【clum! '95 #70】桜色の妹と、野瀬

桜流しの雨が止み、思ったより桜の散っていなかった春休みのある一日。妹に保育園を休ませて、撮影を兼ねたデートをすることにした。
歩いて行ける範囲で、4歳の妹が楽しく遊べる場所。桜の名所でもある神野公園へと2人で向かった。
「4歳は天使」という言葉もあるが、それを抜きにしても、さらに身内の贔屓目を抜きにしても、うちの美玖は、かわいい。
進級祝いにと俺が買ってあげたクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめてるところなんか、写真には残せないくらい、かわいい。

うん、桜の妖精か何かじゃなかろうか……。

「おにいちゃん、あのね、おにいちゃんのおしゃしんおわったら、みくはゆうえんちにいきたいな」
「もちろんそのつもりだよ、美玖」
あたたかくて小さな手。いつまで「お兄ちゃん」って握ってくれるんだろう。
いや、今でも玲先輩は中3にして樹先輩の手を握ったりしてるから、うちも育て方によっては……と考えていると、向かい側から、聞き慣れたいい声が聞こえてきた。
見慣れた坊主と、それのミニチュアみたいなのが連れ立って歩いている。
「達彦もあと何日かで二年生か〜。早いよなぁ。次のクラスどんな先生だろうな」
「次はねー、男の先生がいいなー! いっしょにあそんでもらうんだ!」

「あれ? 芳彦じゃん。そっちは弟くん?」
「野瀬! 何しに…って花見に決まってるか」
「おにいちゃんだれ? だぁれ?」
「あ、兄ちゃんの友達の、野瀬くんだよ。これはうちの小1……じゃなかった小2になる達彦。ほら挨拶」
「こんにちはー! おにいちゃんがおせわになってます!」
「すげぇ。稲城家はどういう教育をしてんだ!? この歳にして、しっかりしてんな〜。美玖、ほら、兄ちゃんの友達の稲城芳彦だよ。弟は達彦くんだって」
「……こんにちは」
稲城兄弟の勢いに押されたのか、消え入りそうなか細い声で美玖が挨拶をした。かわいい。

「参ったよ。春休みだから家にいるのはいいけど、達彦が元気を持て余しちゃうからさー。小遣いやるから外に連れ出せって言われて」
稲城が少し困ったように頭を掻く。
「うちは定期デートだよ。かわいいだろ。うちの美玖」
「かわいいね。お兄ちゃんに似なくてよかったね〜。『自分もシスコンだ』とは言ってたけど、そりゃあ、これだけ年齢離れた、かわいい妹なら仕方ないよな」
稲城の弟、達彦も美玖の方を見ている。そうだ、かわいいだろう。惚れるなよ。
「みくちゃん? かわいいね。いっしょにあそばない?」
「……!?」
ヤバい。芳彦の弟だけあって、コミニュケーション能力高そう! しかし、残念だが、うちの美玖は極度の人見知りで、さっき出会ったばかりでは到底……。

美玖が、ぬいぐるみを忘れて、トコトコと達彦のそばに寄って行った。
「おにいちゃん、しょうがくせい? みくはねー、いつもはほいくえん! よんさい!」
!! 美玖がちゃんと自己紹介できてるの初めて見た! 偉い! 偉すぎる! ていうか、近い! 近いよ! 距離感おかしい! かわいい!
「……あ、あー……野瀬、ごめんな? こいつ、俺よりも友達とか作るの上手で……人懐っこいっていうか」
「あ、ぬいぐるみ、おとしてるよ。はい! よかったら、ゆうえんちでいっしょにあそぶ?」
稲城弟の完璧なエスコートに、俺は打ちのめされた。さすが稲城の弟だ。鮮やかすぎる。エスコートされてる美玖、かわいい。

いろんな感情が入り混じって、両手で顔を覆うと、慌てた稲城が言った。
「い、一緒に回ってもいいか? せっかくだし」
「……いいに決まってる。美玖が喜ぶなら何でも正解なんだ」
「ちょ、野瀬、お前そこまで…!? だ、大丈夫か?」
「……一緒に回らせてください。お願いシマス」
いつか、いつか、美玖にも好きなやつが出来て、俺の手を離すときが来る。そう覚悟してはいたが。
そうかー、それってこんなに早いもんだったのかー。でも、そういうおませなところもかわいい。
樹先輩(重度のシスコン)の気持ちがよくわかるかも。今度、話してみよう。案外分かり合えるかも知んない。
兄の気持ちを知ってか知らずか、かわいい「小さな恋のメロディ」が始まったかのように、2人は手を繋いで駆けて行った。かわいい。



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