【連載小説】save the gene | 第32話 gene japan.入社試験(ラスボス戦)
Part 1 ベータの演出
一戸天馬と相棒のケルビック・ジーンは、Gene Japan.の屋上ヘリポートに招かれていた。吹き抜ける風が、天馬の制服の裾を揺らす。ジーンはいつものように、天馬の頭の高さでふわりと宙に浮いている。その視線の先には、一人の少女が立ちはだかっていた。ベータだ。彼女は挑発的な笑みを浮かべ、涼やかな声で言った。
「一戸天馬君の華々しいデビューを飾ってあげなくちゃね?」
天馬とジーンの後ろには、何やらマスコミ関係者と思わしき集団がカメラを構え、天馬たちを取材しているようだった。しかし、天馬はすぐに違和感を覚える。彼らの動きはどこか機械的で、表情には人間らしい感情が欠けていた。そう、彼らはGene社のAIロボットだったのだ。
「どういうつもりだ!?」天馬は思わず声を荒げた。
ベータはにこやかに答える。「天馬君の関係者にも観戦してもらなくちゃね?」
その状況は、遠く離れた一戸家、山崎家、甘利家にもリアルタイムで届けられているようだった。
一戸家では、桜木葉子と母親の香澄がリビングの大型ディスプレイに映し出された動画を固唾をのんで見守っていた。
「天馬?ちょっとさらし者にされてるけど……頑張ってね」葉子は心配そうに呟く。
隣で見ていた香澄は、呑気な声で言った。「あら!天馬はもう内定決まるの?すごいじゃない?やっぱ人の運命は数学ね!頑張ってちょうだい!」
山崎家では、山崎國男がタブレットで動画を視聴しながら、豪快に笑っていた。
「ハッハッハ!天馬かっこいいじゃん!やれやれ!やっちまえ!」
甘利家では、コミュ障の甘利康之が画面を見つめ、ぽつりと感想を漏らした。「楽しそう……」
その隣で、康之の祖父である甘利結城も画面に釘付けになっていた。「一世一代のチャンスじゃな……この機を逃さなければお主大成するぞ!」
様々な関係者の視線が天馬に注がれる中、天馬は再びベータに問いかけた。
「これ?何の演出だよ!?」
ベータは楽しげに目を細める。「だって変な戦いだけで内にコネ入社の話が出てくるってあなたが初めてなのよ?祭りみたいに盛り上がっていかなくちゃ!」
ジーンは天馬の肩のあたりでくるりと一回転し、冷静な声で分析した。「ベータはいつになく楽しそうだけど、裏を返せば自分が倒される可能性に怯えているんだよ。僕がいれば勝てるからね」
「じゃあベータは余裕そうに見えるけど実はそれは不安の裏返しってことか?」天馬はジーンの言葉に驚きを隠せない。
そして、その場には他にも直に観戦している者がいた。
「よう?アルファ?そして天馬君?」
その声の主は、あの時戦ったガンマだった。天馬は驚愕する。「何でお前がいるんだよ!?」
ガンマは肩をすくめた。「ほら!これからメビウスクリエイションがみんな倒されるかもしれないじゃない?天馬君は前代未聞なことをしているんだよ?私だってみたいよ?」
さらに別の声が聞こえた。「やあ?僕も観戦していい?」
その声はシータのものだった。天馬は疑問を投げかける。「康之とお爺ちゃんはここで観戦しないのか?」
シータは優しげな声で答えた。「激闘が予測されるので天馬君以外の生身の人間は生中継で見てもらう事にしてるんだよ?」
「つまりどの位俺が晒されてるかは知らんが、少なくとも葉子達と國男と康之は観てるってことか……緊張してきた」天馬は大きく息を吐いた。
そしてベータは、まるで面接が始まったかのように天馬に問いかけた。
Part 2 gene japan.個人面接
「我が社を希望したきっかけは?」
いきなりの面接のような質問に、天馬は咄嗟に答えた。「御社の世界経済に対する『格差是正』という企業理念に大変感銘いたしました。」
「そう?具体的に何をどう感銘を受けたの?」ベータはさらに問い詰める。
「え~と、世の中は貧富の差が激しく…勝ち組と負け組に二極化しています……御社はその惨状に対し…豊かなものこそ貧するものを救済しなければいけないという覚悟とその正義にわたくしは心を打たれて御社を希望しました……」天馬はまだ面接の受け答えには慣れていなかったが、自分なりに精一杯答えた。そう、これはあくまでも入社試験なので面接があるのだ。
