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13歳からの100万円投資ゲーム「人生負けたら借金1億円」【第六章】

【第六章】「信用」
 
 32歳になった省吾は、悠々自適な生活を送っていた。大学生の頃に立ち上げた空き家のマッチングビジネスは5年後に上場を果たし、持ち株を売却した省吾は2億円という大金を手に入れることができた。
 省吾はそのお金を資産運用に回そうと思った。しかし、空き家のマッチングビジネスで成功を収めた省吾は、IT企業の間では知る人ぞ知る存在になっており、不動産関連のベンチャー企業からの経営参画や出資の話が次から次へと舞い込むようになっていた。
 ベンチャーキャピタルから渡された事業計画書の多くは、ビジネスモデルとしては成立しにくいものばかりだった。しかし、その中でも将来性のある企業は数社あり、省吾は見込みのありそうな3社に絞って、3000万円ずつ出資することにした。
そして昨年、出資した1社が上場し、もう1社がM&Aで大手企業に売却されることになった。残りの1社は経営破綻したが、3社のうち2社から合わせて5億円のキャピタルゲインを受けたことを考えれば、分散投資としては非常にラッキーだったといえる。
 
 省吾は3年前から不動産投資も始めていた。銀行から優良な投資物件の話が持ち掛けられるようになり、試しに埼玉県のオフィスビルを1億円で購入した。しばらく保有し続けようと思ったが、不動産価格が急騰し、昨年、1億5000万円で売却した。今は銀行から新たな物件を紹介されており、不動産投資も悪くないと思い始めている。
 ここで省吾が思ったことは、「お金」よりも「信用」のほうが人生において重要だということだった。信用を手に入れることができれば、さらにお金を増やす話が舞い込んでくる。そして、その信用にレバレッジをかければ、新たな金融資産を生み出すこともできるので、株よりも投資効率が良いと思った。
 省吾はお金を貯めることと、信用を貯めることはとてもよく似ていると思った。
 
 マイケルから久しぶりに食事の誘いがあった。すでに投資の専門家になった省吾は、アドバイスを受ける機会が少なくなっていた。しかし、マイケルの話は今でも勉強になることが多かったので、年に数回の面談の機会は必ず設けていた。
 省吾は自分の行きつけの寿司屋を面会の場にセッティングした。ここの店には5年近く通っており、大将とは顔馴染みになっていた。店は落ち着いた雰囲気で、高級感もあり、常連客として省吾のことを丁重に扱ってくれた。商談などがあれば積極的にこの店を利用するようにしていた。
 
