13歳からの100万円投資ゲーム「人生負けたら借金1億円」【第二章】
【第二章】「自己管理」
中学2年生になった省吾は、平凡な日々を過ごしていた。特に部活動に熱中するわけでもなく、趣味があるわけでもなく、学校を往復する日々を過ごしていた。
たまに自分の投資信託の口座の残高を見て、利子が増えていることにニヤニヤすることはあったが、特に代わり映えしない日々を送っていた。
しかし、細かいところで生活に変化が生まれていた。特に目立つのが、無駄遣いをしなくなったことだ。以前はふらりとコンビニに立ち寄って、お菓子やカップラーメンを買ったりしていたが、マイケルにお金の大切さを教わってからは、むやみにお金を使うことがなくなった。そのせいか、手持ちの50万円は1年経過した今でも手を付けていない。
塾の自習室で健太に会った。「100万円はどうした?」と聞かれて、投資信託を買ったと答えると、「なんだそれ?」と首を傾げられた。利子の複利でお金が増えていくことを説明すると、「それって楽しいの?」と言われてしまった。
省吾が健太に100万円の使い道を尋ねると「いくら使ったのか分からない」とサラリと答えた。封筒に100万円を入れて、必要な時だけお金を抜いているらしく、正確な残金は分からないという。主に使っているのは、ゲームの課金、推しのアイドルのライブ配信への投げ銭、たまに買い食いするお菓子だという。
「今は中学生で働くことができないし、大人になったらどうせ働くんだから、今は遊んだほうがいい」
健太はお金を貯めることや投資に対して、まったく興味がない様子だった。
省吾が一人で駅前を歩いていると絵美と偶然会った。「ちょっと時間がある?」と聞かれて、近くの公園のベンチに座った。絵美に「100万円は何に使っているの?」と質問されて、投資信託と答えると、「それって楽しい?」と、健太と同じ問いかけをされてしまった。部活もやってなくて、友達もいなくて、夢もなくて、お金を貯めることだけで毎日が楽しいの?とまで言われてしまう始末だった。
絵美は東京のオーディションに通い続けていて、ようやく衛星放送のドラマのチョイ役に抜擢されたという。これがアイドルへの第一歩だと熱を込めて語り始めた。ふと見ると、私服が小ぎれいになっていて、持っているバッグも省吾でも分かるような有名ブランドのものだった。絵美は「目もプチ整形したのよ」と言ったが、省吾にはその整形の成果がまったく分からなかった。
「アイドルになるためには、見た目が重要なのよ。100万円を使って、これからはおしゃれにも、見た目にもお金を使っていかなくちゃね」
絵美は嬉しそうに言った。
絵美に言われた言葉を噛みしめながら、省吾が一人で歩いていると、すぐ横をランニング中のマイケルが通りかかった。「元気がないね」と声をかけられると、省吾は健太と絵美に投資信託が楽しいのかと言われて、言葉に詰まってしまったと言った。
マイケルは「人は遠い未来のご褒美よりも、目の前にある喜びのほうに気持ちがなびきやすいものなんだよ」と言った。普通の人は、20年後にお金が総取りできる喜びも、ビリになったら1億円の借金を背負わされることに対する恐怖心もない。目の前の快楽にお金を使い、将来のことを考えて貯金や投資ができる人は、世の中にほんの一握りしかいないと言った。
「今、僕がやっているランニングも同じことが言える。年老いてから身体を壊したくないから、健康のために日ごろから運動をしているんだ。しかし、ほとんどの人は、そんな遠い未来のことなど心配していない。だから、運動もしないし、ダイエットもしない。健康診断にも行かないから、中年になってから、いきなり身体を壊すんだよ。『もっと健康に気を使っておけばよかった』とみんな言うけど、そう言っている時には、もう手遅れになっていることがほとんどなんだ」
さらにマイケルは絵美の消費についても言及した。
「お金を雑に扱う人は、『お金を使う言い訳をする』という共通点があるんだよ。辻褄の合わないことでも、自分の選択した行動を正当化して、無理矢理、お金を使うことに納得する人が世の中には多いんだ。今回の絵美さんは、プチ整形することや、有名ブランドもののバッグを買うことが、アイドルになることとは関係がないのに、自分の中で『関係があるもの』と都合のいい言い訳をして、無駄遣いをしているんだよ」
健太も絵美も、バトルファンドに参加している以上、お金を早急に貯めなくてはいけない立場だ。しかし、まだ子どもだから20年後に起きる出来事など想像もつかないし、1億円の借金を抱えることもイメージすることができない。利子が少しずつ増えていくことも説明したが、健太と絵美にはその重要性がピンときていない様子だった。
マイケルは、「それはピーナッツ効果ってやつだね」と言った。人は些細な節約や貯金、利子に対して、「ちょっとやったからって何も変わらない」と、目の前の小さなことを軽く見てしまう傾向があるという。世の中の人の多くが、お金を増やしたり、貯めたりすることに踏み切れないのは、このピーナッツ効果が大きく影響していると言った。
