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社員戦隊ホウセキ V 第2部/第122話;激戦が始まった

前回


 八月十七日の火曜日。ニクシムと地球の攻防が続く。
 社員戦隊はスケイリーと多数のウラームが襲撃される名潟ながたちょうに向かった。


 寿得じゅえる神社からは、有志の五人が沸佐ふっさへと発った。社林こそばやし千秋ちあき鉄山てつやま蔵馬くらま柳生やぎゅう露花つゆか琴名ことな佳令よしのり伊達だて武義たけよしの五人が。人質として捕らわれた新杜あらと愛作あいさくたちを救出する為に。


 暑宜あつぎでは、ザイガと多数のウラームが、大国の軍事基地を襲撃していた。基地の制圧に従事しながら、ザイガは企んでいた。リヨモを殺すことを…。


 レッドたち四人がホウセキャノン・クラスターで多数のウラームを一掃していた頃、マゼンタは一人、彼らとは別の場所に降り立っていた。

 そこには、歩道に乗り上げて裏返った黒い車がある。車の脇には、二人の男性と一人の女性が倒れていた。三人とも黒いスーツを纏っていた。男性のうち一人は顔面蒼白で、息苦しそうに天を仰いでいる。残りの二人は苦しむ彼を案じていたが、自分も怪我をしているらしく、腹這いのまま苦しむ男性の名を叫んでいた。「名誉めいよぼっちゃま」と。

 顔面蒼白の男性は国会議員の出鱈でたら名誉めいよで、嘆く男女は彼の部下だ。出鱈はスケイリーの毒針を受け、少しずつ死に近づいていた。


 マゼンタはこの地に降り立つと、まずは腹這いで嘆く男女に声を掛けた。しゃがんで、なるべく視線の高さを落として。

「落ち着いてください。彼は必ず治しますから」

マゼンタは喋りながら、ベルトのバックルからヒーリングを取り出し、右手の薬指に装着した。そして右掌からピンク色をしたリング状の光を放ち、これを男性、女性の順に照射した。これで少し痛みが引いたのか、男女は驚いたように目を見開いていた。

「怪我は完治しておりませんので、必ず病院で治療を受けてください」

 マゼンタは二人にそう告げると、立ち上がって出鱈に近づいた。異動の過程で、指環をヒーリングからグロブリングに替えた。

(他人様の命を軽んじた罰ですわよ。反省してください)

 右掌から放つY字型の光を出鱈に照射する寸前、マゼンタはそんなことを思った。
 愛作をはじめ多数の人質がいるのに、核兵器の使用を止めようとしなかったこと。そして、「君が投降すれば解決する」というリヨモへの発言。伝聞だが、この情報がマゼンタに僅かな怒りを生じさせていた。かと言って、死に瀕している人物を見捨てることなど言語道断。その倫理観が怒りを消し、グロブリングの光を発生させていた。

 出鱈の体に浸透したY字型の光たちは、出鱈の体を犯す毒を捕捉する。毒は凝集され、ピンク色の光に捕らわれた黒紫の靄の球という形で、出鱈の体から抜け出した。マゼンタはこの球体に左正拳を静かに叩きつけ、霧散させた。
 数秒後、出鱈の顔色は元に戻り始めた。

「あれ? 全然、苦しくないぞ! 凄い、治ったぞ!」

 回復した出鱈は喜び、立ち上がって軽く飛び跳ねた。彼はマゼンタに気付くと、彼女の方を見て微笑みかけた。思わず、マゼンタは顔を背けて視線を外した。

新杜あらとさんの特殊部隊の子だね。ありがとう。お蔭で助かったよ!」

 出鱈はそう言うと、何処かへ走り出そうした。しかし、出鱈の足はすぐに止まった。マゼンタに手を掴まれたからだ。

「ご自分だけ避難されるのですか?」

 マゼンタの声は震えていた。封じ込めきれない内なる怒りが、自ずと声に現れているようだった。出鱈はマゼンタの思考が理解できず、首を傾げる。そんな出鱈に、マゼンタは怒鳴った。

