短編小説 未知と演技力
母が作ったきのこスープを飲むと朝の支度を始め家をとびだした。これは、母がどこかの山で山菜を採りに行った時のものだ。
「今日だったよね。」
「そうだよ。何、今さら。」
「いや、確認確認。」
俺は、愛菜に連絡してから花束と予約しておいたケーキを取りに行くとその足で劇場へと足を運んだ。
優里誕生日サプライズ公演。そこは、小さな劇場で友達の劇場の看板が立っている。俺は、階段をだかだかっと降りるとみんながいることを確認した。
「いるいる、よかった。みんな、無事に集まったね。」
「壮馬が遅いんじゃん。もう、公演は始まってるよ?」
「悪い、それでは突撃しますか。」
俺たちは、そっと劇場の扉を開くと中をのぞいた。
今日は、優里の誕生日公演。俺たちはあるサプライズを思いついた。それは、優里の一人芝居公演の中俺たちが観客席から現れ観客と一体となり優里のサプライズ誕生日公演を大いに盛り上げるという計画だ。
演出家とも話し、俺は決行のためみんなに連絡を取り計画を話した。
みんなは、賛同してくれた。これが、今日やるサプライズの発端だ。
「愛菜、中はどうなってる?」
「いるいる、優里ちゃんが芝居してるよ。優里の公演で間違いない。」
ペンライトや風船を持ってきてみんな飾り付け役として何かしら用意してくれた。
俺はというと、ぴえろの格好でここまでやってきた。
なんとも、この格好で不審者として捕まらなくてよかった。
すると、俺の立っているところからなかの様子が少し見えた。
俺は、驚き一旦みんなを待機させた。
「まずいことになった。」
「壮馬、どうしたの?」
「一旦考えよう。」
「だから、どうしたの?」
「中に、一人しか客がいない。」
「それが?さあ、みんな中に入ろうよ。」
「いや、ちょちょっと待て。愛菜。」
「だから、何?」
「わからないのか?このままやっても、駄目だ。」
「このままいくと、悪い意味でびっくりさせちまう。」
「なんで?」
「俺等が、この人数で言ってみろよ。絶対、引くだろ。」
「何で?」
「圧が強いんだよ。観客1人に対して俺等が。」
「何で?いいじゃん、サプライズやろうよ?」
「いや、こんなの女子高生が鍋に豆腐を何も考えずに手から離すのと同じだ。」
「ん?どういうこと?」
「周りなんか気にしてないってこと。周りが見えてない。」
「いや、そんなふうに考えなくても。」
「俺は、迷惑をかけたくない。」
「なら、どうするのさ。こんなに準備してこんなにみんなも集まってくれたしみんな優里のためなんだよ。」
「楽屋サプライズで、手を打たないか…。」
「壮馬は気が小さすぎなんだよ。みんな、やりたいよね。」
「やりたいよ。」
「私も、ここは愛菜にさんせいかな。」
「僕も。いい機会ないよ、こんな。」
「んー、じゃあもうわかった。好きにすればいいよ。俺等、演者なんだ。みんなの、演技力を信じるよ。」
「そうだよ、私達は演者なんだから。色んなところでみんなを巻き込んでその場の雰囲気を変えたりしてきたじゃん。壮馬は心配しすぎなんだよ。」
「うん。みんな、信じるよ。やろう。」
俺は、少しみんなが言うから心が折れた。
それに、なんとなく信じてみたくもなった。なんだろう、この気持ち。
すると、開演している中からとてつもない大声が聞こえてきた。
「つまらん。」
それは、ただ一人の観客の声だった。
「これでも、大丈夫といえるのだろうか…。」
また、心配しだしたがここは一気にやるしかない。
「みんな、入ろう。」
俺たちは、曲を鳴らすと会場へと乗り込んだ。
ハッピーバースデー ハッピーバースデー ハッピーバースデー
すると、俺の頭がぐらついた。
「なんだ、急に。あれ、ここはどこだ?愛菜は?優里は?」
そこには、拡声器を持ったおじさんとそれに多くの警官そして刃物を持った男がいた。
「そうだ、俺は警官。それじゃあ、優里と愛菜とみんなは…。そうか、俺は幻覚をみてたんだ。」
拡声器を持つおじさんの合図で俺らは突撃した。
事件は、丸く収まった。
「おっ、ニュースでやってる。お手柄だね。」
「そういえば、壮馬巡査は今日はお誕生日だったのでは?」
「そう、今日は誕生日だったんだ。」
とんだ、誕生日だ。
まさか、母の作ったきのこのスープを飲んで
幻覚をみて、これが今年の誕生日になるなんてな…。
「つまらん。…。」
