社員戦隊ホウセキ V 第2部/第123話;救出作戦開始!
前回
八月十七日の火曜日。ニクシムと地球の攻防が続いている。
ニクシムが本陣を構えた沸佐では、ニクシム神の前で、マダムとゲジョーが各地の戦況を確認していた。
ゲジョーが掲げる銅鏡は、名潟町における社員戦隊とスケイリーの戦いと、暑宜にある大国の軍事基地を襲撃するザイガと多数のウラームの様子が、それぞれ映し出されている。
「ザイガの方は心配無さそうじゃな。宝世機を降りて白兵戦をするとは、余裕の証拠じゃな」
ザイガが変身したホウセキブラックは、大筒に似た銃器による射撃で、次々と大国の軍隊の兵士たちを吹っ飛ばしていく。ウラームたちの数は出撃時よりも減っているものの、制圧は時間の問題。マダムはそう思っていた。
次にマダムは、名潟町の戦いを論評する。
「地球のシャイン戦隊は、以前より強くなっているじゃろうか。しかし、スケイリーはまだ余裕がありそうじゃな。余程のことが無い限り、スケイリーも負けんじゃろうな」
マダムは微塵も不安を感じていなかった。しかしゲジョーの表情は、決して明るくなかった。
(スケイリー将軍が勝った時、神明光里は…。仕方ない。私は、どちらを失うんだ)
ゲジョーは深く考えたくなかった。だから自分の思考を矯正する為、マダムの顔を見た。
(私は、この方々について行くと決めた。その為の犠牲に、感情を割くな!)
心の中で、ゲジョーは自分に強く言い聞かせた。
ところで、ゲジョーもマダムも気付いていなかった。この地に向かって、一台のマイクロバスが爆走していることを。千秋が運転し、鉄山や露花たちを乗せたバスが。
名潟町では、社員戦隊とスケイリーが激闘を繰り広げている。
鉈を振るうスケイリーに、マゼンタ・ゴージャスが花英拳の技で対抗する。レッドたち四人は四方に散らばり、銃撃でマゼンタ・ゴージャスを援護する。社員戦隊は上手く連携していたが、スケイリーに決定打を与えることはできていなかった。
『お姐さん。もう三分過ぎた! ゴージャスを代わって!』
ブレスから聞こえた最音子の声を受け、社員戦隊は動く。
「マミィショット!」
レッドたちの四人が同時にマミィショットを発動した。四色の光の帯がスケイリーを縛り、動きを拘束する。その隙に、マゼンタ・ゴージャスは後方に跳んでスケイリーから離れる。
「イエロー。次は頼みましたわよ!」
マゼンタは空中でゴージャスチェンジャーを外し、着地と同時にゴージャスチェンジャーを投げた。最も近く居た、イエローの方に、すぐにイエローはブレスにゴージャスチェンジャーを接続し、白金の鎧を纏う。
ゴージャス態になったイエローは、ホウセキアタッカーを大剣に変形させ、敢然とスケイリーに向かって行った。
「次はお前か!? 少しは愉しませろよ!!」
スケイリーは体から空振を発生させ、光の帯を断ち切った。ゴージャス態ではなくレッドたちはその空振によろめいたが、イエロー・ゴージャスは空振をものともせず、突撃を止めない。体の自由を取り戻したスケイリーも走りだし、その過程で転がっていた自分の杖を回収した。
すぐに両雄の距離は詰まった。剣と杖が激しくぶつかり合い、金属音と火花を盛大に散らした。
寿得神社の離れの一階では、ちゃぶ台に置かれたリヨモのティアラが、名潟町の映像を空中に投影し続けている。リヨモと最音子と国光の三人は、その映像から一瞬たりとも目を離さない。リヨモが鳴らす耳鳴りのような音が、緊迫感を更なるものにしていた。
「もう少しの辛抱だから。もう少し粘れば…」
最音子はそう、しきりに呟いていた。もう少しで何があるのか?
