【連載小説】save the gene | 第34話 黒幕
Part 1 一戸天馬の父親、一戸麒麟
今日、一戸天馬は自室に訪れているジーンに対して、いくつかの質問を投げかけた。以前から問われていた「自分自身のこと」という言葉の意味が、天馬にはわからなかったのだ。
天馬は言った。「俺自身の事ってなんだ?実は伝説の勇者か何かなの?」
ジーンは天馬の言葉を軽く受け流す。「いや、そういうわけじゃないよ。別にご先祖様がすごい奴とかそういう話をしているわけじゃないんだ」
天馬は少し怒ったように言い放った。「そろそろ観念して遠回しな言い方をするのはやめたらどうだ?もう俺はナチュラルを倒して、すべてを終わらせたはずだぞ!」
ジーンは観念したように息を吐き、静かに語り始めた。「じゃあ言うよ。まず最初に、どうして僕が君のところに現れたのか。そう…」
天馬は耳を傾けたが、ジーンは再び言葉を遮った。
「あまり話しすぎるとさ…」
天馬は呆れたように言った。「うるせえなあ!意味深な事ばかり言って、核心に触れない。そればっかりじゃないか!じゃあ、どうしてそういう言い方になるのか、その理由を教えてくれ!」
ジーンは、その言葉に促されるように続けた。「君はある人に、gene japan.への内定のためにナチュラル討伐をやらされたんだ。その方が天馬のためになる、ってね」
天馬は混乱した。「俺のため?俺の名前でそう呼んだのか?それに、優先採用じゃなくて内定?俺に近しい人物が推薦したってことか?」
ジーンは、天馬の様子を見て確信した。
「もうわかるでしょ?君がアルバイトを始めた直後、海外出張という名目で失踪したあの人だよ…」
その瞬間、天馬は全てを理解し、驚きで目を見開いた。「もしかして父さん!?麒麟父さんのこと!?」天馬の父親の名前は一戸麒麟。敏腕のAIエンジニアで、海外出張と称して天馬がこのアルバイトを始めた途端にいなくなってしまったのだ。
「そう、僕はたまたま君が選ばれて担当になったわけじゃないんだ。君を最終的にgene社への内定にふさわしいかどうか見極めるために、汚れ仕事であるナチュラル討伐を任せていたんだ」
天馬は驚きを隠せない顔で言った。「そうだったのか…。でも、どうして父さんはgene社とパイプがあったんだ?父さんとgene社には何の因果関係もないはずなのに!」
ジーンは淡々と答えた。「あるんだよ!君の父さん、麒麟さんとgene社は繋がっている」
その時、二人の会話をこっそりと盗み聞きしていた桜木葉子が姿を現した。
「話は伺わせてもらったわ!どうやら一戸とは無関係な話ではないようね?」
天馬は驚いた。「聞いてたのか!?」
葉子は天馬の驚きを意に介さず、ジーンに向き直った。「私、麒麟さんには命の恩があるのよ。私も詳細を聞きたいわ!ジーン、説明してちょうだい!」
ジーンは観念したように言った。「わかった。もう葉子もgene社とは全く無関係な間柄じゃないからね。まず、僕と天馬が出会った時のことを話そう」
天馬は尋ねた。「そのことを話して、一体何の意味があるんだ?」
ジーンは言った。「これから天馬や葉子が知りたがっている話が、だんだんと見えてくるからだ。前もって話しておく必要がある」
そしてジーンは、天馬と彼が出会った日の話を語り始めた。
Part 2 天馬とジーンの出会い
今年の春、聖修院高校の入学式を終えたばかりの一戸天馬は、ハンバーガーショップ「モック」にいた。これからの学校生活、人間関係、そして恋愛について、スマートフォンで対話型AIに熱心に尋ねていた。しかし、当時のAIはハルシネーション(錯誤)がひどく、荒唐無稽な回答ばかりに天馬はうんざりしていた。
「聖修院に入るだけでも大変だったのに、これからさらに難しい勉強を強いられるのかよ……。せめて勉強以外で俺が認められる方法があればなあ!」
モックを出て自宅へ帰る途中、天馬は思わずそんな愚痴をこぼした。その言葉が合図だったかのように、彼のスマートフォンが突然光り輝き、中からぬいぐるみのようなマスコットキャラクターが現れた。
「僕はジーン!もしかしたら君は世界を救うことができるかもしれない!」

突飛な出来事に天馬は目を丸くした。「ぬいぐるみが喋った!お前何?日曜8時にやってる魔法少女のアニメのキャラクター!?」