「あのお二人は、貴方を守ろうとして怪物に挑まれましたわよね? 応急処置はしましたが、まだ自力で逃げれる状態ではありません! そんな方々を見放されるのですか!?」

 マゼンタが指した先には、未だ地に伏す二人の男女が居た。出鱈の部下だ。
 マゼンタに言われて、出鱈は彼らの存在を思い出した。

「ありがとう。恐怖で判断力が落ちてたみたいだ。確かに、二人の介抱が必要だね。大切なことを気付かせてくれて、ありがとう」

 微笑みながら、出鱈はそう言った。マゼンタは珍しく舌打ちをした。

「私は今から、戦闘に向かいます。119番通報するなり、なさってください」

 それだけ言って、マゼンタはこの場から走り去った。
 おそらく、出鱈はマゼンタが怒っていると、認識していなかっただろう。仮に認識していたとしても、怒りの理由は解らなかっただろう。
 マゼンタの胸中には、いろいろな感情が生じたが、今は感情に振り回されている場合ではない。気持ちを抑えるべく、マゼンタは走りながら呼吸を整えようとしていた。


 レッドたち四人は着地と同時にホウセキャノン・クラスターを放ち、広範囲に散らばったウラームたちを一掃した。

『多分、ウラームは全部やっつけたと思うけど…』

 レッドたちのブレスから、国光くにみつの声が聞こえる。新杜あらとのイマージュエルとホウセキャノンをリンクさせ、ウラームの一掃に貢献した国光だが、その声に自信は感じられなかった。
 それは…。まだ倒していない敵がいるからだ。

「あんだけのウラームを、一気に全部殺すとはな。誉めてやるぜ」

 後ろから、見下したような声と、乾いた拍手が聞こえて来た。レッドたち四人はホウセキャノンを地に置いてから、後ろを振り向いた。
 そこに居たのは、白い体に金色の鱗を備えた、左小手だけが暗色の異形。スケイリーだ。スケイリーは杖を小脇に抱えて、放漫な動きで手を叩いていた。レッドたちは緊張感を高め、スケイリーを睨み付ける。

「いいな、その気迫。愉しめそうだ!」

 声を上ずらせるスケイリーの前で、地に置かれたホウセキャノンが宙に浮き始め、景色を割ってこの場を後にする。ホウセキャノンが開けた景色の穴からは、入れ替わるようにゴージャスチェンジャーが現れた。ゴージャスチェンジャーは静かに降下して、グリーンのブレスに接続された。

「ホウセキグリーン・ゴージャス!」

 グリーンが白金の鎧を纏ったのを見て、スケイリーは頷いた。

「緑の戦士が突っ込んで来て、手数で攻め立てる。その間に、他の連中が大技の準備をするってトコロか?」

 作戦はお見通しとばかりに、スケイリーは語る。そんな彼の手許で、杖の先端が金色に発光した。貝殻は褐色と白が幾何学的な紋様を描く鉄刀木たがやさん身無みなしから、薄紅色の渦巻きの周縁に複数の先が丸い突起を付けた輪宝りんぽうがいに変わった。

「解ってるなら、容赦なく行くよ!」

 グリーン・ゴージャスは金の刃を備えたホウセキアタッカーを手に、スケイリーへと突撃した。グリーン・ゴージャスは瞬時にスケイリーの眼前まで到達し、矢継ぎ早に短剣を振るった。スケイリーは悠然と構え、グリーン・ゴージャスの連撃を避けずに胴体に受けた。スケイリーの金の鱗を、グリーン・ゴージャスの金の刃が走り、火花を散らす。

(食らいっ放しになるのは、やべえな。こいつの速さに対抗するなら…)

 少しふらついたスケイリーは考えを改め、後方に跳んだ。これを追って、グリーン・ゴージャスも前に跳ぶ。そのグリーン・ゴージャスに向かって、スケイリーは杖を投げたが、グリーン・ゴージャスは宙で身を翻し、飛んで来た杖を難なく避ける。
 すぐにグリーン・ゴージャスとスケイリーの距離は縮まったが、その時にはスケイリーも次の武器を手にしていた。

「速さでも、お前を上回ってやるぜ!」

 スケイリーが手にしたのは、ウラームの鉈。片手で扱える武器の方が、スピード戦には有効と判断したのだ。両者は高速の斬撃を繰り出し合い、一帯を甲高い金属音で包んだ。

「援護行くよ!」

 レッドがガンモードのホウセキアタッカーの引金を連続で引く。連続で放たれた赤い光弾が、螺旋や波状など様々な軌跡を描きながら、交戦するグリーン・ゴージャスとスケイリーの方に飛んでいく。光弾は器用にグリーン・ゴージャスを避け、スケイリーのみに着弾した。グリーン・ゴージャスも、後方から来る弾丸の軌道を解しているような動きをしていた。
 光弾によるダメージは軽微だが、スケイリーの動きは少し鈍っていた。

(さて、次はどう来る?)

