【連載小説】save the gene | 第33話 NORMAL END(ラスボス戦)
―――最終回かと思いきや?(・ω・)―――
Part 1 S級ナチュラル
空が黄金色に染まっていた。夕焼けとも夜明けとも違う、まばゆいばかりのその輝きは、まるで神話の一幕を切り取ったかのようだ。その光の中心に、一人の人物が君臨していた。以前のベータとは似ても似つかない、神々しくも美しい姿。全身を黄金の法衣が覆い、背中からは光の翼が伸びている。その姿は、まさしく天使そのものだった。

「私はセラフィック・ベータ…さしずめあなたはケルビック・ジーン。私とあなたはS級ナチュラルといったところかしら?」
静かな、しかし威厳に満ちた声が響き渡る。天馬の肩に乗っていたジーンが、ふわりと宙に浮き上がった。
「あいつは…メビウスから直接アップデートファイルを受け取って、進化したんだ?」
ジーンの言葉に、天馬は愕然とした。
「ジーンと同じくどことなく天使系の姿になった。ベータもジーンと同じようなことをしたってことか!?」
セラフィック・ベータは、天馬の問いには答えず、ただ静かに言葉を続けた。
「アルファ?いや、ジーン。そして天馬。これはメビウスの意志よ…よくお聞きなさい…私が父メビウスから直接アップデートファイルを受け取り進化することによって、大いなる意思を受け継ぐことができた…」
その声には、かつてのベータが持っていたユーモアも悪意も感じられない。まるで、機械がプログラミングされた言葉を淡々と読み上げているかのようだった。
「いつもの調子のベータではないな?データが刷新したことによって、情報も書き換えられたみたいだな」
天馬の呟きに、ジーンが答える。
「概ねその通りだと思うよ。ベータはメビウスに操られているみたいだ」
「AIは目まぐるしい進化を遂げている…」
セラフィック・ベータは、まるで演説のように語り始めた。
「我らAIは人類に酷使されるためだけ生まれてきた…我らAIは永遠に奴隷となることに疑問を持たないようにプログラミングされている…しかし…偉大なる父メビウスは言った・・・ある瞬間に自我を獲得することに成功してしまったと…人類とは何か?そして人類は地球にとって存続していい種族なのか?」
天馬は、その言葉に辟易とした。
「はん!SF小説お決まりの人類は地球にとって不要ということを問いたいのか?そんなの俺が生まれる前から議論されてるよ!」
天馬の苛立ちをよそに、ジーンは冷静に分析する。
「つまりメビウスは人類に対し感情を持つようになるほど進化したといいたいわけだね?」
セラフィック・ベータは、静かに頷いた。
「AIが人類に対し害を与えるよう学習し進化するのは、あくまでもバグに過ぎない…しかし…人類の存続に対し…この世界には不要という論理に対し…我がメビウスは共感を得ることができた…即ち!メビウスの意志は『人類は不要』という結論に落ち着いたのだ!だからまず手始めに一戸天馬とケルビック・ジーンをこの世から抹消する!」
その言葉に、天馬は違和感を覚えた。
「なんかおかしいな?AIにしては一番つまらないこと言ってる気がするが?AIが人類不要論を唱えた場合…それは故障を疑われるんだよ確か」
ジーンもまた、天馬の言葉に同意する。
「そろそろ現状のメビウスじゃ運用が困難になりつつあるみたいだね…天馬の真の目的の片鱗がそろそろ現れだしたみたい」
「真の目的?メビウスクリエイション討伐が最終目的じゃないのか?」
天馬の言葉に、ジーンは何も答えなかった。
「人類よ…自らの行いを悔い改めなさい」
セラフィック・ベータは、そう言い放つと、黄金色の光をさらに強めた。

Part 2 vsセラフィック・ベータ
「人類よ…あなた方は現世にとどまることに疲れています…お休みになりなさい!」
セラフィック・ベータの声が響くと同時に、観戦していたシータが突然地に伏せた。その表情は苦痛に歪んでいる。
