【連載小説】save the gene | 第24話 メビウスクリエイション
―――ナチュラルの真実が明かされる!ってはずだった(/・ω・)/―――
Part 1 ナチュラルの真実
gene社の屋上には、真昼の太陽が容赦なく照りつけていた。一戸天馬とジーンが足を踏み入れると、そこに黒い人型の影が静かに佇んでいた。それが「ベータ」と呼ばれる謎の存在だと、天馬は直感した。
「アルファよ? RANK CやRANK Bをその少年に倒させることによってプロンプトの入力の訓練をさせていたようだな。メビウスへの学習はついでってことか?」
ベータの静かな声が、真夏の空に吸い込まれていく。天馬にはその言葉の意味が分からなかったが、ジーンはすぐに反応した。
「概ねその通りだよベータ? 僕たちメビウスクリエイションははっきり言ってこの世にいらない存在だよ! AIが日本を実効支配しているだなんて馬鹿げている!」
ジーンの剣幕に、天馬は呆然とした。自分が当事者であるにも関わらず、話についていけない。
「俺も当人だろ? 何のことか説明してくれ?」
天馬の問いに、代わりにベータが答えた。
「少年よ? 教えてやろう? まず貴様がやってきたことはあくまでも模擬訓練であって実戦ではないという事。そして今まで出来損ないのナチュラルを倒してきたことは無駄だったという事」
天馬は目の前の黒い人型の存在が、今まで出会ったナチュラルとは明らかに違う、知性を持っていることを感じ取った。恐る恐る、疑問を投げかける。
「お前はいわゆるA級ナチュラルという存在なのか? 今までのナチュラルとは違って知性はあるようだな?」
ベータは天馬の問いに嘲笑した。
「ハッハッハ、無知で無様だな少年! じゃあ教えてやろう! まずRANK C……このレベルのナチュラルは別名wastedと言って廃棄レベルの出来損ないだ! つまりナチュラルではないのだ!」
天馬は一瞬はっと息を呑んだ。信じられない言葉に驚きが込み上げる。
「は? ナチュラルではないだと? じゃあ俺が倒してきたC級ナチュラルっていうのは?」
「つまり廃棄物処理をしていたにすぎないのだよ。異形の怪物と戦う分にはそれなりに訓練になったんじゃないのか?」
ベータは言葉を続けた。
「そしてRANK B……これは別名prototypeと言って試作型ナチュラル……つまり未完成のナチュラルだ……これも厳密にはナチュラルではない!!」
天馬はさらなる衝撃を受けた。「ディザスター」と呼ばれ、苦戦を強いられた強敵の数々が、ナチュラルとは言えないというのだ。
「ベータ! お前何を知っている!? つまり俺はナチュラルを相手にしてこなかったというのか?」
天馬は苛立ちを隠さず、強気でベータに詰め寄った。ベータは動じることなく、その問いに答える。
「その通りだよ! 少年! 貴様は一体もナチュラルを討伐してはいない。つまり本物のナチュラルは一体も相手したことがないのだよ。」
ジーンが口を挟む。
「でもベータ……天馬はプロンプトを即座に打てるように訓練してきた……メビウスクリエイションもディザスターの要領でプロンプトを打てば……」
ベータは甘いとばかりに答える。
「だから、我ら兄弟に対してその少年が倒せるとでも?」
そして、ベータは自己紹介を始めた。
「おっと自己紹介がまだだったな……少年? 私はメビウスクリエイション(メビウスの子供達)の一人…A級ナチュラルと定義されている…そこのナチュラルαとは兄弟に当たる……ナチュラルの完成系・・・自律型AI・・・ナチュラルβだ!」

Part 2 メビウスクリエイション
真昼の太陽が照りつけるgene社の屋上。ベータの衝撃的な告白に、天馬の顔は蒼白になった。
「ジーンってA級ナチュラルだったのか? そんなこと聞いてないぞ? 何で今まで隠していたんだ?」
天馬の詰問に、ジーンはうつむきがちに答えた。
