見出し画像

社長が教えてくれたこと10:伝わる想い、示す行動

※この物語は、半分フィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

入社して1年。私は新卒研修を任され、挨拶や笑顔の力、誠実さの重要性を教えていた。

ある日、私が間もなく始まる会議の資料を準備していると、新入社員の沢田が声をかけてきた。
沢田はおどおどした声で、「すいません…。あの、研修報告書の書き方が分からなくて…」と、控えめに話しかけてきた。
その言葉に滲む戸惑いにも気づかず、私はパソコンに目を向けたまま、こう返した。
「今ちょっと無理だから、あとにしてくれ!」と返事をした。
「…すいませんでした」
そう答えた沢田の曇った表情が、一瞬気にかかった。

するとその時、江川社長から「ちょっと来てくれますか?」と静かに声をかけられた。
社長は机越しに真剣な眼差しを向けると、こう話した。
「忙しいのにすみません。でも、さっきの沢田君への対応。あれはどうでしょう。
『困ったことがあれば、何でも質問してくれ』と言ったばかりでしたよね。彼はその言葉を信じて質問したのではないでしょうか」

その問いかけに、私は言葉を詰まらせた。
「いや、それは…」と言いかけるものの、ぐうの音も出ない。
社長はさらに続けた。
「人の感情というのは不思議なもので、好きだとか、愛しているという、プラスの感情は10分の1しか伝わらないけど、嫌いだとか、苦手だとかのマイナスの感情は10倍になって伝わるんですよ。
沢田君はさっき、どう感じたと思いますか?
きっと『声をかけるな!』という気持ちが10倍になって伝わって、『もう小泉さんには質問したくない』と思ったのではないでしょうか。
研修でどんなに素晴らしい言葉を並べ立てても、それをあなたが日常の行動で示さなければ、その言葉は何の意味も持ちません」

社長の言葉がグサッと胸に突き刺さる。
『普段はちゃんと話を聞いています。たまたまなんです』と、言い訳をしたくなるが、そうではない。
沢田にとっては最初の質問。いつでも質問してと言われ、勇気を出した結果が、あの対応。…どう感じただろう。
私は、「沢田君に謝って、話を聞いてきます」と言って社長室を出ると、すぐに沢田に頭を下げて謝った。

沢田は驚いた顔を見せながらも「ありがとうございます、私の方こそ、状況も考えずに声をかけてしまって。あとで良かったんです。でも、こうして話していただけてホッとしました」と答えた。

その日の沢田の報告書には、こう書かれていた。
『講師の小泉さんは、研修を通じて笑顔の大切さや誠実さを教えてくれました。
誠実に人と向き合うとは、相手の気持ちに寄り添い、自らの誤りを認めることだと話されていました。
小泉さんはその言葉通りの行動を示し、率先垂範を実践していました。
塾教師として、私も子供たちに行動で示せるよう学び続けます。』

報告書を読んだ私は、沢田の言葉が心の中で何度も響いていた。
「伝えることは難しい。でも、だからこそ行動で示すことが大切だ」と改めて感じた。

続きはこちら▼

いいなと思ったら応援しよう!

tak! 褒められて伸びるタイプです。よろしければ応援お願いします!

この記事が参加している募集