その疑問に答えるより先に、国光のスマホが振動した。架電だった。国光は画面で誰からの着信なのかを確認すると、すぐ通話に応じた。
「千秋。もう着いたのか?」
そう言った国光の顔には、安心感が窺えた。そして、スマホからは千秋だろう女声が漏れて聞こえる。
『たった今、沸佐の基地があった場所に着いた』
その声が聞こえた時、リヨモの体からは僅かに鈴のような音が鳴り、最音子も少しだけ表情を緩めた。
千秋たちを乗せたマイクロバスは、大国の基地があった場所に到着した。高い塀は残っているが、バスの停車した位置は壊れていて、簡単に侵入できそうだ。塀の壊れた箇所からは、廃墟と化した基地の施設が確認できた。
フロントガラスの向こうの光景を眺めながら、千秋は大きく息を吐いた。
(イマージュエルの力って凄いわね。ほんの数分で沸佐に着くんだから)
このマイクロバスにも、社員戦隊が使うキャンピングカーと同種のイマージュエルが搭載されている。その恩恵で、普通に道路を走っていただけで、何故か短時間で目的地に着いた。途中に設けられている筈の国防隊の検問にも、全く遭遇しなかった。千秋は不可思議さを実感していた。
千秋の後ろでは、鉄山たちが出撃の準備を整えている。
「ここから、私たちは徒歩で参りますので。通信には、これを使ってください」
鉄山が運転席の方に歩いて来て、千秋にトランシーバーを手渡した。黒い小箱のような形で、長いアンテナを収納している通信機を。これを受け取った千秋は、真剣な表情で頷いた。
「危険な役割を引き受けてくださり、本当にありがとうございます。兄たちを頼みます。ご自身の安全も」
千秋の言葉を受け、鉄山たち四人は力強く返事をした。
千秋が操作して、バスの扉が開いた。鉄山たちは、車外へと駆けだして行った。
灰色の戦闘服を着た三人と、白い小袖と紺色の袴を着た一人という歪な集団が、荒廃した基地の中を駆けて行く。
軍服の三人、鉄山と露花と琴名は小銃のようなものを持っていて、腰には片手で扱えるサイズの小機関銃を下げている。防弾チョッキとゴーグル付きのヘルメットも装備していた。露花と琴名の二人は、大きなリュックも背負っていた。
和装の伊達武義は何も持たず、防具すら装着していなかった。
ウラームたちは大部分が名潟町と暑宜に出払っている為、一行は暫く何の妨害も受けずに突き進むことができた。しかし、全くウラームに出会うことなく、人質の元に行くことは流石に叶わなかった。
「シ…シーアー!」
突き進む一行の前方に、ぶらぶら歩いていた二体のウラームが見えた。ウラームの方もすぐ一行に気付き、鉈を振り翳して突進してきた。
しかし、鉄山たちは慌てない。
「柳生、琴名! 撃て!」
鉄山の指示で、露花と琴名が手にした小銃のようなものの引金を引いた。すると銃声が…響かなかった。銃口から出たのは、一筋の糸のようなもので、虹色の光をまとっていた。意外に射程は広く、ウラームが充分に接近するより先に、七色の光をまとう何かは、ウラームの胴体を捉えた。すると、ウラームの胴体からは飛沫が散り、表面が濡れた。
露花たちが持っていたのは、水鉄砲だった。ウラームたちは水を掛けられたのだ。そんな物でニクシムに聞く筈が無い…というのは早合点だった。
「フ…フグッ……」
水を掛けられると、ウラームはよろめいて突進を止めた。それを見て、鉄山は実感した。
(これがピジョンブラッドの水の効果か。本当に奴らを弱める力があるんだな)
小曽化浄の呼び掛けに応じて最音子たちが集った時、十縷はインスピが湧いたと言った。それは、鉄山たち国防隊関係者に、ピジョンブラッドの水を入れた水鉄砲を武器として持たせるというものだった。水鉄砲で異形に挑むことに鉄山たちは大きな抵抗を覚えたが、ウラームの苦しみ方を眼前にすると、普通の銃よりも遥かに有効だということが強く実感できた。
「では。あとは私が」
和装の伊達が、弱ったウラームに向かって突進していく。ウラームも体勢を立て直して迎撃しようとしたが、伊達の動きには対応できなかった。
「花英拳奥義・打法・鬼薊!…鳥兜!」
伊達は強烈な掌底を一体目のウラームの鳩尾に叩き込んだ後、二体目のウラームには回転運動に乗せた肘打ちを盆の窪に叩き込んだ。二体のウラームは力なくその場に倒れ伏し、数秒後には異臭を放つ泥と化した。
(ピンクのお姐さんと同じ技! 生身の人間でも、あんなに強力なの!? 怖っ!!)
