社員戦隊ホウセキ V 第2部/第117話;嬉しい予想外
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八月十四日の土曜日の正午過ぎ。
巨人の姿となったニクシム神の率いるニクシムの軍勢が、本格的な地球の【救済】を開始した。ニクシムの軍勢は圧倒的な力で、沸佐にある大国の軍事基地を短時間で壊滅させた。
その直後、ゲジョーの技術で電波ジャックをしたマダムは、スマホやテレビを介して地球の民に告げた。
三日後までに統治権を放棄しなければ、実力で奪うと。
このことは民を震撼させ、その波紋はあらゆる場所に広がっていた。
八月十六日の月曜日の午後八時頃。日が沈み、空が暗くなると共に暑すぎる気温も少しは下がり始めた頃だった。社員戦隊の一同が、寿得神社の離れに集ったのは。
離れの一階で会合が開かれた。戦隊の五人の他には、リヨモ、副社長の社林千秋、先代社長で宮司の新杜国光の三名が集まった。
最初に喋り始めたのは、千秋だった。
「大国の軍隊は、沸佐の基地に核ミサイルを撃ち込む予定なんだって。攻撃を中止して貰うよう、姫と一緒に出鱈名誉って国会議員に頼んだんだけど…。見事に拒否られた」
苦虫を嚙み潰したような顔で、千秋は交渉の結果を報告した。リヨモは当時を思い出し、俯いたまま湯の沸くような音を小さく鳴らしている。
「核ミサイルって…。それでニクシム神を壊せるかもしれないけど、社長や他の人質はどうなるんですか?」
真っ先に十縷が訊ねた。千秋は舌打ちをし、リヨモは感情の音を大きくした。
「多少の犠牲はやむを得ないという考えのようです」
単調なリヨモの言葉を受け、室内に落胆の溜息が漏れる。リヨモは、湯の沸くような音を更に大きくした。
「民を守るのが王家の役割。民の命より重いものは無い。ワタクシの父上は、ずっと申しておりました。それが絶対に正しいとは申しませんが…。かと言って、あの者のように、平然と民を切り捨てる者は…」
腸が煮えくり返って仕方ない。リヨモの感情の音は、そう表現していた。リヨモの精神状態を気遣い、光里は立ち上がってリヨモに寄り添い、宥めようとした。
それはそうと、状況はかなり深刻だ。
「マダム・モンスターは三日の猶予を与えると言ってましたわよね? もう明日…いえ、数時間後かもしれませんわよ。ミサイルが発射されるの。どうなさいます?」
伊禰が言った通り、事態は一刻を争う状況だ。厳しい現実が、一同の肩に圧し掛かる。千秋は顔を歪めながら言った。
「変な話だけど、ミサイル攻撃は失敗すると思うの。私たちの会話、ゲジョーに盗み聞きされてたみたいだから。だよね、姫様?」
千秋は不意打ちのように、リヨモに話を振った。リヨモは慌てたのか、少しだけ鉄を叩くような音を鳴らした。
「はい。あの給仕係は、ゲジョーでした。ワタクシが気付いた後は、二度と現れませんでしたし。仮にあれがゲジョーでなかったとしても、ゲジョーには諜報網があります。計画はニクシムに漏れていると考えた方が良い気がします」
リヨモの話には、推測が多かった。このことも踏まえて、時雨は今までの情報を整理する。
「今は、ニクシムよりも核ミサイルをどうするかの方が問題ですね。ミサイルの発射前に社長たちを救出するという策もありますが、簡単にはできませんから。ミサイルを止めた方が確実でしょう」
時雨は軍事知識を動員して考えた。
「核ミサイルは潜水艦に積んで、東京湾から発射する可能性が高いと考えられます。ですから、小田射場で見張りをして、ミサイルの発射を確認し次第、ホウセキングで対応します」
大まかな方針は決まった。十縷・和都・時雨はキャンピングカーで今から小田射場へ向かい、海岸で待機し、交代制で海を見張ることになった。
時雨の推理が外れた場合を考えて、光里と伊禰はリヨモと共に寿得神社の離れに残ることになった。これなら不測の事態が起きても、全員が出動できなくなるという事態には陥らない。
方針が決まり、男性陣はすぐ出向くことになった。
「それじゃあ、小田射場まで行って来ます」
挨拶をそこそこに、十縷たち三人は離れを発とうとした。縁側で靴を履き、光里たちに見守られながら、扉へ向かおうとしたその時だった。
「遅くにすみませーん」
そんな声と共に、離れの扉が開いた。全く想像していなかった事態に、室内にはリヨモが鳴らす鉄を叩くような音が響き渡った。
「モネ! 一体、どうしたの!?」
唐突な来客は、最音子だった。光里に問われて、最音子は苦笑する。
「ちょっと事情は複雑なんだけどさ…」
話は、本当に複雑だった。
きっかけは、漫画家の小曽化浄がSNSに投稿とのことだ。その投稿とは、ニクシムに捕らわれた愛作を人質の救出を最優先に考えて欲しいと、政府に訴える内容のものだった。
最音子はこの投稿にイイネを押し、同意するという旨のコメントもした。すると、どういう訳か小曽化浄からDMが届いたらしい。
「新杜の社長さんを本当に助けたいなら、寿得神社の離れに来て欲しいって。同志も集まる筈だからとか書いてあってさ…」
最音子の話に、その場に居た全員が首を傾げた。
(漫画家の小曽化先生って、社長の顧客だったよね? だから、社長の救出を呼び掛けるのは解るとして…。どうして最音子さんに、そんな連絡をした? まさか、社員戦隊のことを知ってるとか?)
