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AIが私たちのモチベーションを奪うとき

この記事を書いている理由

今年2026年4月から、千葉工大で『Web3 AI概論』というオンラインクラスを3ヶ月間受けていました。

受講した理由はふたつ。

  1. 自分で使う便利ツールを自作したかった。

  2. 今年になってからAIのせい?で、謎のモチベーション低下が起こっていた。原因を突き止めたかった。

特にここで論じたいのは、2つ目の「AIによる謎のモチベーション低下」です。

このことは、千葉工大の授業最終日に「AIで作ったプロダクト、なぜ使わなくなるのか」という3分間ピッチでお話しさせてもらいました。

そしてこの記事は、3分の時間制限で言い切れなかったことを、現時点でまとめておきたくて書いています。

このピッチでは、以下2点の根っこは同じだ、と説明しています。

①作ったAIツールを使わなくなる
②作った計画を実行しなくなる

以上のふたつに共通しているのは、「行動」が消えている、ということです。
では、人はそもそも、どこから行動を起こすのか。

行動を起こす源泉は「テンション(構造的な張力)」です。

テンションとは、「望む成果」と「今の現実」のあいだの差が生み出す張力のことです。ゴムバンドの両端を引っ張ると縮もうとするように、差があると、人はそれを解消する方向に自然と動きたくなる。

この張力こそが行動の源泉だ、というのが、ロバート・フリッツが発見した構造力学の原理です。

アイデアは、行動しなければゴミ

本題に入る前に、言葉をひとつ定義しておきます。この記事の鍵になる「創造」という言葉です。

創造、というと芸術やひらめきを連想するかもしれません。しかし、ここでいう創造はもっと地に足のついたものを指します。ここでは、
創造 = 望む成果を、現実に作り出すこと。

①アイデアをまとめて計画し、
②実行し、
③成果を見届ける。

1から3までのプロセス全体が、創造プロセスです。

裏を返せば、どんなに良いアイデアも、行動につながらなければただのアイデアにすぎません。忘れ去られて、ゴミになります。

今回、経営・事業を動かすという文脈で、AIがこの”創造”にどんな影響を与えるかを考察しました。

結論を先にいうと、「謎のモチベーション低下」の正体はこれです。

AIは使う場所を間違えると、成果物の質を下げるのではなく、行動を生み出すエネルギーを消してしまう

ふたつの失敗例で説明します。

失敗してわかった間違ったAI活用

ひとつ目。 私たちのチームで事業計画を作っていたときのことです。望む姿と今の現実を、膝を突き合わせて集中して議論し、行動ステップを洗い出しました。いつもやっていることです。

この時に、ミーティングを録音してAIに計画としてまとめさせたり、
全体計画の「望む姿」と「今の現実」を定義した後、そこから出てくる行動ステップをClaudeにドラフトさせたりしました。

AIの案はあくまで参考のつもりでした。

結果はどうだったか。全部だろうが一部だろうが、AIを介在させた箇所から、やり直しになった。

AIの案は参考にしただけのつもりが、そうはいかなかったんです。時間をとって考えて作った計画が、2週間放置されていました。

そこで私は、頭が冴えている時間帯に、ポストイットや紙に書き出したものをテーブルに並べて眺めてみました。
広げたメモを眺めながら、ひとりで集中して考えた結果、AIがドラフトしたものと全く違う構造・階層の戦略計画が出来上がりました。

新しく組み直した計画をメンバーたちにシェアすると、チームにはいつものエネルギーが戻ってきました。メンバーはそれぞれのペースで解消したいテンションのもと、主体的に動き始めました。

ふたつ目。 非常に洗練されたいくつかのAIツールを使っていました。事業戦略だけでなく、もう一段下流の、行動計画やタスクを管理をしてくれるAIプロダクトです。
それらを使うと、思考がつまりそうなところをAIがサポートしてくれました。自分では気づかないアクションの漏れを網羅的にリストアップしてくれる、優秀なやつです。それらには痒い所に手が届くありがたい機能がある。

