早く人生が終わってほしいと願った私が、小説を書き終わるまでの10年④
告白
彼女が時間をかけて原稿を読み終えたとき、
私は「どうだった?」と聞くのが怖かった。
その沈黙を埋めるように、
私はなぜこの小説を書かなければならなかったのかを、
ぽつりぽつりと語り始めた。
予備校~美大という楽園、そして狂気
大学入学前の一年間。
美大受験のための予備校に通っていた日々は、
それまでの人生が霞むほど刺激的だった。
「美大を目指す」友がこれほどまでに見つかるのかという驚き。
デッサンは下手だったけれど、上手くなりたい一心で描くことは、
何物にも代えがたい力を私に与えてくれた。
しかし、その輝かしい日々と並行して、
新しく築いた人間関係の中に
「数奇な出来事」が忍び込み始めた。
当時、私は村上春樹の『ノルウェイの森』にどっぷりと浸かっていた。
あのセンセーショナルな物語のおかげで、
自分に降りかかる奇妙な出来事に対しても、
どこか「免疫」があるような気がしていた。
だが、大学に入ってからも続く波瀾万丈な出会いと事件は、
やがてその免疫すらも無効化するほど、
私個人の許容量を超えていった。
「書く」ことでしか救われない
誰にも言えない出来事を、いくつも経験した。
20年以上たっても、決して口に出すことはできないけれど、
小説という形に昇華すれば、自分自身が救われるのではないか。
根拠のない確信だった。
ひどい出来事、深く傷ついた記憶も、
葛藤の末に道を開拓した日々も。
「一生の時間内に、一冊だけ書けばいい」
そう自分に言い聞かせながら、
魂を削るようにして書き続けた。
最上級の美しさへの変容
書き終えたとき、私はある真実に行き着いた。
現実として起きたときはあれほど惨(むご)く、
ひどかった出来事の数々が、
小説という枠組みに収まった瞬間、
驚くほど美しく見えたのだ。
それは、単なる「美しさ」ではない。
苦しみも悲しみもすべてを内包した、
最上級の美しさだった。
私の半生は、小説を書くという行為によって、
初めて「浄化」された。
その告白を聞いた彼女は
こう言った。
