Honda FCに昇格はない。だが、それでいい。
昨季、2025年のJFL。Honda FCは2年ぶり11回目の優勝を果たしました。しかしながら、Honda FCのカテゴリに変化はありません。
今年も来年も、JFL――日本フットボールリーグの所属です。東海リーグに降格しない限り。Honda FC、あるいは本田技研工業の方針転換がない限り。彼らは延々とJFLに所属することになります。
今回は、「だが、それがいい」という話について、綴っていきたく思います。
なぜ、変わらないことが良いのかって? わかります。思いますよね。必然です。
だから筆者は、こう返します。「変わらないことで、全てにおいて選択に一貫性が出る」「方針が揺らがないことで、思想が明らかになる」「立ち位置を変えないことで、ある種の象徴となる」。
今から私は、その辺りについて徒然語ります。少々お付き合い頂ければ、実に幸いです。
そりゃ言われるよね
さて。Honda FCがJFLで優勝するたびに、そこには賛辞と批判、あるいは悪気はないであろう一言が飛び交います。
「やはりHonda FCは強い」
「プロに行かないチームにプロへ行きたいチームの枠が潰されるの、おかしくね?」
「Jへ来い」などなど……
批判に関しての筆者の意見は以前にまとめてあります。よってそちらを見て頂きたく思います。
で、話を戻しますが。まあだいたいどれもこれも道理と言うか、筋の通ったものではあるな、と。筆者は勝手に思っています。だって私も見たいもの。Honda FCが、Jリーグで躍動するところ。
とはいえ現実は非情。Honda FCはすぐには方針転換しそうにないですし、J3とJFLの入れ替え制度も、そうそう変わりそうにありません。つまり、嘆いたところで状況は変わらない。でも。それでも。Honda FCは「それがいい」のです。
連綿と引き継がれる系譜
まず一つ。Honda FCには歴史があり、引き継がれ続けた系譜、戦術があります。
多少の変化はあれども、パスサッカーをメインとした攻撃重視の戦術を繰り広げ、プロチームを相手にしてなお、一歩も引かない戦いを展開します。
実業団チームの利点である、メンバー変化の少なさを利用してチームワークを鍛え上げます。そしてそれを用い、多少の個人戦力差であれば、総合力で逆転してしまいます。
また、この利点は戦術や技術の浸透度にも及んでいます。その結果、どんな状況下でも。総合的には大崩れしない戦力を構築できております。現行JFL27回。いまだに二桁順位が一度もないことが、その証明と言えるでしょう。
これらはすべて、一朝一夕ではできないことです。創部から50年以上。JSL、旧JFL、現行JFLと積み上げて来た歴史が、築き上げてきたものです。
故に、「門番」の二つ名は重いのです。プロとアマの狭間に立つHonda FCにとって、ある意味最も相応しい称号なのです。たとえそれが、周囲から付けられたものであろうとも。
その歴史が、どこまで続くのか。それを見届けるのも、ファンから見た魅力だと。筆者は思うのです。
昇格、そして輝かしい未来は、夢。Honda FCにそれはない。では、Honda FCになにを見ているか?
