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【連載小説】save the gene | 第17話 宗教セミナー



Part 1 黒川勇の指令

一戸天馬は自宅の部屋で、スマートコンタクト(スマコン)越しにコミュニケーションツール「DOOM」を立ち上げていた。画面の向こうには、Gene社AI開発責任者黒川勇が満面の笑みを浮かべている。

黒川勇参照

ナチュラルα…いや君には愛称のジーンでよかったかな? 一戸君! 君は計三体の…B? いやディザスターを倒してくれたようだね…いや! お見事!」

黒川は天馬の功績を評価している様子だったが、どこか事務的な響きがあり、手放しで褒めているわけではないことが窺えた。

「黒川さん! お久しぶりです! ジーンから直々にDOOMでお話があるとのことでしたが?」

天馬の言葉に、黒川は笑みを深くした。

「次は君にはとある比較的容易なディザスターの案件を用意してある。そしてこの案件をクリアしたらいよいよ、Gene社も手を焼いているディザスターの討伐をしてもらう! 今回の案件と合わせて残りのディザスターは三体ほどだ!

天馬はわずかに焦ったように問いかけた。

「もしその案件をクリアしたらジーンの秘密を教えていただけますか? 是非!」

黒川は顎に手を当てて考え込む素振りを見せた。

できる限りのことはお伝えしよう! 手を焼いているRANK Bナチュラル上位討伐となると、君もこのバイトは何故必要なのか? そしてナチュラルα(ジーン)が何故そういう呼称をしているのか等できる限り教えようではないか?」

天馬は迷いなく答えた。

「では今回もこなします。分からないことをそのままにしておけません。」

黒川は「ハッハッハ」と愉快そうに笑った。

「ひとつ大事なことをいっておくよ! 学生気分でいられるのは学生までだ! 大人になったら余計な詮索してみすみす出世競争から外されないことだな!」

そう言い残すと、黒川はDOOMから退出した。画面が暗転し、部屋に静寂が戻る。その沈黙を破ったのは、宙に浮いている相棒の声だった。

「黒川部長は正規でない人に、全貌を教えることはないと思うよ。」

ジーンの声に、天馬は眉をひそめた。

「俺って以前有賀さんに自分がこのバイトをしているのは偶然じゃないといわれた。何か運命的なものを感じるんだよね」

有賀鉄平参照

するとジーンは、いつものように冷静な口調で返した。

思春期にありがちな自己愛性パーソナリティ障害だね。自分を主人公に見立ててるんだね。そうやって主人公を演じながら陶酔して、人生損している人達を大量に見てきたよ。

天馬は驚いて言葉を継いだ。

「つまり有賀さんの言ってることはたまたまそう言っただけ? 何かのフラグになることはないと?」

「フラグにはならないけど、人の予感って当たるんだよね。黒川部長が何を知っているのか? 僕のプロテクトが外れてたら、もしかしたらドラマ的な展開も待ってるかもしれないね」

ジーンの言葉に、天馬は反論する。

「ナチュラルを倒し続けている時点でドラマ的なんだけど…何故マンガやゲームを否定しがちなんだ?」

ジーンは少し呆れたような口調になった。

「『俺はかっこいいぜ!』ってノリで勉強をおごそかにしたり、上司のいうことに黙って聞いてるだけなのに活躍してるビジネスマンだと言い張り、結婚したら家族を食べさせなきゃいけないのにかっこいいお父さんを演じたりして本質を見ない。それで気がついたら自分そのものを見失っている現代人が沢山いるんだ。君はそうなる?」