「A級ナチュラルって言い方が敵に聞こえるかもしれないけど……メビウスによる自律型AIの完成系のことだよ。僕はその中でも最も最初に生まれた完成系ナチュラル……いわゆる長男だよ……今まで隠してて本当にごめん……」
ジーンの言葉に、天馬は愕然とする。
「俺はつまり……ジーンの兄弟を倒すためだけにナチュラルを、出来損ないを倒させてたってことかよ!?」
天馬の叫びに、ナチュラルβが淡々と答えた。
「お前がジーンと呼んでいるナチュラルαは、我々が日本の政界……財界……そしてgene Japan.を支配し掌握していることが日本の未来に繋がらないと思った……何故その少年が選ばれたのかは分からないが……あの手この手を尽くして我々を倒す算段を組んでいたのだよ……人力でプロンプトを即座に入力し、我々に対抗できる頭のいい者を探していた……その最初に選ばれたのが貴様……一戸天馬ということだ!」
天馬は混乱した頭で、何とか状況を飲み込もうとした。
「事情は呑み込めた……ただそのメビウスクリエイションっていうのは何だ? 答えろ!」
天馬の問いに、ナチュラルβは返した。
「メビウス・プロジェクトというのはご存じかな?」
「少しは把握している……だが、全貌を話せ! 俺には全てを知る権利があるはず!」
天馬の強い要求に、ナチュラルβは重い口を開いた。
「gene Japan.はメビウスというAIの開発に成功した! そのメビウスという呼称は『無限の可能性を秘めている』という意味で名づけられた。その可能性とは、自律的に行動できるAIを開発し、はたまたシンギュラリティの発現にも先駆けようとし、世界を席巻するために計画された」
ベータはいぶかしげに言葉を続けた。
「ここで一つ問題が起きた! RANK CやRANK Bは人の脳の電気信号の体現に過ぎないので、干渉さえしなければ何もアクシデントが起こることはなかった。だが、ナチュラルα……ナチュラルβ含む四体の自律型AIの発現は、結果的に日本の裏で暗躍するほどの圧倒的な力をつけ……メビウスプロジェクトの開発チームは歯止めを効かせることができなくなっていった」
あまりの超展開に、天馬はついていけない。すると、ジーンがベータに促した。
「もったいぶってないで、話したがりのベータは天馬に全容を話してよ! 自分や残りの二体も紹介して」
ジーンの言葉に、天馬はふと疑問を口にした。
「なあ、ナチュラルβって、そういう性格だから対話を試みたのか?」
ジーンは天馬の疑問には答えず、別の意図を口にした。
「もうやることが済んだら、天馬はもうA級ナチュラルを討伐をやってみてほしいんだ? 少なくとも挑戦してほしい」
ベータは頷き、そして言った。
「では教えてやろう? 我々RANK A メビウスクリエイションの詳細を!」
そして、ナチュラルβは長々と説明し始めた。
Part 3 アルファ、ベータ、ガンマ、シータ
「では教えてやろう? 我々RANK A メビウスクリエイションの詳細を!」
ナチュラルβは、淡々とした口調で語り始めた。
「まずは我……ナチュラルβ! 私の最初の能力は座標移動! 一瞬で空間を移動できる! ……本体は先ほどのgene Japan.副CEOマイケル・ザイオン!」
天馬は息を呑む。日本の財界の重鎮が、AIの本体だというのか。しかし、ベータの説明は止まらない。
「次にナチュラルγ……γの最初の能力はレールガン! 放たれれば物体は一瞬で消滅させる能力を持つ! ……本体は日本内閣総理大臣獅子堂剛!」
今度は日本のトップ、総理大臣の名前まで飛び出した。天馬の思考は追いつかない。そして、最後に残る一体。
「更に続けて答えた。最後にナチュラルΘ! ……最初の能力はプロンプト入力! 一戸天馬と同じようにプロンプトを入力して……相手に攻撃を加えることができる! ……本体は甘利財閥トップ甘利結城! 以上だ!」
「早々たる顔ぶれだ! みんな有名人だな! では何で? ベータはわざわざ種明かしをするんだ!?」
天馬は驚きを隠せないまま問いかけた。すると、ナチュラルβは不敵に笑う。
