[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 一、天分試験 (1/14)
ジェームス・モルガンはラザトニア5番通りの古いアパートに暮らす学生だった。
もうすぐ18歳。
そうなると義務教育が終わり、そろそろ次なる進路を決めなくてはいけない。
ジェームス・モルガンの足取りは重かった。
彼は未だ自分が何をしたいのかまるでわからなかったのだ。
今日は学生生活最後の “天分試験” の日であり、たった今、その試験を終えて帰宅の途へついたばかりである。
クラスメイトのほとんどが、今回のテストで適正が決定し、来週にはその後の進路が通達されるだろう。
学校の門を出たところで後ろから声がした。
「ジェームス・モルガン! まさか先に帰るつもりじゃないでしょうね」
振り向くと恋人のミアが立っていた。
文武両道で性格もよく容姿も美しい彼女は、誰からも好かれる人気者だった。
そんなミアがなぜ、ジェームス・モルガンのようなパッとしない奴とつきあっているか、恐らく全校生徒が不思議に思っていることである。
実際ジェームス当人も、何故なんだろう…と思うことが多々あった。
「ジェームス・モルガン、あなたはね、自分で思っているよりずっと魅力的なんだよ」
それがミアのいつもの回答だった。
しかし、ジェームス・モルガンの本質は “天分試験” が明確に確実にばっちりと明示しているではないか。
ほとんどの項目でジェームス・モルガンは平均以下…つまり、これといった特徴も特技もない…との結果が出続けているのだった。
魅力的とは程遠い。
“天分試験” は多種多様な分野における向き不向きを検査するもので、これまでの教育制度では拾いきれなかった隠れた才能も見出すことが実現し、タイプ別に名称も与えられ、それにより救われた人も多くいる。
どんな人にもチャンスはあり、その特技がどんなに少数派でも世間に認められ受け入れられるべきである!
多様細分化至上主義。
これがここ数百年続く国家の方針だった。
だが、ジェームス・モルガンはこのテストによってどのタイプにも分類されず、よって「お前は何者でもない」と突きつけられているような気持ちになってしまうのであった。
「さては、今日の結果を想って憂鬱な気持ちになっているんだな」
ミアはジェームスの腕に自分を腕を絡ませながらからかうように言った。
「憂鬱にもなるだろう、あんなの。<お前には輝かしい未来はない>って人生始まる前に宣告されてるんだぜ…」
ジェームスはため息まじりに答えた。
ジェームスのようにどの分野に対しても不向き判定を受ける者はかなりの少数派ではあるがいるにはいる。
そのような者たちには、誰にもできるようなろくでもない役職が付与される。
国によればそれも救済処置なんだそうだが。
「ジェームス・モルガン。私はあなたを信じてる。がんばればきっと誰よりも才能を発揮するはずだって。やればできる。あなたはただ、今はやる気がないだけなのよ」
そう言ってミアはジェームスの背中をバンバン叩き励ましてくれた。
彼女はいつもそう言って励ましてくれるのだが、それはかえって彼を憂鬱にさせていた。
“やればできる” それはジェームス・モルガンが一番嫌いな言葉だった。
それはできる奴の言い分なのだ。
自分ができるからって、他の人も努力すれば同じようにできると信じている。
できないのは努力が足りないからだと決めつけている。
「でも大丈夫よ、ジェームス・モルガン。あなたが不憫なことになっても私が最高級の家に住まわせてあげるから」
ミアはこのごろ、頻繁にこのようなことを付け加えて言ってくるようになった。
どんなに励ましたところでジェームスは頑張らないと察して来たのだろう。
それはつまり、ミアからのプロポーズに他ならないのであったが、ジェームスは毎回適当に誤魔化してはぐらかしていた。
ミアによると、“天分試験” のパートナー診断では、ジェームス・モルガンは最良のパートナーとなりうるとの結果だったらしい。
“天分試験” を盲目的に支持しているミアのような人間にとって、その結果は絶対的に信頼しうるものなのであった。
そんな人生も悪くはないかも…とは考えたこともあったが、ジェームスにはどこかしっくりこないのであった。
「しっくりこない」…それは人類が失って久しい感覚であった。
この感覚を持っている。それがジェームス・モルガンが特異たる由縁であり、“天分試験” の結果が振るわない原因でもあるのだった。
自分はこのままでいいのだろうか?
ジェームス・モルガンは何かのきっかけを探していた。
何かを閃くきっかけを。
「ねえ、ジェームス・モルガン、試験も終わったことだし、どこかに遊びに行かない?」
この誘いにジェームズはしばし考えた。
実は行ってみたいところがあったのだが、ミアと行くようなところではなかった。
「アルガン湖に行ってみたいんだけど、どう?」
試しに誘ってみた。
アルガン湖。
それは、旧時代の構造物に水が溜まってできたと言われる巨大な湖だ。
市街地から内陸に向かって真っすぐに伸びる高速道路の中間地点にあり、訪れる人はほとんどいないが、誰もが写真で見たことがある場所であった。
旧時代の情報は現在ではほとんど残っておらず、その構造物が何なのか、人工物なのか自然の物なのか、何もわかっていなかった。
理由はわからないが確かにそこにあるもの…その存在にジェームス・モルガンは惹かれてしまうのであった。
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