ジーンの世の中の裏側を垣間見せるような言葉に、天馬は少し目が覚める思いがした。

「つまり?本質は?お金?愛?俺にはまだわからないけど、 現実はマンガやゲームじゃないと? フィクションのパターンは現実に当てはまらない?」

「サブカルチャーは娯楽として発信している。これはあくまでも読み手を楽しませるために工夫してるから」

天馬は納得したようにうなずいた。

「じゃあつまり黒川さんのいう事に反発したらまずいという事か?」

ジーンはにこりと微笑んだ。

「そう、ましてや会社の重役に中二病を持ち込まないようにね。ささ荒川区町屋にいくよ。」

ジーンに促され、天馬は今回の案件のために、荒川区町屋へと向かうべく立ち上がった。


Part 2 刹那教

千代田線に揺られながら、天馬とジーンは荒川区町屋へと向かっていた。電車の心地よい揺れの中、宙に浮かぶジーンが今回の案件について説明を始めた。

「今回は宗教セミナーを開いている宗教団体に関しての案件だよ。」

天馬は眉をひそめた。

「宗教団体!? 何か変なイメージがあって正直関わりたくないんだけど…」

「そこまで変な宗教じゃないよ…ただこの宗教団体は科学を否定して自然を信仰する刹那教って団体なんだ。つまり?」

ジーンの問いかけに、天馬は考え込むように答えた。

かつては正しくて、今は間違っているという奴の代表格ってことか? でも、その団体に喧嘩仕掛けたら変なことにならない? 俺正直巻き込まれたくないけど。」

ジーンはチッチッチと首を振る。

「まあ天馬の人生の勉強がてら行ってみるよ。後、現金で一万円渡しておくから。」

突然の申し出に、天馬は目を見開いた。

「これってひょっとして上納金ってやつ?」

ジーンは頷いた。

「そう、僕達はそもそも信者じゃないけど、一応セミナー代としてね。」

そうして、天馬とジーンはセミナー会場へと足を運んだ。会場には、刹那教の信者らしき人々が静かに説法を聞いている。場違いな雰囲気を感じながらも、ジーンの指示に従う。

「僕達も座って瞑想しながら刹那教の説法を聞こうか?」

「耳は傾けるけど…聞く耳持たないようにするわ。」

座禅を組む天馬とジーン

天馬は半ばやけっぱちになりながら、ジーンと共に座禅を組んで説法を聞き始めた。刹那教の司祭らしき人物は、抑揚のない声で語り続ける。

科学やAIは人の摂理に反するのである。産業革命以降、生命の調和が乱れて人口が爆発的に増えた。そしてたった数百年で人類は地球の自然を食い潰そうとしている。我々は自然に変えるべきである。故に科学という人類の産物に甘えてはだめなのである…これで説法は終わりです。今日も光あれ。」

説法が終わると、司祭は箱のようなものを壇上に置いた。信者たちは順番にそこへお金をお布施し始めた。

「天馬も並んで、お布施したら帰るふりして物陰に隠れるよ。」

ジーンの指示に、天馬は納得がいかない様子で呟いた。

「偏っているように聞こえているけど、こういう考えも間違ってはいないんじゃないか? Gene社だって科学信仰なところあるし、逆のパターンも別にありだと思うし。」

ジーンは首を振った。

「別に間違っているなんて一言もいってないよ。お布施自体は信教の自由として認められてる。問題なのは司祭のデータを収集して、低い確率だけどシンギュラリティを起こすことだから。」

天馬は「なるほど」と納得したように言った。

「結構しつこくジーンは言ってるけど、ようはGene社の仕事の都合上の話なんだな。」

そんなやり取りをしていると、一人の信者の子供が深い咳をし始めた。

「ゴホゴホ! 僕、お医者さんに診てもらいたいよ!」

その母親は、冷たく子供を叱りつけた。

「医学は科学の結晶よ! それは悪なんだから自然治癒力で治しなさい!」

そう言って、親子はお布施をして去っていった。その様子を見ていたジーンは、ニヤリと笑った。

「これは司祭のディザスター発現のプロンプトに使えるね。」

天馬はお布施を済ませると、ジーンに顔を向けた。

「何かジーンの方が悪者みたいだよ…悪を挫くわけじゃないんだな…」

信者たちが全員お布施を終えて帰っていくまで、天馬とジーンは物陰に身を潜めた。そして、物陰から司祭の声が聞こえてきた。

vtuberよりは効率が悪いが、自分の考えを述べただけでこれだけ稼げるとはな。」

その言葉を聞き逃さなかったジーンは、好機と見て天馬を引っ張り、司祭の目の前に姿を現した。

「お前の悪事もここまでだ!」

ジーンの唐突で強引な展開に、天馬は思わずため息をついた。

「ようは人の自由行動に首つっこんでるだけじゃん…」


Part 3 憤怒のディザスター

司祭は、目の前に突然現れた天馬とジーンに驚きを隠せない様子で言った。

「なんだね? 君は? ここは信仰の浅いものの来るところではない! 帰りなさい!」

ジーンは司祭の言葉を無視し、冷たく言い放った。

「お前の偏った自然信仰で信者の一人が苦しんでるんだ! 許さないぞ! さあ天馬! プロンプトを!」

天馬は気まずさを感じながらも、ジーンに言われた通りスマコンにプロンプトを入力した。

「何かプロンプトを打つのも気まずい気がするけど…『偏った自然信仰 カルト宗教 save the gene!!』」

その言葉がスマコンから放たれると、司祭はまるで糸が切れた人形のようにガクッと倒れ込んだ。その体から、おどろおどろしい光が噴き出し、やがて大仏の顔が乗った獅子が姿を現した。