十縷の脳は、自ずとそんな想像をしてしまう。その間に、最音子は話を進めていた。
「で、寿得神社に来てみたら、本当に仲間っぽい人たちと合流して…」
最音子はそう言った後、屋外の方に声を掛けた。すると最音子に呼ばれて、屋外に居た人たちがゾロゾロと離れの中に入って来た。その顔触れに、社員戦隊の一同は驚かずにはいられなかった。
「師匠? どうなさったんですか?」
「琴名! お前、どうして?」
「露花! 鉄山先生まで!?」
伊禰に花英拳を伝授した武道家の伊達武義。
和都の友人である国防隊員の琴名佳令。
国防大学校で時雨と同期で、国防隊を辞めたインディーズ歌手である柳生露花。
そして国防大学校の教官で、愛作の剣道仲間でもある鉄山教官。
そんな四人が、最音子に続いて離れに入って来た。全く想定していなかった事態に、室内は困惑に包まれた。
「北野以外の人とは、初めましてですね。国防大学校の鉄山蔵馬と申します。新杜社長が危機ですからね。国防隊員の端くれとして、動かない訳にはいきません」
最初に語り始めたのは、鉄山だった。彼はオールバックでちょび髭の上品そうな雰囲気を持っていた。珍しそうに、十縷たちは彼の顔を眺めていた。
「ビックリしましたよ。まさか、鉄山先生が小曽化先生のSNSを見てたなんて…」
「私も。まさか、こんな形で琴名君たちと再会するなんてね」
琴名は苦笑いしながら、露花はしみじみと、この邂逅を噛み締めていた。
「これ以上、弟子にばかり危険なことはさせられんからな。お前の会社の社長、絶対に助けるぞ」
頭髪が灰色で長い髭を綺麗に整えた和装の伊達武義は、縁側まで歩いて行き、伊禰をずっと見ながらそう言った。伊禰は目を潤ませながら、師匠に会釈をした。
(知らない人もいるし、訳が解らないけど…。なんか凄いメンバーが集まった! 小曽化先生、本当に凄いぞ!)
この意味不明な展開に、十縷は謎の熱さを感じた。そして、その熱は思わぬ作用ももたらした。
「そうだ! 国防隊の方もいらっしゃるんですよね? 皆さん、僕のインスピに付き合ってくれますか?」
ようやく、十縷は名案を思い付いた。最音子や琴名は首を傾げたが、社員戦隊のメンバーは表情を輝かせた。
「待ってたぞ、ジュール」
時雨に言われて、十縷は話した。思い浮かんだばかりのインスピを。
十縷がインスピを語った後、十縷たち三人は当初の予定通り、戦隊のキャンピングカーで小田射場に向かった。
光里と伊禰は、集まった最音子たちと共に、国光とあかねが住居として使っている本殿の横の建物で一晩明かす運びに変更した。
『王家のイマージュエルとキャンピングカーのイマージュエルをリンクさせて、海の映像をお届けします。可能な限り、暗さを補正できるように努めますので』
小田射場に向かう道筋に、リヨモがブレスに連絡してきた。ジュエランド人は睡眠を要さないので、夜通しの見張りには最適だった。
「最音子さんが来ただけでも驚いたのに…。琴名さんや柳生露花さん。それから、祐徳先生のお師匠さんに、隊長の大学の先生まで来ちゃうなんて。なんか、凄く心強いですよね!」
一人で居室に座る十縷の声は、かなり上ずっていた。
「核ミサイルとか聞いた時は、凄く怖かったけど…。そんな気持ちも吹き飛びました。何とかなりそうな気がしてます!」
予想外に駆けつけた支援者たちは、十縷を大いに勇気付けたようだ。リヨモも同じ気持ちだと、ブレスを介して鈴のような音を送ることで、示していた。
「そうだな。みんな、社長たちの命を助けたいという気持ちは、同じだからな」
助手席の時雨が、十縷に同調してそう言った。ハンドルを握る和都もこれに続く。
「ああ。社長も他の人質も、絶対に助けるぞ! 誰も死なせねえ!」
いつになく、和都の声は弾んでいる。その意志を反映するかのように、夜道を疾走するキャンピングカーは速度を上げた。
次回へ続く!
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