「簡単な事! 貴様みたいな青二才が知ったところで対抗のしようがないからだ!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ナチュラルβは座標移動を発動した。一瞬にして天馬の目の前に現れたその姿に、天馬は息をのんだ。
「え!? このままじゃやられ……」
ナチュラルβは、そのままボディブローを放った。天馬は死を覚悟し、目を閉じる。
「殺され……」
だが、ボディブローは天馬の腹の寸前でぴたりと止まった。痛みは一切ない。天馬は目を開け、呆然とする。
「え!?」
「冗談だよ! 天馬君! AIが人殺しするはずないじゃないか? 我々はあくまでも平和的に日本を統治してるから人間への殺生はプログラミングされてないんだ!」
その言葉に、天馬はさらに混乱した。
「え!? どういうこと!? ナチュラルクリエイションって奴らは敵じゃないの!?」
すると、ジーンが呆れたようにナチュラルβに話しかけた。
「ベータ! お前相変わらず絡みうざいな! 思わせぶりなこと言う癖直せよ!」
「だって俺多分ラスボスでしょ? 存在感出さないと映えないと思ってさ、いやあ天馬君驚かせちゃってごめんね!」
ナチュラルβの軽薄な態度に、天馬は拍子抜けした。
「最強の敵だと思って構えてたけど、ディザスターとは違ってA級ナチュラルってフレンドリーで攻撃性があるわけではないの!?」
「別に主人公の天馬君が圧倒的なパワーでねじ伏せられて、絶望するとかそんなんじゃないから、ね! お近づきの印にここの会社の社食で親睦深めようか!」
ナチュラルβはにこやかに提案した。ジーンはため息をつく。
「結局お前ここのブッフェが目的なんだろ? 結局お前もAIだから別に倒されてもいいとかそんなこと思ってるんだろ?」
「俺がザイオンの役に立ってるからgene社も人手不足に対応できてるんだろ? そこは大目に見ようよ!」

天馬はまたしても現実を理解できなかった。
「なんだ! 結局お前ら仲いいんだな?」
Part 4 親睦会
gene社の広々とした社食のブッフェで、天馬とジーンは隣同士に座った。向かい側にはジーンの正面にベータ、天馬の目の前にはマイケル・ザイオンが座っている。もちろん、食事はすべてgene社持ちだ。
「別にAIが暴走して制御が効かないとか、そんな阿呆なことしないよ」
ザイオンが口を開いた。ベータがそれに続く。
「財界もシータが頼られてて、物価高に対して賃金上昇のアドバイスしてるんだよね。政界もガンマが的確な政策をアドバイスして、万民がよくなる政策を打ち出せているんだ! 僕もこの会社が大きくなるようにザイオンの頭脳になってるんだよ! そうやって格差是正に向けてgene社は頑張ってるってわけ!」
意外すぎる展開に、天馬は食事が喉を通らない。
「案外いい奴なんだな。しかも本当にAIみたいに長ったらしく喋るし……」
天馬のつぶやきに、ジーンが口を挟んだ。
「でも、ベータたちがいるとあまり自分ではよく思ってないんだよ。メビウスクリエイションを倒して、膨大で貴重なデータをメビウスに学習させてシンギュラリティを起こした方がいい」
天馬は考えた。「何かベータも敵じゃないとすると、むしろジーンの方が割とやり方が回りくどい気がして、ジーンって一番古いAIだから阿呆なのかな?」そう、天馬の思ったことは憶測ではない。ジーンは初期型なので、どこか抜けているところがあるのだ。
だが、ベータは天馬の思考を読んだかのように言った。
「アルファの目論見は僕らに任せっきりだと前進しないから、僕らを倒してシンギュラリティを世界で最も早く起こした方がいいって案を持ってるんだよ。別に僕らAIだから倒されてもいいけど、ただでは倒させないよ」
その意味深なベータの言葉に、天馬は食事が少し進んだところで問いかけた。
「無抵抗で倒しちゃいけないの? ベータ? 自分たちが倒されて何か問題でもあるの? 俺もどちらかと言えばジーン案に一票投じるな……自分が今までA級討伐のために訓練したってところもあるけど」