「わかりました……御社に対して天馬君はそう思っているのね?では天馬君のエントリーシートに関してなんだけど」ベータは淡々と続けた。
「え!?俺の情報がもうベータに漏れてるの!?」天馬は驚きを隠せない。
ベータは構わず続けた。「聖修院高校に通っているのね?普段は勉強に打ち込んで、国立を目指してると……内は少なくとも共通テストの足切りをクリアした上位国立しか待遇をよくしないけど……単純に『国立』だけを目指したいのかしら?」
「いえ……『国立』と表現しましたができればT大も視野に入れています。勉学においては一切の妥協をしておりません?」天馬はきっぱりと答えた。
「まるで安全圏を確保しているみたいね?そんな及び腰でうちが務まるのかしら?」この応対について、ベータは印象が悪かったようだ。
(これから戦うっていうのに何で面接が始まるんだよ……)天馬は心の中で思った。
「あくまでも茶番だから気にしなくていいよ……だけど一発勝負だと思ってちゃんと答えて」ジーンが天馬の耳元で囁く。
ベータは続けた。「これから実技試験で私Gene Japan CEOベータと勝負するけど…仮にあなたが実技試験に受かったところで生半可な大学からとると思う?」
「生半可な大学に受かろうとは思っていません……」天馬は言葉を選ぶように答える。
「もしあなたが『生半可な大学』から採用された場合周りから浮くよ?」ベータの言葉に、天馬は再び思考を巡らせる。
(そうだ…俺だけこういう形で採用されるってことは仮に採用されても何で採用されたの?って周りから疑問に思われる可能性が高い)
「まずは有名な大学を目指しなさい……そしてCEOが太鼓判を押しているとなれば、うちで働いても認めてくれるでしょ?」ベータはたたみかける。
「肝に銘じておきます。」天馬は真剣な表情で答えた。
「さて、所詮プロンプトバトルなんて実際の労働に比べたら児戯よ児戯!重要なのはうちに入ったら如何に貢献できるかなのよ?運よく入れても低スペックの人材って入社しただけで結局ついていけなくて辞めるのよ……退職代行やらを使ってね!」ベータの言葉は、天馬の心に深く響いた。
(俺はあくまでも特別枠……これまでC級ナチュラルやディザスター、そしてメビウスクリエイションを倒してきて少し鼻が高かった……だけど社会ではそんなもの何も役には立たないんだ……)天馬は改めて自身の立ち位置を認識した。
「さて……君は超特例として私と戦って勝てば優先採用してあげる?ただこれだけはいわせて」ベータはそう言うと、戦闘態勢に入った。
「ナチュラルと戦っている事より社会に出る方がよっぽど辛いのよ!」

「今はベータに勝つことが優先だよ?天馬?僕がイージスを展開するから避難して」ジーンの声が、天馬の思考を切り替える。
「わかった……これが最後の戦いだ……ってなんで最後の戦いってわかるのか自分でも疑問だけど自然とその言葉が出てきたぜ」
そして、最終決戦の火ぶたが切って落とされた。
Part 3 vs gene japan.CEO ベータ
ベータは座標移動を使い、天馬たちの視界に映らないように超高速移動を展開した。天馬とジーンは目で追うよりも、ジーンが展開した核シェルターのようなイージスの中で身を潜めていた。
「ベータは死角から僕たちを攻撃してくる……だけどイージスがあれば絶対に届かない……何故ならベータはスピード特化で攻撃力は大したことないから」ジーンが冷静に告げる。
「逃げ回るよりジーンのそばにいれば安全ってことか?ジーンが進化する前だったらどうなっていたんだ?」天馬が問いかける。
「以前の盾だった場合、ベータの攻撃ですら突破された可能性がある」
そんなやり取りをしていると、瞬時に現れたベータが、イージスに対して鋭い蹴りを放った。
「こんなもの私が攻撃すれば破壊できるでしょ!」
だが、その攻撃は無残にも弾かれてしまった。
「プロンプトを!?天馬!?今回は確実に通すため『destruction』は省かないで!!」ジーンが叫ぶ。
天馬は指示通りに叫んだ。「わかった!『座標移動 destruction!!』」
その言葉と同時に、ベータはその場で片膝をついてしまった。
