会話の0.2秒が、やさしい社会を連れてきた
『会話の0.2秒を言語学する』を読んだ。
YouTubeチャンネル"ゆる言語ラジオ"、水野太貴さんの著書だ。
ゆる言語ラジオでは、京大で言語学を学んだ編集者水野さんが、理系の堀元さんという相方と、言語学に関連する様々なゆる面白いトークを繰り広げる。
お二人の知識の広さと、リズムの良い掛け合いが面白くて大好きなチャンネルだ。
その水野さんの著書だから、迷い無く手に取り、一気に読み上げてしまった。
正直に言うと、
本を読み始めたときは、ここまで、
子供を社会に出す怖さを持つ母親の背中を優しく「ぽん」と押す、
お守りみたいな本になるとは、思ってもみなかった。
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会話という技術の高度さ
人の会話内でのレスポンスの速さは、0.2秒だそうだ。
本の中では、その時間内に人の頭の中で行われるタスクについて、細かく分析した研究結果を紹介しつつ、分かりやすく言語化している。
単語の意味をつかみ、語順を追い、文脈を読む。
私たちは会話の中で、そんな作業をほとんど無意識にこなしている。
片手で皿回ししながら、もう片方の手でボールをジャグリングする、曲芸師みたいなものだ。
会話に不自由が無い人にとっては、朝飯前どころか前日の就寝前くらい、たやすいことのように思えるが、
実は劇的ビフォーアフターの巧みの技に匹敵するほどの、とても高度な技術だ
また、発話についても、かなり複雑な舌や唇の高速移動が必要で、母音と破裂音が交互に来るような単語は、吃音の方には難しい。
大人になって克服しているように見える人も、実は努力でカバーしてるだけというパターンもあるようで、簡単な問題ではない。
発達に問題を抱えた方や吃音の方などにとって、この0.2秒の世界の過酷さや理不尽さを感じた。

iPadで読書したり、YouTubeを見たりする至福の時間❤️
巣篭もりするミノムシ気分。
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昨今の言語化流行り
世の中には、物事を頭の中で考える時に、まずイメージが浮かぶ、ビジュアルシンカー(視覚思考者)というタイプの人がいる。
私は正にそのタイプだ。
脳内では、私をヒロインとした、私による私のためのドラマが、日夜繰り広げられる。
言語化するには、動き、表情、感情などを、一度つぶさに自問自答するため、時間が掛かる。
でも、生来のMっ気気質により、決して嫌いではなく、むしろ好きだから、
こうやってゆっくり文章にするのはクロスワードパズルのようで面白い。
それに比べて、頭の中で"言葉"で考える人々は、それをそのまま口に出せば良いだけだから無理がない。
そういう人を言語思考者といい、社会で言葉を自在に操れると優位に立ちやすいために、とても有利だ。
昨今、LINEで文字を打ち、AIへのプロンプトも言葉で出すため、言語化社会が促進されている。
よりスピーディーに出来る人が重宝され、
出来ない人は正直、
「えー、良いなぁ。ずる〜い」
と、不満たらたらである。
そんな流れの中、今まで見えていなかった生きづらさを、
水野さんが言語化して、「待った」の注意喚起をしてくれたのだ。
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私の体験
そういえば、
会話の中で、こんなことが何度もあった。
返しがとても早い人とのやりとり。
話の最初の方を少し聞いただけで、勝手に都合の良い結論を出してしまう。
相談を非難として受け取って怒り出したり、
質問の意図を理解せず、的を射ない答えばかり返してくる。
多分、Mっ気が無く、面倒臭がりでせっかちなんだろうと勝手に分析している。
高速道路で、急に煽り運転の車にロックオンされて、
カーナビにも
「10メートル先の分岐を左、次を右、その次は左です。それから、、、」
と、容赦なく振り回される感じ。
「えっ?そこ?」って言うところで揚げ足取りされて、話が思わぬ方向へ進んでいく。
修正しようとハンドルを切れば切るほど、余計に感情を逆撫でしてしまい、もうどうにも間に合わない。
結局、強い言葉で体当たりされて、こちらが諦め、インターから「とほほ」と退場するしかなくなる。
一見、論破されたような形に見えて、相手はスッキリしているが、
傷つけられたこちらは、問題も解決しなくて憤懣やるかたない。
若い頃、ガラスのハート乙女だった私は、
「自分の話し方が悪いのかもしれない」
と、ひたすら自分責めしていたから、そんな若者がいたら手を差し伸べてあげたくなる。
でもこの本を読んで、
それが「会話の速さが優位になる構造」だからだとはっきり分かって、
ずっと抱えていた悩みが、まるで沢山の蝶々が一斉に、ひらひらと青い空へと舞い上がるような爽快さがあった。
私は、ただ単に人との相性の問題だと思っていたが、
社会の側のルールだったのかと思うと、なんだか肩の力が抜けた。

日本のデザイナーが和紙をイメージして作ったもの。
花の形なので、蝶々モチーフのピンチを付けている。
シェードの影が壁や天井に映ると、幻想的で綺麗😍
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水野さん、ありがとう
この本には、
今の若い世代だからこその視点が、詰め込まれているように感じた。
発達のでこぼこを持つ子どもたちと、早い段階から共に過ごす、
インクルーシブ教育を受けてきた世代。
どうすれば、色々な特性を持つ人が、社会の中で共存していけるのか。
その問いを、実生活の中で考えてきた人ならではの発想だと思う。
本の紹介で、水野さんはこう話す。
スラスラと流暢に会話することが当たり前だという意識は危険。
そうじゃない人たちこそ、この本を読んで、配慮できる社会を作っていかなければならないんじゃないか。
本当にその通りで、水野さんらしい優しい角度からの結論に、ますます大ファンになってしまった。
こんなに優秀で、心根のいい青年が育っている日本は、まだまだ捨てたもんじゃない。
つい子供がいると、社会に出すのが怖くなる。
うちの子たちも、私に似て、人間関係が苦手で、
出来る限りぬくぬくとした家庭内のみでお山の大将しながら、
オタク活動に勤しむ方が好きなタチだから。
でも、昭和には存在しなかった、平成生まれ達によって作られた懐の深い世界に、
きっと、"人をダメにするソファー"に匹敵するくらいの、安住の地を見つけられるに違いない!
そういう希望が持てた一冊だった。
ゆる言語ラジオでは、30カ国語を研究対象とするガチの言語学者、黒島先生と、シジュウカラの言葉を解読した動物言語学者、鈴木先生の回が、オタクっぽくておすすめです。
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