暗記ではなく、一杯の茶から読み解くことはできないか。
これらは、来年度以降、少しずつ講座にしていきたいテーマである。
ただし、急いで形にするつもりはない。
待ってくださる方がいるから、急がない
活動を休んでいた時間が長かった分、早く取り戻したいという気持ちはある。
もっと講座を開催したい。
もっと記事を書きたい。
もっと多くの人にお茶を伝えたい。
しかし、介護の日々を経験したことで、無理を続ければ、いずれ大切なものを見失うことも知った。
待ってくださる方がいるからこそ、急いで質を落としてはいけない。
満席になったからといって、無限に席を増やしてはいけない。
学びたいという気持ちに応えることと、学びの質を守ること。
その二つの間で、これからも悩みながら進んでいくのだと思う。
暑い日は、冷水でゆっくり茶を待つ
厳しい暑さが続いている。
この季節は、台湾茶や中国茶を水出しで楽しむのもよい。
冷水でゆっくり抽出すると、熱湯で淹れたときとは異なる、やわらかな甘みと穏やかな香りが現れる。
水出し茶については、茶の研究機関による研究報告をもとに、以前のブログでも詳しく紹介した。
茶葉を水に入れ、冷蔵庫でゆっくり待つ
急いで味を出そうとしない。
時間をかけることで、茶葉が持つ別の表情が現れる。
考えてみれば、講座づくりも同じなのかもしれない。
たくさんつくることよりも、必要な時間をかけること
すぐに結果を求めることよりも、茶葉が開くのを待つこと。
皆さまからいただいた期待を力に変えながら、これからも一つひとつ、丁寧に準備していきたい。
今年、講座へ戻ってきた私を、温かく迎えてくださった皆さまへ。
心から、ありがとうございます。
どうぞ体調に気をつけて、楽しい夏をお過ごしください。
人生如茶。
そして、以茶会友。
写真・文章:『ChaTea五代目茶論』・華泰茶荘店主 林 聖泰
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