結果。計画、タスクリスト、…ひとつもやりませんでした。 それどころか、もともと自分の中にあった「これをやろう」という熱が、消えていました

この感覚には覚えがありました。
子どもの頃、「そろそろ勉強しよう」「片づけよう」と自分で思ったまさにその瞬間、親から「勉強しなさい」「片づけなさい」と言われて、せっかく点いたやる気の火が消えた、あの感覚です。

やる気の火は、自分の内側から点いたときにしか燃え続けない。
外から同じ答えを差し出されると
それがどんなに正しい答えでも
火は外に乗っ取られて、消えてしまう。

AIが消したのは、アイデアではなく、実行のエネルギーだった

2025年にMITメディアラボが発表した研究がありました。エッセイを書く課題でAI(ChatGPT)を使ったグループ、検索エンジンを使ったグループ、道具なしで自分の頭だけで書いたグループを比較したところ、

AIを使ったグループは脳の活動が低く、書いた内容の記憶も弱く、「これは自分が書いたものだ」という感覚が最も低かった
それに対し、
自分の頭だけで考えて書いたグループが、最も高かった

この研究は、まだ検証の途中にある小さなものです。しかし、私の体験と符合するなと思いました。

創造には、ふたつの領土がある

ではAIを使うのをやめるべきでしょうか。私はそうは思いません。
問題は「使うかどうか」ではなく「どこで使うか」です。

創造のプロセスは、実は一枚岩ではありません。
「創造」そのものの部分と
「問題解決・状況対応」の部分があります。
このふたつの組み合わせで、成果までたどり着きます。

そしてこの区別を整理するのに、Cynefin(カネヴィン)フレームワークがちょうどいい地図になります。ウェールズの研究者デイブ・スノーデンが提唱したもので、状況を「原因と結果の関係がどれくらい見えているか、その複雑さ」をセンスメイキングする方法です。

カネヴィンフレームワークで見ると、右側は秩序系

決まったやり方が存在する領域(Clear)と、専門知識で分析すれば答えにたどり着ける領域(Complicated)。
原因と結果の関係が既に知られていて、良いやり方・最善のやり方が存在する世界。

これはAIの得意分野です。AIは過去の膨大なパターンを学習した存在なので、「既に答えの型がある問題」を解かせたら、速くて、正確。ここでのAIは本当に優秀です。遠慮なく任せていい。

左側は非秩序系

過去に経験がなく、答えのない、未知の領域。
やってみなければ何が起きるか分からない領域(Complex)と、
意図的に混乱を起こして現実を揺さぶり、新しいパターンの芽を掴む領域(Chaos)がある。

創造の上流「そもそも何を作りたいのか」「望む姿はどんなものか」を生み出す段階は、ここに属します。

ただ、非秩序系の領域にいても、まるで答えがわかっているかのように、AIはそれらしいビジョンや計画をいくらでも出してきます。『アイデア出しの壁打ち相手に使うくらいならいいだろう』と思うかもしれません。

しかし問題は、AIを介在させた瞬間に、私たちが失うものがある、ということです。私の失敗が示しているのは、まさにそれでした。

AIに介在させると、行動のエネルギーが奪われた。

なぜ上流でAIを介在させてはいけないのか

創造の初期段階。
私たちの頭の中、チームの場の中に、
非言語のアイデアやイメージ、
「なんとなくこっちだ」「これは違う気がする」というような、はっきりしない感覚や気配のようなものがある。

議論や試行錯誤を通じて、少しずつ形になっていく。
創造の上流とは、このまだ言葉になっていないものが、形になっていく過程そのものだと思います。

このタイミングでAIにアイデアをまとめさせたり、整理させたりすると、まだ形になっていない「種」の部分は、こぼれ落ちます。
AIは受け取った断片から、流暢で、整っていて、もっともらしい言葉を返してきます。
その瞬間、曖昧なアイデアは、AIの型に合わせて矮小化される。

補足:創造とは、アイデアを広げることではない

ここでひとつ、補足しておきたいことがあります。先ほど『壁打ち相手に使うくらいなら』と書きましたが、アイデアを広げることと、実際に創り出すことは、別ものだという話です。ロバート・フリッツは、

