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社員戦隊ホウセキ V 第2部/第132話;迷惑しましちゃ

前回


 八月十七日の火曜日。
 新杜あらと愛作あいさくは、寿得じゅえる神社の杜を全力疾走していた。

 妹の社林こそばやし千秋ちあきの運転するバスが寿得神社の駐車場に着いたその時、愛作の指環は衝撃的なリヨモの一言を受信した。

『ザイガよ。ワタクシは今からそちらへ向かう』

  

 その直後、指環からは複数人の声が聞こえた。最音子もねこ露花つゆかがリヨモを止めようとしている様子が、容易に想像できた。
 程なくして、父の国光くにみつから指環に通信が入った。

『姫が社員戦隊の身代わりになる気だ! 頼むから止めてくれ!』

  

 愛作は、バスを降りるや走りだした。リヨモたちの居る離れへ。

(姫、考え直してください! 貴方が死んだら、俺はスラオンに何て言えばいい? 神明しんめいたちだって…!)


 愛作の目指す離れは、騒然としていた。ちゃぶ台の上に置いていたティアラを再び装着して立ち上がったリヨモを、最音子たちが取り囲んでいる。

「行かないで! 殺されるに決まってるよ! 光里ひかりやワットさんたちの気持ちも考えて!」

「俺もそう思います。考え直してください」

 最音子と琴名ことながリヨモの前に立ち、説得していた。しかし、リヨモは考えを変えない。

「このままでは光里ちゃんたちが殺されます。ワタクシは、それだけは絶対に避けたいのです」

 リヨモの後ろでは、露花が顔を歪めている。

「だったら、ミミックォーツとかいうアイテムを私に貸して。私が貴方に化けて、行ってくる。私なら、貴方よりは戦える」

 露花は思い切った提案をしたが、これはリヨモではなく琴名に否定された。

柳生やぎゅうさんが行ったって、殺されるだけですよ!」

 琴名の発言は的確だったが、露花は下がらなかった。

「なら、他にどんな手があるの!?」

 露花と琴名は、このまま抗論になりそうな気配すら纏っていた。ここで、愛作への連絡を終えた国光が会話に入って来た。

「落ち着いて。もうすぐ愛作が来るから。それまで待てませんか?」

 二十代の三人とは違い、国光は言葉を荒げなかった。リヨモは国光の目をしっかりと見た。

「皆様の仰りたいことは理解できます。しかし…」

 感情の音を鳴らさず、抑揚の無い言葉でリヨモは語った。地球人四人は、黙ってその言葉に聞き入った。

「ザイガが暴動を起こした原因が父のスラオンにあるなら、娘であるワタクシがその責任を負います」

 静まった離れの中に、その言葉は響いた。最音子たちの心にも。
 それでも最音子たちは頷かなかった。

「光里たちから事情は聞いてるよ。確かに、お父様の政策は失敗だったのかもしれない。だけどさ、さっきジュール君が言ってたじゃん! それはリヨモちゃんのせいじゃない! ザイガがリヨモちゃんまで怨むのは絶対におかしい!」

 最音子はリヨモに訴えた。喋っている途中で目が潤み始めて、声も大きくなった。
 露花たちは、最音子の言葉に同意する旨の発言を続けた。

 四方を地球人に囲まれ、立ち尽くすリヨモ。それまで止まっていた感情の音が、再び鳴り始めた。鈴のような音だった。
 この音が意外で、最音子たちは驚いた。そんな彼らに、リヨモは言った。

「ワタクシは故郷を失いましたが、それ以上のものが得られたかもしれません」

 リヨモは喜んでいる。しかし、最音子たちは喜べない。むしろ蒼褪めた。再びリヨモを諭そうとしたが、それより先にリヨモが動いた。

「お許しください」

 リヨモは走りだした。前にいた最音子と琴名を押しのけ、なぎ倒すほどの勢いで。後ろにいた露花と国光はリヨモに手を伸ばしたが、届かなかった。リヨモは体当たりで景色をガラスのように割って、七色の光が渦巻くトンネルの中に飛び込んでいった。
 すぐに穴は塞がり、景色は戻った。

 その直後だった。離れの扉が勢いよく開けられ、息を荒くした愛作が駆け込んで来たのは。その時、愛作の目に映ったのは、呆然とする四人の地球人だけだった。


 制圧された暑宜あつぎの軍事基地では、青黒い光の縄で縛られた光里が宙吊りにされ、黒い宝石の像に圧し潰された十縷とおるたち四人が地に這わされている。
 そんな状況で、リヨモからブラック・ラクジュアリーのブレスに通信が入った。