 マイケルとは日常の他愛のない話から、投資の話、ビジネスの話などをして、盛り上がった。省吾は「お金と信用は同じではないか」と言う話を持ち掛けた。
「いいことに気が付きましたね。信用があれば、いろいろな支援を受けることができて、好きな仕事がより実現できるようになります。信用がある人には、もっとお金を増やせる話が舞い込むようになり、信用がある人には、たくさんの人が駆けつけてくれて、労働やお金、情報や経験などを持ちあって、力を合わせて、さらに社会的意義のあることに貢献できるようになります」
 省吾はこの話を聞いて、なるほどと頷いた。今の自分であれば、信用を元本にして、いろいろなことに挑戦できるはずだ。お金を使ってできることには限りがあるが、信用を使ってできることは無限にある。不可能だったことも可能にできるのは、お金ではなく信用だと思った。
 マイケルが口元を引き締めた。
「ただし、信用は、他者の評価があって、初めて成立するものだということは忘れないでください。独りよがりで信用を得ることはできません。だから、信用を得るためには、常に他者の評価を上げることを意識する必要があります」
 省吾は、その信用を上げるために、自分は何をするべきかを問うた。
「3つあります。ひとつは、『お金を使うこと』。お金を使わなければ相手は信用してくれません。たとえば、今、省吾さんがいるこのお寿司屋さんも、省吾さんがお金を使って、通い続けたからこそ、常連客という『信用』を勝ち取ることができましたよね。先ほど、省吾さんが言った通り、信用というのは投資と同じなんです。投資をし続けて、信用という資産を増やしていくんです」
 さらにマイケルは話を続けた。
「二つ目に大事なことは『正直に生きること』です。ウソをついてはいけません。実は信用というのは、お金よりも怖いモノなんです。たとえば、オレオレ詐欺ってありますよね。あれは『自分はアナタの息子だ』という信用を元本にして、お金を高齢者から引き出す詐欺なんです。だから、信用というのは、うまく使えば、お金を生み出す打ち出の小槌にもなるんです。しかし、これは信用の切売りでしかありません。時給で働く人たちと同じですよね。オレオレ詐欺も、ずっと『あなたの息子です』という騙しのテクニックで稼ぎ続けられません。いずれ、騙す人の数が減り、仲間が警察に捕まり、信用のネタがつきたら、それでおしまいです」
 マイケルは三本の指を立てた。
「3つ目に大切なことは『期待以上の結果を出すこと』です。これは、昔、省吾君が起業するときにも話しましたよね。期待以上の成果を出すと、人はさらに省吾君のことを信用してくれます。ビジネスでも日常生活でも、常に期待以上の成果を出すことは信用につながるんです」
 マイケルは1枚の封筒を省吾に差し出した。
「バトルファンドの期限まで、あと残り1年を切りました。これは1年後に、バトルファンドの結果を発表する会場の案内になります。少し早いですがお渡ししておきます。そして、私が省吾君と会うのは、次のバトルファンドの結果発表で、最後になります」
 省吾は驚いた。マイケルと会えなくなるとは思わなかったので、こども夢証券から、新たなファンドを買うから、また会ってくれないかと懇願した。しかし、マイケルは首を横に振った。
「私たちは、あくまで子どもに夢を与える証券会社なんです。大人になった省吾君には、ファンドを売ることができないんです」
 マイケルは神妙な顔つきで言葉をつないだ。
「あなたは20年間、ずっと私のことを信用して、アドバイスを素直に聞いてくれた。ファンドマネージャーとして、これほど嬉しいことはありません」
 省吾は、「僕もあなたを信用して、本当に良かった」といって、二人で固い握手を交わした。
 
 寿司屋から出て、省吾は別れ際に「最後に一つ聴いてもいいですか?」と言った。
「私は既に10億円近い金融資産があるので、このバトルファンドで1位になるのは確実だと思います。一方で、健太と絵美ちゃんの金融資産があまりにも少なすぎると思ったんです。おそらく、数百万円、多くても1000万円に届くか届かないぐらいかと思います。13歳の頃に100万円を受け取った時、熾烈なバトルが繰り広げられると予想していました。でも、20年経った今、その差は信じられないほどの大きく広がりました。同じ人間で、同じ時期に、同じ金額のお金を持っていたはずなのに、なぜ、これほどまでの大きな差がついてしまったのでしょうか」
 マイケルは「面白い質問だね」と言って大きく頷いた。
「飛行機が離陸するときのことをイメージしたら分かりやすい。3人の飛行機は、同じ滑走路に並んで、同じ速度で、同じように離陸した。だけど、その時の離陸角度が、ほんの少しだけ省吾君が高かったんだよ。その角度は、高度を上げれば上げるほど大きくなり、水平飛行に入った時には、とんでもない差になってしまったんだよ」
 マイケルは省吾の顔をじっと見た。
「最初に努力した小さな差というのは、時間が経てばたつほど大きな差になるんだ。投資でも、仕事でも、最初にどれだけ早く始めて、どれだけ本気で取り組めるかということが、その後の結果として大きな差になって表れてくるんだよ」
 