ジーンは飄々とした様子で言った。「これから君に高給のバイトを紹介してあげる、そのバイトを続けていれば、いつか君も認められるようになるから」
「はぁ?そのバイトってなんだよ?まさか異世界を救ってくれとでもいうんじゃないだろうな?」
「いやいや、ここは現実で、君が死んで異世界で無双するとかそんなんじゃないから。勉学はおろそかにせず、かつて正しかったものが今では間違っているものを退治しに行こう?」
天馬は混乱した。「なんだか例えが捉えどころないけど、俺は変身ヒーローになってこの町を救うことになるの?」
「いや、まずは僕の指示に従って。ちなみに普通の正義のヒーローとは違って、日払いで三万円は保証するよ!」
天馬は驚きを隠せない。「マジか!?それ、闇バイト並にすごいんじゃない!?」
ジーンはにやりと笑った。「じゃあ闇バイトかもしれないよ?いいの?」
「個人情報は聞いたりしない?」
「しないよ」
天馬は調子に乗った。「じゃあ、ちょっとやってみようかな!最初は何をすればいいんだ?」
ジーンは即座に答えた。「カスハラ客の撲滅だよ」
―――参照―――
Part 3 このアルバイトの最終目的
ジーンは続けた。「そして、僕との出会いからまさか天馬は……A級ナチュラル…メビウスクリエイションまで倒せるほど成長できるとは予想だにしなかった……」
天馬は感慨深げに答えた。「命の危険が多かった分、やりきった感が強いよ。それで、シンギュラリティというのは?」
葉子が口を挟んだ。「天馬、今はそのことはどうでもいいでしょう? じゃあ、天馬をひたすら危ない目に遭わせて何がやりたかったの? その真相を知りたいと、天馬も、そして私も何度も訴えているのよ。麒麟さんは天馬に何をやらせたかったの?」
ジーンは慌てふためいた。「もう僕の会話ログがメビウス・コアに流れているはずだから、天馬のスマコンの動画に映し出されるよ……いや、僕の方から動画を流すよ……」
「メビウス・コア? お前何を言って!?」天馬が驚いて尋ねると、葉子も異変に気づいた。
「あれ? ジーンのプロジェクターみたいな装置から動画が流れてる?」
ジーンはものすごく強い口調で言った。
「彼らが天馬に倒してほしい最終目的だ!!!」
そして動画には、筋肉質のジャージを着た男性が映し出された。
「よう! 久しぶりだな、一戸天馬! 千原小では世話になったな?」
天馬はその人物のことが分からなかったが、どこか見覚えがあった。「は!? あなたは!?」
「ほら! お前が江戸川区立千原小の職員室で待ち伏せしてた時、逆ギレして殴りかかってきた教員がいただろう? 覚えてないのも無理ないか……」
―――参照―――
天馬は、かつて小学校でのナチュラル討伐の依頼で、誤ってB級ナチュラルを発現させてしまった時のことを思い出した。
葉子は動画の人物を警戒する。「天馬、知ってるの? ものすごく悪いオーラがする……はっきり言っていい?」
葉子はさらに続けた。「私の記憶にある中で一番やばい!」
天馬はかすかに声を漏らした。「お前は……久喜、さん?」

Part 4 黒幕降臨
天馬は恐る恐る口を開いた。「久喜は……ただの小学校の体育教師で……始末班からの要請で逮捕されたわけじゃないのか!?」
モニターの中の久喜は、嘲笑うように言った。「はぁ? 教員免許があったから教師をやってただけで、元々本業はメビウス開発部の元部長だよ。俺が警察に逮捕されるわけねえだろ?」
その言葉に、天馬に抱きついていた葉子が震え始めた。「怖いよ!この人!こいつ藤間と……いや、藤間よりやばい……」
久喜は楽しそうに続けた。「ハハ……熱いね……。千原小のコミュニケーションツールPINEいじめの案件は、天馬、お前をおびき寄せるためのものだったんだ。どの程度の奴か、拝見しただけだ。そこらの教師も千原のガキどもも、『いい先生』として通ってたからな。『始末班に通報させたことにして終わらせる振り』をするのは簡単だったがね……」
ジーンが真剣な声で告げる。「もう後戻りはできないよ。久喜の言ってること、どういう意味かわかるね?」
天馬の背筋に恐怖が走った。「もしかして、gene社って俺の味方じゃない……のか……?」
その時、モニターにもう一人の姿が映し出された。「わしじゃよ!そろそろ天馬君の冒険もフィナーレかな?」
その人物は、他でもない黒川勇だった。天馬は恐怖で顔が引きつった。「黒川さん!?」