 押されているが、スケイリーに焦りは無い。しかし、その余裕は長続きしなかった。

「は? 逃げただと!?」

 グリーン・ゴージャスは地を蹴って、大きく後方へと跳んだ。攻勢だったグリーン・ゴージャスが何故こんな行動をしたのか、スケイリーにはすぐ理解できなかった。戦いでは、一瞬の戸惑いが大きな隙になる。
 すぐにスケイリーは気付いた。左右をブルーとイエローに挟まれていることに。二人ともガンモードのホウセキアタッカーを構えている。銃身にイマージュエルの力を蓄積し、発光したホウセキアタッカーを。

(そういうことか)

 スケイリーは理解した。グリーン・ゴージャスの高速攻撃とレッドの射撃に手を焼いていたせいで、ブルーとイエローに注意を払えていなかったことに。その間に、ブルーとイエローがガンフィニッシュに必要なエネルギーを充分に蓄えていたことも。
 ブルーとイエローは引金を引いた。銃口からは、大きな光球が発射される。スケイリーに避ける余裕は無く、受けるしかなかった。二人のガンフィニッシュが炸裂し、スケイリーは爆炎と大量の煙に包まれた。

 奇襲は成功した。それでもスケイリーの身上は堅牢な体だ。簡単には倒せない。

「良い作戦だと思うぜ」

 スケイリーは余裕綽々の様子で、煙の中から出て来た。しかし視界が戻った時、スケイリーはまたも首を傾げさせられた。

(緑の戦士がゴージャスを解いてやがる。なら、今は誰がゴージャスを?)

 スケイリーの前方にいたグリーンとレッドは、二人とも通常形態だった。ゴージャスチェンジャーを引き継いだのは誰か、スケイリーが確認しようと左右に目をやろうとした、その時だった。

花英拳かえいけん奥義おうぎ打法だほう細葉ほそば鳥兜とりかぶと!」

 スケイリーは後方に一陣の風を感じると共に、盆の窪に強い衝撃を受けた。スケイリーは全身に電流が走る感覚に見舞われ、堪らず鉈を落として片膝も地に付けてしまった。

(紫の戦士…。何処から湧いて来た?)

 スケイリーは憎々しく右に目をやり、白金の鎧を纏ったマゼンタ・ゴージャスの姿を確認した。自分の盆の窪を強打したのは、マゼンタ・ゴージャスの手刀だと察したが、全貌を理解するには少し時間が掛かった。

(俺がガンフィニッシュを食らった瞬間に、緑の戦士はゴージャスチェンジャーを転送して、それを離れた場所の紫の戦士が受け取った。ゴージャスになった紫の戦士は、すぐここまで走ってきた…)

 スケイリーの口から乾いた笑いが漏れた。

「一杯食わされたぜ! お前ら、最高だ!」

 スケイリーは再び鉈を手にして静かに立ち上がり、気分の高揚を声で表現した。

「絶対にぶっ倒して、地球の連中を絶望させてやる! ニクシム神に捧げ物ができるぜ!」

 スケイリーの戦意は更に高まった。すぐに戦闘は再開された。


 寿得神社の離れでは、リヨモと最音子もねこと国光の三人が、名潟町の戦況を見守っている。リヨモは、耳鳴りの音を体から慣らし続けていた。そんなリヨモの肩に、最音子がそっと手を添える。

「大丈夫。光里ひかりたちを信じよう。副社長さんと国防隊の皆さんも」

 リヨモは最音子の顔を見上げ、少しだけ耳鳴りのような音を小さくした。


 同じ頃、一台のマイクロバスが何処かを目指して爆走していた。運転しているのは千秋。座席には、鉄山たち四人の姿が見受けられた。

(兄貴たちは絶対に助け出す! 光里たちだって、絶対に死なせない!)

 千秋の表情からは、そんな気迫が強く感じられた。


次回へ続く!


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