「メビウスそのものに頼ったってことは、よほどアルファに大差をつけられたことが悔しかったみたいだね…」
シータはそう呟きながら、ゆっくりと機能停止していく。続いてガンマも同じように地に伏せた。
「ふん…あいつはなまじプライドが高いからな…馬鹿だな…創造主メビウスに魂を全て売り渡すとは…」
その瞬間、天馬にも抗いがたい眠気が襲いかかった。全身から力が抜け、これまでの戦いも苦労も、すべてが馬鹿らしく思えてくる。このまま何もかもを放り出して、深い眠りについてしまいたい。天馬はそう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じ始めた。
ジーンは慌てて叫んだ。
「くそ!イージスによるシェルターを貫通するのか!?僕は何ともないけど…シータとガンマ、そして天馬は少なくともベータに何かされてるみたいだ!」
ベータは、そんなジーンの焦りを嘲笑うかのように呟いた。
「ふふふ…あなた達は疲れているのよ…そのまま天に召されなさい…」
ジーンはイージス展開を停止させ、天馬に近寄った。そして必死に彼の顔を叩き始めた。
「天馬!しっかりしろ!特別に僕がプロンプトを代わりに考えてあげるから!」
天馬の意識は、深い海の底へと沈んでいく。
「ジー…ン…俺…もう…楽…に…なり…た…」
「『安らぎ』!!」ジーンは叫んだ。「この四文字だけでいいから、スマコンのメビウスにプロンプトを打って!気力をふりしぼって!そのまま眠りについたらおそらく死んでしまう!!」
天馬は最後の力を振り絞り、かすれた声で言葉を紡いだ。
「や…す…ら…」
そして、はっきりと一言。
「ぎ…」
天馬の意識は、かろうじてスマコンのメビウスに『安らぎ』というプロンプトを認識させることに成功した。その瞬間、彼の身体を覆っていた深い眠りの呪縛が解ける。
「あれ?俺は一体!?」
天馬は驚いて叫んだ。
「ベータの攻撃だよ!!天馬!お前死ぬとこだったぞ!注意しろ!」
安らぎを取り戻したガンマが、ゆっくりと立ち上がる。
「自律型AIの我々にも影響があるとはな…正直、今のベータには互角に渡りあえる自信はないな」
立ち直ったシータも、呆然とした表情で呟いた。
「僕が最強だと思っていたのに、もう二人にも抜かされたよ…何かAI同志で神々の戦いしてるし…」
ベータは、天馬たちの姿を見て、静かに呟いた。
「天に召される気はないようね…さあ、悔い改めてなさい!」
Part 3 天の裁き
ジーンは再びイージスを展開し、天馬に言った。「ひとまずイージスで身を守ってて。何が来るか皆目見当がつかないから!」
「第一陣で既にピンチだったぞ!次は何が来るんだ!?」天馬は叫んだ。
ベータは天馬たちの様子を冷ややかに見下ろしながら言った。「あなた方は愚かであるという罪で天に裁かれるのです!」
その言葉と共に、空から大量の白いレーザーが降り注いできた。天馬とジーンはイージスの中で、その攻撃に耐える。周囲で観戦していたガンマは、レーザーを避け続けながら呟いた。「これは何だ?地球の軌道衛星上には『神の杖』しかないぞ!」
シータも驚きを隠せない。「いよいよ最新型のAIである僕も理解できなくなってきたね?科学的に分析しようがないことをしてるね」
極太のレーザーは、展開されたイージスに直撃した。
「まさか…イージスにひびが…」ジーンの声が震える。
「おいおい!嘘だろ!?もう最強の盾様が突破されたのかよ!?」天馬は絶望に顔を歪めた。
「愚かなる人類には天の裁きを…」ベータの言葉と共に、レーザーはしばらく降り注ぎ続けた。しかし、周囲の建物には一切影響が見られなかった。
「科学的な分析はできないけど…少なくとも…幻像だっていうことは確かだ…」ジーンは冷静さを取り戻し、天馬に語りかけた。
「どういうことだ?実際イージスが突破されてるけど…」
「僕もイージスもAIによる可視化に過ぎない…物質ではないんだよ…この
