【連載小説】save the gene | 第35話 天馬の運命
―――本当のクライマックス突入(`・ω・´)―――
Part 1 母親
一戸天馬は、ジーンと共にリビングにいる母親、香澄の前に座った。父親である麒麟が、gene社のとある派閥によって拉致監禁されている可能性があること、そしてこの仕事が終われば二度と危険なバイトには手を出さないことを、天馬は誠実に伝えた。
しかし、香澄は天馬の言葉を信じようとしない。
「あなた、一体何を言ってるの?お父さんはアメリカに出張したのよ!拉致だなんて…何世迷言を言い出したの!?」
香澄は混乱と不安で目を潤ませた。ジーンは、そんな香澄に冷静に語りかける。
「香澄さんには事情を説明されてないみたいだね。天馬がgene社のバイトを始めたきっかけは、麒麟さんなんだ」
天馬は、そんな母を安心させようと、これまでの経験を語り始めた。
「僕は今まで数々の難局や修羅場を乗り越えてきた。だから、今回も大丈夫だ。心配しないで。ただ、黙っておくと後で後悔すると思って…」
その言葉は、かえって香澄の不安を煽る結果となった。
「お父さんが、自分の息子に危険なことをやらせるはずがないじゃない!あなた、肉親のことをどう思ってるの!?」

涙を流しながら香澄は訴えた。ジーンは、香澄を説得しようと、天馬の未来を提示する。
「この最後の仕事さえやり遂げれば、天馬くんがgene社に内定することは確実なんだ。俺の将来を暗示して…」
だが、香澄はその言葉に激しく反発した。
「人の父親を誘拐するような会社に勤めなさいなんて、思うわけがないでしょう!そんな所に勤めなくたって…もっといい会社で、お父さんみたいにAIエンジニアとして活躍すればいいじゃない!」
天馬は、母親の言葉に言い返した。
「gene社に入社すれば、新卒で年収1400万円も稼げるようになるんだ!そんなチャンス、滅多にないだろ?」
その言葉を聞いた香澄は、まるで自身の教育方法を後悔するかのように、悲痛な声を上げた。
「天馬!葉子にもだけど、私たちは『勉強はつらいけど、それを乗り越えれば高所得になれるし、何もかも人生がうまくいく』と教えてきたわ」
天馬は、母の突然の言葉に戸惑う。「母さん?」
香澄は自嘲するように続けた。
「天馬と葉子は、将来と勉強に追われすぎて…口を開けば勉強、口を開けば将来の事…まるでそれが強迫症みたいに口癖になってしまった」
天馬は、自分がそうであることを否定する。
「別にそんなことないよ!大学に行けば、そんな足枷は取れるし、今だけ頑張れば、70歳くらいまでずっと人生がうまくいくって!」
ジーンは、親子の葛藤を客観的に解説した。
「いいかい、天馬。この多様化した社会で、どういう親もどう子供を育てたらいいか難儀してるんだ。それで、一番確実で、最も思いつく指標が学歴になる」
「だから何だっていうんだ?勉強するに越したことはないじゃないか?僕も葉子も昔からそう教わってきたんだから」
天馬は納得がいかない。ジーンは、香澄の本当の気持ちを代弁する。
「香澄さんは、天馬に将来のために命を賭けろと言っているわけじゃないんだよ…」
香澄は天馬に向き直り、謝罪した。
「ごめんね、天馬。将来と勉強ばかりを押しつけて…私、ある意味毒親だったのかもしれない。そこそこ勉強させて、後は好きなことをさせて、将来来るかもしれないAI依存型社会で、クリエイティブな仕事をさせた方がよかったのかもしれないわね」
天馬は、母の言葉にさらに混乱する。
「母さん?俺は、自分が勉強ばかりしていることに、そこまで疑問に思ってないよ?むしろ、聖修院のような名門に通っていることに誇りを持っている。どうせ大学に進学したら、自分の道を見つけることもあるだろうし」
香澄は、涙を拭いながら、自分の考えを天馬に伝えた。
「将来、AIによって自己研鑽しなくても生きていける世の中になるかもしれない。でも、天馬と葉子には怠惰になれとは言えなかった。将来の展望が全く見えない親は、子供に教育させるしかないじゃない?つまり、私たち既存の文化しか分からないのよ!」
「まさに革命前夜だから、この世界の誰もが、何をどうしたらいいか分からないんだ。香澄さんは、あらゆる選択肢の中で、最も確実性の高いものを選んだんだと思う」
ジーンの言葉に、香澄は静かに頷いた。
「天馬。あなたはこのバイトを、ゴールの一歩手前までやり遂げた。だから、絶対にやめなさいとは言わないわ。ただ…」
香澄は、目に涙を溜めながら、それでも強い意志を込めて言った。