『ザイガよ。ワタクシは今からそちらへ向かう』

 その一言を聞いた瞬間、ブラック・ラクジュアリーは静かに立ち上がった。動作と裏腹に心が高揚していることは、体が慣らす鈴のような音が証明していた。
 他方、社員戦隊は震撼した。

「リヨモちゃん、来ちゃダメ! 殺される!」

 光里が叫び、続いて他の者たちも同じ言葉を叫んだ。

 場の空気は、社員戦隊の不安とザイガの喜びが入り混じり、複雑化している。ブラック・ラグジュアリーは、社員戦隊の表情を一人ずつ確認して、満足げに頷いた。

「マ・カ・リヨモを殺し、私は復讐を完遂させる。お主たちはその悲しみを、ニクシム神に捧げろ。それが、同じ悲劇を起こさない為の糧となる」

 ブラック・ラグジュアリーが、不遜な発言をした直後だった。景色をガラスのように割り、リヨモが現れたのは。ブラック・ラクジュアリーは感情の音を更に大きくしたが、社員戦隊の一同は悲嘆した。

「リヨモちゃん、引き返して! お願い!」

 光里を筆頭に、五人が必死に訴える。しかし、五人ともブラック・ラグジュアリーの術で捕らわれていて、動けない。だから、見ているしかできなかった。

 リヨモはブラック・ラクジュアリーと視線を突き合わせる。体から感情の音を何も鳴らさずに。

「これ以上、その者たちを傷つけるな。その為なら、何だってくれてやる」

 リヨモは視線を逸らすことなく、抑揚の無い口調で言い放った。ブラック・ラクジュアリーは、鈴のような音が止まらない。

「大した度胸だ。そこだけは誉めてやる」

 ブラック・ラクジュアリーは憎しみの刃を両手で握り、リヨモをしっかりと見据える。

「ザイガ、めろ! そんなことしたって、お前の記憶は消えないぞ!」

 十縷の叫びは、ブラック・ラグジュアリーには届かなかったのだろう。次の瞬間、ブラック・ラクジュアリーの姿が消えたように、十縷たちの目には映った。そして…。

 荒廃した基地を五人の悲鳴が震わせた。
 金剛石の刃はリヨモの胸を捉えた。トルコ石のような青い表皮、水晶のような無色透明の内部組織、そして水のような体液が盛大に飛び散る。
 ブラック・ラクジュアリーの一撃で、リヨモは胸を斬り裂かれた。リヨモの体は後方に吹っ飛び、放物線を描きながら地に叩きつけられた。

「見たか、スラオン。お主の娘が死んだぞ。お主の遺品でな」

 ブラック・ラクジュアリーは鈴のような音を鳴らしたまま、憎しみの刃を空に掲げた。金剛石の刃が陽光を反射して、煌びやかに輝く。役目を終えた戦闘スーツは金色の光の粒子となって霧散し、風景に彩を添えた。

(タエネ、見たか? 復讐は完遂したぞ)

 変身を解いた瞬間、ザイガの体は雨のような音も鳴らし始めた。



 ザイガの変身が解けると同時に、十縷たちに掛けられて術も解けた。彼らは体の自由を取り戻すと、一目散に倒れ伏すリヨモに駆け寄った。全員、負傷した体に鞭を打ち、走り方は不格好だった。最初にリヨモの元に到達したのは、光里だった。

「リヨモちゃん、しっかりして!」

 天を仰いで倒れ伏すリヨモに、光里は声を掛けた。その目からは既に、涙が滝のように溢れている。横を向いたままのリヨモの顔に、涙が何粒も当たった。

「光里ちゃん…ですか?」

 リヨモの顔から、か細い声が聞こえた。それを聞き取った光里は、顔を輝かせた。このタイミングで、伊禰いねもリヨモの元に到達した。

「まだ息はありますわね。諦めませんわよ!」

 伊禰は既に右手の薬指にグロブリングを装着していた。その右手からピンク色をした糸状の光を放射し、斬られたリヨモの胸に照射した。その間に、男性三人も集結する。

 ザイガはその様子を横目で見ながら、待たせているチャリオッツの方へと立ち去っていった。「無駄なことを」と吐き捨てて。

 リヨモは虫の息だが、五人とも諦めていなかった。

「ワット君は、キャンピングカーから救急箱を持ってきて! 時雨しぐれ君は、姫様の部屋からお薬箱を持ってきて! ジュール君は、姫様の目に光を当ててください!」

 伊禰はグロブリングの光を照射しながら、集まった面々に指示を出した。かくして、時雨と和都は空で待っているイマージュエルに乗り込み、救急箱を取りにこの場を離れた。十縷はリヨモの顔を上向きにして、ブレスの宝石を光らせて、リヨモに見せた。