露花は、伊達の技が伊禰=マゼンタが使うものと同じだと気付いた。伊禰に恐怖心を抱いている彼女は、花英拳の技の威力を見せつけられて、その恐怖を更なるものにした。
「先を急ぐぞ!」
鉄山は勝利の余韻に浸ることも、怯える露花に寄り添うこともしない。一行は人質を救出するべく、再び走りだした。
これまで、千秋たちの動きには無頓着だったマダム。しかし、いつまで気付かないようなマダムではなかった。
「ん? ウラームが倒された。二体も。何者かが侵入したようじゃな」
二体のウラームの気配が消えたことを、マダムはすぐに感知した。しかし詳細は解らない。この事態を受けて、ゲジョーはすぐに動いた。
「確認します。気配が消えたウラームは…あの方向ですね」
ゲジョーは右手を前に突き出し、指を開く。その掌には紫色の光が灯り、そこから何か大きな物体が発生した。一台の黒いドローンだ。そのままドローンは、一直線に飛んでいった。
続いてゲジョーは、何処かから取り出したタブレット端末を操作し、画面を開く。その画面には、ドローンが撮影していると思われる、空中から見下ろした基地跡の光景が映っていた。程なくして、ゲジョーは気付いた。
「地球人が侵入しています。四人ですね。こちらに向かっています」
ゲジョーの言葉を受けて、マダムもタブレット端末の映像を見る。そこには確かに、一直線に突き進む四人の人物が映っていた。
「妾たちの目を盗んで侵入し、ウラームまで倒すとは…。地球人も侮れんな」
マダムの口調は淡々としていて、表情にも変化は無かった。しかし、この四人を放置するという発想になる訳が無い。
「妾はこの者たちの元に、ウラームを集める。ゲジョーよ。この者たちの他に侵入者がいないか、捜し出すのじゃ」
普段とは違って静かな口調で、マダムはゲジョーに告げた。ゲジョーは「畏まりました」と答えた。
暑宜にある大国の基地では、依然としてブラックたちによる破壊活動が続いていた。
基地の設備はほとんど破壊し、抵抗する兵士も僅かとなってきた。八割方、制圧できたと言って差し支えない状況だった。
大筒を手に、荒廃した基地を歩き回るブラック。そんな彼のブレスに、不意に連絡が入った。
「こちらザイガ。マダム・モンスター…。どうされましたか?」
マダムから音声のみの通信だった。マダムは簡素に現状を伝えた。
『地球人が四人ほど侵入してきた。ウラームが二体、倒された』
その知らせを受けて、ブラックは堪らず鉄を叩くような音を鳴らしてしまった。
「こちらはほぼ制圧できましたから、何体かウラームを救援に向かわせましょうか?」
ブラックがそう提案するのは自然だったが、マダムは断った。
『その必要は無い。イマージュエルを持っていない者たちじゃ。救援よりも、そちらでも人質を取って欲しい。交渉の材料は多い方が良いからのぉ』
それだけ告げて、マダムは通信を切った。ブラックは思った。
(マダムは救援を断った。地球人を侮っているのだろうが、これがどう出るか…)
などと考えていると、ブラックの体は鈴のような音を鳴らし始めた。
(これは願ってもいない好機かもしれん。ついにマ・カ・リヨモを殺せる)
ブラックは邪悪な企みを始めていた。
次回へ続く!
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