【メンタルヘルス|ライフスタイル】<第1回>インポスター症候群とは何か―「私なんて…」が生まれる本当の理由
皆様、こんにちは
公認心理師の小高千枝です。
私はこれまで、女性の多い企業様を中心に長年、メンタルヘルスや人材育成に携わってきました。
管理職研修、ダイバーシティ推進、キャリア継続やライフイベントとの両立支援。その現場で、立場や年齢を問わず、何度も何度も耳にしてきた言葉があります。
「私なんて、大したことありません」
「運がよかっただけで、実力ではないんです」
「本当の自分が知られたら、きっと幻滅されると思います」
これは、私がカウンセリングや取材の現場で、驚くほど繰り返し聞いてきた言葉です。
そして、こうした言葉を口にする方々は、決して“何もしていない人”ではありません。むしろ。。。
社会的に評価されている
責任ある立場を任されている
周囲からは「十分できている」と見られている
いわゆるハイキャリア層と呼ばれる方が、この感覚を強く抱えているケースは少なくありません。
この心の状態は、インポスター症候群と呼ばれています。
①インポスター症候群とは何か
インポスター症候群とは、客観的には実績や評価があるにもかかわらず、
それを自分の実力として受け取ることができず、「自分は偽物ではないか」と感じてしまう心理状態を指します。
1978年にアメリカで提唱され、当初は「成功している女性に多い」とされていましたが、現在では性別や職業を問わず、
人生のどこかで約7割程度の人が経験すると言われています。
まず強調しておきたいのは、インポスター症候群は病気や診断名ではないということです。
心の弱さでも、性格の欠陥でもありません。
▶役割が変わった
▶期待が高まった
▶責任が増えた
▶注目されるようになった
こうした変化に、心の感覚が追いつかなくなったときに起こりやすい状態なのです。
②なぜハイキャリア層に多く見られるのか
インポスター症候群がハイキャリア層と結びつけて語られることが多いのには、理由があります。
それは、評価・成果・責任が可視化されやすい立場にいるからです。
昇進した
抜擢された
メディアに出た
周囲から期待されるようになった
こうした出来事は、本来であれば「喜ばしい変化」であるはずです。
しかし同時に、
「次も期待に応えなければならない」「失敗できない」「ここにいる資格があるのだろうか」といったプレッシャーを生み出します。
特に、
努力を重ねてきた人
慢心しないよう自分を律してきた人
空気を読み、調整役を担ってきた人
このような方たちほど、成功を自分の力ではなく、「運」「周囲のおかげ」「タイミング」に帰属させがちです。
その結果、評価と自己認識のズレが広がり、「私なんて…」という感覚が強まっていきます。

③インポスター症候群は「ハイキャリアだけの問題」ではない
ここで、『インポスター症候群』書籍の筆者として、そして臨床家として
強くお伝えしたいことがあります。
それは、インポスター症候群は、決してハイキャリア層だけの問題ではない
ということです。
近年、相談が増えているのは、
家庭や育児、介護を中心に生きてきた人
表に立たず、裏方として支えてきた人
評価されにくい役割を担ってきた人
このような立場にいらっしゃる方からも心のサインをお伝えいただきます。
こうした役割は、数値化されにくい、成果が見えにくい、「できて当たり前」と受け取られやすい、といった特徴があります。
そのため、どれだけ頑張っていても、「自分は何も成し遂げていないのではないか」という感覚を抱きやすいのです。
SNSで他人の人生が切り取られて見える今、この傾向はさらに強まっています。
④インポスター症候群は「弱さ」ではない
インポスター症候群を抱える人には、共通する資質があります。
責任感が強い
周囲をよく見ている
自分を客観視しようとする
成長し続けたいと思っている
これらは、本来とても大切な力です。
けれど、その力が自分を責める方向にだけ使われてしまうと、心はゆっくりとすり減っていきます。
だから私は、インポスター症候群を「なくすべきもの」「克服すべき弱さ」
として扱うことには慎重でありたいと思っています。
必要なのは、無理に自信を持つことでも、前向きな言葉で塗り替えることでもありません。
まずは、「今の自分は、こう感じている」と気づくこと。が大切なのです。それだけで、心の重さは少しずつ変わり始めます。
⑤連載記事『インポスター症候群』について(全5回のご案内)
このnote連載では、インポスター症候群を
“個人の問題”ではなく、現代社会の構造と生き方の問題として捉え直す
ことを目的としています。
今後の連載記事の予定をお伝えさせていただきます。
第1回(← 今回)
インポスター症候群とは何か
―「私なんて…」が生まれる本当の理由
第2回
なぜ現代社会は、インポスター症候群を生みやすいのか
―SNS・比較・スピード社会の影響
第3回
ハイキャリアだけじゃない
―家庭・ケア・裏方を担う人に起きるインポスター症候群
第4回
企業・組織の中で起きているインポスター症候群
―評価・昇進・「理想のリーダー像」の罠
第5回(最終回)
インポスター症候群とどう付き合っていくか
―克服ではなく「共存と回復」の視点
最後に
もしこの記事を読みながら、胸のどこかで少し緊張感が走られたり
言葉にしづらい違和感を覚えたとしましたら。。。
それは、これまでご自身の人生と向き合い真摯に生きてこられた証だと私は思っております。
この連載が、誰かと比べるためではなく、ご自分の感覚を取り戻す時間になればと心から願っております。
次回は、なぜ現代社会において、ここまでインポスター症候群を生みやすいのか。。。につきまして、SNSとの付き合い方や働き方の変化から掘り下げていきたいと思います。
【HP】
小高千枝メンタルヘルスケア&マネジメントサロン
【著書】
『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』
韓国版『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』
가면을 벗어던질 용기
진짜 내 모습을 들킬까 봐 불안한 임포스터를 위한 심리학
