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『ばぁば』と『にゃにゃ』 第3話 「じぃじ」と「にゃにゃ」

実母の介護のため、二年にわたる別居生活を送っていたじぃじが、ようやくばぁばの待つ家に戻ってきました。

父親を亡くし、認知症が進行した母親を施設へ送り出すまでの苦労は、相当なものだったのでしょう。三歳年下だったはずのじぃじですが、この二年ですっかり年を重ねたように見えます。

対照的にばぁばは、愛猫「にゃにゃ」との暮らしで心身ともに若返り、今では二人の外見は、ばぁばの方が若く見えました。

じぃじは元来、おとなしく優しい性格の、少々「天然」な人。
妻や娘の有紀につっこまれても怒ることなく、いつも穏やかに笑っています。
とはいえ、久しぶりの家族との同居にはまだ戸惑いがあるのか、どこか遠慮がちに毎日を過ごすのが常でした。

そんなじぃじを、にゃにゃはいかにも「よそ者」とみなして、自分から懐こうとする素振りなど全くありません。
でもじぃじは、このつれない新しい「住猫」のことを、遠くから愛でる日々でした。

ある日曜日のことです。にゃにゃがばぁばの布団でぐっすり寝入っていたため、起こさないようこっそり有紀とばぁばが買い出しに出かけました。
家で一人、留守番を任されたじぃじ。そこへ、運悪くインターホンが鳴り響いたのです。

じぃじが応対に出ると、玄関には斜め向かいのご主人が困り顔で立っていました。
その腕には段ボール箱。中からは、か細い子猫の鳴き声が漏れています。

「うちの車庫で、お宅の猫ちゃんが子供を産んじまったみたいでねぇ。ほら、お宅の猫ちゃん、茶トラだって言ってたでしょう?」

差し出された段ボール箱の隙間を覗けば、そこには不安げな茶トラの親猫と、生まれたばかりの小さな子猫が三匹。じぃじは激しく動揺しました。

「えっ、あ、あぁ……。すみません。いやはや本当に申し訳ない、うちの猫が……」

つい平謝りしながら、段ボール箱を受け取ってしまったのです。
居間に戻ったじぃじは、箱の中の親猫にそっと語りかけます。

「おい、にゃにゃ。外で子供を産んでいたのか、大変だったなぁ……」

ところがその背後。眠気まなこで居間にふらりと現れたのは、本物の「にゃにゃ」でした。
見知らぬ匂いと、居間にどっかり置かれている箱には見慣れぬ親子猫の影。にゃにゃのしっぽは瞬時に太く膨らみ、「ニャーーーー!! フーーッ!!」と凄まじいうなり声が炸裂します。

じぃじは思わず二度見。そこでようやく、段ボールの親子が全くの「他猫」であるということを理解しました。

真っ先に頭に浮かんだのは、「どうしよう……ばぁばに怒られる」という絶望的な予感。
案の定、最悪のタイミングでばぁばと有紀が帰宅しました。

にゃにゃは勢いよくばぁばの元へ駆け寄ると、まるで「聞いてよ、このじいさん、知らない猫を連れ込んでいるんだけど!」と言いつけるように「にゃーにゃー」と大騒ぎを始めます。

じぃじは怒られないように必死に事情を説明しましたが、ばぁばは怒るよりあきれ顔で、静かに、そして深いため息まじりに言い放ちました。

「あんた、帰ってきてから二ヶ月もにゃにゃと一緒にいるのに、顔も覚えてないのかい。それに、にゃにゃは一歩も外に出したことがないだろうに。でも、なんでご近所さんはうちに茶トラがいるなんて知っていたんだろうね」

「それは……この前クリーン作戦で作業をしていた時に『久しぶりですね』って声をかけられて。つい、介護のことや猫のこと、色々話しちまったんだ……。どうしよう、この猫たち……」

途方に暮れ、うなだれるじぃじ。

ここで救世主となったのが、娘の有紀でした。
凍り付いた居間の空気、父の情けない顔、そして激怒するにゃにゃ。それらを一瞥し、有紀は即座にスマートフォンを手に取ります。
(このままじゃ、おとんの地位が危ないわ)

「ママ、おとん、私にまかせて!」

有紀は子供の頃から、母を「ママ」、父をなぜか「おとん」と呼び続けています。三十歳になった今でも、その呼び名は変わりません。

フル回転で頭を働かせた彼女は、先月の地域広報誌に掲載されていた「犬猫の譲渡マッチングサイト」を思い出し、すぐさま連絡を取りました。
そしてわずか数日のうちに、親子共々引き取ってくれる心優しい里親を見つけ出したのです。

こうして猫の親子は無事に送り出されましたが、にゃにゃの不機嫌は「よそ猫」が滞在していた五日ほど続きました。
ばぁばとの平穏な暮らしに見知らぬ親子猫が入り込んできたことが、どうしても許せなかったのでしょう。

他猫軍団が出て行ってからはようやく機嫌を直し、いつもの「ばぁばの耳たぶ吸い」を再開したものの、その瞳の奥にはまだ険しさが残っています。

にゃにゃは、ばぁばの耳たぶをチュパチュパと吸いながら、視界の端でテレビを眺めるじぃじを「裏切り者」として完全マークし、今ではじぃじがなでようと手を伸ばすだけで、「フーッ!」と鋭く威嚇します。

今日もばぁばの腕の中から、じぃじの一挙手一投足を鋭い眼光で見張るにゃにゃ。
じぃじがこの家でにゃにゃの信頼を取り戻すまでの道のりは、まだまだ遠そうです。


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