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【clum! '95 #10】秘密のパーティ

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1995年6月上旬。日曜日の午後3時。

わたし、岡本おかもとれいの家のリビングは、両親の趣味のアンティーク調家具に囲まれていて、今日は甘い香りとお祝いの空気に包まれていた。

「かんぱーい!! 赤点回避、おめでとうあたし!!」

佐野さの立夏りっかさんが、カップに注がれた紅茶を高々と掲げた。

その隣では、早坂はやさか一頼かずよりくんと折館おりたちじんくんもそれぞれのカップを掲げている。

「おめでとうございます、佐野先輩! 本当によかったですね!」

「……まあ、ギリギリだったけどな」

「うるさい折館くん! ギリギリでも回避は回避なの!」

賑やかな声が響く中、おもてなし側のわたしは、キッチンから追加の焼きたてスコーンを運びながら、胸をなでおろしていた。

よかった……。お兄ちゃん、ちゃんと友達とのカラオケに行ってくれた……。

わたしの双子の兄は、わたしに対して過保護過ぎる。もしお兄ちゃんがいたら、「男を連れ込むとは何事だ!」と仁王立ちして、折館くんや早坂くんを尋問し始め、パーティどころじゃなくなっちゃう。

わたしは今日のために、お兄ちゃんの数少ないお友達に連絡を取って、「絶対に夕方まで連れ出して」と頼み込んだのでした。

「はい、スコーン焼けたよ。クロテッドクリームとジャムをつけて食べてね」

「うわぁぁ! お店みたい! さっきから思ってたけど、岡本さんのエプロンすっごいかわいい! ふりふり!」

「……あ、こ、これはお兄ちゃんの趣味みたいなもので。ちょっと恥ずかしいよね」

「岡本先輩、似合ってますよ」

「お部屋の雰囲気とすっごく合ってるし、何より岡本さんみたいな子が着ると、とんでもなくかわいいわよ! ね! 折館くん!」

「……」

折館くんはエプロン姿のわたしをちらりと見て、何も言わず、すぐに視線を外した。

テーブルの上には、わたしの手作りスイーツを、滅多に使わないアフタヌーンティーのタワーにたくさん並べた。

イチゴのタルト、ふわふわのシフォンケーキ、そして紅茶のクッキー。小説家の父とドールハウス作家の母の趣味が反映されたリビングで、絵本に出てくるようなティータイム。

「いっただきまーす!」

佐野さんがタルトを一口頬張る。途端に目を丸くして身悶えしていた。

「んん〜っ!! 美味しい〜!! 何これ、クリームが軽くて無限に食べられる!」

「あはは、よかった。お砂糖控えめにしたから」

「岡本先輩、このシフォンケーキも凄いです! フォークが沈んじゃうくらいにふわっふわです!」

「ふふ、ありがとう早坂くん」

みんなの笑顔を見て、わたし嬉しくて、エプロンの裾をぎゅっと握りしめた。

そして、恐る恐る視線を向ける先は――二つ隣に座る、一番身体の大きな彼。

折館くんは、無言で黙々と食べていた。

でも、そのペースは早い。彼の手元のお皿からは、次々とスイーツが消えていく。

「あ、あの……折館くん。口に合うかな……?」

「……ん」

折館くんはフォークを置いて、紅茶を一口飲むと、わたしを真っ直ぐ見て言った。

「……これ、全部岡本が作ったのか」

「え、う、うん。そうだよ」

「すごいな」

「え……」

「美味い。……マジで」

ボソッとした、飾り気のない言葉。

でも、その青い目は嘘をついていなかった。

わたしの顔が一気に沸騰したみたいになる。

「あ、ありがとう……! た、たくさんあるから、無理しないで食べてね!」

嬉しい……! 頑張ってよかった……!

わたしが舞い上がっていると、不意にリビングの電話が鳴り響いた。

プルルルル、プルルルル……

その着信音に、背筋が凍る。

ッ!! お兄ちゃんかも……。

わたしは「しーっ! みんな静かに!」とジェスチャーし、深呼吸して受話器を取った。

「……もしもし?」

『玲か? 今、家に変な虫……いや、男が入ってきたりしてないか?』

電話越しでも分かる、お兄ちゃんの疑り深い声。
わたしはできるだけ明るく、普段通りの声を絞り出した。

「もう、何言ってるの? 今、佐野さんと二人で女子会してるの。男の子なんて来るわけないじゃない」

『そうか……佐野さんとか。なら安心だけど……』

「お兄ちゃんこそ、楽しんでる? 友達待たせちゃダメだよ?」

『う、分かった。……戸締まりはしっかりな』

ガチャリ。通話が切れる。
わたしは力が抜けてその場にへなへなと座り込んだ。

「はぁ……心臓に悪い……」

「岡本さん、ナイス演技! 女優になれるよ!」

「先輩、女子会ってことになってるんですね……ぼくと折館先輩、存在消えちゃいましたね」

早坂くんが苦笑いすると、折館くんが空になったお皿を持って立ち上がった。

「……洗い物、手伝う」

「えっ!? い、いいよ折館くん! お客さんなんだから!」

「食わせてもらった礼。……女子会なら、男は裏方に徹するもんだろ」

折館くんはそう言うと、わたしが止める間もなくキッチンへ入っていった。

えっ、待って。こんな狭いところに折館くんが入ったら……近いよ……!

早坂くんが「ぼくも手伝います!」と続いてくれる。

わたしは、折館くんがスポンジで丁寧にお皿を洗う横顔を見上げながら、

お兄ちゃんがいなくて本当によかった……

と、神様とお兄ちゃんのお友達に心から感謝していました。

夕方、みんなが帰った直後にお兄ちゃんが帰ってきました。

「ただいま。……ん?」

お兄ちゃんは玄関に入るなり、くんくんと鼻を鳴らしていた。

に、匂いで何かわかるの!?

「玲! 今日、本当に佐野さんだけだったのか!?」

「えっ? も、もちろんそうだよ? あ、これ、お兄ちゃんの分のケーキ!」

わたしが慌てて綺麗に切り分けておいたタルトを差し出すと、お兄ちゃんは「おぉ、俺の分!」と喜んでくれて、疑いはうやむやになりました。

わたしは背中で冷や汗をかきつつ、今日の思い出——折館くんが洗ってくれたお皿を大切にしまおうと心に決めたのでした。

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ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。