創造とは発想を広げることではない。
たくさんのアイデアを出して、その中から光る原石を探そうとするやり方(ブレインストーミング)はプロのクリエイターはやらない。
プロたちはその逆で、「これを作りたい」という像と、それがまだ実現していない現実、そのふたつのあいだで意識をフォーカスする

この「創造性と、創造することの違い」は、Podcastでも話しています。

計画に魂を入れる

事業戦略を作って実行するとき、人間が頭を使うべき(カネヴィンフレームワークで言う)非秩序系の領域は、創造の最上流にあたります。

最上流で、戦略計画が自分のものになっていなかったら、どれだけ計画が洗練されていて、正しかったとしても、誰も動かない。
そして、忘れ去られ「計画なんて実行されないものだ」と”悟り”をひらく。

逆に、人間が考えるべきところを人間がとことん考え抜いている場合、その創造行為には魂が宿っている。

もし計画が間違っていたとしても、実行する。実行するから、厳しいフィードバックが返ってくる。フィードバックが返ってくるから、修正できる。修正しながら、達成まで見届けることになる。

つまり、

計画が自分のものになると、エネルギーが生まれる。
エネルギーがあるから行動が続く。
行動が続くから、成果になる。

逆に

上流をAIに渡すと、自分のものでなくなる。
自分のものでないのでエネルギーが湧かない。
エネルギーがないから動かない。
動かないから、ゴミになる。

だから私は、こう思います。

「自分のものになった」計画は、
たとえ間違っていても、
「AIや他人が作った」美しい計画に勝る。

ゼロから自分で作ったものは行動に結びつく

事業戦略や経営計画、ゼロから1を生み出すのは大変だし、
出来上がったものは、しょぼく見えるかもしれません。

それでも、時間をかけて考え抜いた ”自分の”計画は、行動を生み出すエネルギーの水準が違います。

先ほどのMITの研究には、もうひとつ興味深い知見があります。
最初に自分の頭だけで書いてきた人たちが、後からAIを使ったときには、むしろ良い結果を出したのです。

順番の問題で、まず自分の頭で深く取り組む。AIはその後です。

ただ、時間をかけても、考え抜きたくても、自分では答えを出せない。何をどこから考えればいいのか分からない、というときどうするのか。

ロバート・フリッツが教えてくれた手順

構造アプローチの手順を使って戦略や計画をつくることができます。

何もないところから計画を組み立てるとき、どこから何を考えていけばいいのかを、ステップバイステップで考えるための手順です。

経営計画などの長期的なプランは、最初から「望む成果」が明確になっていることはほとんどありません。

ロバートの戦略プランニングの方法は、今の現実から考えていきます。
リアリティを観察していくと、自分たちが大切にしている価値や、顧客にどんな特徴があるのか、など解像度が高まり、地に足のついた戦略計画が自分たちのものになります。

そのとき、チームに「この計画が達成されたところを見てみたい」というテンションが共有される
ひとり一人が、その計画に関われることを誇りに思え、足並みが揃ってくる。
何度も見てきた光景です。

ここまで来ると、冒頭に挙げたもうひとつの謎『作ったAIツールを、なぜ使わなくなるのか』にも、同じ答えが当てはまります。

「何が欲しいのか」「それを実現するのに何が必要か」を生み出すフェーズでAIツールが助けてくれ、その時点で計画が完全に自分のものになっていない。だから使い続けるエネルギーが湧かない。実行されない計画と、同じ構造です。

「今、自分がやろうとしていることは、創造なのか。問題解決なのか。」

この見分けがついていないとき何が起こるのか。

ひとつは、創造をAIに任せてしまい、エネルギーごと手放してしまう。

もうひとつは、AIに任せられるはずの膨大な問題解決に、気がついたら自分の時間と労力を注ぎ込んでいることです。

でも、見分けがつけば、話は逆転します。

突き止めたかった「謎のモチベーション低下」の答え。

AIがエネルギーを奪うのは、使う場所を間違えたとき。

正しく見分けられれば、私たちは膨大な問題解決をAIに委ねて、創造にたっぷりと時間をかけることができます。人類の歴史上、創造にこれほど時間を使える時代はなかったんじゃないでしょうか。

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