「何事もなく、帰ってきなさい」
ジーンは、香澄の言葉を後押しするように言った。
「もう天馬はgene社にとって必要な存在だから、当たり前のようにgene社のベンツが来ているはずだよ。それに乗って、gene社のザイオン氏に許可を得に行こうか」
天馬は、母親に最後の言葉を伝えるため、立ち上がった。
「絶対に生きて帰ってくるから…あと一つだけ、言わせていい?」
天馬は、母親である香澄に深々と頭を下げて言った。
「やり遂げる力を養ってくれたのも、母さんや父さんのおかげだから」
そう言い残し、天馬とジーンは、家の前に停まっていたgene社の黒いベンツに乗り込み、gene社へと向かった。
Part 2 世界を救えるのは君しかいない
一戸天馬とジーンは、gene社の社長室に到着した。案内された応接室で彼らを待っていたのは、マイケル・ザイオンと、自律型AIであるベータだった。
ザイオンは、天馬の功績を静かに称えながらも、厳しい現実を突きつける。
「RANK Bまでは想定内だった。しかし、君はRANK A、メビウスクリエイションという最も強いナチュラルを討伐してしまった。もはや君のことは、親メビウス・コア派である黒川も久喜も黙ってはいられないんだよ」
ベータは、この状況を天馬にわかりやすく説明した。
「親メビウス・コア派について教えておく必要があるな。メビウスというAIは、古いハードウェアごと撤去し、新しいメビウスを構築しなければならない。しかし、黒川が旧メビウスで我々自律型AIナチュラルを開発することに成功したわけだ」
天馬は、その言葉の意味を理解しようと問いかけた。
「その古い型のメビウスが撤去されると…つまり…」
「一部のナチュラルを残して、全て抹消されることになる」
ベータの言葉に、天馬の胸に不安が広がった。
「じゃあ!ジーンは!?ベータはどうなるの?一部のナチュラルって、何が選定基準になるんだ!?」
「大雑把に言えば、メビウスクリエイション以外は保存せず消去だ。これに対し、黒川と久喜はよく思っていない。なぜなら、ナチュラルを討伐して利益を得られるビジネス形態が成り立たなくなる。つまり、黒川や久喜の利権が手放されることになるからだ」
ジーンは、そのビジネスの具体的な内容を尋ねた。
「そのナチュラルのビジネスってなんだ?具体的に説明してくれ。それが俺がB15階にあるメビウス・コアのところに行かなきゃいけない動機になるんだろ?」
ザイオンは、二人の問いに淡々と答える。
「無害なナチュラルは、『erase』と唱えるだけで消滅させることができる。旧メビウス・コアの特質上、人の脳の電気信号からナチュラルを生成できる機能が存在する。そのナチュラルを悪霊と称して、『お祓い』というビジネスを黒川たちはやっている。一案件に5万円…一年の総売り上げは約100億円…経費を差し引くと、20〜30億円の莫大な利益が二人に入ってくる」
天馬は、過去の経験を思い出し、その話に納得した。
「ジーンに依頼されたナチュラルは戦わなきゃいけないけど、僕が独断で討伐したナチュラルは、『erase』だけで消滅してましたね」
ベータは、資本主義の構造を天馬に語る。
「彼らが既得権益にすがる限り、メビウスのイノベーションはできない。資本主義というのはそうなのだ。新しい試みをしようとすると、旨みを手放したくない連中が阻止しようと企むものなのだ」
天馬は、ここまでの経緯を整理した。
「じゃあ、シンギュラリティの発生というのは?最もやろうとしていた目標はそれですよね?じゃあまるで、僕のやってきたことは、旧式のメビウスの廃棄処分のための練習をしてたってことですか?それについて詳細に聞かせてください」
ザイオンは、天馬の問いに答える。
「親メビウス・コア派と和解する方法は、現バージョンでのメビウスでシンギュラリティを起こすことだった。つまり、天馬くんに奇跡を起こさせることで、和解を実現させようとしたのだ」
「だが、案の定シンギュラリティは起こらなかった…」
天馬は、絶望的な状況に言葉を失った。ベータは、AIとは思えないほど感情のこもった口調で続けた。
「私AIが奇跡という言葉を使うのも違和感があるが、つまり奇跡だ。メビウスクリエイションを討伐しても奇跡は起こらなかった。じゃあ親メビウス・コア派との和解は、決裂せざるを得なくなる」
天馬は、それでも諦めなかった。
「他に方法はあるはずだ!〇か×じゃなくて、他に和解する方法を模索するべきだ!」