黒川は言った。「コルレールの件で、わしが黒幕ではなく白だと思ったじゃろ? しかしメビウス開発メンバーが黒幕じゃないはずがないじゃろう?」
久喜は苛立ったように言った。「俺のプロジェクトを引き継いだだけの老害があまり調子に乗るなよ」
「ハハハ、メビウスに多額の投資でバージョンアップさせ、『ナチュラル』という概念物質を発明したのはわしじゃからなあ! 君は多額の貯蓄でのんびりFIREをしてればよかったんじゃよ!」
あまりにも予想外な展開に、天馬も葉子も言葉を失った。
ジーンが二人を落ち着かせるように説明した。「全てを話すよ。天馬!君の最終目的は、旧式となったメビウス・コアの破壊。そして、それを良く思わないgene社の親メビウス・コア派――久喜健司と黒川勇の防衛ラインを突破することだ!」
急展開すぎて、天馬の理解が追いつかない。「黒川さん!僕のこと助けてくれましたよね? 優先採用のことも……」
黒川は笑った。「この会社に天馬君が入ろうが入らなかろうが、どうでもいいんじゃよ。わしも久喜も、天馬君がまさかメビウスクリエイションを倒せるとは思ってなかったからのう……。セラフィック・ベータも倒すとは、完全に予想外だった!」
ジーンは誇らしげに言った。「その予想外の奇跡を天馬が起こすことができたんだ! まさに天空に滑空する白馬のように……久喜や黒川の予想を完全に超えてきたんだ!」
Part 5 最後のミッション
久喜は平然と続けた。「そう、やっとの思いで教員免許を取ったんだよ。だって本業は未来に携わる仕事だったんで、資格勉強をする暇がなかったんでね」
「いよいよ始めようかな? 天馬君の本当のショータイムを!」黒川が高らかに宣言する。
天馬は苛立ちを隠せない。「何を始める気なんだ? 爺さんとおっさん、揃いも揃って」
「『お兄さん』と言えよ! ガキ!」久喜が声を荒げる。
「これからてめえに、gene社のメビウスを司るサーバー、通称メビウス・コアが鎮座してある最終ステージまでのセキュリティキーを託してやるって言ってるのに?」
ジーンが沈痛な面持ちで語りだす。「天馬、葉子もだけど、僕の会話ログは全て旧メビウス開発責任者二人……いわゆる首謀者に筒抜けだったんだよ。だから、はっきりと言い出せなかった。僕もメビウスクリエイションだから」
天馬は問いかけた。「これは俺の命に関わることか? 久喜。もし参加しないって言ったら?」
「ここまで到達してゴールしないわけにはいかねえだろ? てめえも向上心があるんだったら、中途半端は許さないはずさ」久喜は天馬の心を煽る。
天馬は言葉を詰まらせた。「くっ、こいつただものじゃない……ある種、ベータやガンマ、そしてシータよりも、なんていうか……つわものの意見のようだ」
黒川が再び口を開いた。「gene社のB15階へのセキュリティキーをザイオンに預からせておる。もし決意が済んだのなら、社長室を尋ねるといい」
「俺達のナチュラルも、ケルビックやセラフィックよりも強いナチュラルを憑依させてある。尻尾巻いて逃げ出さなきゃいいがな……ハッハッハ!」久喜が嘲笑し、そこで動画は終了した。
動画が途絶えると、葉子は震える声で天馬に言った。
「ジーン、私、天馬が多少危ないことしてても目をつぶるつもりだったけど、今回ばかりは……」
天馬はそれを遮った。「うるさい!」
葉子は驚き、天馬をじっと見つめた。「天馬?」
天馬は目を閉じて、静かに言葉を絞り出した。「何か、そこに父さんがいる気がするんだ。父さんはアメリカになんて行ってない! もしかしたら、幽閉されているのかもしれない」
「何か私もそんな気がする! 黒川と久喜のオーラは尋常じゃなかった。拉致監禁くらい、隠れてこそこそやることはなんともなさそうだったわ」葉子は天馬の言葉に同意し、続けた。
「本当に天馬のバイトはこれで最後なのね……」
そう言うと、葉子は天馬に敬礼をした。「どうか、死なないで!」
ジーンは天馬の頭上を漂いながら言った。「僕はもう究極のナチュラルなんだ! 親メビウス・コア派がどうだろうと、絶対に天馬を守るから……」
その言葉と共に、ジーンのまぶたから涙が溢れ出した。だが、それを見ていた天馬もまた、静かに涙を流していた。
葉子は、驚きと戸惑いの表情で二人に尋ねた。「あれ? あなたたち……どうして二人同時に涙を流しているの?」
To be continued!!