「あくまでも……アップデートしたアルファが強いのであって、天馬はただ文字を入力してるだけだろ!!」ベータは悔しそうに言い放ち、次の攻撃を展開した。
「第二段階来るよ?ここからは僕も何を仕掛けてくるか知らないんだ?ひとまずイージスに身を潜めて!」ジーンが警告する。
「わかった!攻撃の様子を見てプロンプトを考えておく!」天馬は即座に返した。
そしてベータは再び視界に捉えられないように高速移動を開始した。だが、今回は周りの景色が歪んでいるように見える。
「まさか光速で移動しているのか!?」ジーンが驚きの声を上げた。
「怖いけど……つまりこういうことだと思う……光速移動し続けているから、周りの空間の時間の進み方が少しずつずれてる……」天馬は、その現象を冷静に分析した。
そして、イージス付近の空間も歪みだした。やがてベータが現れる。
「空間や時間が歪むと物質が破壊されるわ……これならあんたのシールドだって突破できるはず!」
だが、イージスは破られなかった。もはやベータはジーンにとって格下の存在になってしまったのだ。
「攻撃が終わったよ!?」ジーンが告げる。
「よし!『空間歪曲 destruction!!』」天馬の言葉と共に、歪曲された空間が元に戻り、ベータは空中から落ちてきて地に伏せってしまった。
天馬のメビウスに『weakness?』の文字が浮かび上がる。天馬は歓喜して言った。「へへ……楽勝!」
「おのれ……小僧!私を愚弄しおって……」ベータが呻く。

「ベータのFA(ファイナルアタック)来るよ!」ジーンが警告した。
そしてベータは最後の攻撃を仕掛けようとした。
Part 4 ???
「私は光速で移動することも可能なの?だけど?それを極限までやったらどうなるのかしら?」そう言い放つと、ベータはまた座標移動を展開して姿を消した。
だが、今回はGene社屋上全体が歪曲している。姿の見えないベータが言った。「私はどうなってでもいい!ここら一体の物質を消滅させてあげるわ!?」
空間歪曲が強い。あまりにも強いので、周りにいた取材していたAIロボットが次々に吹っ飛んでいった。そして観戦していたガンマは言った。「私も巻き込む気か?アルファに敵わないと悟って自暴自棄になってるな……」
シータは言った。「ベータはあくまでもアルファの次に産まれた完成系だから実質はメビウスクリエイションの中でも強いほうではないからな……」
そしてジーンは言った。「ここら一体を空間のひずみにおいやるつもりだけど……僕のイージスであれば物の数じゃない」
「空間歪曲の上位互換って意味だろ?うまい言い方はないのか?」天馬が問いかける。
ジーンはにやりと笑って言った。「ゲームのようにベタベタな言葉でいいんじゃないの?」
そういうと天馬は頷いた。「これで俺のナチュラル討伐というバイトも終わりだ!!」
そして天馬はプロンプトを入力した。「『亜空間 destruction!!』」
その言葉は的を得ているような言葉ではなかったが、空間歪曲は収まり、上空からベータが落ちてきた。
そしてジーンは言った。「やったね!!天馬!!ついにメビウスクリエイション全員倒したよ!!おめでとう!!」
天馬は言った。「そうか……ついにやったんだな……長かったこのバイトもついに終わりか……長かった……ほんと長かった……」
―――ここからが本番―――
だが、ベータは立ち上がり、こう言った。「悔しい……この程度で天馬を優先採用させたくないわ……こんな程度・・・こんな程度で……年収1400万??笑わせないでよ??クソガキ!」
そしてベータは謎の言葉を口にした。
「偉大なる父・・・メビウス・・・私に力を・・・」
ジーンは言った。「もしかしてメビウスから直接データを受け取る気!?」
そして天馬のスマコンのメビウスに『warning!!』という英単語が浮かび上がった。天馬は言った。「は?何が起こっている!?もう終わったんじゃないのか?」
ベータは穏やかな神々しい光に包まれた。発光した光が眩しくて、天馬は目をつぶった。天馬は言った。「もしかして、お約束の第二形態!?」
そしてその光が収まると、まるで神様のような姿のベータが姿を現した。

「メビウスに私の願いが届けられたわ……これでケルビック・ジーンの頂に到達した!」
To be continued!!