憤怒のディザスター ラス

「我は憤怒のディザスター、ラス! 我は…」

ラスが言葉を続けようとするのを遮るように、ジーンはあっけらかんと言った。

「別に君の主張を否定しているわけじゃないよ。」

ラスはきょとんとした顔でジーンを見つめた。

「へ!? そうなの? じゃあ我を発現させたのはどういうこと?」

ジーンはラスに歩み寄るように、言葉を続けた。

AIと自然の調和が最近のトレンドなんだよ。」

科学は人を堕落させる、だから科学はこの世から滅せねばならん…」ラスはなおも自らの主張を曲げない。

ジーンは再びラスの言葉を遮った。

「自然と科学、両方肯定した方が信者の数も多くなって稼げるよ!」

ラスは「はぁ!?」と驚きを露わにした。

マジか!?

「マジ! ただ…」

ラスはジーンの主張に興味津々で耳を傾けた。その様子を見て、ジーンはさらに言葉を重ねた。

ラスのデータをくれる? 全力でこの少年にぶつかってきて。」

ラスは笑顔になった。

「アドバイスありがとう! 我もっと稼ぎたい。お前のいう事を信じよう。」

そう言ってラスはジーンの指示通り、天馬に攻撃を始めた。その光景はまるでギャグのようだった。天馬は呆れながらも、独りごとのように呟いた。

「で、結局俺が犠牲になるの? ああ、そうかバイトなんだっけ? ああそういえば以前も5万位だっけ? 6万の時あったな。

ジーンはどこ吹く風で言った。

歩合制だから今回は多分4万位じゃない? さあくるよ。」

ジーンの言葉に、天馬は現実へと引き戻された。目の前には、笑顔で襲いかかってくるディザスター、ラス。天馬とジーンは、戦闘態勢に入った。


Part 4 vsラス

「さあいくぞ! 少年!」

ラスは、自身が乗る獅子の本体から切り離された大仏の頭を、猛烈な勢いで天馬めがけてぶつけようとした。以前よりパワーアップしたジーンは、さらに広い盾を瞬時に展開し、天馬もろともその中に覆い隠す。

「この頭を投げる攻撃は僕の盾でも一旦修復が必要かも…衝撃に備えて。」

ジーンの声に促され、天馬はとっととジーンのそばに身を寄せた。次の瞬間、大仏の頭が一瞬にして飛来し、盾に激突する。鈍い衝撃音が響き渡り、大仏の頭はそのまま獅子の本体へと跳ね返っていった。

