「夫の感受性が迷子になった日」 #58
昔は宇宙のニュースだけで目が輝いていた人が、今夜は
「何も湧かない」
とため息。
大人になるって、こういうことなんでしょうか。
…とりあえず夫は、「アルテミス」を百回唱え始めました。
4月3日(深夜、静けさがやけに耳に残る)
寝室の灯りが消えたのに、夫の声だけが小さく続いている。
「アルテミス、アルテミス、アルテミス……」
まるで呪文。しかも指を折りながら、律儀に百まで数えている。
大人が深夜にやることか、と言いたいのに、真剣すぎて笑うタイミングを失った。
聞けば、NASAの月フライバイだの、SLSがどうの、有人飛行試験が始まっただの。打ち上げ成功!本来なら祝杯案件らしい。
なのに本人は、成功という言葉の横でしょんぼりしている。
「ワクワクが湧かない。感受性の衰えだ」
と、こちらが頼んでもいない診断まで下して。
正直、私は宇宙の専門用語を浴びると、頭の中にすぐ“冷蔵庫の残り物”が浮かぶタイプだ。
アルテミス? "そんなにお金使って何になる"、とか、"別に?だからなんなの"、みたいな、ちょっと昔の不良みたいな言葉が夫の口から漏れると、いよいよ心配になる。
あなた、青春をどこに置き忘れてきたの。
でも、夫が怖がっているのは宇宙じゃなくて、置いていかれる感覚なのかもしれない。
"今からパイロットにはなれない"、"もう追いかけられない"、"無力だ——"
そのあたりの言葉が、深夜の空気にじわっと染みた。
私はつい「追いかけるって、何を?誰を?」と心の中でツッコミつつ、胸の奥が少し痛んだ。
子どもの頃の“好き”は、持ち方が変わるだけで、消えるとは限らないのに。
すると夫は急に顔を上げ、
「アインシュタインもホーキングも、思考実験で偉大になったんだ」
と言い出した。
大先生を持ち出すときの目の輝き、まだ残ってるじゃない。
"思考実験かっこいい言葉だ"、と自分で言って自分でうなずくあたり、相変わらず単純で助かる。
「手の届かないところを、あーでもないこーでもないと考えるのが大事。諦めない。妄想だ。AIも活用して——」
と、言い切った瞬間、さっきまでのしおれ具合が嘘みたいに肩が上がった。
「よし、“思考実験”に対抗して“AI妄想実験”だ!」
と宣言して、また指を折り始めたので、私は思わず布団の中で笑ってしまった。
ワクワクは、打ち上げのニュースの中じゃなくて、あなたの頭の中にちゃんと燃料がある。たぶんそれで十分だよ。
明日の朝、コーヒーを淹れながら、その妄想の続きを聞くのも悪くないなと思った。
※ 本エッセイは下記の構成になっています。
▪️本編:3パターンあります。
・テキスト版
・コミックス版:のぶさん(NotebookLM)作成
少女漫画風 少年漫画風
▪️解説編:のぶさんが、面白おかしく解説してくれています
▪️特別編:本編の約5倍の文章量で再構成したロングverです。
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