社員戦隊ホウセキ V 第3部/第15話;忘れられた初恋
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十二月十二日の日曜日。寿得神社の離れで開かれたリヨモの送別会兼誕生会で、小曽化浄ことゲジョーの話が続く。
八月十七日の火曜日、マダムの術で九年前に飛ばされたゲジョーは、中学生だった光里と大学生だった伊禰に出会っていた。
「私はお前に助けられた。お前だけじゃない。青の戦士…北野時雨にも」
ゲジョーの言葉に、時雨は珍しく表情を変えて驚いた。
ゲジョーは九年前に何があったのか、話を続けた。
九年前の八月に飛ばされたゲジョーは、光里と伊禰に遭遇した後、ネットカフェやカプセルホテルを渡り歩いて寝泊りしていた。
『あの娘は妾の希望じゃ。妾に叶えられなかった希望は、あの娘に託す』
ネットカフェの個室でネットサーフィンをするゲジョーの脳裏に、マダムの言葉が響く。ゲジョーは思っていた。
(マダムの期待には応えたい。だから未来を変えて、マダムやザイガ将軍の悲劇を救おうと思ったが…。マ・スラオンを今のうちに殺すというのは、違うらしい)
ゲジョーの脳裏にリヨモの顔と中学生の光里の顔が甦り、光里の言葉も聞こえて来た。
「そんねぇー。今のうちから、そん人と仲良くなーちぇ、考え変えちぇーちぇ、お願いする」
光里の何気ない一言は、ゲジョーに影響を与えていた。そして、悩ませていた。
(ならマ・スラオンに会って、説得するか? できるか?)
ゲジョーは自問をしながらネットサーフィンをしていたが、行き詰まりそうになった時、とあるネット広告が目に入った。
「国防大学校のオープンキャンパスだと?」
八月なので、大学のオープンキャンパスも多く開催されている。他の大学ならゲジョーは反応しなかったが、この大学には食いついた。
(青の戦士、北野時雨の出身校だ。今、奴は在学中だよな。オープンキャンパスの日程は…。二日後か)
時雨を意識したゲジョーは、とにかく国防大学校のオープンキャンパスに行くことにした。
かくして二日後、ゲジョーは国防大学校のオープンキャンパスに赴いた。白のカッターシャツに新橋色のネクタイを付け灰色のプリーツスカートという、夏仕様のブレザー制服で臨んだ。エメラルドを備えた金のペンダントとタンザナイトのピアスを付けるのは常として、今回も外さなかった。
(長割肝司をこの時点で失脚させれば、北野時雨の運命は変わる。奴が国防隊員になっていたら、奴はシャイン戦隊に選ばれなかった。青の戦士が別の者だったら、マダムたちの運命は変わるかもしれない)
そんなことを企んでいたゲジョーだが、いざオープンキャンパスに臨んだ第一印象は「失敗した」だった。
(私、確実に浮いているな)
オープンキャンパスに来ていた高校生は殆どが男子だった。女子も居たが、垢抜けていない感じの者ばかりで、スカートを短くして宝飾品まで身に付けたゲジョーは華美過ぎて、変に目立っていた。しかし、これはある意味で成功だった。
「可愛い子、発見! 僕が案内するよ」
聞き憶えのある声が、ゲジョーの耳に入ってきた。その声が聞こえた途端、ゲジョーは四肢に鳥肌が立つような感覚に襲われた。声の方を振り返ると、思った通りの人物がいた。
(出たな、長割肝司!)
ゲジョーに声を掛けたのは、この頃、国防大学校の一年生だった長割肝司だった。とろけるような厭らしいニヤけ顔で、口から涎を垂れそうな勢いすらあった。長割肝司はすぐに距離を詰め、身構えたゲジョーの肩に手を回してきた。
「普通の大学と違う点が多くてさ。全寮制で、朝から晩までずーぅっと一緒なんだ。だからさぁ…。授業が終わった夜も、一緒に居られるんだぁ」
長割肝司の話は、ゲジョーにとって不快極まりなかった。いや、不愉快なだけなら良かった。
「良かったら、夜に男子寮の見学に来ない? 僕が案内するよ」
長割肝司は、ゲジョーにそう耳打ちした。鳥肌を通り越し、ゲジョーは硬直した。そして、長割肝司は歩きだし、何処かにゲジョーを連れて行こうとする。
(こいつ、何をする気だ? マズい。今の私は、ニクシム神の力が使えなかった…)
九年後の長割肝司に襲われそうになった時は、ニクシム神の力で長割肝司を拘束して難を逃れた。しかし、今のゲジョーはその手を使えない。周囲にいる参加者の高校生たちが自分に構わないのはもちろん、案内係だろう国防大の学生や教官たちも、一度だけゲジョーの方に目をやるだけで、何もしようとはしなかった。
(これが当時の国防大の実態か!?)