だが、ラスはすぐに再び大仏の頭を投げようと構える。ジーンは慌てたように叫んだ。

二回目くると盾を貫通する可能性があるから、プロンプトを入力して!」

「分かった! 『大仏アタック!!』」

天馬がプロンプトを叫ぶと、飛来してきた大仏の頭は空中で粉砕され、ラスはよろめいた。

「これも我が稼ぐために頑張ねば!」

そう言うと、ラスは獅子の本体から紫色の炎を放ち、部屋中を覆い始めた。

「これは鬼火みたいだね。実質幽霊だから部屋自体は燃えないみたいだけど、こちらにはダメージがあるよ。今の盾でも防ぎきれると思うから、盾内で待機して。」

ジーンの指示通り、天馬は盾内で待機した。しかし、部屋の温度はサウナ以上に上昇し、息苦しさが増していく。

「く! これじゃ蒸し焼きだ! ふざけていると思ったけど、今までのディザスターの中でも強いほうだぞ!」

天馬の苦しそうな声に、ジーンは冷静に応じる。

「呼吸も塞がれるだろうからエリアヒールを重ね掛けしとく。口を塞いで何とか耐えて。そしてプロンプトは的確に。」

天馬は言われた通り口を塞ぎ、鬼火に触れないように盾の奥へと身を隠した。しばらくすると、鬼火は次第に沈下していった。

「すごく苦しかった。エリアヒールで何とかなったようだな…」

天馬が安堵の息をつくと、ジーンが促した。

「プロンプトは?」

「ジーンも言ってたな、『鬼火!!』」

天馬がプロンプトを唱えると、部屋中から鬼火が消え去り、獅子の体のラスはたじろいだ。

「鬼火もダメか? では奥の手だ。

ラスは震えだし、何かを企んでいるようだった。ジーンは警戒を強め、天馬に警告した。

「気を付けて! 何か来るよ!」


Part 5 winwin

ラスの獅子の体から、お経のような人の声がこだまし始めた。「お金がないね…」「病院行きたいよ!」「宗教なんかにはまりやがって!」あまりにも恐ろしい声に、天馬は思わず耳を塞いだ。

「なんだこの精神攻撃は!? 耐えられない!」

ジーンは天馬に呼びかけた。

「聞かないことに集中して! 平常心でいて! 天馬!」

しかし、天馬は膝をつき、倒れこもうとしていた。その様子を見て、ラスは高笑いした。

「我の怨嗟の声にはさすがに貴様らも耐えられないようだな…」

その瞬間、ジーンはニヤリと笑った。

「いまラスが言ったよね? さあ叫んで!」

天馬は咄嗟に、部屋中に響き渡るようにプロンプトを叫んだ。

「『怨嗟の声!!』」

すると、お経のような言葉がピタリと止み、スマコンのメビウスに「weakness?」の文字が浮かび上がった。天馬は確信したように言った。

「こいつはとどめが簡単な方だと思う! これしかないだろ? 『拝金主義 destruction!!』」

天馬の言葉と共に、ラスは音を立てて崩れていった。だが、その消滅の直前、ラスは笑顔で言い放った。

「やったぜ! また儲け!」

ラスが完全に消滅すると、倒れていた司祭がゆっくりと意識を取り戻した。司祭は、呆然とした様子で呟いた。

「自然は必ずしも人を救うわけではないんですね…ですが私はいつものスタイルで人に教えたいんです。科学の融合は説くつもりはありません。」

ジーンは司祭に問いかけた。

「じゃあお布施で金を稼ぐより、自分の考えを貫くタイプなんだね…だけど病院くらいは行かせてね。

ジーンの言葉に、司祭はハッとした顔で言った。

「それはちょっと過度でしたね…わたくしも狂信的でした…すいません。」

そうして司祭は、自らの考えを改めることを誓った。天馬とジーンは、なぜか司祭にお辞儀をしてその場を去った。

その後、司祭はお布施を3000円程度に留め、自然信仰でも酒は自由、医療は自由という新たなルールを設けた。そして、先ほど咳がひどかった子供も病院に行ったようだ。

「よかった! ただの風邪だったんだ! コロナじゃないかと心配してたよ。」

母親は、心底安堵した様子で言った。

「司祭の考えは素晴らしいわ! 臨機応変に対応するんですもの。」

司祭は売り上げは減ったものの、「何か、気持ちいいな…」と穏やかな表情を浮かべた。この騒動は円満に終わったのだった。


Part 6 ジーンの義憤


千代田線での帰り道、天馬とジーンは今回の件について反省会を始めた。

「刹那教はお布施も減って、ルールを緩和させたけど、これでいいの?」

天馬の問いに、ジーンは淡々と答える。

「本人がそう申し出たことに僕達は干渉しないよ。ただ子供を病院に行かせないってことだけは許せなかった。」

天馬は少し納得がいかない表情で続けた。

「お布施で儲けることは悪いことなの? 悪くないの?」

「本人がそうしたいと思えば、それは悪いことではないんだよ。悪いことならとっくに司祭は捕まってるから。」

ジーンの言葉に、天馬は腑に落ちない様子だった。

「対して働いていないのに司祭は金もらってさ、俺はナチュラル討伐一回四万円だぜ! 不公平だよ!」

ジーンは笑いながら言った。

「資本主義だからね! 虚業で稼いでる人、低賃金で現業で働いている人は現実にあるよ! 取り締まる法律があれば違うかもしれないけど…」

ジーンは相変わらず法律を引き合いに出したが、子供を病院に行かせないことが許せなかったというジーンの考えには、天馬も深く共感することができた。

To be cotinued!!


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