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風まかせ文芸部 『真夜中の扇風機』

「ねえこれ、動きがおかしいよね。もう寿命なのかな?」
部屋の片隅で、古い扇風機が回っている。
不安げな音を立てて。
「……かもな。だいぶ古いもんな。いつ壊れてもおかしくない」
「そうだね。ずっと使い続けられるわけじゃないもんね」
「エアコンつけようか。今年の夏はまだ使ってなかったけど」
「いいよ。別にまだ暑くない。それよりさ、この写真どーする?あなたが持っていく?」
二人が向かい合って座るテーブルの上に、数枚の写真が無造作に置かれている。
チェキで撮った二人の写真。
これは……宮古島だったか、青く澄んだ海を背景に、僕達が笑っている。
「いらないなら、僕がもらってくよ」
テーブルに手を伸ばす僕を、
「処分……しない?」
と、彼女が止める。
「処分……」
「やっぱりさ、別れるんだから、二人の共有物は捨てるべきじゃないかな」
「……なんで?」
「なんでって……忘れるべき相手になるわけでしょ?」
「君のことは忘れても、宮古島は僕の思い出だよ」
「そうだけど……そこに私もいるし……」
「君は恋人ではなくなるけど、一緒に宮古島に行った元カノとして記憶に残る。完全に忘れられるわけないんだから。恋愛感情は……なくなるけど」
「……スマホの画像も消さないの?」
「君が消してほしいんなら、君だけが写ってる画像は消すよ。でも、僕がそこにいるんならそれは僕の大切な思い出だから」
「……大切なんだ」
「そりゃそうだよ。あの日はもう二度と戻らない」

時刻は零時半。
古い扇風機は相変わらず不安げな音を立てている。
カコン……カコン……カコン。
そういえば、この扇風機は、君と同棲を始めた時に買ったものだった。
夏の手前、冷房が活躍するまでの間、ずっと首を振りながら僕達を交互に見てた。
僕を見て、彼女を見て。
きっとあの頃は、どちらもが幸せな笑顔を浮かべてた。

「じゃあ、そろそろ寝ようか。明日の朝イチで、私は出ていくね」
「うん。落ち着いたら連絡くれるかな。後で送りたいものとか出てくるかもしれないし」
「全部、処分してくれていいよ。何も送らないで」

長く一緒にいたら、どこかしら綻びが生まれる。
あの頃、あんなに快適に動いていた扇風機だって、今ではガラクタのように息絶えかけている。
僕達の恋も息絶えた。
どちらが悪いわけじゃない。
きっと最初から、一緒にいられる寿命が設定されていたのかも。
ただ、その時がやってきただけ。

二人で過ごす最後の夜。
断続的に聞こえていた、消し忘れた扇風機の不快なノイズが力尽きて途絶える頃、僕はやっと眠りに落ちた。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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