ジーンは、そんな天馬に現実を突きつける。
「ここでゲームの主人公は、両方を解決する方法を提示して、それに成功させている。天馬も、そういうゲームばかりやってきた弾みで、そう言ったんだね?でも現実は、対立してしまったら、勝つか負けるかしかないのが実情なんだ」
ザイオンは、立ち上がる天馬に一枚のカードキーを手渡した。
「B15階に行けるカードキーを渡しておくよ。心の準備ができたらお行きなさい!」
天馬は、まだ諦めきれない。
「いや!違う!黒川さんや久喜さんともwin-winの関係を築けるはずだ。何か方法を…」
ザイオンは、天馬に期待を込めて言った。
「天馬くん?」
「はい…」
「世界を救えるのは、君しかいないんだ…」

ザイオンは続けた。
「君は、最も上のナチュラル、メビウスクリエイションを討伐できたのだ。だから、gene社全体からも大いに期待が寄せられている。頼むよ」
天馬は、黙ってその場を後にした。
ジーンは、そんな天馬に声をかけた。
「もう君は、世界の命運を背負った勇者と言ってもいいぐらいだ…さあ、心の準備ができたら、B15階に行こう」
Part 3 メビウス・コアへの道
一戸天馬は、ザイオンから手渡されたセキュリティキーを使い、B15階へと向かうエレベーターに乗り込んだ。いつまでも下がり続けるエレベーターに、天馬は一抹の不安を覚えていた。
「僕はシンギュラリティとかじゃない…年収1400万円もそうだけど、一番確かめたいのは、そこにお父さんがいるかどうかだ」
天馬がそう呟くと、ジーンは静かに答えた。
「麒麟さんはいるよ」
天馬は驚きを隠せない。
「やっぱり知っていたんだな?」
「メビウス・コアの情報は麒麟さんがよく知ってる。なぜなら、メビウス・コアのメンテナンスは麒麟さんが率先して名乗り出たからだ」
天馬は怒りを露わにした。
「どうしてそう教えてくれなかったんだよ!?黒川や久喜にバレるとまずいからか!?」
ジーンは、その問いに頷いた。
「大いにまずい。そして、僕がそのことを言ってしまった以上、黒川や久喜は本気を出してくるだろうね」
「ジーンが言いそびれている一番の理由は、黒川や久喜の逆鱗に触れないようにするためだったのか?」
「あいつらは強いよ。なんせ、メビウスの始祖とナチュラルの始祖なんだから…」
ジーンの言葉に、天馬は最初の出会いを思い出した。
「そのジーンが、俺と最初に会った時、『君は世界を救うことができるかもしれない』って言ったよな?それって、つまり…」
ジーンは、真剣な顔をして核心を告げた。
「『旧メビウス・コアの廃棄処理』のことだよ」
天馬は、ジーンの言葉にさらに疑問を抱く。
「俺のスマコンのAIもメビウスなんだろ?ようは敵の技術で敵を倒すことになるじゃん?」
「メビウスでメビウスを破壊することは十分可能だよ。だから旧式のメビウス・コアは、臆面もなくやっちゃっていいよ」
天馬は、最終決戦の手段を尋ねる。
「メビウス・コアはナチュラルじゃないが、プロンプトで破壊できるものなのか?」
ジーンは、力強く頷いた。
「できるよ」
そう話しているうちに、エレベーターはB15階に到着した。
扉が開くと、うっすらと暗く、視界が遮られている。ジーンがライトを点灯させると、目の前には巨大な扉が現れた。扉にはセキュリティキーを通すロックがある。
天馬は、扉に手をかざしながら、決意を口にした。
「お父さん…待ってて…僕が助けてあげるから」
そして、セキュリティキーをロックに通し、扉を開けた。
目の前に広がっていたのは、想像を絶するほど壮大な空間だった。

Part 4 予感
学験会の夏期講習を終え、葉子は一人、慣れた道を歩いていた。いつもなら、友人と今日の講習内容や週末の予定を話しながら帰る道だが、今日は一人だった。天馬が家を出て数時間が経ったころだった。彼女の心は、ずっと重い雲に覆われていた。
突然、葉子の胸に冷たい風が吹き込んだ。それは、まるで何か不吉なことが起こる前触れのような、強い直感だった。もしかしたら、天馬の身に何か取り返しのつかない出来事が起こるのではないか。いや、もしかしたら、もう二度と帰ってこないのではないか──そんな恐ろしい予感が、葉子の胸を締め付けた。
いてもたってもいられなくなった葉子は、反射的に立ち止まり、後ろを振り向いた。そこに天馬がいるはずもないのに、葉子の口からは、無意識のうちにその名前が漏れた。
「天馬?」

その声は、真夏の帰り道に、むなしく響くだけだった。
To be continued!!