今まで知識として知っていたことを体感することになるなど、ゲジョーは思ってもいなかった。長割肝司は有力者の息子だから、他の者たちは報復人事を恐れて、長割肝司の横暴を見過ごしていた。一人を除いて。
「長割。何をしている?」
聞き憶えのある声が、刃物のようにゲジョーの耳を突き刺した。その声に長割は息を呑み、堪らず立ち止まった。
「何だよ、シグたん」
長割と一緒に、ゲジョーは振り返った。そして目にした。歩み寄って来る、切れ長の目をした男子学生に。国防大の一年生だった時雨だ。時雨は長割に言った。
「手を放せ。嫌がっているのが判らないのか?」
長割に視線を突き刺して、時雨は低めの声で警告した。長割は舌打ちしたが、毅然とした態度の時雨が怖いのか、あっさりとゲジョーを解放した。すると時雨は、長割とゲジョーの間に割って入り、ゲジョーの壁となった。
「不必要な身体接触は避けろ。特に異性なら。案内は女子にさせた方がトラブルも起きないだろう」
時雨は長割にそう言うと、腰に括り付けていたトランシーバーで通信を始めた。程なくして、女子学生が小走りでやって来た。国防大の学生だった柳生露花だった。時雨は露花にゲジョーを引き渡した、ゲジョーは暫く露花と共に、国防大のキャンパスを回ることとなった。
露花とキャンパスを回ったことよりも、時雨が自分を救ったことの方が、鮮明にゲジョーの記憶に焼き付いていた。長割の前に立ちはだかった時雨の背を見た時、ゲジョーは独特な心拍数の向上を感じていた。時雨の顔を見ると呼吸が乱れて心拍数が更に上がったので、長くは見られなかった。
(何だ、この感覚は!?)
この感情が何か、ゲジョーが理解したのは数年後だった。ゲジョーと共にキャンパスを回った露花はゲジョーが体調不良を疑い、凄く心配していた。
現在、十二月十二日の土曜日。国防大学校のオープンキャンパスの話は、寿得神社の離れを賑わせた。
「長割肝司が『メチャカワのJKと楽しく喋ってたら、シグたんに文句言われた』みたいこと言ってた気がするけど…。それはゲジョーだったんだね」
光里は自分の記憶を結び付けて、小刻みに頷いていた。他方、当事者である時雨は顔を歪めて首を傾げていた。
「露花からも、俺がオープンキャンパスで女子高生を助けたという話を聞いたが…。憶えていないんだな。長割のセクハラ紛いの行動を指摘したことが多すぎて…」
この事件が時雨の中で印象深いものにならなかった理由は切なかった。
しかし時雨の代わりに、女性陣がやたら盛り上がっていた。
「リヨモちゃんが最期の通信で、【本物の紳士】って言ってたけど、私も本当にそう思う。北野さん、素敵すぎる」
まず最音子が目を輝かせた。これに千秋や花枝など、年長組の女性たちも食いつき、賑やかな声が飛び交うようになる。
「つまり、時雨君はゲジョーちゃんの初恋の相手なのでしょうか? 社員戦隊の中で最初に接触したのも、時雨君ですものね?」
やがて、伊禰がゲジョーを冷やかし始めた。ゲジョーは眉を顰めるが、琳も伊禰に加勢する。
「九年越しの告白、しちゃう? リヨ、こういう話が大好きだし、丁度良くない?」
琳にも冷やかされて、ゲジョーは鬱陶しそうに唸り声を上げる。ところで、この短時間で琳はゲジョーとの距離を縮めていて、光里はこのことを純粋に喜んでいた。
その一方、少し厄介なことも起きていた。
「ワットさん、嫉妬してません? 最音子さんが、隊長のこと素敵すぎるって言ったから」
十縷がニヤつきながら、和都に絡んでいた。十縷の指摘は的確で、最音子が「素敵すぎる」と言った時、実際に和都の顔は引き攣っていた。それを冷やかされて、和都が黙っている訳が無い。
「あ? ジュール、調子に乗んなよ」
十縷は和都に後ろから締め技を食らい、悲鳴を上げることとなってしまった。これで場の空気は少し白ける。
「ジュール、アホじゃないの? リヨモちゃんの誕生会なのに、ムード壊さないで」
和都に制裁を加えられた上に、光里からも批難された十縷。もう、タジタジだった。このやり取りに、ゲジョーは乾いた笑いを漏らした。
「そう怒るな、黄の戦士。気の移ろいは普通だろう? お前だって九年前、私に惚れたのではないか?」
ゲジョーのさり気ない一言は、場の空気と和都の表情を一変させた。
「やっぱり、お前だったのか…」
和都が驚く中、ゲジョーは話を再開した。
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