「リヨモちゃん、絶対に助かるからね!」

 光里はリヨモの手を握り、懸命に呼び掛けた。するとリヨモの体からは、鈴のような音が鳴り始めた。

「ウモスミウ大会、愉しかったですね。他にもいろいろ…思い出しきれません」

 リヨモのか細い声を、光里たち三人は確かに聞き取った。

「またやるよ! 思い出はもっと増えるよ!」

 光里は泣きながら答えた。十縷と伊禰も涙が止まらない。
 そんな中、リヨモは語り続けた。

「ジュールさん。天体望遠鏡とミミックォーツ、ありがとうございます。貴方のお蔭で、素敵な思い出が増えました」

 リヨモの言葉で、十縷の脳裏につい先日の光景が甦る。十縷の目から流れる涙が増えた。
 リヨモは続けて言った。

「伊禰先生。ジュエランド人の体のことまで勉強してくださり、本当にお世話になりました。地球の漫画も教えてくださり…。感謝しかありません」

 伊禰は言葉を返せなかった。嗚咽しか発することができない。それでも、グロブリングの光を当て続けた。


 寿得神社の離れで、愛作たち五人は呆然としていた。リヨモを止められなかったという事実が、彼の上に重く圧し掛かっていた。通信も途絶え、戦場の様子も把握できない。嫌な沈黙に包まれていた。

 その静寂は唐突に崩された。天井から、ドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。誰かが二階にいることは明らかだった。

「リヨモちゃんが戻って来た!?」

 淡い希望に最音子たちが胸を躍らせた。最音子と露花は階段を駆け上がった。二階には確かに人が居たが、リヨモではなく時雨一人だった。

「なんで北野が?」

 露花の口から漏れた疑問に、時雨は応えなかった。とても焦っていた。

「姫の薬箱を探してくれ! 一刻を争うんだ!」

 時雨が取り乱していて、露花は驚いていた。その驚きは、嫌な想像に変わる。そんな状況で、時雨のブレスが光った。

『時雨さん。いつもワタクシを気遣ってくださってましたね…。貴方は本当の紳士です」

 ブレスから聞こえた声は抑揚の無い喋り方で、リヨモだとすぐに解った。そして、声は異様にか細かった。今、リヨモがどんな状況にあるのか、最音子と露花も瞬時に察した。
 時雨は通信には応じず、乱雑に部屋の物を退けながら、薬箱を探していた。



 和都は、小田射場おだいばに駐めっ放しのキャンピングカーの車内にいた。居室に置いてある救急箱を持ち、いざ暑宜に戻ろうとしたが、そこでブレスが光った。

『ワットさん。 “ 地球を第二のジュエランドにしない ” というお言葉、今でも忘れられません。心に響きました。貴方は本当に強い人です」

 ブレスが届けたのは、リヨモの声だった。和都は一瞬だけ動きが止め、顔を歪めて強く下唇を噛み締めた。



 伊禰はグロブリングの光を照射し続け、十縷はリヨモの目にブレスの光を当て続け、光里はずっとリヨモの手を握っている。
 リヨモは一瞬だけ、光里の手を握り返した。とても弱い力で。そして、リヨモは言った。

「光里ちゃん…。貴方に出会えたことは、ワタクシの生涯で最大の幸福でした。感謝しきれません。向こうに逝ったら、両親に貴方のこと伝えます。地球で一番優しい方とお友達になれたと」

 誉め言葉だったが、光里は喜べなかった。

「やだ…やめて。何、言ってるの?」

 光里の声は完全に震えている。リヨモの体から鳴る鈴のような音は、小さくなっていた。だから、声ははっきり聞こえた。

「迷惑しましちゃ」

 光里、十縷、伊禰。別の場所に発った時雨と和都。全員、確かにその言葉を聞いた。
 光里はリヨモの手が握力を失うのを感じた。


次回へ続く!


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