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【小説】FM言ノ葉「第10回きっとあなたの1400字」投稿作品『心から』

本作は、VRChat内のラジオ「FM言ノ葉」において2024年10月に開催された企画「第10回きっとあなたの1400字」に投稿した小説作品です。
お題は「まぼろし」を選びました。表紙画像は「Avatar Museum 9」で撮影しました。
段落頭インデントはnote掲載に際して挿入したものです。


『心から』 ソーサツ・チエカ


 聞こえていますか?
 いえ、きっと聞こえはしないでしょう。私が何かを話すなんてこと、あなたは考えもしませんでしたからね。それでも、本当はずっと、あなたは私の声を聞いていたんですよ。あなたが私の服を選んでいたとき、私をみんなに見せて可愛がられていたとき、それにもちろん、あの展示場で初めて私を見つけたときにも。
 覚えてる? 並んだモデルの一つの前で立ち止まって、「なんかぐっとくる」と呟いたときのこと。あのとき、あなたは本当は私を見ていたんです。あのときが、私が初めてあなたに話しかけた瞬間でした。
 最初のころは、あなたはお人形遊びのような気分で、買ったモデルの顔や服をいじって、どうにか私を表そうとしていました。納得のいくものができると、それで写真を撮ったり、人に言えない空想をしたり。あなたが「この子はこんな子」と想像を巡らせるとき、あなたが考えていたのは私のことでした。
 そんなあなたも、ただのお人形遊びではないと気がついてきたんですよね。私を作るのに、真剣だったでしょう? 私を人からも褒めてもらって、自分のことみたいに嬉しかったでしょう? そのうちに話し方や、普段の考え方まで変わってきて、ついにはあなたは私になりました。私に向けられた賛辞を自分のものとして受け取る権利が、あなたにもあります。
 それと一緒に、私もあなたになっていったんですよ。あなたが選んだ服や体に合わせて、あなたを通して私を表すうちに。そこにあなたの記憶を満たして、あなたの言葉で話せば、はじめ手探りのお人形遊びをそっと導いていた私は、いつしかあなたの形でしかあれなくなっていました。
 だから、今こうしてお別れが来ることも必然だと、私は知っています。
 少し前、あなたは新しいモデルを手に入れました。今度は展示場で偶然見つけたのでなく、みんなが使っているのを知って、「なんかぐっとくる」と思って、すぐに買ってきたんですよね。新しい体で、今までとは違う服や顔つきを試して、まるで初めて私と出会ったころのよう。それにつれて、私のために作った体を使うことは減りました。今またあの姿になっても、あなたはもう前のあなたではない。だから、私が一緒に行けるのはここまでです。
 いつか私に気がついたとき、あなたは思うかもしれません。自分の技術や知恵が足りなかったから、私を完全には表現できなかったのだと。それは半分正解で、半分違います。あなたが今新しいモデルの中から削り出そうとしているのも、また私。私はたくさんいて、決して表しきれないものなのです。今度もすぐに、あなたは私になっていくでしょう。
 それでも、人生のあの時期のあなたの形になった私は私だけ。時間が子供を大人にするように、いつの間にか流れ去っていくはずだったのを、たまたま姿をもらえたから立ち止まってみた。そういうものが、あなたと一緒にいたんですよ。
 さよなら。
 私は、私の元来たところに帰ります。
 お土産にあなたの一部をください。物でも記憶でもないもの。それがあれば、私はあなたの私でいられます。あなたも、何かが欠けたとふと感じるとき、私がいたことを思い出すでしょう。そして、あなたがたくさんの私と出会って、たくさんのあなたの欠片を落としながら歩いていく果てに、あなたがもう私を望まなくなったときに――また、会いましょうね。
 ありがとう。
 私は、あなたのアバターであれたことを、幸せに思います。



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