少し、話題を変えます。
(あくまで一般的な意味で)第一種サッカークラブを応援する方々がチームに見るのは、「夢」だと思っています。優勝の夢。昇格の夢。日本へ、世界へと羽ばたく夢。
でも。Honda FCには、「未来のカテゴリ拡張」という夢はありません。先述した通り、方針転換がなければJリーグへの道は開かないのです。
それが良しであれ悪しであれ、Honda FCは今後もプロとアマの間に立ち続ける運命なのです。今のところは。
ですが。唯一。Honda FCファンがHonda FCに託す夢があります。「天皇杯での活躍」。
そう。日本サッカー界でただひとつ、プロとアマチュアが剣を交えられる場。そこでの活躍を、Honda FCを応援する人々ーー少なくとも筆者はーー祈念しているのです。
Honda FCは、一時期本気で天皇杯優勝を目標に掲げておりました。近年は成績を鑑みて僅かにトーンを下げましたが、それでもプロチーム撃破を視野に入れていることに変わりはありません。そして、それを夢物語にしないだけの実績を持っています。
2007年、2019年のベスト8進出。2021年の横浜F・マリノス撃破。その他にも、多くのJチームの屍を、Honda FCは積み上げて来ました。
彼らがJチームを撃破する度にネットでは一部のサッカー界隈が沸き上がり、Jチームが中心になりがちな日本サッカー史に、Honda FCの名を刻み込みます。
また、かつてHonda FCを通ったプロチーム。そのサポーターたちにその恐ろしさを蘇らせます。
そして時には、全国ニュースで持ち上げられます。JFLで優勝しても、それはほぼほぼないのにです。
これは本田技研工業にとって格好の宣伝装置であり、Honda FCファン――少なくとも筆者――にとっては静かなる誇りへと変わるのです。
無論、この事実をもって「Honda FCはプロより強い」と言うつもりはありません。プロとHonda FCは別軸であり、全く異なる強さの積み上げ方をしています。それが真っ向からぶつかり、その回ではHonda FCが勝利した。それだけです。
ですが。はっきりと言ってしまえば、Honda FCは確実に個人戦力では劣ります。助っ人外国人も一切いません。その中で一流のプロを跳ね返し、そして打ち勝つ。これが誇りでなくて、なんと言えばいいのでしょう。
筆者はかつて、2019年の浦和レッズ戦で脳を焼かれました。2021年の横浜F・マリノス戦でも魅せられました。
2つの夜において、私は「昇格だけが正義ではない」「プロとは別軸の強さが、この世には存在する」ことを魅せられました。
すなわち。私にとっては原体験であり、また見たい光景なのです。それを願ってなにが悪いと、筆者は言葉を置いていきます。
結局お前は、Honda FCになにを見ているんだ
話題を、整理しましょう。ここまで私は、2つの光景を提示しました。
・Honda FCの歴史が、連綿と続くさま。
・Honda FCが、天皇杯で名を挙げるさま。
でも、思うことでしょう。「直接的な光景――一般的な勝利や、JFL優勝――とかはいいのか」と。
必然、筆者は答えます。「いいわけないじゃないか。ただ、前者における『証明の光景』である」と。
そう。私にとって勝利の光景は。優勝の光景は。Honda FCの積み上げた歴史、その在り方の証明に他ならないのです。無論嬉しい。感情は爆発する。でも、見ているものの全体からすれば、一部。それが筆者の、考え方なのです。
そして、ある意味で言えば後者も『証明の光景』と言えるのかもしれません。ですが。ありていな言い方をすれば、「価値が違う」とでも言うのでしょうか。
Honda FCがプロを相手に見せるその在り方。それは、かつて分たった道に対する、「存在の提示」とも言えます。
そして勝利を成せば、在り方の「強さ」を明示することになります。「正しさ」ではなく、「強さ」。Jリーグを目指すこととはまた異なる輝きを、日本サッカー界に示すことになるのです。
そしてこれは、日本サッカー界の多様性にも繋がります。
それが良しであれ悪しであれ、一番下部のリーグからJリーグまで。一本道で構築されているのが現状の日本サッカー界(第1種)です。
その中途ーープロとアマの狭間に、プロとは異なる強さを示すチームが、ポツンといる。
これは悪く言えば壁ですが、良く言えば様々な形態のチームを残すことにつながります。
育成型チームにせよ。
行けるところまで駆け上がるチームにせよ。
トップオブトップを目指すチームにせよ。
様々な型があることは、日本サッカー界にとって悪いことではない。筆者はそう思うのです。
一本道の構造の中にあって、あえて立ち位置を変えない存在。
それは、必然として壁となり、そう呼ばれるでしょう。でも同時に、別解の提示ともなり得ます。
上へ行くことだけが、価値ではありません。答えではありません。
昇格しないという在り方もまた、確かに価値のある選択である。答えの一つである。筆者はそう、思うのです。
以前別の文章で述べましたが、Honda FCはまことに不思議なチームです。日本サッカー界の、特異点です。
結局のところ筆者は、その生態を見届けたいだけかもしれません。けど。それで十分。今はそう、思っています。