 ベンチャーキャピタルからの事業計画書に目を通していると、見覚えのある名前があった。健太だった。明らかに勝ち目のない雑なビジネスモデルのベンチャー企業だったが、そこに役員として健太の名があった。従業員は健太をあわせて5名。借入金も多く、今後の成長は期待できない小さな会社だった。
 省吾は健太との面会の場を設けた。健太も出資してもらえるのではないかと期待を込めて、省吾のオフィスに訪れた。
 健太はすでに転職を5回もしていた。「転職するたびに給与はあがっていったけど、だんだん上がらなくなってきた」と嘆いた。
スキルも経験も積み上げずに転職しているような人間に、高い給与を払う会社などない。それに、歳を取ればその人間の価値はさらに下がっていく。人材の価値は、結局は「(能力+実績)×持ち時間」で決まる。同じ能力の人材であれば、人生の持ち時間の長い若い人を採用する。30歳も過ぎて転職を5回もしているような人間は、能力も実績も低いし、なにより働いて、能力を発揮するまでの持ち時間が短すぎる。
おそらく、健太も5回の転職で働き口がなくなり、最後は「役員待遇」と言う甘い言葉に乗せられて、成長の見込みもないようなベンチャー企業に身を置いてしまったのだろう。
 早稲田大学を出て、その学歴だけの信用で大企業に勤めるところまではよかった。良い大学、良い会社という信用を武器にして、最初は転職がうまくいったかもしれないが、その信用は時間とともに薄れていく。
 今はむしろ、そのような「肩書」の信用がまったく通用しない社会になっている。その役に立たない信用をいまだに担保し続けているこのベンチャー企業も、やはり将来性はないと省吾は思った。
 
 健太は1年前に結婚したと言った。埼玉県の駅から20分以上も離れた郊外の中古マンションを4000万円で購入し、来月、子どもが生まれるという。「マンションも資産だから」と健太は言うが、そんなことはない。マンションは管理費もかかるし、修繕費もかかる。何より、駅から離れたマンションだと、人口減少の昨今から考えれば、値崩れをするのは時間の問題だ。健太の持つマンションは、マイナス資産といってもいい。
 省吾は、よく健太の年収で5000万円の物件を買えたと思った。おそらく、奥さんとの共働きを条件に、限界ぎりぎりまでお金を借りて、ローンを組んだのだろう。借金を増やすために、信用を切売りしてしまう健太が気の毒に思えてきた。
 健太の会社への出資の話は言葉を濁し、その場で別れることにした。二人の会話の中で、最後までバトルファンドの話は出てこなかった。もうすでに健太の頭の中にはバトルファンドのことは、なかったことになっている可能性が高い。
 
 久しぶりに絵美のYouTubeを見ると、チャンネル登録者数は30万人を超えていた。沖縄の食事や農産物の情報に特化した動画は、多くの沖縄好きのファンを引き付けて、企業のタイアップの依頼が後を絶たないという。
 絵美のYouTubeの人気の秘訣は、常に自腹で飲食店や食材のレポートをすることだった。本音のコメントで話す絵美の姿は視聴者にとっての等身大であり、絶大な信用を得ていた。それが担保となり、「絵美に紹介されたらその商品が売れる」というトレンドを作り、企業からも視聴者からも愛される動画チャンネルへと成長した。
 これも絵美が地道に積み上げてきた「信用」の賜物だと思った。SNSや動画を通じて、役に立つ情報や自分の考え方、思いなどを配信することで、ユーザーからの信用を積み上げていった。コメントが入ると丁寧に返信をして、インスタライブを通じてユーザーと交流する。情報発信を通じて、信用という貯金は確実に増やすことができるのである。
 マイケルが言っていた「お金を使うこと」「正直に生きること」「期待以上の結果を出すこと」、この3つを絵美は実践していると思った。


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竹内謙礼 好きをたくさん押してくれたら取材して続きを書きます。足りなければ書くのは止めます。でも書きたいから押してね♪