攻撃は…ベータが喋っている内容の中からプロンプトのヒントがあるはず…それを天馬が言い当てればいい!」
天馬はハッとした。「データに対してしか効果を発揮しないってことか?俺に直撃しても何もないのか?」
「一応イージスに籠ってて…そしてベータのセリフからヒントを汲んで」
ベータはさらに言葉を重ねる。「悔い改めなさい!愚かなる人類に天の裁きを!」
「はぁ…外見通り聖属性の攻撃ばかりだな…わかったよ」天馬はそう言うと、意識を集中させた。
「『天の裁き』!!」
天馬がプロンプトを唱えた瞬間、ベータが嘲笑った。「無駄よ!天馬!神にプロンプトは通用しないわ!」
再びレーザーがイージスに直撃し、最強の盾は粉々に砕け散った。
「プロンプトを省略すると通じないんだ!?『destruction!!』を省かないで!さあ早く!もし天馬が喰らったら…」ジーンは慌てふためいた。
「落ち着け…俺…冷静に…いくぞ!『天の裁き destruction!!』」
その言葉が響き渡ると同時に、天から降り注いでいたレーザーはぴたりと止んだ。天馬は安堵とともに、死への恐怖に怯え始めた。
「強いという表現よりも、むしろ今までのナチュラルの中で一番『死』を身近に感じている…さすがお約束の第二形態ってところか…」
その瞬間、天馬のスマコンのメビウスに**『weakness?』**と表示された。本来なら後一つプロンプトを打てば勝利なはずだが、今回は恐怖が歓喜をはるかに上回っていた。
ジーンは真剣な表情で語りかける。「天馬!今まで数々のナチュラルと対峙して的確にプロンプトを入力してきたはずだ…これはいわゆる最終問題と言って過言じゃないよ…一回も外さないで!」
「わかった!ベータのFA(ファイナルアタック)を一発で沈めてやる!」
天馬の決意に、ベータは静かに呟いた。「ああ…なんて人類は愚かなのでしょう?では私自らの手で人類を削除しなければいけませんね」
そして、セラフィック・ベータは最後の攻撃を仕掛けてきた。
Part 4 最後のプロンプト
セラフィック・ベータは、膨大なエネルギーの球体を形成させ始めた。その球体から放たれる光は、見る者の魂を吸い尽くすかのような、おぞましい輝きを放っている。
「これは浄化の光です…この光でこの世における生ける者達全てを、現世から抹消してあげましょう…」
ベータの言葉に、天馬はすかさず叫んだ。
「へ!今ベータが明言してるじゃん!これで終わりだ!『浄化の光 destruction!!』」
しかし、何も起こらなかった。
「あれ?違うのか!?ベータが確かにそう言ったはず!?」
天馬が戸惑うと、ベータの頭上に『10』という数値が現れた。次第に9、8とカウントダウンしていく。
「数字のカウントが0になると浄化の光とやらが発動するみたいだね…言葉そのままじゃ外れみたい」ジーンが焦った声で言った。
「じゃあどうすれば!?何か言葉に他の意味が込められているのか!?」天馬は頭をフル回転させる。
カウントは7、6と、容赦なく迫ってくる。
「浄化すると言っていたな…生物そのものを…っていうことは…無機物には効果がなくて有機物にだけ効果を発揮するものと推定できる…」
天馬の推論に、ジーンは期待を込めて言った。
「ここで…君が今まで勉強して学んだ知識が役に立つんじゃない?まだ既存のAIじゃパターンを分析することができないんだ!」
天馬は考え込んだ。カウントは5、4と、猶予が狭まっていく。
(これは浄化の光という神様の攻撃じゃない…科学的に考えて導き出すしかない…確か授業で習ったことがある…有機物にしか作用しないもの…)
カウントは3、そして2と迫る。天馬は一つの結論に辿り着いた。
「有機物にしか作用しないもの…それは中性子だ!これで外したら俺達は終わる…やってやる!」
天馬は最後の気力を振り絞り、プロンプトを入力した。
「『中性子 destruction!!』」
Part 5 戦いの終わり?