省吾が、自分には何も特技もなければ、自慢できるものがないと嘆くと、マイケルは「そんなことはない」と語気を強めた。13歳にしてはお金に対する意識が高く、実際に残金の50万円には一切手を付けず、保管していることを褒めた。
「いっそのこと、お金を増やすことを趣味にしたらどうだい?」
省吾は「お金が趣味なんてカッコ悪い」と答えると、マイケルは首を大きく横に振った。
「好きでもない勉強やスポーツ、趣味を今から一生懸命やってどうする? 頑張ったって、好きでもないことだから人並みの技術しか身に付かないだろ。そんな平凡なスキルを身に付けて、なんの得があるんだ? 希少性にも差別化にもならないだろ。それだったら、省吾君が大好きなお金を、もっともっと好きになって、お金の専門家を目指したほうがずっと幸せだよ。中学生で投資信託をやっているなんって、周りの友達にもいないだろ」
省吾はマイケルに褒められたことで、気持ちが前向きになった。もっとお金に詳しくなりたいというと、マイケルは「積立投資をやってみよう」と言った。
「『積立投資』とは、月々に決められた金額をコツコツと投資していく方法なんだよ。これが実はリスクが低くて、それでいて大きなリターンが期待できる投資方法なんだ。株価が下がった時には、安い価格で多くの株を買い付けて、その逆で株価が上がった時は、限られた株しか買わない。そうすることで、投資のリスクを最小限にして、同時に相場が戻った時は、多くの運用益が期待できるんだ。特に20年のような長期間の投資の場合、積立期間中の相場の急落にも耐えられるから、一括投資の投資信託と組み合わせれば、金融資産の形成として最強の戦略になるんだよ」
その話を聞いて、省吾は興奮した。毎月、いくらぐらいの積立をすればいいのかマイケルに訪ねると、「月のお小遣いはいくらだ?」と聞き返された。省吾が2000円と答えると、マイケルは「それだったら、毎月1000円から積立てよう」と答えた。お小遣いの半分も投資に回すのは厳しいと省吾がいうと、マイケルは「それであれば、お小遣いをアップするように、親にお願いすればいい」と言った。
「闇雲に親に『お小遣いを増やして欲しい』と言っても、増やしてくれるはずがない。だから、何か条件を加えるんだ。たとえば、『庭を掃除するから、あと500円お小遣いを増やして欲しい』とか『週に3回、買い物に行くから1回300円欲しい』とか、相手にお金を増やすメリットを与えることで、初めて交渉というのは成立するんだよ」
さらにマイケルはお小遣いを増やす方法を2つ教えてくれた。
「ひとつは、『相手の期待を上回る働きをする』ことだよ。そういう働き方を心がけることで、期待以上の見返りを受け取ることができるんだ。もうひとつは、『仕事を探す』ことだ。近所や友達などに聞いて回ると、他にも省吾君でできそうな仕事がたくさんあるはずだよ」
それでも、省吾は毎月1000円の積立投資をすることは大変だと思った。お小遣いを稼ぐためにたくさん働かなくてはいけないし、欲しいものを買うことを我慢しなくてはいけなくなる。その思いを伝えると、マイケルは真顔で省吾に言った。
「投資の成功の秘訣は、『自己管理』なんだよ。自分の意思を強く持って、お金を使うことを我慢して、コツコツとお金を貯めて、投資することに気持ちを集中させるんだ。ダイエットや健康管理、勉強と同じで、投資も『我慢』が大切なんだ」
マイケルの話を聞いて、省吾は健太のことを思い出した。ダラダラとお金を使い続けて、100万円のうちいくら使ったのかも思い出せないような人は、やはり自己管理ができていないと思った。
そんな健太と一緒にされたくないという思いが働いて、省吾の気持ちの中で、さらにお金を増やしたいという思いが強まっていった。
家に帰ると、省吾は母親に「犬の散歩をするから、あと500円お小遣いを増やして欲しい」と交渉した。最初は渋っていたが、横にいた父親が「働いてお金がもらえることは子どものうちから体験したほうがいい」と言って、省吾のお小遣いアップに賛成し、交渉は成立した。
省吾は学校から帰ってくると、雨の日以外、犬の散歩をすることを日課にした。散歩をしたついでに、犬小屋も掃除するようにしたところ、母親から褒められて、お小遣いは500円から1000円にアップされた。
さらに、犬を散歩させている時に、近所の人に会うと、挨拶と同時に「忙しい時に代わりに犬の散歩をしますよ」と声をかけるようにした。すると、近所の人から犬の散歩を頼まれることが増えて、お駄賃として1回500円、多いときは1000円もらえるようになった。
気づけば、省吾のお小遣いは月5000円を超えていた。省吾は、積立投資を毎月1000円から3000円に増やした。金利5%で毎月3000円を複利で積立投資すると、19年後には元金684,000円に対して101万6000円になる。半分以上のお金を投資に回すことは辛かったが、省吾は投資には『我慢』が必要であることを理解していた。徹底してお金を使うことと貯めることに対して、自己管理するよう心がけた。
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