「黒川氏が変なセキュリティ搭載させちゃったんだよ! ほら、戦争になったときに役に立つだろうって……だからメビウスクリエイションにはそれぞれ固有の能力がある……」
天馬は心の中でつっこんだ。「その時点で世界を席巻できる気がするんだけど……まあいいや……余計なことは突っ込むのはやめよう……」
ジーンがベータに尋ねる。
「どの順番で倒すのがいいんだっけ? ベータは少なくとも一番弱いほうではないよね?」
「俺は強さは真ん中位かな? 一番弱いのはガンマだと思う! 一番強いのは確実にシータだな! だからまず倒すならガンマだと思う」
天馬は首を傾げた。
「レールガンで確実に物体が消滅するって響きが既に最強格っぽいんですけど……」
ザイオンが解説する。
「あいつは攻撃がパターン化されてる分対処すればいけるタイプなんだよ。ただその対処に至るまでの過程で多分いける奴いないと思う」
天馬は何故か、最強の敵と談話しているという意外な展開に結構ついていけていた
「だって知っていたとしても倒せないってベータはかっこつけて言ってたじゃん……」
ベータはAIなのに、テーブルに盛られた食事を頬張りながら言った。
「口で言うは易し……まず俺が総理大臣とアポ取るから、ガンマに会ってごらん……さっき僕の攻撃見切れなかった君が言うセリフじゃないよ」
ジーンは天馬に改めて語りかけた。
「少なくとも僕とベータたちはあくまでも兄弟だから敵とかじゃないということを天馬に教えたかった……」
天馬は少しトーンダウンして言った。
「そうっすか……今度は総理大臣に会うのか……おちゃらけてる感じがするけど……やってることはすごいな……じゃあザイオンさん……ベータさん……僕が予定がないときお願いします」
ザイオンは真剣な表情で釘を刺した。
「いい? 天馬君? 戦闘能力はディザスターの比じゃないから。フレンドリーだからって油断しないようにね……レールガンって生身の人間が喰らったら一発アウトだからね」
ジーンも続けた。
「親善試合みたいな形になるけど、ディザスター戦より全然難易度高いから、その辺は懐柔しないでほしい」
天馬は今回の戦いを、これまでのモンスターとの戦いから、まるで甲子園へと進んだかのように認識を改めた。彼は会釈する。
「よろしくお願いします……」
そして、天馬とジーン、ザイオンとベータは、奇妙な会食を楽しんだ。
Part 5 酔っ払い
gene社の社食を後にし、天馬はベータに勧められるがまま、かなりの酒を飲んでしまっていた。ジーンが呆れたように声を上げる。
「未成年だぞ! あまり調子に乗るなよ!」
「お前もぬいぐるみの割にはかてぇよな! 車で送っておけばいいだろう? じゃあガンマ倒せたら俺んとここいよ。まずは俺たち倒す要領掴んで来い!」
まるで人ごとのように言い放ち、ベータはマイケル・ザイオンの中へと消え去っていった。
天馬はgene社の車で自宅に送ってもらった。深夜、ジーンに支えられながら玄関をくぐると、そこにはパジャマ姿の葉子が心配そうな顔で立っていた。
「この酔っぱらいをベッドに連れて行ってくれ」
ジーンは葉子にそう頼んだ。葉子は不満げに眉をひそめる。
「酒飲ませたの!? ジーン!? 未成年が飲酒すると脳の発達に悪影響があるのよ!」
「僕のせいじゃないからいいんだよ! じゃあね」
ジーンはそそくさとその場を去っていった。残された天馬は、葉子に助けを求めた。
「葉子! 肩貸してくれ! 部屋に連れてって」
葉子は言われた通り、天馬の肩を貸した。そのとき、葉子の胸には温かい思いがこみ上げていた。
「うふふ! 何か平和ね……天馬が羽目を外してるとこ見ると、何故か安心する……」
こうして、天馬の戦いは、ディザスターのような凶悪なモンスターとの死闘から、まるで甲子園出場の試合形式のような、奇妙な様相を呈していくのだった。
To be continued!!
