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[ショートショート] 遺伝子の記憶 - 曼殊沙華は恋をする

 私は遥か遠くの大陸からやってきた。

 最初の記憶はいつのことだろう。

 私は優しい手のひらでそっと土の中に埋められた。

 その手から離れたくなくて私は追いかけた。

 手の主は世代交代を続けて東へ東へと移動を続けた。

 私は子を作れないから分身を作って愛しい手を追いかけた。

 長い時の旅路を経て、私は東の果ての小さな島国にやってきた。

 私の同胞はこの島全体に広がった。

 懐かしい温もりの手の血を引く者たちも多くこの島に暮らしていた。

 私は一番濃い記憶を辿り、手の主を追いかけた。

 その記憶に導かれ、私は土手を駆けあがった。

 ここに手の主がいると感じていた。

 私は土手に留まった。いつしか土手は私の同胞で埋め尽くされていた。

 秋になると同胞たちは赤い花をつけた。

 また会いたい…そんな思いが込められた花だった。

 花を見に人々が集まった。

 たくさんの人が私の目の前を通り過ぎた。

 その中にひときわ、あの手の温もりを強く引き継ぐ者を発見した。

 私が追いかけてきたのはこの者だ。この遺伝子だ。

 ざわざわと私の遺伝子が反響した。

 気が付くと私は人の姿になっていた。

 長い年月をかけて私はようやく人の姿になることが許されたのだ。

 私は手の主を追いかけた。

 そして使い慣れない足のせいで転んでしまった。

「大丈夫?」

 あなたが気が付いて私を立ち上がらせてくれた。

「あ、あまりに綺麗で慌ててしまいました」

「そうだね。ここの曼殊沙華は圧巻だね。権現堂堤の秋の名物だね」

 権現堂堤というのね、この土地は。

「植えてくれた人に感謝ですね。ありがとう」

「ふふ、僕が植えたんじゃないけどね。君はこの辺の子じゃないの?」

「この辺の子ですが、歩き回るのは初めてです」

「そうなんだ。じゃあ案内させてよ」

 少し頬を染めながら申し出てくれたあなた。私はかわいくてかわいくて、今にも抱きつきたい衝動を抑えながら、少しクールな女性を装って「ええ、喜んで」と答えた。

 権現堂の秋祭り。フラフラしてると何かいいことがあるかもね。

(835文字:大幅文字数オーバーでおしまい)


たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。

今回は PJさんの『幸手権現堂秋祭り』とのダブル参加です。

『幸手権現堂秋祭り』お手伝いさせていただいています。
記事のヒントも書きました。よかったら見てね。


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