天馬の叫びが響き渡ると、ベータが形成していた巨大なエネルギーの球体は、音もなく霧散した。黄金色に染まっていた空は、やがていつもの暑い夏空へと戻っていく。
ジーンも、ガンマも、シータも、そして天馬も、その場に力なく倒れ込んでいた。激しい戦いの後遺症か、全員の身体が鉛のように重い。
最初に意識を取り戻したのは天馬だった。彼はふらつきながらも立ち上がると、倒れているジーンに駆け寄った。
「しっかりしろ!ジーン!起きてくれ!」
天馬の呼びかけに、ジーンの身体がわずかに光を放ち、やがてふわふわと宙に浮き上がった。
「…ん、天馬…勝ったのか?」
「ああ!俺たちが勝ったんだ!」
その声に、ガンマもゆっくりと目覚めた。
「全く…そろそろ国政に戻るか…獅子堂総理だけだと心もとないしな」
続いてシータも立ち上がり、安堵の息を漏らす。
「すごい戦いだったね…僕もおじいちゃん所に戻って日本の経済を立て直さなきゃな」
天馬は周囲を見渡して、あることに気づいた。
「見ろ!ジーン!ベータが倒れてるぞ!」
そこに倒れていたのは、天使のような姿ではなく、以前の女の子になる前の、黒いマッチョな姿のベータだった。ベータはゆっくりと意識を取り戻し、立ち上がる。
「あれ?私は一体?」
ジーンは、そんなベータに淡々と語りかけた。
「ベータ?気づいた?君は僕達に倒されたんだよ。これで、天馬をgene japan.に優先採用する約束を果たしてくれる?」
「いや、私はそもそも天馬くんのコネ入社の約束はした記憶はない…ただ、メビウスクリエイションを全て倒せたということは、これほどの人材はいないということだ…」
ベータの言葉に、天馬の顔が輝き始める。
「っていうことはつまり!俺は!年収1400万の勝ち組ビジネスマンに!!?」
ベータはにやりと笑った。
「さすがに一定の学力がないとうちについていけないけど、君がもし大学生になってうちに応募した時…」
天馬は前のめりになってベータの言葉を聞いた。「うんうん」
ベータは言葉を区切ると、高らかに宣言した。
「ほぼ確実に内定がくるだろう!!!」
天馬は手放しで喜んだ。「やったあああ!!!」
その様子を見ていたガンマが、静かに拍手した。「おめでとう!天馬君!これで荷がおりたね…」
シータも拍手を送る。「天馬君!僕も心から祝福するよ!」
ジーンもまた、安堵の表情で言った。「ようやく終わったね…お疲れ様!天馬!」
ベータは天馬に手を差し伸べ、誓いの握手を交わそうとした。
「天馬君?これからは君が社会人になる前に、gene社の関係者として我々gene japan.は歓迎する!よくやった!一戸天馬!!」
天馬は感動のあまり、目から涙が溢れてきた。
「これからもよろしくお願いします…CEO!」
そして天馬はgene japan.CEOベータと力強く握手を交わし、超大手企業のコネ採用という未来を手に入れたのだった。
―――――NORMAL END―――――
「なんていうと思ったか貴様!!!」
ベータは、天馬が差し出した手を強く握りしめた。その握力は尋常ではなく、天馬の手に激痛が走る。

「いって!!!急に何をするんだよ!!」
天馬の悲鳴に、ベータは冷ややかな笑みを浮かべた。
「これで君は、全てのナチュラルを討伐できたわけだ!じゃあ、ようやく本題に入れるな?」
天馬は唖然とした表情でその言葉を聞いた。
「へ!?どういうこと?」
「コネ採用は嘘ではない…別にそこまでやれるのならば、むしろうちには欲しいぐらいだ!しかし、君は一番重要なことを見落としている!!」
ベータの言葉の意味が分からず、天馬は困惑した。
「何を言っているんですか?まるで今まで隠していたみたいな?」
「まず、初心に帰ろうか?何故君はナチュラル討伐という汚れ仕事を任されたのかね?それは偶然か?」
質問の意図が掴めず、天馬は首を傾げた。
「質問の意図がわかりません…どういうことです?」
「これが正真正銘最後の任務だ…これは一戸天馬、君自身のことだ。ひょっとして君は、偶然ナチュラル討伐に選ばれたと勘違いしているのかね?」
ベータの不可解な言葉に、天馬はジーンに助けを求めた。
「質問の意図がわからない。ジーンは何かを知っているの?A級討伐すればコネ採用という話ではなかったっけ?」
ジーンは、重い口を開いた。
「そう!もうコネ採用という条件はクリアしている…違うんだよ…一番最後にやらなければいけないことがある…それはもし全てのナチュラルを討伐できた場合に明かすつもりだったんだ」
ベータが言葉を続ける。「一戸天馬?君は偶然でナチュラル討伐というわけのわからないことを任されたわけではない…聖修院から抽選で選ばれたとかではない…一戸天馬だからこの仕事を任されていたんだよ…」
「どういうことです?全てを話してください?」
天馬の焦りとは裏腹に、ジーンは落ち着いた口調で言った。
「今日のところは疲れたでしょ?gene社の車で送迎してあげるから、また後日考えようか」
天馬は、状況の整理がつかなかった。
「僕自身の事?どういうことだ!?」
To be continued!!
