女王の離宮〜七色の扉・後日譚〜《掌編小説》
以下の続篇として、書いてみました。
未読の方は、ぜひお立ち寄りください!
(約1200字) ↓
(続篇は、約2000字) ↓
『七色の扉』の内側に、俺はいた。
魔王が死んだという噂を聞きつけた俺は、それを確かめるため、虹の国へ向かった。
嘘か真か。
何でもあの凶悪な大魔王がそこの女王と結婚し、その後一年足らずで息を引き取ったというのだ。
とても信じられない。
俺は、虹の国への道中、あの見た目の優男風からは想像もつかないほどの強大な魔力で、俺たち一行を翻弄した憎き魔王との闘いを思い出していた。
奴との闘いで、前衛を任せた戦士ガルフは利き腕を失い、隻腕となってしまった。
あの屈強な歴戦の戦士ガルフがだ。
また、最強と名高かった魔法使いルングの魔法もあっさりと封じられ、彼は自己防衛もできぬまま、頭に致命傷を負った。
治癒士である僧侶のシェラはあまりにも皆が大怪我をするものだから、途中で治癒力が枯渇して、ルングの命を取り留めるのがやっとだった。
無論、それは正しい判断だ。
致命傷を治すことは最優先に為されるべきだ。
だが、そのため我々は苦戦を強いられ、結局のところ撤退を余儀なくされたのだった。
「勇者、ファナル。ようこそ」
出迎えたのは、虹の国の女王だった。
「わたくしの名は、レイン。このアルステファン王国の王です」
「俺の名をご存知とは。俺も有名になったものだ」
俺は不遜に応じ、女王の臣下等の顰蹙を買ったが構わずに続けた。
「貴女は、魔王ヴェルガスの所在をご存知か? かの悪虐がこの地で命を落としたと聞いて、確かめに参ったのだが」
俺が問うと、女王の美しい顔は突如哀しみに包まれたように暗くなり、思いがけないことに涙さえ浮かべた。
「…ファナルどの! 口を慎しみなされ!」
女王のすぐそばに居た近侍らしい男が、声を荒げた。この国の人々は皆、白い髪と青い目を持ち、透けるような美しい肌をしていた。まるで、天使のようである。
ただ、女王だけは違った。
彼女は、神秘な虹色の瞳を持っていた。
虹の国の女王にふさわしく。
「いいのよ、ラスタ。彼は真実を知らないのだから…仕方のないことです」
近侍をたしなめる女王に、俺は「真実?」と反問した。
女王レインは、涙を拭うと、
「…ついていらして。わたくしの離宮へ」
と、かすれた声で俺を誘った。
そして、数人の臣下と共に王の居城から外に出た。
「ファナル、貴方は思い違いをしています」
「思い違い?」
「…ヴェルガスは、悪虐な魔王などではありません。抗してくる者に対して、制裁を与えてきただけです。それは、己れと己れの国を守るため。王として当然の判断と行動です」
「何を言う。魔王が悪ではないなんてあり得ない! 悪は倒すべきものだ!」
「…いいえ。悪は、貴方がたです。わたくしが生涯ただ一人の夫と決めた方が、悪のはずはありませぬ。夫は美しい心を持った方でした。わたくしの心は夫を失い、未だ彷徨いながら、あの方の優しい言葉を求め続けているのです!」
女王が居城を出て、ようやく立ち止まった。
眼前には何もない透明な湖のような広い池が広がっていたが…。
「ヴェルガス」
女王のかすかな呼び声に、白い鳥たちが一斉に羽ばたき虹のかかる空に舞い上がった。
俺は目を見開く。
そこに、大きな透明な城…儚く繊細な光に満ちた霧の中から…『ガラスの城』が出現したのだ。
渡るための橋までもが、ガラスのように透けており、今にも壊れそうに見える。
「この城は、ガラスではありません。全てダイヤモンドで出来ています。なので強度に心配はないですよ」
「はは、ダイヤモンド…目が眩むわけだ」
「ええ。ここは、わたくしの最愛の夫ヴェルガスの眠る城ですから…」
「お母様!」
そのダイヤモンドの城から、一人の少女が扉を開けて走り出てきた。
「ミラ、わたくしたちの娘。愛してますよ」
女王は、その少女を抱きしめた。
その姿…黒髪に、黒い瞳、魔王と同じ容貌だ。
「今は、まだ幼いゆえわたくしが抑えることができますが、わたくしと魔王の血を受け継いだこの子は…貴方など敵ですらありませんよ」
俺をチラリと振り返って、女王が告げる。
「ヴェルガスの顔を見て行きますか?」
「居るのか?」
「勿論。もう目を覚ますことはありませんが…今もここで、わたくしたちを守ってくれています」
俺は女王の案内で、城の奥へと入っていった。
「…ヴェルガス?」
そこには、それこそ『ガラスの城』ならぬ緻密な細工を施されて虹色に煌めく『ガラスの棺』の中、白や薄紅色の無数の花びらに埋もれるようにして1人の男が息もなくただ静かに眠っていた。
知っている顔なのに、知らない表情。
この男を…俺は、どうして悪だと思ったのだろうと思うほどだ。
そのくらい穏やかで、慈愛の色さえ漂って見える。
「この城の主人は、ヴェルガスです。この離宮は本当に彼に相応しい清らかで美しい堅固な城です」
女王は、頬をうっすらと薔薇色に染めると、夫の色の冷めた唇に躊躇いなど露ほどもない、深い接吻をした。

(実は、ダイヤモンドの城)
この物語は、こちらの企画参加作品です。
ひらめいたので、続きを書いちゃいました…。
片桐みかんさん。
よろしくお願いします🙇🏻♀️
